石破内閣が総合経済対策を閣議決定、医療機関の経営状況急変に対する支援、医療・介護DX支援なども実施
2024.11.27.(水)
石破茂内閣が11月22日に「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策—全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす—」を閣議決定しました(内閣府サイトはこちら(概要)とこちら(本文)とこちら(経済効果)とこちら(総論)とこちら(政策ファイル))。
経済対策は、(1)日本経済・地方経済の成長(全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす)(2)物価高の克服(誰1人取り残されない成長型経済への移行に道筋をつける)(3)国民の安心・安全の確保(成長型経済への移行の礎を築く)—の3本柱で構成し、予算、財政投融資、税制、制度・規制改革など、あらゆる政策手段を総動員されます。
医療・介護に関連する項目を拾ってみると、次のように「スタッフの処遇改善」「経営の安定」「周産期・小児医療の確保」「医師偏在の是正」「サイバーセキュリティ対策を含めた医療DXの実現」などの項目が盛り込まれています。今後の予算措置や制度改正などによる「具体策」の中身に注目が集まります。
【医療従事者等の確保・処遇改善】
▽2024年度報酬改定で講じた「医療・介護・障害福祉分野の職員の処遇改善措置」(関連記事はこちらとこちら)を確実に届け、賃上げを実現する
▽生産性向上・職場環境改善等による更なる賃上げ等を支援し、職員の負担軽減・業務効率化、テクノロジー・ICT機器の活用、経営の協働化、訪問介護の提供体制の確保、障害者就労施設の経営改善といった取り組みを支援する
(施策例)
・人口減少や医療機関の経営状況の急変に対応する緊急的な支援パッケージ(厚生労働省)
・介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策(厚労省)
【地域の生活環境を支える基幹産業等の活性化】
▽高齢化や受診行動の変容を含めた患者像の変化等により足元の経営状況の急変に直面する医療機関のうち、「病床削減を早急に実施する医療機関」に対して、医療機関の連携・再編・集約化に向けた取り組みを加速する観点から必要な支援を実施する(関連記事はこちら)
▽現下の物価高騰を含む経済状況の変化により、地域医療構想の推進や救急医療・周産期医療体制の確保のための施設整備等が困難となっている場合への対応を進める
▽地域で子供を安心して生み育てることのできる周産期医療体制、地域の小児医療体制を確保するため、「特に分娩取扱施設が少ない地域等における分娩取扱機能の維持のための取り組み」を支援する
▽「地域の小児医療の拠点となる施設」について、急激な患者数の減少等を踏まえた支援を行う
▽医師偏在是正に向け、今後の人口動態等により将来の医療機関維持が困難な地域において、診療所を承継・開業する場合に「当該診療所の施設整備」等を支援する(関連記事はこちら)
▽中堅・シニア世代等の医師を対象としたリカレント教育や医師少数地域の医療機関とのマッチングを支援する(関連記事はこちら)
▽地域枠学生を受け入れる大学の地域枠センター(仮称)の設置を支援する
▽へき地における住民の医療を確保するため、へき地医療拠点病院がモデル的に行う巡回診療や代診医派遣、オンライン診療の取り組みを支援する
▽医師の負担軽減に向け、医師と特定行為研修修了者の協働によるタスクシフトを推進するため、「指定研修機関において特定行為研修修了者を養成するための体制整備」を支援するとともに、医師向けの「特定行為研修修了者の活用ガイド」を作成・周知する(関連記事はこちら)
▽24時間対応が可能な薬局が存在しない地域において、その実現を図るための対応に加え、特例的な対応として、例えば「当該地域の訪問看護ステーションに配置可能な薬剤を拡充する」ことを含め、医師等との連携の下で在宅患者に円滑に薬剤を提供する体制の整備に向けて必要な対応を検討し、遅くとも2024年度内に結論を得る
▽「先端技術の介護現場への導入促進」に向けた実証を行い、生産性向上効果を検証する
▽サービスの担い手となる外国人を含む介護人材の確保、育成及び定着に向けた取組を支援する
(施策例)
・人口減少や医療機関の経営状況の急変に対応する緊急的な支援パッケージ(厚労省、再掲)
・医師偏在対策の推進(厚労省)
・へき地医療拠点病院運営事業(厚労省)
・特定行為研修の組織定着化支援事業(厚労省)
・医療の効率化に向けた領域別タスクシフト推進事業(厚労省)
・在宅医療における円滑な薬物治療の実現(内閣府、厚労省)
・介護テクノロジー開発等加速化事業(厚労省)
・介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策(厚労省、再掲)
・外国人介護人材獲得強化事業(厚労省)
・外国人介護人材定着促進事業(厚労省)
【医療・介護DXの推進】
▽医療・介護の担い手を確保し、より質の高い効率的な医療・介護を提供する体制を構築するとともに、医療データを活用した医療のイノベーションを促進するため「医療・介護DX」を推進する
▽マイナ保険証の利用促進と定着に向け、訪問診療等の用途拡大、2024年12月2日からオンライン資格確認の導入が原則義務化される訪問看護ステーション等における利用促進に係る支援等を行う(関連記事はこちら)
▽マイナ保険証への更なる移行や不安解消を進めるため、継続的な周知広報を行う(関連記事はこちら)
▽「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、保健・医療・介護の情報を共有可能な「全国医療情報プラットフォーム」構築に向け、オンライン資格確認等システム等を拡充し、公費負担医療制度の利用、地方公共団体が行う検診の受診等についてマイナンバーカードのみでの対応を可能とする環境を整備する(関連記事はこちら)
▽「電子カルテ情報共有サービス」の円滑な運用に向けた環境の整備、診療報酬改定DXに向けた共通算定モジュールの実装のための設計・開発を支援する(関連記事はこちらとこちら)
