介護療養からの「新たな移行先」、議論スタートするも「介護療養の再延長」求める声も―社保審・療養病床特別部会
2016.6.2.(木)
介護療養病床や25対1医療療養病床の「新たな移行先」に関する制度設計論議が、社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」で始まりました。
1日の初会合では、「まず、介護療養病床などの設置期限再延長を議論すべき」とする意見が出される一方、「再延長の論議から入るのではなく、まずどういう形の療養病床を考えるのかという議論から始めるべき」といった意見も出ており、今後、どのように議論を進めるのかが注目されます。
また厚生労働省は、「療養病棟の実情」を委員に十分知ってもらう必要があると考えており、療養病床を持つ病院からヒアリングも実施します。
目次
検討会では、「新たな移行先」として3類型が固まる
介護療養病床と25対1医療療養病床(正確には看護配置4対1を満たさない医療療養)は2017年度末(2018年3月)で設置根拠となる経過措置が切れます。このため、介護療養などは別の施設に移行する必要があり、厚労省は介護療養などの実態や求められる機能に着目した「新たな移行先」を模索しているのです。
新たな移行策については、「療養病床の在り方等に関する検討会」が今年(2016年)1月に次の3類型を提案しています。
【案1-1】医療の必要性が「比較的」高く、容体が急変するリスクのある高齢者が入所する「医療内包型の医療提供施設」
【案1-2】医療の必要性は多様だが、容体が比較的安定した高齢者が入所する「医療内包型の医療提供施設」
【案2】医療の必要性は多様だが、容体が比較的安定した高齢者が入所する「医療外付け型」(病院・診療所と居住スペースの併設型)
例えば、「機能強化型の介護療養から【案1-1】に移行する。通常の介護療養から【案1-2】に移行する。25対1医療療養が病床削減を行って、【案2】に移行する」といったイメージを持つと分かりやすいのではないでしょうか(関連記事はこちら)。
特別部会では、この3類型について、「法的位置づけをどう考えるのか」「人員配置や構造設備の基準をどうあるべきか」「低所得者に対する支援をどう行うべきか」といった議論を行い、具体的な制度設計を行っていきます。このほかにも、「介護療養などの設置期限を延長すべきか否か」「新たな移行先は、介護療養からの転換のみとするべきか、新規参入を認めるべきか」といったテーマも議題になります。
介護療養や25対1医療療養、2017年度以降も設置を延長すべきか
1日の特別部会では、初会合ということもあり委員間のフリーディスカッションが行われました。そこでは、「介護療養などの設置期限延長」に関連し、どのように議論を進めるかも争点の1つとなりました。
そもそも「介護療養病床は医療機関(病院・診療所)であり、長期療養の場として適切でないのではないか」との指摘があり、介護療養の廃止が決まりました。当初は「2011年度末に廃止」とする予定でしたが、介護療養から他施設への転換が十分に進んでいないため、廃止期限を「2017年度末」まで延期されています。まず、この廃止期限をさらに延長(再延長)すべきかどうかで委員間の意見は割れています。
この点、岩村正彦委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、「立法者の意思は2017年度末で廃止とするものだ。よほどの理由がない限り、単純に再延長すべきではない」と指摘。
これに対し、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「再延長がなぜいけないのか(介護療養の何がいけないのか)が明確でない。再延長第1選択肢に考えるべきである」と反論。さらに吉岡充委員(全国抑制廃止研究会理事長)も、「介護療養は重介護・要医療の状態にある高齢者を受け入れ、老人医療の一部をきちんと担っておおり、なぜこの制度を変える必要があるのか」と述べています。
また鈴木委員は、「新たな移行先の報酬(診療報酬や介護報酬)は2018年2月にならないと決まらない。病院経営者は、その点数を見てからどこに移行するのかを判断せざるを得ない。したがって、仮に再延長が認められないとしても、一定の経過措置」を設ける必要があるとも要望しています。
再延長の是非については、賛否両論があり、今後の最重要テーマの1つとなります。
「再延長」論議と「新たな移行先」論議、どちらから始めるべきか
ただし、「再延長の是非」とは別に、再延長に関する議論をいつ行うのかという点でも委員間で意見は割れています。
鈴木委員や西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)ら、診療側の委員は「再延長すべきかどうかをはじめに議論すべき」旨を提案」しています。
これに対し土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)は、「初めに再延長の議論をすると思考停止してしまう。再延長論議の前に、日本が高齢化していく中で、療養病床はどのような姿であるべきか、どう変えていくべきなのかをまず議論する必要がある」と反論しています。
仮に再延長が決定したとして、「医療ニーズの高い中重度の要介護高齢者」を受け入れる施設(あるいは機能)については、今後も検討をしなければいけません。厚労省は議論に進め方については、特段の方向性を示しておらず、調整を待つ必要があります。
「新たな移行先」、介護療養などからの転換に限定すべきか
もう一つ、今後の大きな争点になると予想されるのが、「新たな移行先は、介護療養や25対1医療療養からの転換に限定するべきか」という論点があります。
「新たな移行先」の検討は、介護療養などの設置期限が切れることを踏まえたものゆえ、当初は「介護療養・25対1医療療養からの転換」を念頭において議論されてきました。
しかし、検討会にも参画していた田中滋委員(慶應義塾大学名誉教授)は、「住まい・医療・介護という3つの機能を兼ね添える『新たな移行先』は、介護療養などからの転換だけでなく、新設も認めるべきではないか」と提案。
また東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)も、「これまで介護療養から『介護療養型老人保健施設』への転換が進められてきたが、十分に機能を発揮できていない。介護療養型老人保健施設から『新たな移行先』への転換も認めるべきである」と述べ、田中委員の提案に賛成しました。
一方、鈴木委員らは議論が散漫になることを懸念し、「介護療養・25対1医療療養からの転換を最優先に検討すべきではないか」と反論しています。
特別部会では、今年末(2016年末)に結論を出すことになっている(関連記事はこちら)ため、検討時間は限られています。したがって「介護療養・25対1医療療養からの転換」以外の議論は、別の場・あるいは今後の検討テーマになる可能性も高いでしょう。
プライバシー確保のために個室とすべきか、円滑移行考え4人部屋認めるべきか
ところで武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、現実的な考え方として「既存の施設については、『1人当たり6.4平方メートル・4人部屋』とすることを認めるべき」と強く要望しています。新たな移行先の「住まい」機能を考えれば、プライバシーを確保するために「個室」などの必要性が高くなります。しかし、介護療養などからの円滑な移行を進めるためには、4人部屋も一定程度、認めるべきでしょう。両者を勘案して武久委員は「少なくとも建て替えまでは4人部屋を認めるべき」との考えに立っていると言えそうです。
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