新たな地域医療構想で検討されている「急性期拠点病院」、診療報酬との紐づけなどをどう考えていくべきか―入院・外来医療分科会(1)
2025.5.23.(金)
新たな地域医療構想では、「病棟・病床の機能」に加えて、「病院の機能」を報告することとし、「病院の機能」の1つとして、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う【急性期拠点】病院機能が検討されている(2025年5月22日時点で医療法改正案を国会で審議中)—。
この【急性期拠点】病院機能と診療報酬との紐づけが2026年度の次期診療報酬改定でも重要検討テーマの1つとなり、例えば「救急搬送受け入れ件数」や「全身麻酔手術の実施件数」などの高度急性期医療提供実績が評価指標の1つになると考えられる。もっとも、小規模な医療圏では「救急搬送の受け入れ件数」はそれほど多くないが、「地域の救急搬送患者の多くを受ける」など非常に大きな地域貢献をしている病院もあり、単純に「件数」だけを評価指標とすることは危険ではないか—。
5月22日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論が行われました。2026年度の次期診療報酬改定に向けて「入院・外来医療改革の議論が本格スタート」しています。調査結果は極めて膨大なため、本稿では「急性期入院医療」に焦点を合わせて、他の項目(DPC、高度急性期入院医療など)については、別稿で報じます。

5月22日に開催された「令和5年度 第2回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」
「急性期一般1のみ取得する病院」と「ケアミクス病院」には診療実績等に差があるが・・・
2014年度の診療報酬改定から「入院医療改革について、下地となる専門的な議論を前身である入院医療分科会で行い、それを踏まえて中医協で改革方法を固める」という流れができました。さらに外来医療についても同様に、入院・外来医療分科会で専門的な議論を行うことになっています(実質的な方向付けまでは行わず、「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」にとどめるとされている)。
5月22日の入院・外来医療分科会には、2024年度の前回改定を受けた「入院医療・外来医療の現状」に関する調査結果が報告され、あわせて「急性期入院医療」と「高度急性期入院医療」について課題整理と2026年度次期診療報酬改定に向けた検討が行われました。
「急性期入院医療」提供の中心となる急性期一般入院料1については、2024年度診療報酬改定で「重症度、医療・看護必要度の見直し(項目、基準値など)」や「平均在院要件の短縮」などの施設基準見直しが行われ、その影響などがまず注目を集めますが、5月22日の入院・外来医療分科会では、新たな地域医療構想で打ち出された「急性期拠点病院機能の集約化」と診療報酬との整合性をどう考えるかについて議論となりました。
新たな地域医療構想では、現行の地域医療構想における「病棟・病床の機能分化・連携の強化」(高度急性期、急性期、回復期、慢性期等)に加え、「病院の機能分化・連携の強化」を目指すこととされています。この病院の機能については、これまでに「各構想区域(主に2次医療圏)で▼高齢者救急・地域急性期機能▼在宅医療等連携機能▼急性期拠点機能▼専門等機能—を、より広域(主に3次医療圏や都道府県)で医育および広域診療機能を持つ病院を整備する」こととしてはどうか、という考え方が示されています(2025年5月22日時点では、新たな地域医療構想も含めた医療法改正案を国会で審議中)。
このうち「急性期拠点機能」については、▼地域で持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う▼報告に当たっては、地域シェア等の地域の実情も踏まえた一定の水準を満たす役割を設定し、アクセスや構想区域の規模も踏まえ「構想区域ごとに何か所の病院数を確保するか」設定する—こととされています。あわせて「診療報酬とどのように整合を図っていくか」も注目され、例えば「急性期充実体制加算を取得する病院や、DPCの特定病院群に属する病院がふさわしいのではないか、一方、急性期一般1取得病院では広範すぎるのではないか」といった議論が各所で行われています。
こうした動きも踏まえて、厚生労働省は次のようなデータを提示しました。
(1)「急性期一般1のみを取得する病院」と「急性期一般1に加え、地域包括ケア病棟入院料や回復期リハビリテーション病棟入院料、療養病棟入院料を併せて取得するケアミクス病院」とを比較すると、前者のほうが▼病院の規模が大きい▼平均在院日数が短い▼全身麻酔手術件数が多い▼救急搬送受け入れ件数が多く、地域の救急搬送受け入れシェアが高い▼急性期充実体制加算・総合入院体制加算の取得割合が高い—といった特徴がある

「急性期一般1のみ取得病院」と「ケアミクス病院」との比較(入院・外来医療分科会(1)1 250522)

「急性期一般1のみ取得病院」と「ケアミクス病院」との比較(入院・外来医療分科会(1)2 250522)
(2)急性期一般1取得病院について、病床規模が大きくなり、全ベッド数に占める急性期一般1ベッドの割合が高くなると、「救急搬送受け入れ件数のより多い病院」の出現頻度が多くなる

急性期一般1病院における救急搬送件数の状況(入院・外来医療分科会(1)3 250522)
(3)急性期一般1取得病院について、病床規模が大きくなり、全ベッド数に占める急性期一般1ベッドの割合が高くなると、「全身麻酔手術をより多く実施する病院」の出現頻度が多くなる