▽次の感染症危機に備え、予防接種に対する国民の理解を醸成しつつ、予防接種事務のデジタル化を進めるとともに、予防接種データベースを整備し、他のデータベースとの連結解析や外部研究機関への第3者提供を可能とする
▽「全国医療情報プラットフォーム」で共有される情報を新しい医療技術の開発や創薬等のために2次利用する環境を整備し、医療・介護の公的データベースのデータ利活用を促進する(関連記事はこちらとこちら)
▽電子処方箋の全国的な普及拡大を更に進めるため、「2024年度内に導入する医療機関・薬局に対する支援や環境整備」を行う(関連記事はこちら)
▽医療機関におけるサイバーセキュリティ対策を推進する(関連記事はこちら)
▽データ利活用による社会課題の解決が重要な課題となる中、EU(欧州連合)等において、個人情報保護法制と整合的な形で医療、金融、産業等の分野でデータ利活用に係る制度の整備が急速に進展していることを踏まえ、デジタル行財政改革の下で、2024年内に検討会を立ち上げ、2025年夏を目途に「我が国のデータ利活用制度の在り方」についての基本的な方針を策定する(関連記事はこちら)
▽創薬等に資するため、研究者、製薬会社等が一定の「仮名化された公的医療データ」に円滑にアクセスできることとする方策について、法案の国会提出を含め検討し、2024年度内に結論を得る(関連記事はこちら)
(施策例)
・マイナ保険証の利用促進に向けた取り組み(厚労省)
・全国医療情報プラットフォーム開発事業(厚労省)
・医療費助成・予防接種・母子保健等に係る情報連携システム(PMH)の整備事業(内閣府、こども家庭庁、デジタル庁、厚労省)
・電子カルテ情報等分析関連サービス構築事業(厚労省)
・診療報酬改DX(共通算定モジュールの開発等)(厚労省)
・予防接種事務デジタル化等事業(厚労省)
・新規事業創出に向けた医療保険情報の利用促進(内閣府、デジタル庁、厚労省)
・介護関連データ利活用に係る基盤構築事業(厚労省)
・電子処方箋の活用・普及の促進事業(厚労省)
・医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業(厚労省)
【潜在成長率を高める国内投資の拡大】
▽医薬品産業を成長・基幹産業と位置付け、政府が一体となって日本を「創薬の地」とするための支援を推進する
▽優れた創薬シーズを基にしたスタートアップ創出を促進するため、大学等との間の橋渡しを行い、民間投資を呼び込む体制を強化する
▽創薬クラスターの発展支援や創薬を含めたディープテック領域のスタートアップ支援を強化することにより、革新的創薬の研究開発を加速する環境を整えるとともに、国際水準の臨床試験体制整備を進める
▽2025年度予算編成過程において、官民連携の下、企業、大学等が安定的・継続的に創薬に取り組み、実用化につなげることができるよう中長期的な支援スキームを検討し、国内外の多様なプレーヤーの参画を促す観点から、国による安定的な支援の在り方の検討を深める
▽2025年度薬価改定に関しては、「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針2024)において、「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」とされていることを踏まえて対応する(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)
▽医学系研究者の研究活動と大学病院・医学部としての研究環境改善に係る取り組みを一体的に支援するとともに、ゲノムデータや次世代iPS細胞の研究基盤に対する支援を充実する
▽AMEDに対する研究開発支援について、調整費の柔軟な活用により各省補助等事業の間の連携を確保し、切れ目ない支援を行うとともに、事業の検討段階から出口志向の研究開発マネジメントを行うことにより、大学等が持つ有望な創薬シーズの企業への引き渡しを加速する
▽再生・細胞医療・遺伝子治療薬を生産する体制の構築に向け、国内受託製造拠点の整備を強力に支援する
▽プログラム医療機器を含め、革新的医療機器の創出に向けた産業振興拠点の強化を支援する
▽後発医薬品の安定供給に向けて、少量多品目生産の非効率な生産体制の解消に向けて「計画的に生産性向上に取り組む企業」に対する支援を行う
▽企業間の連携・協力・再編を強力に後押しするために「国が企業の取り組みを認定する枠組み」を設けることや、薬事・薬価面での対応も検討する。これらの取り組みを前提に、国による安定的・継続的な支援の在り方について更に検討を深める
▽バイオ後続品の国内製造施設整備を支援する。
▽足元の供給不安については、必要な医薬品の増産体制を整える企業に緊急支援を行う
▽血糖値を測定する検査薬を含め、低侵襲性であることなど一定の要件を満たす検査薬について、そのOTC化を促すために必要な「一般用検査薬の導入に関する一般原則」の見直しについて2024年度内に結論を得る
(施策例)
・創薬エコシステム発展支援事業(厚労省)
・創薬クラスターキャンパス整備事業(厚労省)
・日本政策投資銀行による成長力に資する国内投資促進のための更なるリスクマネー供給強化(特定投資業務の拡充)(財務省)
・新規モダリティ対応ヒト初回投与試験体制整備等事業(厚労省)
・医学系研究支援プログラム(文部科学省)
・がん・難病の全ゲノム解析等の推進(厚労省)
・創薬力の向上等に向けた健康・医療分野の研究基盤の整備(文科省)
・AMEDの研究開発支援の見直し(内閣府)
・再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備投資補助金(経済産業省)
・優れた医療機器の創出に係る産業振興拠点強化事業(厚労省)
・後発医薬品の産業構造改革のための支援事業(厚労省)
・バイオ後続品の国内製造施設整備のための支援事業(厚労省)
・医薬品安定供給体制緊急整備事業(厚労省)
・一般用検査薬への転用の促進(内閣府、厚生労働省)
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