全国の医療機関で診療情報(レセプト・電子カルテ)を共有する仕組み、社保審・医療保険部会でも細部了承
2022.5.27.(金)
全国の医療機関でレセプト情報を共有する仕組みを拡大するが、「手術」情報は機微性が一段高く、他のレセプト情報と切り離し、共有のためには「個別の患者同意」を求めることとする—。
全国の医療機関で電子カルテ情報を共有する仕組みの構築に向けた議論を進めているが、「オンライン資格確認等システム」を活用することとする—。
5月25日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こうした点についても了承されました。
「全国の医療機関で診療情報を共有する仕組み」の詳細を医療保険部会でも了承
Gem Medで報じているとおり、「全国の医療機関で診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報)を共有する」仕組みの構築・運用が進められています。
医療機関等において「患者の情報を共有・閲覧する仕組み」として次の2つあります。
(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(B)各医療機関の電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み
(A)のレセプト情報共有は一部(薬剤、特定健診情報の共有)スタートしており、今後、共有情報が拡大されます。また(B)はこれから具体的な仕組みが構築されていきます。これまでに、「健康・医療・介護情報利活用検討会」と下部組織の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で、(A)(B)それぞれの今後(Aの拡大、Bの構築)に向けて次のような方向が固められました。
▽(A)で共有するレセプト情報は、現在の「薬剤」「特定健診」のほか、▼基本情報(医療機関名、診療年月日)▼▼手術(移植・輸血を含む)、短期滞在手術等基本料▼放射射線治療▼画像診断▼病理診断▼医学管理、在宅療養指導管理料▼人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、腹膜灌流—に拡大していくが、「手術」については機微性が一段高い(例えばK655【胃切除術】の「2 悪性腫瘍手術」であれば、「胃がん」であると即座に分かってしまう)。このため医療機関窓口での「当院があなた(患者)の診療情報へアクセスすることを許可するか?」との確認(同意)において、他の情報と切り離し、別個に「当院があなたの手術情報へアクセスすることを許可するか?」という確認(同意)を行うこととする(関連記事はこちら)
→システム構築のため、手術以外情報の共有は「今年(2022年)9月から」(当初予定どおり)だが、手術情報の共有は「2023年5月目途」となる
▽(B)の電子カルテ情報の共有(「HL7 FHIR」という規格を用いた【電子カルテ情報交換サービス】(仮称))に当たっては、「オンライン資格確認等システム」を活用する。ただし、電子カルテ情報交換サービスの運営主体・費用負担については、「誰がメリットを享受するのか」などを検討したうえで決する必要があり、「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」のメンバーを拡充して検討する(関連記事はこちらとこちら)
5月25日の医療保険部会でも、この2点が了承され、上記の方向でシステム構築などを進めることとなりました。医療保険部会委員からは「診療情報共有を進めることの重要性、必要性を再確認する」意見が多数出るとともに、次のような要望が出ています。
▽大病院だけでなく、中小病院やクリニックにおいても電子カルテの導入を支援するとともに、さらに調剤薬局や介護サービス事業者も巻き込んだ「医療・介護情報の共有」を目指してほしい(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)
▽(B)の電子カルテ情報交換サービスの運営主体・費用負担を検討する際には、医療保険者の意見も十分に聞いてほしい。また(A)については情報共有がこれ以上遅れないように進めてほしい(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)
▽(B)の電子カルテ情報交換サービスの費用については「受益者が応分負担」するべきである(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)
厚労省医政局研究開発振興課医療情報技術推進室の田中彰子室長は、今後早急に「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」のメンバー拡大を行い、運営主体や費用負担などの検討を進める点を確認しています。
また、電子カルテを実際に使い、情報共有を行う立場である池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)は「医療機関における電子カルテ導入・維持・更新(診療報酬改定の都度にバージョンアップが必要)には莫大な費用がかかっており、今は『ベンダーの言いなり』であるのが実際だ。(B)の電子カルテ情報交換サービスで、こうした状況が少しでも改善することを期待する」とコメント。田中医療情報技術推進室長は「情報共有の枠組みを構築するだけでなく、多くの医療機関が電子カルテを導入し、実際に診療情報を活用することが重要である。電子カルテ情報交換サービスの基盤を整備しても情報共有がなされないのでは意味がない。電子カルテのコストをどう下げていくか、国としても考えていく」とコメントしました。
認知症などで「同意」ができない場合、診療情報共有をどのように行うべきか
ところで、(A)(B)いずれの仕組みにおいても、大前提として、医療機関が情報共有を行うことに対して「患者が同意する」ことが必要となります。実際に(A)のレセプト情報共有に関しては、上述のように医療機関受診の都度に、オンライン資格確認等システムにおいて「自身の診療情報にアクセスすることを認めるか」を患者自身が選択(同意・不同意)することになっています。
しかし、例えば認知症高齢者などでは「同意」が困難なケースが少なからず出てきます。袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)や菊池馨実部会長代理(早稲田大学法学学術院教授)は、こうした「同意が困難なケース」についてどのような取り扱いとなるかを質問しました。
この点、「健康・医療・介護情報利活用検討会」と下部組織の「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」などでは、「認知症高齢者」を正面から取り上げてはいませんが、「救急搬送患者」を例に「同意取得が困難なケース」の考え方を次のように整理しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
▽救急搬送患者でも、意識がある場合には「同意」取得を診療情報共有のベースとする
▽意識不明の状態で救急搬送された場合などには、▼救急医療に携わる有資格者等に専用IDを発行し、「救急専用端末」でのみ情報照会可能とする(患者情報にアクセスできる人物を限定する)▼閲覧者を画面表示する等の利用状況のモニタリングを行う(患者が事後に「誰が自分の情報にアクセスしたか」を確認できるようにする)―ことにより「安易な患者情報へのアクセス」を認めない
認知症高齢者についても、後者を参考にしたルールを設けることで「自身のあずかり知らぬところで診療情報が閲覧され、情報漏洩してしまう」リスクを低く抑えることが可能になると考えられます。
「患者の診療情報を医療機関で共有できる」仕組みは、救急患者や認知症高齢者などへの診療で、まさに真価を発揮します。いずれも「これまでにどのような病気やけがをし、どのような治療(手術など)を受け、どのような薬剤を投与されているか」を医師に正確に伝えることが困難です。そうした場合に、過去の診療情報にアクセスできれば、例えば併用禁忌薬の回避や重複投薬の回避など、質の高い効率的な医療提供が可能になります。
このため「同意できない場合(「同意しない」場合ではない)には、診療情報共有を一切認めない」とすることは好ましくありません。一方で安易な情報共有が好ましくことも述べるまでもありません。こうしたメリット・デメリットの双方を十分に勘案して上記の「意識不明で救急搬送された場合」などのルールが構築されており、同様に視点で「認知症高齢者などのルール」なども今後、詰めていくことが必要でしょう。
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