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中小規模医療機関の標準準拠電子カルテ導入、基金や診療報酬活用して支援へ―医療情報ネットワーク基盤WG

2022.1.11.(火)

中小規模医療機関(400床未満病院やクリニック)を対象に「標準的電子カルテの新規導入・買い替え」などの必要を一部支援してはどうか―。

また診療報報酬でも、例えばA207【診療録管理体制加算】やB009【診療情報提供料(I)】の【検査・画像情報提供加算】、B009-2【電子的診療情報評価料】などによって、医療情報管理のセキュリティ確保等を進めることができるのではないか―。

1月7日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」でこういった議論が行われました。

中小規模医療機関対象に標準的電子カルテの新規導入・買い替えなど支援してはどうか

ワーキングでは「電子カルテ情報等の標準化を進める」方策を様々な角度から検討しています。

電子カルテについては「ベンダー(いわば開発・販売メーカー)によって仕様が全く異なり、データの共有・連結などが事実上不可能である」という大きな問題があります。同じベンダーの電子カルテを導入している医療機関間では患者情報の共有が可能ですが、異なるベンダーの電子カルテを導入する医療機関間ではこれが事実上不可能で、結果「患者情報の集積・共有・分析」などを阻んでしまっているのです。

また、これは「ベンダーによる顧客(医療機関等)の囲い込みにつながっている」という問題も引き起こしています。A社の電子カルテを導入した病院が、数年経過後に「使い勝手が良くない。良い評判を聞くB社の電子カルテに買い替えよう」と考えたとしても、これまでの患者情報(A社の電子カルテデータ)をB社の電子カルテと連結することが極めて困難なのです(結果、買い替えが阻害される)。

そこでワーキングをはじめ、厚労省の検討会では、▼医療機関同士などでデータ交換を行うための規格(アプリケーション連携が非常に容易な「HL7 FHIR」という規格を用いる)を定める → ▼交換する標準的なデータの項目、具体的な電子的仕様を定める → ▼厚労省標準規格として採用可能なものか民間団体による審議の上、標準規格化を行う → ▼ベンダーで「標準化された電子カルテ情報・交換方式を備えた製品」を開発する → ▼医療情報化支援基金等により「標準化された電子カルテ情報・交換方式」等の普及を目指す―という流れを固め。現在、標準化に向けた検討を加速化させています(関連記事はこちら)。

この流れは大きく、(1)電子カルテの標準規格を定めるなど「情報連携を可能とする」環境を整備する(2)標準規格などの医療現場への普及・浸透を図る―という2つに整理できそうです。

このうち後者(2)について厚労省は、(a)医療情報化支援基金(b)診療報酬―の2つの方向から普及・啓発を図る考えを示しました。

まず(a)の医療情報化支援基金は、2019年度予算事業で確保(予算案段階では医療ICT化促進基金との仮称であった)され、後に制度化されたもので、▼オンライン資格確認等システムの導入▼電子カルテの標準化―に取り組む医療機関に補助金を交付するものです(基金から医療機関に補助が行われる)(関連記事はこちらこちらこちら)。

今般、(1)の環境整備方針が固まってきていることを踏まえ、いよいよ基金からの補助要件等の議論が始まったと言えます(オンライン資格確認等に関する補助はすでに実施中)。

まず補助の対象となる医療機関について、厚労省医政局研究開発振興課医療情報技術推進室の田中彰子室長は「中小規模医療機関に絞ってはどうか」との考えを示しています。電子カルテの導入状況を医療機関の規模別にみると、2017年時点では▼400床以上病院:85.4%(未導入が14.6%)▼200-399床病院:64.9%(同35.1%)▼200床未満病院:37.0%(同63.0%)▼クリニック:41.6%(同58.4%)―となっており、「財源が限られる中で、中小規模(400床未満)医療機関における電子カルテの普及に補助の重点化を行う必要がある」と田中医療情報技術推進室長はコメントしています。

規模別にみた電子カルテ導入状況(医療情報ネットワーク基盤WG1 220107)



こうした考えの下で、田中医療情報技術推進室長は、次の要件を満たす中小規模医療機関に対して▼標準規格に準拠した電子カルテへの移行(買い替え)費用▼標準規格に準拠した電子カルテの導入(新規購入)費用―の一部を支援してはどうかとの提案を行いました。

