自治体病院の9割近くが経常赤字という異常事態の中、入院基本料の大幅引き上げ、緊急の経営支援などを要望—全自病・望月会長
2025.8.21.(木)
2024年度における自治体病院の決算状況を調べたところ、86%が経常赤字、95%が医業赤字という異常事態であり、このままでは「自治体病院と言えども閉院せざるを得ない病院」が出かねない—。
自治体病院経営を維持するために「2026年度の次期診療報酬改定での大幅な診療報酬、とりわけ入院基本料の引き上げ」や「2025年度補正予算による緊急的な交付金等の措置」「地方港税措置の拡充」「病院建築補助単価のさらなる引き上げ」などが必要である—。
全国自治体病院協議会の望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)が8月20日に、村上誠一郎総務大臣および福岡資麿厚生労働大臣に宛ててこうした要望を行いました(全自病サイトはこちら(8月20日の「緊急要望 活動報告」から要望内容などをダウンロードできます))(関連記事はこちら)。

8月20日の総務省・厚生労働省への養母後に記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の望月泉会長(岩手県立中央病院名誉院長・岩手県八幡平市病院事業管理者)
自治体病院の経営は過去最悪の状況、このままでは閉院する自治体病院も出かねない
Gem Medで繰り返し報じているとおり病院経営は非常に厳しい状況にあり、日を追うごとのその度合いが増しています。
さらに今般、全自病が行った2024年度の自治体病院の決算状況調査からは、▼86%が経常赤字、95%が医業赤字という過去最悪の異常事態である▼とりわけ大規模な急性期病院で赤字割合が極めて高い▼自治体病院経費(コスト)の最大シェア(51%)を占める「人件費」の大幅な増加(2023年度から24年度にかけて5.2%増)、急性期病院においてとりわけ購入量・購入額の大きな「材料費」の増加(同3.2%増)が赤字拡大の大きな要因となっている—ことなどが明らかになりました。

2024年度決算状況(全自病2024年度決算調査結果1 250806)

主な費用の推移(全自病2024年度決算調査結果5 250806)
こうした事態を放置すれば「自治体病院と言えども経営破綻してしまう病院が出てくる」事態に陥りかねません。
そこで望月会長は、全国自治体病院開設者協議会(自治体病院を開設する自治体首長、つまり都道府県知事・市区町村長の協議会)とともに次の4点を村上総務相・福岡厚労相に要望しました。
(1)2026年度診療報酬改定での大幅な診療報酬(とりわけ入院基本料)の引き上げ
→保険医療機関は、主に公定価格である診療報酬により運営され、物価や人件費などによるコスト増を価格に転嫁できず、非常に厳しい経営を強いられている。とりわけ急性期医療を担う医療機関の負担が大きく、地域医療提供体制を将来にわたり維持・確保できる診療報酬(とりわけ入院基本料)の大幅な引き上げを講じてほしい
(2)緊急的財政支援
→2025年の春闘では昨年(2024年)を上回る賃上げとなり、消費者物価指数も上昇し、自治体病院経営は更に厳しい状況となっている。こうした極めて深刻な事態を緊急に回避するために緊急的な財政支援(補正予算による交付金対応、臨時の診療報酬改定など)を行ってほしい
(3)地方交付税措置の拡充
→2026年度地方財政計画において病院事業への繰出金について増額したうえで、地方交付税措置の拡充、2025年度の特別交付税措置額の大幅増額を講じてほしい
(4)建築単価の大幅な引き上げ
→建築資材高等などの情勢を踏まえ、施設整備にかかる病院事業債元利償還金に対する地方交付税措置の対象となる建築単価について、さらなる大幅引き上げを講じてほしい
このうち(1)の診療報酬引き上げについて望月会長は「3-4%程度の引き上げではとても足らない。現在、6病院団体(上記参照)で病院経営を維持するために必要な改定率について精査を行っている」とコメントしています。
この点、「これまでの診療報酬改定(2020・22・24年度)では6%超の『対応不足、引き上げ不足』になっており、物価上昇を踏まえれば10%超の大幅プラス改定が必要となる」との見解も示されてきており(関連記事はこちらとこちらとこちら)、今後の病院団体の動きに注目です。
なお、6月13日に石破茂内閣が決定した骨太方針2025(経済財政運営と改革の基本方針2025—『今日より明日はよくなる』)では、医療・介護をはじめとする社会保障予算について、これまでの「高齢化の伸び」に加えて、「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額・加算を行う方針が明示されていますが、望月会長はGem Medに対して「今後の政治の動きにより、ほんの少しのプラス改定で済ませられてしまっては困る」とコメントしています。
また(4)の建築単価については「2024年度:平米当たり52万円→25年度:同59万円」という引き上げが行われていますが、実際の平米単価は90万円、100万円というケースも多く、現在の補助額では建て替えや大規模修繕などが困難な状況です(結果、病院の再編がストップしてしまっているケースもある、関連記事はこちら)。望月会長は「補助額を引き上げていただいたばかりだが、さらなる引き上げを求めたい。そうでなければ適切な医療提供がかなわなくなる」と窮状を訴えています。
望月会長は「今後も様々な機会を捉えて政府に働きかけ、大幅な診療報酬プラス改定等の実現に繋げたい」と強調しています。
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社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続、診療所の良好経営踏まえた診療報酬改定を—財政審建議
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審
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物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、窮状を打破するため「診療報酬も含めた経営支援策」を急ぎ実施せよ—九都県市首脳会議
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2026年度の次期診療報酬改定に向け「新たな地域医療構想、医師偏在対策、医療DX推進」なども踏まえた調査実施—入院・外来医療分科会
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