新地域医療構想に向け四病協の「医療機関機能」案を作成、病院経営は危機に瀕しており財務省に財政支援を強く要請へ—四病協
2024.11.28.(木)
2040年頃を目途とする「新たな地域医療構想」では、これまでの「病床・病棟の機能」に加えて、新たに「医療機関の機能」を報告する。この医療機関機能について厚生労働省案が提示されているが、より医療現場の実態を踏まえた「四病協案」を提示する—。
病院経営定期調査の最終報告を眺めると「2022年度→23年度→24年度と病院経営が悪化している」状況が再確認できる。このままでは病院経営が破綻し、地域社会が成り立たなくなってしまう(医療のないまちに人は住めない)。厚生労働省と病院団体とがタッグを組んで、財務省に「一刻も早い病院経営支援の実現」を強く要望していく—。
日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院で構成される四病院団体協議会(四病協)の総合部会(各団体の会長・副会長クラスの幹部による会合)が11月27日に開かれ、こうした考えがまとまったことが部会終了後の記者会見で日本病院会の相澤孝夫会長・島弘志副会長、全日本病院協会の津留英知副会長から報告されました(日病のサイトはこちら)。
新地域医療構想の「医療機関機能」について、四病協の考え方をまとめる
2040年頃を念頭においた「新たな地域医療構想」策定論議が、新検討会で精力的に進められており、これまでに次のような方向が固められてきています。
▽入院医療だけでなく、外来医療、在宅医療、医療・介護連携、医療機関機能、医師偏在対策、医療人材確保など幅広い医療提供体制の将来像を描く(関連記事はこちら)
▽地域医療構想は「中長期的な医療提供体制の将来ビジョン」、医療計画は「3年・6年間の短期的施策」と役割分担を明確化する(関連記事はこちら)
▽「病床・病棟の機能」だけでなく、「医療機関の機能」報告を求める(関連記事はこちらとこちら)
▽「回復期機能」について、post acute機能だけでなくsub acute機能も含むことを明確化する(関連記事はこちら)
また「医療機関機能」に関しては、次のように分類する方向も議論されています(関連記事はこちらとこちら)。
【地域医療構想区域ごとに整備する医療機関の機能】(このうち(1)から(3)の機能を持つ医療機関を、構想区域内に1か所以上整備する)
(1)高齢者救急等機能
→高齢者等の救急搬送を受け入れるとともに、必要に応じて専門病院や施設等と協力・連携し、入院早期からのリハビリ・退院調整等を行い、早期の退院につなげ、退院後のリハビリ等の提供を確保する(地域の実情に応じた幅をもった報告のあり方を設定)
(2)在宅医療連携機能
→地域での在宅医療の実施、他医療機関や介護施設、訪問看護、訪問介護等と連携した24時間の対応や入院対応を行う(地域の実情に応じた幅をもった報告のあり方を設定)
(3)急性期拠点機能
→手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う(地域シェア等の地域の実情も踏まえた一定の水準を満たす役割を設定、アクセスや構想区域の規模も踏まえ、構想区域ごとにどの程度の病院数を確保するかを「設定」
(4)専門等機能
→上記の機能にあてはまらないが、集中的なリハビリテーションや一部の診療科に特化し地域ニーズに応じた 診療を行う
【広域な観点の医療機関機能】
▽医育および広域診療機能
→大学病院本院が担う、▼広域な観点で担う常勤医師や代診医の派遣▼医師の卒前・卒後教育をはじめとした医療従事者の育成▼広域な観点が求められる診療(移植、3次救急等)—を総合的に担い、また、これら機能が地域全体で確保されるよう都道府県と必要な連携を行う
(1)から(3)のそれぞれについて一定の基準を設け、各病院が「自院は基準をクリアしているか、(1)から(3)のどの機能に合致するか」を考えて、毎年度、都道府県に報告するイメージです(該当しない場合には(4)として報告するイメージ)。その際、例えば「自院は(1)と(3)の機能を双方持つ」と考える場合には、複数機能を持っていると報告することが可能とされています。
しかし、四病協幹部の間では、こうした厚労省案に対し「高齢者救急等機能では、若人や小児の救急患者は受けられないという誤解を招きかねない」「慢性期機能を持つ病院がどの機能に合致するのかが明らかでない」「急性期拠点機能を持つ病院をすべての構想区域に整備することは現実的ではない、より広域で検討すべき」などの問題点があるとし、今般「医療機関機能の四病協案」を作成したことが全日本病院協会の津留英知副会長から報告されました(関連記事はこちら)。
まず「構想区域における医療機関機能」として次の4機能を設定します。
(1)地域一般急性期機能(高齢者救急対応)
→高齢者を含めた救急等の急性期医療に対応し、入院早期からリハビリ対応・退院調整を行い、在宅復帰を目指す機能
(2)地域包括連携機能(在宅医療および在宅療養支援)
→地域で在宅医療を実施し、かかりつけ医や介護施設、訪問看護等と連携し24時間対応や入院およびリハビリ対応を行う機能
(3)慢性期機能
→入院医療の必要性が高い慢性期疾患に対応し、介護施設、在宅医療等と連携する機能
(4)専門医療機能
→精神科、脳神経外科、循環器科、整形外科、リハビリ科、小児科、その他専門診療科としての機能
また、より広域的なエリアに次の2つの機能を持つ病院をそれぞれ整備します。
(A)大学病院本院機能
→広域な区域において高度かつ総合的な診療機能を担い、医師等の教育および医師派遣を行う機能
(B)高度急性期拠点機能
→がん、小児、周産期など高度な急性期医療や高次救命医療を行う機能
厚労省案と基本的な枠組みは似通っていますが、▼厚労省案では構想区域ごとに設置する「急性期拠点」機能病院を、四病協案では、より広域的な区域に設置する「高度急性期拠点機能」とする▼構想区域に「慢性期機能」を位置づける▼名称を「誤解の少ない」ものに見直す—などの違いがあります。
こうした四病協案が、検討会論議の中でどのように扱われるのか注目を集めそうです。
病院経営は危機的状況、厚労省と病院団体がタッグを組み、財務省に財政支援を要請したい
また、Gem Medでも報じているとおり3病院団体(日病、全日病、医法協)の調査で「病院経営が危機的な状況にある」ことが明らかにされています(関連記事はこちら)。日本病院会の島弘志副会長は改めて次のような点を紹介するとともに、「この状況が続けば病院経営が破綻し地域社会に大きな影響が出る。医療のないまちに人は住めない。地域住民の命を守り、良質な医療提供を続けるために緊急の財政支援を一刻も早く行ってほしい。厚生労働省と病院団体とでタッグを組んで、財務省に緊急財政措置を強く求めて行く」考えを強調しました。
石破内閣が決定した総合経済対策でも「医療機関の経営状況急変に対する支援」が明示されており、今後の動きに注目する必要があります。
【2022年度→23年度】(稼働病床100床当たり、以下同)
▽コロナ補助金を除外した経常利益は、22年度の「7700万円の赤字」から、23年度には「8426万円の赤字」となり、赤字幅が拡大した(9.4%拡大)
▽コロナ補助金を除外した経常「赤字」病院割合は、22年度の「62.9%」から23年度には「65.3%」で、2.4ポイント増加
【昨年(2023年)6月→本年(2024年)6月】
▽コロナ補助金を除外した経常利益は、23年の「691万円の赤字」から、本年(24年)には「1252万円の赤字」に赤字幅が拡大した(561万円・81.2%悪化)
▽コロナ補助金を除外した経常「赤字病院」割合は、23年の「59.2%」から、本年(24年)には「63.9%」となり、4.7ポイント増加
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