急性期一般1病院における手術件数の状況(入院・外来医療分科会(1)4 250522)
ここから、「急性期一般1のみを取得する大規模な病院」では「急性期入院医療を提供する」度合いが高いのではないか、とも思えます。中野惠委員(健康保険組合連合会参与)も「『急性期一般1のみを取得する大規模な病院』を急性期拠点病院、『ケアミクス病院』を高齢者救急・地域急性期機能とする方向で検討できるのではないか」旨の考えを示しています。
もっとも「急性期一般1のみを取得する大規模な病院」の中には「救急搬送受け入れがそれほど多くない、がん専門病院」なども含まれ、また「規模が大きくなれば、それだけ多くの救急搬送患者を受け、多くの手術を実施することが可能であり、当然のことである」とも考えられることから、(1)から(3)のデータだけを見て「急性期一般1のみを取得する大規模な病院」→「新たな地域医療構想における急性期拠点機能病院」と紐づけて考えることは、少し乱暴かもしれません。今後、より精緻な分析が行われることに期待が集まります。
津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「地域によっては大規模急性期病院が高齢者救急機能や在宅医療支援機能を果たすこともある。また、仮に『急性期充実体制加算を取得する病院=急性期拠点機能病院』と考えた場合、全国の半分程度の構想区域(主に2次医療圏)では『急性期拠点機能が存在しない』(急性期充実体制加算取得病院のない2次医療圏も非常に多い)ことになる点などにも留意が必要である」と指摘し、「新たな地域医療構想」と「診療報酬」との整合については、地域特性も踏まえた十分かつ慎重な検討が必要になることを強調しています。
また今村英仁委員(日本医師会常任理事)も「集約化と均てん化について、下手な議論を進めれば『地域で1か所も高度医療を提供できる病院がなくなる』ことも起こりうる」と指摘し、慎重な議論を強く要請しています。
例えば「救急搬送受け入れ件数」だけでなく、「地域の救急患者受け入れシェア」等も勘案を
また、厚労省は次のようなデータも提示しています。
(a)人口規模の大きな2次医療圏ほど「急性期充実体制加算や総合入院体制加算を取得病院」が多くなり、「当該医療圏で最も多く救急搬送を受けている病院」の救急搬送受け入れ件数も大きくなる

2次医療圏における救急搬送件数(入院・外来医療分科会(1)5 250522)
(b)人口規模の小さな2次医療圏では「救急搬送受け入れ件数自体はそれほど多くないが、地域の救急搬送の多くをカバーしている病院」があり、そうした病院では急性期充実体制加算・総合入院体制加算を取得していない

2次医療圏における救急搬送の地域シェア率(入院・外来医療分科会(1)6 250522)
類似のデータが「新たな地域医療構想等に関する検討会」でも示されており、これらからは「急性期拠点機能などを単純に『救急搬送受け入れ件数』等だけで見ることは危険で、地域、とりわけ地方では、地域医療への貢献度合い(救急搬送受け入れのシェア率など)も重要な検討要素になる」との考えが導かれるでしょう。
入院・外来医療分科会でも、このデータを踏まえて「救急搬送受け入れ等の『件数』だけでは急性期拠点機能を評価しきれない。地域における患者シェア率なども十分に勘案する必要がある」との考えを多くの委員が確認。
あわせて▼「地域における救急搬送の大部分を引き受ける」ことは極めて重要な地域貢献である(救急患者は「待てない」)。また2次医療圏域は千差万別で、地域の事情を詳しく分析したうえで、評価の在り方などを検討する必要がある(牧野憲一委員:旭川赤十字病院特別顧問・名誉院長、日本病院会常任理事)▼2次医療圏設定の妥当性なども検討する必要があろう。なお、このデータから『地域によっては急性期充実体制加算の実績要件を緩和しては』という議論に進むことは好ましくない(中野委員)▼2次医療圏の見直しの検討や、病院が県境に位置する場合の患者流入・流出なども勘案する必要がある(小池創一委員:自治医科大学地域医療学センター医療政策・管理学部門教授)▼地方で救急医療を守る病院などについては急性期充実体制加算などの要件緩和など、頑張りを評価する仕組みを考えるべき(鳥海弥寿雄委員:東京慈恵会医科大学前医療保険指導室室長)▼「地域医療の確保」と「手術に代表される急性期機能の集約化」とのバランスを考える必要がある(眞庭謙昌委員:神戸大学国際がん医療・研究センターセンター長)—などの多様な指摘が出ています。
こうした意見や、改正医療法成立後の「新たな地域医療構想策定ガイドライン」論議なども踏まえながら、さらに議論が深められていきます。また、当然「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」をはじめとする急性期一般入院料の施設基準見直し論議も並行して進められます。
なお、5月22日の入院・外来医療分科会では「DPC」や「高度急性期入院医療」(ICUなど)の議論も行われており、別稿で報じます。
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