全国の医療機関や患者自身で「電子カルテ情報を共有」する仕組み、患者同意をどの場面でどう取得すべきか―医療情報ネットワーク基盤WG(1)
2023.1.27.(金)
患者自身や全国の医療機関での電子カルテ情報を共有する仕組み((仮)電子カルテ情報交換サービス)の検討が進んでいるが、電子カルテ情報には機微性の高い個人情報も含まれるため、共有などにあたっては「患者の同意取得」が大前提となる—。
この同意については、「情報の内容」に応じて取得のタイミング(診療前?診療中?など)や取得の方法(都度取得?包括取得?黙示取得?など)を考えていく必要があるのではないか—。
ただしその際、あまりに頻繁・厳格に「診療情報の共有を同意するか」の確認を求めれば、患者や医療現場の負担が過重になってしまう点にも配慮が必要である—。
海外の事例や地域での電子カルテ情報共有の仕組み(地域医療情報連携ネットワーク)も参考に「同意取得の在り方」を考えていくべきである—。
1月27日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)でこういった議論が行われました。同日には「診療行為等の標準コード付与、各医療機関独自コードとの紐づけ」についても議論が行われており、これらは別稿で報じます。
目次
全国の医療機関での電子カルテ情報共有、患者同意をどのように取得すべきか
Gem Medで繰り返し報じているとおり、「全国の医療機関や患者自身が診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報など)を共有する」仕組みの構築・運用が進められています。この仕組みには、次の2つがあり、いずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用するものです(関連記事はこちらとこちら)。
(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(B)各医療機関の電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(A)のレセプト情報共有の仕組みはすでに稼働しており、▼薬剤▼特定健診情報▼基本情報(医療機関名、診療年月日)▼放射射線治療▼画像診断▼病理診断▼医学管理、在宅療養指導管理料▼人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、腹膜灌流—の情報を、患者同意の下、全国の医療機関で共有・確認することが可能な環境が整ってきています(ただし、オンライン資格確認等システムを活用すること、情報の蓄積には一定の時間がかかることなどの制約が現在はある、関連記事はこちら)。
一方、(B)の電子カルテ情報共有の仕組みについては、現在、ワーキングを中心に議論が進められており、これまでに▼情報共有は(A)と同じくオンライン資格確認等システムのインフラを活用する▼共有する情報は3文書(診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書)・6情報(傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査(救急、生活習慣病)、処方)とする、ただしこのうち「健診結果報告書」は別にテキストべースでの共有が検討されている▼情報共有に当たっては、広範に用いられている「HL7FHIR」という規格を採用する▼標準規格(HL7FHIR)により情報の出し入れが可能な電子カルテの開発を進め、これを導入する医療機関には医療情報化支援基金を用いた補助を行う—などの下準備が行われてきています。ワーキングや親組織(健康・医療・介護情報利活用検討会)で「本年度内(2023年3月まで)に意見を固める」予定で議論が精力的に進められています。
1月27日の会合では、「患者同意」と「診療行為等の標準コード」の2つを主な議題としました。後者の「標準コード」に関しては別稿で報じ、本稿では前者の「患者同意」を見てみます。
冒頭に述べたとおり、電子カルテ情報には機微性の高い個人情報(どこのだれが、いつ、どの医療機関に、どのような傷病でかかり、どのような治療を受けたのか、など)が数多く含まれています。このため、情報を共有するにあたっては「患者が同意していること」が大前提となり、「どの場面で同意を求めるか」「どのような内容の同意を求めるか」「同意を得るタイミングをどう考えるか」などを制度的に固めておく必要があります。「ある患者では非常に厳格に同意を取得したが、別の患者では同意がおざなりであった」という事態は困るのです。
