2024年度、自治体病院の86%が経常赤字、95%が医業赤字と「過去最悪」、大規模急性期病院では9割超が経常赤字—全自病・望月会長
2025.8.7.(木)
2024年度における自治体病院の決算状況を調べたところ、86%が経常赤字、95%が医業赤字という異常事態であることが明確になった。1973年(昭和48年)から自治体病院の経営状況調査が行われているが「過去最悪」の状況である。なお、本調査には自治体病院全体の8割が回答しており「実態を現わしている」と言える—。
このため自治体病院の経営を維持するために、2026年度に「大幅な診療報酬改定」などが必要になることはもちろん、現下の厳しい状況に対応するための補助金交付なども必要である—。
また、現在のベースアップ評価料のみでは「自治体病院職員の十分な給与増」が行えないため、2026年度改定時には十分な引き上げが求められるとともに、物価高騰等に伴う消費税負担が膨張している点を踏まえた対応(保険診療にも消費税を課税し、適切な還付を行うなど)も必要である—。
全国自治体病院協議会が8月6日に臨時記者会見を開き、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)らからこうした見解が示されました(全自病サイトはこちらとこちら)(関連記事はこちら)。

8月6日の臨時記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の望月泉会長(岩手県立中央病院名誉院長・岩手県八幡平市病院事業管理者)
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Gem Medで報じているとおり病院経営が厳しさを増しており、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6団体の調べでは、2024年度診療報酬改定後(2024年6-11月)に「医業赤字病院は69%、経常赤字病院は61.2%」となっていることなどが明らかにされています。
さらに今般、全自病では2024年度の自治体病院の決算状況を調査。そこから次のような驚くべき数字が明らかになりました。
【経営状況全体】
▽全体では86%が経常赤字(過去10年で最も厳しい2023年度(70.4%が赤字)から、さらに15.6ポイント悪化)、95%が医業赤字
↓
・1973年(昭和48年)から自治体病院の経営状況調査が行われているが「過去最悪」の状況
▽機能別にみると、感染症指定医療機関では94%、へき地医療拠点病院では90%、災害拠点病院では94%、不採算地区中核病院では92%、救命救急センターでは93%が赤字
↓
・高機能な急性期病院ほど赤字割合が高く、経営が厳しい状況が伺える

2024年度決算状況(全自病2024年度決算調査結果1 250806)
【収支比率等】
▽2023年度から24年度にかけて、経常収益が0.9%増加したが、経常費用がそれを上回って増加(4.2%増)し、結果、医業収支比率は96.5%から93.4%に3.1ポイント悪化
▽2023年度から24年度にかけて、医業収益が2.0%増加したが、医業費用がそれを上回って増加(4.2%増)し、結果、医業収支比率は90.1%から88.1%に2.0ポイント悪化
▽2023年度から24年度にかけて、医業赤字額は24.7%増(2023年度:マイナス5019億円→24年度:6257憶円)、経常赤字額は93.3%増(同マイナス1879億円→マイナス363億円)に膨らんでいる(経常赤字額は2倍近くに膨張)

医業収支・経常収支の状況(全自病2024年度決算調査結果2 250806)
【病床規模別の状況】
▽400床以上(144施設):経常収支が赤字となる病院の割合が94%(2023年度から16ポイント悪化、コロナ禍前(2019年度)から38ポイント悪化)
▽200床以上400床未満(169施設):同95%(同13ポイント悪化、35ポイント悪化)
▽200床未満(311施設):同79%(同13ポイント悪化、16ポイント悪化)
▽精神科病院(33施設):同64%(同12ポイント悪化、9ポイント悪化)
↓
・大規模病院ほど赤字施設の割合が高く、経営状況が厳しいことが伺える

