全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組み2024年度から順次稼働、標準型電子カルテの全医療機関での2030年導入目指す
2023.6.7.(水)
より効率的・効果的で質の高い医療サービス等を確保するために「医療DX」を推進する必要がある—。
その一環として、全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく—。
また、標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—。
政府の医療DX推進本部が6月2日、こうした内容を盛り込んだ「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめました。今後、この工程表に沿って「電子カルテ情報を広く共有する仕組み」の構築・運用や、中央社会保険医療協議会等における「診療報酬DX」の詳細論議などが進められます(内閣官房のサイトはこちら(工程表)とこちら(全体像)とこちら(概要))。
電子処方箋は、2024年度中に概ねすべての医療機関に普及させる
未曽有の少子高齢化が進む中では、医療従事者の確保、医療保険制度の維持などの面から「効率性」を高めていくことが、これまで以上に求められます。あわせて、国民・患者のニーズが多様化する中では「より質の高い医療」の必要性も高まっていきます。
このため政府は「より効率的かつ効果的で良質な医療サービス」の提供を目指し、医療DX推進本部(本部長:岸田文雄内閣総理大臣)を設置。今般、「医療DXについて、どのような事項を、いつまでに実現するか」を定めた工程表を取りまとめました。
まず、「医療DX」は次のように定義づけられています(関連記事はこちら)。
●保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築・活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように社会や生活の形を変えていくこと
この医療DXを進めることで、▼国民のさらなる健康増進▼切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供(3)医療機関等の業務効率化(4)人材の有効活用(5)医療情報の2次利用の環境整備—の5つを実現することを目指します。
具体的な医療DXの実施項目としては、(1)マイナンバーカードの健康保険証の一体化の加速等(2)全国医療情報プラットフォームの構築(3)電子カルテ情報の標準化等(4)診療報酬改定DX—の4施策が挙げられ、それぞれ具体的に「どのような取り組みを、いつまでに実施するのか」が定められました。
まず(2)の「全国医療情報プラットフォーム」について見てみましょう。
より質が高く、効率的な医療等サービス提供を目指して、すでに稼働しているオンライン資格確認等システムのインフラをベースに、患者自身はもちろん、全国の医療機関等において「当該患者の保健・医療・介護情報を共有可能」とする仕組みです。例えば、患者Aの既往歴・薬剤歴を参照した医療機関が「この患者は●●疾病を抱えているので、◆◆薬剤の投与は控えよう」と判断したり、介護サービス事業所が「この利用者・入所者について、医師から●●の情報提供がなされているので、そうした点に配慮したケアを提供しよう」と考えありすることで、医療・介護等のサービスの質が上がることが期待されます。この仕組みの中には「電子処方箋」や「電子カルテ情報を共有する仕組み」など、さまざまなものが含まれます。工程表では、次のように進める考えを示しました。
【電子処方箋】(関連記事はこちら)
▽2024年度中(2025年3月まで)に、オンライン資格確認等システムを導入した「概ねすべての医療機関・薬局」に導入する
▽2023年度内(2024年3月まで)に「リフィル処方等の機能拡充」を実施する
▽2024年度以降、「院内処方への機能拡充」「重複投薬等チェックの精度向上」などに取り組む
▽電子署名などの技術について、導入負担を軽減しつつ適切に導入できるよう、より効果的なサポート体制を整備し、技術的課題解消に取り組む
【電子カルテ情報共有サービス(仮称)】(関連記事はこちら)
▽2023年度中(2024年3月まで)に「仕様の確定」と「調達」を行い、システム開発に着手する
▽2024年度中(2025年3月まで)に、電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関等から順次運用を開始する
▽「標準規格に対応した電子カルテ」への改修や更新などの導入を推進する
【介護情報共有】(関連記事はこちら)
▽2023年度中(2024年3月まで)に「共有すべき情報の検討」や「業務の要件定義」「システム方式の検討」「自治体における業務フロー見直し」を行う
▽2024年度から「システム開発」を行った上で、希望する自治体において先行実施する
▽2026年度から、自治体システムの標準化の取組の状況を踏まえて「全国実施」していく
【ほか】
▽予防接種、母子保健、公費負担医療や地方単独医療費助成などについても、順次「マイナンバーカードを利用した情報連携」を実現し、次なる振興感染症危機にも対応する