電子カルテ情報を共有プラットフォームにアップデートする場面でも「同意」が必要か
まず「どの場面で同意を求めるか」という論点を見てみましょう。
現在、電子カルテ情報の共有は、▼A医療機関等が患者Xの診療情報(上述した3文書・6情報)を、今後設置する「電子カルテ情報交換サービス」(仮称)に保存する → ▼患者Xが別の医療機関等Bを受診した際に、「電子カルテ情報交換サービス」(仮称)にアクセスしてA医療機関等での診療情報を確認・共有し、診療に活かす—という形が想定されています。
この点、(1)A医療機関等で「電子カルテ情報交換サービス」(仮称)に保存する(アップロードする)に当たっての患者同意(2)B医療機関等で過去の診療情報にアクセスするに当たっての患者同意—の2つに分けて考える必要があります。
まず(2)の場面で「患者の同意」が必要になることに疑いはなさそうです。「一度、診療情報がアップロードされたが最後、どの医療機関等のどの医師等が閲覧してもよい」などの事態が生じてはいけません。電子カルテ情報の共有をすでに行っている諸外国でも「(2)の場面での同意が必要である」としているところが多いようです。
一方、(1)の場面ではどう考えるべきでしょう。「患者の預かり知らぬところで診療情報がアップロードされるのは好ましくない」とも思えますが、「(2)の場面で同意なき閲覧が認められないことから、(1)の場面での同意までは不要ではないか」とも思えます。この点、諸外国の運用状況を見ると、「同意なし」(フィンランド・台湾)や「オプトアウト(情報共有に反対しない限り【同意あり】と見做す)」(英国、仏国)となっており、(2)の場面よりも緩やかになっているようです。
我が国において、「(1)(2)の双方の場面で同意取得を必要とする」のか、「(2)の場面のみで同意取得を必要とする」のか、「(1)(2)双方で同意取得を求めるが、濃淡をつける」のかなどを今後詰めていくことになります。この点について長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「(1)の場面で同意不要あるいはオプトアウトとする場合、法令上でどういった整理がなされているのか、海外の状況も踏まえて検討していく必要がある」とコメントしています。
患者の同意は受診の都度に得るべきか、初回の同意のみで良しなどとすべきか・・・
次に「どのような内容の同意を求めるか」という論点を見てみましょう。同意内容については大きく▼診療の都度に同意を得る▼包括的に同意を得る(初回診療時に同意を得た後、撤回されるまでは「同意あり」と扱うなど)▼オプトアウト(共有に反対する意思表示がない限り「同意あり」と見做す)▼同意を得ない(同意を不要とする)—などの種類があると考えられます。
やはり「諸外国でも同意内容には差がある」と同時に、我が国において地域単位で運用されている地域医療情報連携ネットワーク(地域ごとに有志の医療機関同士で電子カルテ情報を患者同意の下で共有する仕組み)においても、次のように「同意内容に差がある」ことが分かっています。長島構成員は「古くから運用している地域医療情報連携ネットワークほど厳格に同意を取得している印象がある」と分析しています。
▽すべての施設ごとに、受診の都度に患者から同意を得るケース:全体の45.8%
▽患者に「包括的同意」を求め、患者が同意した場合には地域医療情報連携ネットワークの参加医療機関すべてが個別同意を経ずに診療情報を確認できるケース:全体の31.3%
▽患者が「地域医療情報連携ネットワーク参加医療機関リスト」の中から「診療情報の閲覧を認める」医療機関等を選別し、当該医療機関等のみで診療情報の確認を可能とするケース:全体の30.2%
▽患者が「医師ごと」に同意を行うケース:全体の20.2%
▽その他:7.6%
現在議論している仕組みは「全国の医療機関で診療情報を共有する」ものであり、同意取得についても全国統一の内容とする必要があります。今後、諸外国や地域医療情報連携ネットワークの事例を参考にして「統一した同意取得の仕組み」を構築していくことになります。