【補助要件】
▽電子カルテの基本共通機能(標準パッケージ機能)として、HL7 FHIR規格に準拠した文書(診療情報提供書、 退院時サマリー、健診結果報告書)のデータ入出力ができること

▽HL7 FHIR規格に準拠した文書のデータ出力時に含まれる医療情報(傷病名、検査、処方)には、厚労省標準規格等のコードやマスターを付与すること(▼傷病名:厚労省標準規格「HS005 ICD対応標準病名マスター」等で活用されているICD-10コードと病名管理番号(傷病名マスター)▼検査:厚労省標準規格「HS014 臨床検査マスター」等で活用されているJLACコード▼処方:厚労省標準規格「HS001医薬品HOTコードマスター」、薬価基準収載医薬品コード、YJ(個別医薬品)コード、レセプト電算医薬品マスター等で活用されている薬品コード、厚労省標準規格「HS027処方・注射オーダ標準用法規格」等で活用されている用法コード

▽HL7 FHIR規格に準拠した文書・医療情報の出力データサンプル、ならびにデータ送受信経路のネットワーク構成図(ネットワークトポロジー)を提出すること

要件案を極めて大雑把に要約すれば「標準規格に準拠した電子カルテを導入し、それを証明する」ことと言えそうです。

医療情報化支援基金の交付要件案(医療情報ネットワーク基盤WG2 220107)



この後、この要件案を軸に、具体的な要件内容を整備していくことになります。これまでに示された電子カルテ情報等の標準化スケジュールを見ると「2022-23度にかけてHL7 FHIR規格に準拠した機能の基本的な部分(傷病名・医薬品・検査など)を整備する」こととなっており、具体的な補助要件設定は、この動きを見て詰めていくことになりそうです。

電子カルテ情報等の標準化スケジュール(医療情報ネットワーク基盤WG3 220107)

診療録管理体制加算など見直し、情報連携推進を診療報酬でも後押し

また(2)の診療報酬対応については、例えばA207【診療録管理体制加算】やB009【診療情報提供料(I)】の【検査・画像情報提供加算】、B009-2【電子的診療情報評価料】などでの評価が考えられます。

例えばA207【診療録管理体制加算】は、診療記録を適切に管理し、患者に適切な診療情報提供を行う医療機関を評価するものです(入院初日に100点または30点を上乗せ)。加算取得のベースとなる施設基準の中に「『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』に準拠した体制を整えていること」との項目があることから、本加算を取得するために当該ガイドラインに沿うことが求められる、逆にガイドラインに沿うことで経済的インセンティブを得られる可能性があります。

診療録管理体制加算の概要(医療情報ネットワーク基盤WG4 220107)



また、【検査・画像情報提供加算】は電子的な手法で画像情報・検査結果等を他医療機関に提供することを評価し(退院患者では200点、その他の患者では30点)、当該情報を受け取った医療機関では、当該情報を診療内容に生かした場合に【電子的診療情報評価料】(30点)を算定することができます。いずれの診療報酬項目を取得する場合でも、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」遵守等の施設基準を満たすことが求められ、逆に言えばガイドライン遵守などを加算等で後押ししていることになります。

検査・画像情報提供加算、電子的情報評価料の施設基準の概要(医療情報ネットワーク基盤WG5 220107)

検査・画像情報提供加算、電子的情報評価料の施設基準など(医療情報ネットワーク基盤WG6 220107)



このため、例えばこれらの点数において「標準規格に沿った電子カルテによって診療情報を管理していること」などの施設基準を組み込むことで、標準的な電子カルテの導入を診療報酬によって後押しすることが可能となってくるのです。内容によっては「基金よりも広範な医療機関に対して、経済的な後押しを行える」可能性も出てきます。

現在、2022年度診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会で進められており、厚労省保険局医療課の担当者は「2022年度改定で対応可能な部分と、2024年度改定以降でなければ対応できない部分とを切り分け、2022年度改定でどういった対応が可能となるのかを検討していく」考えを示しました。

例えば「HL7 FHIR規格準拠・・・」などは詳細が固まっていないため、2022年度改定での対応は難しそうです。一方、別途報じた「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の見直し(ランサムウェア対策など)は2021年度中に行われる見込みであり、2022年度改定での対応に間に合う可能性があります。これらを切り分けて、最終的には中医協で「情報連携の推進」に向けた改定内容を固めることになります(関連記事はこちら)。



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