合理的な理由なく「給与を支払わられない」大学病院の医師、少なくとも2191名―文科省
2019.7.9.(火)
大学病院本院において、少なくとも「2191名・6.9%」、最大で「3495名・11.0%」に対し、問題のある「無給」を強いていた―。
文部科学省は6月28日に「大学病院で診療に従事する教員等以外の医師・歯科医師に対する処遇に関する調査」結果を公表し、こうした状況を明らかにしました。大学病院では「雇用契約を明確にする」「遡及して給与を支払う」などの改善に取り組みます(文科省のサイトはこちら(概要版)とこちら(調査結果全体))。
他院からの派遣医師や自己研鑽の医師には、合理的理由に基づき給与を支払わず
今般の調査は、全ての国公私立大学附属病院の本院(99大学・108大学病院)に勤務する医師(3万1801名)を対象に、2018年9月の給与支給状況を調べたもので、次のような状況が明らかになりました。
(1)給与(謝金を含む)を支給している者は2万4712名(77.7%)(104大学病院)
(2)合理的な理由があるため、労務管理の専門家への相談等も踏まえ、給与を「支給していない」者は3594名(11.3%)(66大学病院)
(3)合理的な理由があるため給与を支給していなかったが、労務管理の専門家への相談等も踏まえ、「今後、給与を支給する」とした者は1440名(4.5%)(35大学病院)
(4)合理的な理由がなく給与を支給していなかったため、労務管理の専門家への相談等も踏まえ、「遡及も含め給与を支給する」とした者は751名(2.4%)(27大学病院)
(5)労務管理の専門家への相談等も踏まえ、「引き続き、精査が必要である」と大学が判断した者は1304名(4.1%)(7大学病院)
(2)から(4)は「これまで給与が支払われていなかった」ことになりますが、理由が若干異なり、そのため▼今後も給与を支払わない(2)▼今後は給与を支払う(3)▼過去に遡って給与を支払う(4)―と対応も異なっています。
まず(2)の「合理的な理由」とは、▼自己研鑽(最新の医療情報の収集、診療技術の向上等)・自己研究(自身の臨床研究推進等)等の目的で診療に従事しているため▼大学病院と別に本務先のある医師で、本務先の業務命令で研修として診療に従事しているため(大学病院での診療従事分も含め本務先から給与が支給されている)―というもので、今後も大学病院からは給与は支払われません。
また(3)の「合理的理由」は、「自己研鑽・自己研究等の目的で診療に従事しているため」で、(2)の一方と同じですが、労務管理の専門家との協議で「給与を支給することが適当」と判断されたといいます。(2)と(3)の判断が異なった理由がどのようなものなのか、詳細は明らかにされていません。
さらに(4)は「合理的理由がない」もので、▼自己研鑽・自己研究等の目的などで診療に従事していたが、労働者的実態が強い▼労働条件勤務日・労働上限時間・研修の範囲などを超えて診療に従事していた▼診療科等における労働時間の管理・把握が不十分であった―などのため、遡及支払いが行われる見込みです。
問題となるのは(3)(4)(さらに精査結果によっては(5)も)のケースでしょう。調査結果では少なくとも「2191名・6.9%」、最大で「3495名・11.0%」((5)を含めている)に対し、問題のある「無給」を強いていたことが分かります。
また個別大学病院の実名で、(1)から(5)の状況が示されており、「問題ケースがない大学病院((3)(4)(5)がゼロ人の病院)」も少なくことが確認できます。
【(3)(4)(5)がゼロ人の病院】
◎国立
▼旭川医科大学病院▼弘前大学医学部附属病院▼山形大学医学部附属病院▼東京医科歯科大学医学部附属病院▼富山大学附属病院▼金沢大学附属病院▼山梨大学医学部附属病院▼信州大学医学部附属病院▼浜松医科大学医学部附属病院▼名古屋大学医学部附属病院▼三重大学医学部附属病院▼神戸大学医学部附属病院▼鳥取大学医学部附属病院▼岡山大学病院▼広島大学病院▼徳島大学病院▼香川大学医学部附属病院▼愛媛大学医学部附属病院▼高知大学医学部附属病院▼九州大学病院▼佐賀大学医学部附属病院▼鹿児島大学病院▼琉球大学医学部附属病院▼大阪大学歯学部附属病院▼東京大学医科学研究所附属病院―
◎公立
▼札幌医科大学附属病院▼福島県立医科大学附属病院▼京都府立医科大学附属病院▼大阪市立大学医学部附属病院▼和歌山県立医科大学附属病院▼茨城県立医療大学付属病院―
◎私立
▼東北医科薬科大学病院▼国際医療福祉大学病院▼自治医科大学附属病院▼埼玉医科大学病院▼帝京大学医学部附属病院▼東京医科大学病院▼金沢医科大学病院▼愛知医科大学病院▼大阪医科大学附属病院▼関西医科大学附属病院▼近畿大学病院▼川崎医科大学附属病院▼産業医科大学病院▼福岡大学病院▼日本歯科大学附属病院▼日本歯科大学医科病院▼朝日大学病院▼明治国際医療大学附属病院▼常葉大学常葉リハビリテーション病院▼東北福祉大学せんだんホスピタル▼聖路加国際大学聖路加国際病院―
大学病院サイドは、▼「合理的な理由なく給与を支給していなかった」と判断した者に対して、遡及を含めた給与支給と雇用契約の締結等を実施する▼「労務管理や自己研鑽・自己研究等に関するマニュアル」の作成や「診療従事願」等の申請書類の見直しなど、関連規程の見直しを図る▼労務管理の適切な把握・報告等を実施するよう、病院長等から全診療科長等に対して周知徹底を図る―などの改善を行う構えです。
こうした調査結果について、全国医学部長病院長会議の山下英俊会長(山形大学医学部長)は、「合理的な理由がなく、給与を支給していない状況があったことは極めて遺憾である」としたうえで、会員(大学病院も含まれる)に対し▼徹底した労務管理▼適切な雇用契約の締結▼必要に応じ、弁護士、社会保険労務士などの労務管理の専門家への相談―などにより「再び同様の事案が発生しないよう呼び掛ける」と強調するコメントを7月1日に発表しています(全国医学部長病院長会議のサイトはこちら)。
【関連記事】
「医師確保計画」作成に当たり、医師個々人のキャリアパスなど丁寧に勘案せよ―医学部長病院長会議
医学部入試、性別による異なる取扱いなどは不適切、規範に違反すれば除名も―医学部長病院長会議
11月にも「大学医学部入試に係る規範」制定、不合理な入試制度には改善求める―医学部長病院長会議
国民に理解される公正・公平な入試制度の実現を目指す―医学部長病院長会議
医学部卒業前の「臨床実習」強化、「医学生の医行為」の法的位置づけ明確に―医学部長病院長会議
医学部教育における「臨床実習」が年々充実、3000時間近い医学部も―医学部長病院長会議 href=”https://gemmed.ghc-j.com/?p=14892″ target=”_blank”>初期臨床研修をゼロベースで見直し、地方大学病院の医師確保を—医学部長病院長会議
論理的に考え、患者に分かりやすく伝える能力を養うため、専門医に論文執筆は不可欠—医学部長病院長会議