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医学部卒業前の「臨床実習」強化、「医学生の医行為」の法的位置づけ明確に―医学部長病院長会議

2018.8.1.(水)

 大学医学部では、医学部を卒業し、医師国家試験に合格した時点で「全身を診ることができ、病態を理解し、緊急対応が必要か否かを判断し、必要な場合には専門医へのコンサルトを含めた適切な対応を行える」医師の養成を目指す。このためには医学部卒業前において「臨床実習」を強化することが求められ、そこでは医学生の行う医行為の法的位置づけを明確にする必要がある―。

 全国医学部長病院長会議の山下英俊新会長(山形大学医学部長)は、7月31日に開催した初の記者会見で、このような考えを強調しました。

全国医学部長病院長会議の会長に就任した山形大学医学部の山下英俊学部長

全国医学部長病院長会議の会長に就任した山形大学医学部の山下英俊学部長

 
 また、会見では2017年度における研修医実態調査結果も報告され、「大都市部の大学病院や旧帝国大学病院などを目指す研修医・専攻医が多いが、そこから多数の医師が関連病院に出向している」実態が再確認されています。

医師免許取得時点で「全身を診て、緊急時には必要な対応をとれる」医師の養成を

 全国医学部長病院長会議では、先ごろ、新会長として山下英俊氏(山形大学医学部長)、新副会長として羽生田正行氏(愛知医科大学病院病院長)を選出しました。

 山下新会長は、「卒然、卒後の医学教育改革を進める必要がある」ことを強調。5月の総会で次の2つの方針が確認されたことを紹介しています。
(1)大学医学部では、医学部を卒業し、医師国家試験に合格した時点(医師免許取得時点)で「全身を診ることができ、病態を理解し、緊急対応が必要か否かを判断し、必要な場合には専門医へのコンサルトを含めた適切な対応を行えることを含め、幅広い診療を行える」医師の養成を目指す

(2)(1)を推進するために、卒前教育を充実する必要があり、▼CBT(医学医療に関する知識の修状況を審査する、Computer Based Testing)・OSCE(技術や態度などを確認する、Objective Structured Clinical Examination)を公的に位置付ける▼医学生による医行為の法的担保を行う―ことなどを目指す

 山下新会長は、いわば「初期臨床研修の一部」を学部教育に前倒しすることで、初期臨床研修に入った時点で一定程度の診療を行えるようになると指摘。現在、初期臨床研修医は年間1万人誕生します。こうした研修医が、「研修の当初から一定の診療を実施でき、さらに専門的な知識・技術の修得に向けた研鑽に励む」こととなれば、地域医療に従事する医師が年間1万人増加することになり、地域の医師偏在解消に一定程度の効果があると考えられます。

 学部教育(卒前教育)・初期臨床研修・専門医研修(後期臨床研修)が、全体として前倒しされるイメージですが、日本専門医機構の前副理事長として「新専門医制度の初動」にも深く関わった山下新会長は、「新専門医制度では、当該領域について重要な症例のすべてを理解し、きちんと説明できる医師を養成することとなった。『自身の専門領域を決め、専門医資格を取得する』ことを1つのマイルストーン(到達点)として、ここから逆算して、卒前教育で臨床実習の充実が不可欠と考える」との考えも示しています。

 
ただし、初期研修の一部を前倒しして、医学部教育の中に盛り込むとなれば、「医師免許を持たない、医学生が医行為を行う」ことになります。例えば「注射をする」行為1つをとっても、患者の身心に侵襲を与えるため、行為を外形的に見れば「傷害罪」の構成要件に該当しますが、医行為である場合には「正当行為」(刑法35条)として違法性が阻却されます(犯罪とはならない)。医学生が行う医行為も同様で、違法性はありません。ただし、医行為にはさまざまな種類があるため、難易度や患者への侵襲の度合いを考慮した「医学生が指導医の下で実施できる医行為」(いわゆる前川レポート、門田レポート)が定められています。