▽全国医療情報プラットフォームで共有される医療情報の二次利用について、「データ提供の方針」「信頼性確保のあり方」「連結の方法」「データ提供にかかる審査の体制」「法制上あり得る課題」などを検討するための体制を2023年度中に構築する
▽改正感染症法等に基づき、感染症の発生情報などを、他のデータベース情報と連結・分析して第三者提供する仕組みを2023年度中に具体化する
▽NDBからのデータ提供時間を大幅短縮するため、2024年秋にクラウド技術を活用した医療・介護データ等の解析基盤(HIC:Healthcare Intelligence Cloud)の機能を拡充し「申請から原則7日」で解析可能とする
標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す
この全国医療情報プラットフォームを構築するためには、「情報の標準化」が必須となります。このうち電子カルテ情報については、ベンダーが異なると「情報連携が極めて困難」であるのが実際で、それが「ベンダーのクライアント(医療機関)抱え込みにつながっている」と指摘されます。
このため(3)の電子カルテ情報標準化等を次のように進める方向が示されました。
【電子カルテ情報の標準化等】
▽3文書(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書)・6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次、対象情報の範囲を拡大していく
→2023年度に「透析情報」「アレルギーの原因となる物質」のコード情報を標準規格化
→2024年度に「蘇生処置等の関連情報」「歯科・看護等の領域における関連情報」を標準規格化
→2024年度中に、特に「救急時に有用な情報」等の拡充を進め、「救急時に医療機関において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組み」を整備する
→マイナンバーカードを活用した救急業務の迅速化・円滑化を、2022年度の実証実験結果を踏まえて、2024年度末(2025年3月)までを目途に全国展開を目指す
→薬局におけるレセコン・薬歴システムにおける標準規格(HL7 FHIR)への対応を検討する
→「薬局→医療機関」の服薬状況等フィードバック情報について、内容・共有方法・必要性などを今後検討する
【標準型電子カルテ】
▽標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の整備を進める
→2023年度に必要な要件定義等に関する調査研究を行う
→2024年度中に開発に着手し、一部の医療機関での試行的実施を目指す
→運用開始時期は「診療報酬改定DXにおける共通算定モジュールとの連携」を視野に検討する
▽電子カルテ未導入医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援を行う
→遅くとも2030年には概ねすべての医療機関で「必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテ」導入を目指す
こうした情報共有については「オンライン資格確認等システム」のインフラをベースとして、マイナンバーカードを用いて本人認証を行う考えが固められています。この点については「2024年秋に健康保険証を廃止する」考えが明示されました。もっともマイナンバーカードを持たない人が保険診療を円滑に受けられるよう「資格確認書」が医療保険者(健康保険組合や協会けんぽ、国民健康保険など)から交付されます(関連記事はこちら)。
他方、注目される(4)の診療報酬改定DXに関しては、次のような方向が明確化されました(関連記事はこちらとこちら)。
▽2024年度に、医療機関等の各システム間の共通言語となるマスタ、およびそれを活用した電子点数表を改善し、提供する
▽診療報酬点数表のルール明確化・簡素化、診療報酬算定・患者窓口負担金計算のための全国統一共通算定モジュール開発を進め、「2025年度にモデル事業を実施」→「2026年度に本格提供」とする
▽共通マスタ・モジュール・標準様式を実装した「標準型レセコン」を、標準型電子カルテと一体的提供を行い、コスト縮減の観点も踏まえながら、医療機関等のシステムを抜本的 に見直していく
▽公費負担医療等を含め、「限度額(高額療養費)を超えた患者の窓口負担金を日々の診療の段階で軽減する仕組み」の強化に加えて、感染症危機への対応等医療情報の二次利用に資するものとなるよう、検討を進める
▽これらの取り組みにより医療機関等の間接コストや作業負担の軽減を図る
▽診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しに関して、実施年度・施行時期について中央社会保険医療協議会の議論を踏まえて検討する
なお、こうした医療DXの実施主体については「社会保険診療報酬支払基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とする」「具体的な組織のあり方、人員体制、受益者負担の観点を踏まえた公的支援を含む運用資金のあり方等について速やかに検討し、必要な措置を講ずる」点も明らかにされています。
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