その際、▼「厳格な同意」(例えば上述であれば「すべての施設で、受診の都度に同意を求める仕組み」)を求めれば、安全性は向上するものの、患者・医療機関等の負担も増加する▼「緩やかな同意」(例えば上述であれば包括的同意の仕組み)であれば、患者・医療機関等の負担が増加するが、柔軟な対応ができない—という点に留意する必要があるでしょう。患者の中には「一度同意したのだから、それを共有してほしい。受診の都度の同意は煩雑で負担が大きい」と考える人もいそうです。また頻回な同意取得は医療機関等サイドにも大きな負担が生じます。一方、「すべての医療機関における包括的同意は嫌だが、自身が心配な●●の情報については医療機関間で連携してほしい」と考える患者がいた場合、包括的同意ではオールオアナッシング(すべて共有するか、一切共有しないか)の対応にならざるを得なくなります。
両者のバランスを考慮することが重要ですし、国民・患者の診療情報に関する意識が変化している点も勘案する必要があるでしょう。地域医療連携が一般的になり、ICT技術の革新が社会に実装される中で、「医療従事者間に、自身の過去の診療情報を共有してもらうことで、より安心・安全で質の高い医療が受けられる」ことが一般国民の間にも浸透してきており、「情報共有や同意に関する意識のハードル」が、一般的にかつてに比べて低くなっていると考えられます。
電子カルテ情報の内容・項目により、同意取得の在り方も変わってくるのではないか
さらに「同意を得るタイミングをどう考えるか」という論点については、上記(1)のあっプロード場面では「診療前に受け付け窓口などで同意を得る」「診療中に、医師等の説明を踏まえて同意を得る」「診療後に、自身の診療情報を確認した後で同意を得る(全国の医療機関で電子カルテ情報・レセプトを確認可能とするだけでなく、患者自身がマイナポータルを活用して自身の診療情報を確認できる仕組みが検討されており、(A)のレセプト情報共有においては実装されている)」ことなどが、(2)のアクセス場面でも「診療前に同意を得る」「診療中に、医師の説明を踏まえて同意を得る」ことなどが考えられます。
こちらも「患者、医療機関等の負担」も考慮して、同意取得のタイミングを検討していくことになります。
ところで、こうした検討を進めるにあたり、山口武之構成員(日本歯科医師会理事)や長島構成員らは「共有する情報の内容によって同意取得の在り方も変わってくるのではないか」と指摘しています。
例えば、感染症の情報や薬剤禁忌情報などを共有する際には「患者の同意」が強く求められると思われますが、現在「紙で運用」されている診療情報提供書については、紹介先医療機関でその情報を確認するにあたって患者の明示の同意は求められません(「黙示の同意」と考えることもできるが、そもそも「紹介先で診療情報を閲覧してほしくない」と考える患者はおらず「同意不要」とも考えられる)。これが、全国の医療機関で情報共有をする仕組みの中で「新たに同意を得る」こととなれば、医療現場に新たな負担が生じてしまいます。松村泰志構成員(国立病院機構大阪医療センター院長)は、「仮に『新たな仕組みでは同意取得が必要となる』となれば、現在の紙運用している診療情報提供書の仕組み(同意不要)が併存してしまうことになる。少なくとも、現在よりも同意取得の負担が増えることは避けるべき」旨をコメント。中島直樹主査(九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授)も「ICT技術を活用し、できるだけ簡便に同意取得できる仕組みを考えるべき」との考えを示しています。
なお、この患者同意についても「患者・国民が、全国の医療機関等で診療情報を連携することのメリットなどを理解する」ことが極めて重要と伊藤悦郎構成員(健康保険組合連合会常務理事)が訴えています。仮にメリットが曖昧なままでは、「同意しない」ケースが多数生じてしまい、「全国の医療機関で情報共有をする仕組み」が十分に稼働せず「宝の持ち腐れ」になってしまいかねません。
例えば、「意識不明で救急搬送された場面」「災害などで過去の診療情報確認が困難な場面」「生活習慣病など、患者が自身の状態をしっかり把握し、治療に積極的に参加すべき場面」などで、この仕組みが真価を発揮すると考えられ、厚労省も「国民にメリットなどを周知していく」考えを強調しています。あわせて厚労省は「先行する電子処方箋の仕組み」なども参考にしていく考えを示しています(関連記事はこちら)。
構成員の意見を踏まえて、中島主査と厚労省で整理し、次回会合で示す予定の「とりまとめ案」の中に、同意取得の在り方も盛り込まれる見込みです。
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