この点、山下新会長は「大学病院であれば、経験上、臨床実習として医学生が行う医行為を適切に受け入れられる(いわば医学生の医行為に慣れている)が、一般病院では『医学生が医行為を実施して良いのか。法律上の問題はないのか』との疑問を持つケースも少なくない」と指摘。例えば、厚生労働省が「医学生の行う一定の医行為には違法性がない」旨などを通知などが、違法性阻却に関する法的な担保を行い、一般病院でも医学生が積極的に医行為を実施できる(もちろん指導医の下で)環境を整備するよう、強く働きかける考えも示しました。

「大学病院は教育の場でもある」点を踏まえた診療報酬改定に期待

 また羽生田新副会長は、病院長(病院の経営者、管理者)の立場から▼医師の働き方改革の在り方▼診療報酬改定―などの面にも注目した取り組みを行っていくことを強調。

全国医学部長病院長会議の副会長に就任した、愛知医大病院の羽生田正行院長

全国医学部長病院長会議の副会長に就任した、愛知医大病院の羽生田正行院長

 
例えば後者の診療報酬については、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」等の見直しに触れ、「大学病院では、通常の診療に加えて、医学生の教育の場でもあり、幅広い患者を受け入れなければならない。この点を考慮して看護必要度等を考えるよう、きちんと発言していく」とコメント。一般病棟では、看護必要度に基づく重症患者割合が厳格化されてきており、2018年度診療報酬改定では急性期一般入院料1(従前の7対1一般病棟)では30%以上(DPCデータを用いる看護必要度IIでは25%以上)となりました。大学病院(特定機能病院)では、これより若干緩めの「28%以上」(同23%以上)に設定されましたが、やはり従前よりは厳格化されています。すると、医学生教育のために「比較的、重症度の低い患者」を受け入れることが困難となり(逆に受け入れれば経営が困難になる)、教育に支障が出てしまうことを羽生田副会長は危惧しているのです。

また、このほど明らかになった「消費増税の補填不足」問題についても、安定した地域医療を守るため、将来の医師を育てるために「必要な原資を確保しなければならない」点を強調しています。

旧7帝大医学部に医師が集中しているが、その半数が出向し、地域医療を守っている

 7月31日の記者会見では、2017年度の「全国大学附属病院 研修医に関する実態調査」結果が、守山正胤・地域医療検討委員会委員長(大分大学医学部長)から報告されました。そこからは、例えば、次のような状況が明らかになりました。

2017年度の研修医に関する実態調査について報告を行った、守山正胤・地域医療検討委員会委員長(大分大学医学部長)

2017年度の研修医に関する実態調査について報告を行った、守山正胤・地域医療検討委員会委員長(大分大学医学部長)

 
【国立大学医学部(旧帝国大学医学部を除く、以下同じ)】
▽後期研修(専門医研修)を受ける医師(いわば入局者数)は、自大学医学部の卒業生数に比べて59.5%にとどまる(自大学から100名の医師が生まれたとして、入局するのは他大学出身者も含めて60人にとどまる、というイメージ)

▽卒業生のうち、37.9%が後期研修(専門医研修)先として自大学を選び、後期研修医に占める自大学出身者の割合は63.7%となっている

【旧帝国大学医学部】
▽後期研修を受ける医師(入局者数)は、自大学医学部の卒業生数に比べて117.0%にのぼる(自大学から100名の医師が生まれたとして、入局するのは他大学出身者も含めて117人に増加する、というイメージ)

▽卒業生のうち、42.0%が後期研修先として自大学を選び、後期研修医に占める自大学出身者の割合は35.9%となっている

 
ここからは「旧帝大に、他大学から多くの医師が集結している」状況が伺えます。しかし、山下新会長は「単純に旧帝大に集結する状況を批判することはできない。後期研修医1年目の出向率調査結果を見ると、旧帝大では49.3%にのぼり、他の国立大学(26.8%)の2倍近い。この旧帝大からの出向によって地域医療が守られている実態もある」と述べ、全体を俯瞰した「医師確保対策」を検討しなければならないと強調しています。
 
 
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