規模別の経営状況(全自病2024年度決算調査結果3 250806)
【病床規模別の状況】
▽ICU・CCU・NICU・未熟児室を持つ病院(2514施設):経常収支が赤字となる病院の割合が92%(2023年度から15ポイント悪化、コロナ禍前(2019年度)から32ポイント悪化)
▽高度急性期病床・急性期病床を持つ病院(409施設):同91%(同17ポイント悪化、32ポイント悪化)
↓
・急性期機能を持つ病院ほど赤字施設の割合が高く、経営状況が厳しいことが伺える

機能別の経営状況(全自病2024年度決算調査結果4 250806)
非常に厳しい状況が伺えますが、さらに驚くべきことに、本調査には自治体病院の78%が回答しています。つまり「一部の経営の厳しい病院のみが回答している」のではなく、極めて多数(ほとんどと言っても過言ではない)の病院が「未曽有の厳しい経営環境に置かれている」ことが分かります。
この背景には、自治体病院経費の最大シェア(51%)を占める「人件費」が大幅に増加(2023年度から24年度にかけて5.2%増)したことや、急性期病院においてとりわけ購入量・購入額の大きな「材料費」も増加(同3.2%増)したことがあります(このためスタッフ数が多く、様々な物品購入量も多い「大規模急性期病院」で赤字割合がとりわけ高くなる)。

主な費用の推移(全自病2024年度決算調査結果5 250806)
望月会長は、「従前は中小規模の自治体病院で赤字が目立ったが、現在は、地域の急性期医療の拠点となる基幹的な大規模自治体病院も軒並み赤字になっている。大規模病院が赤字となるため、当然、赤字額も大きくなる」と分析しています。
こうした状況を放置すれば「自治体病院であっても経営破綻してしまう」可能性もあります。このため会員病院(自治体病院)からは▼2026年度診療報酬改定でも「大幅な引き上げ」▼地方交付税措置の拡充(病床割の補助単価の引き上げ、小児・周産期・救急など不採算医療を担う病院への財政措置拡充)▼病事業債の制度拡充(対象拡充・償還費支援のほか、老朽化施設の更新、医療機器整備、医療DX整備に係る地方交付税措置の拡充など)—などが必要との声が強くあがっています。
このうち2026年度改定では、入院料等の大幅引き上げのほか、ベースアップ評価料の引き上げ(2024年度改定で創設された水準では十分な賃上げを実現できない)や、控除対象外消費税問題への抜本的対応(物価高騰、円安等により消費税負担も非常に大きくなっている)も必要となるでしょう。
こうした声も踏まえて望月会長は、全国自治体病院開設者協議会(自治体病院を開設する自治体首長の協議会)とともに、近く福岡資麿厚生労働大臣や村上誠一郎総務大臣へ宛てて「病院経営危機に対する対応」(上記の2026年度診療報酬改定での大幅点数アップなど)を要望する考えを強調しています。
あわせて望月会長は、▼6病院団体の調査(2024年6-11月対象)に比べて、満年度のデータからは、病院経営は更に厳しさを増していると感じられる▼近く(8月7日予定)2025年の人事院勧告(国家公務員の給与引き上げ勧告)が行われ、24年を上回る水準(3%台)と予想されている。それを踏まえ、各都道府県の人事委員会も地方公務員の大幅な給与引き上げを勧告すると思われるが、こうした厳しい自治体病院経営状況の中で「勧告通りの給与引き上げ」を行えるか心配である▼6月13日に石破茂内閣が決定した骨太方針2025で、医療・介護をはじめとする社会保障予算について、これまでの「高齢化の伸び」に加えて、「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額・加算を行う方針が明示されているが、実現に向けて不安も付きまとう▼建設費の高騰も続いており、病院経営が厳しい中では新築、改築も行えず、病院の再編・統合計画がストップしているケースもある。病院建設費補助単価(2024年度:平米当たり52万円→25年度:同59万円)のさらなる引き上げも求めていきたい—などの考えも示しています。
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物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、窮状を打破するため「診療報酬も含めた経営支援策」を急ぎ実施せよ—九都県市首脳会議
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