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自治体病院では【ベースアップ評価料】のみで十分な給与増は行えない、物価高騰等も踏まえた早急な「病院支援策」が必要—全自病・望月会長

2024.10.11.(金)

現在の【ベースアップ評価料】は「2024年度に2.5%の給与増」を行えるように設計されていると説明されるが、賃上げ促進税制が適用されない自治体病院等では、そもそも「ベースアップ評価料のみで2.5%の給与増を行う」ことはできない。さらに人事院勧告を踏まえた「2.5%をはるかに上回る給与増」を行わなければならず、物価高騰も相まって、自治体病院経営は非常に厳しい。「早急な病院経営支援策」を講じてもらう必要があり、11月にも厚生労働省や総務省、国会議員らに要望を行う—。

医師偏在是正に向けた総合対策パッケージ論議が進んでいるが、医師が「医師少数区域の医療機関などに勤務してよかった。勤務したい」と考えるような仕組みを構築する必要がある—。

全国自治体病院協議会の定例記者会見が9月12日に開催され、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)ら幹部から、こうした考えが示されました。

10月10日の定例記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の望月泉会長(岩手県立中央病院 名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)

10月10日の定例記者会見に臨んだ全自病幹部。左から田中一成参与(静岡県立病院機構理事長)、野村幸博副会長(国保旭中央病院長)、望月会長、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)、小阪真二副会長(島根県立中央病院長)

自治体病院では税制優遇が適用されず、ベースアップ評価料だけで2.5%賃上げは不可能

各病院団体が相次いで発表しているように、病院経営が厳しさを増しています(関連記事はこちら)。その背景には、例えば新規入院患者数そのものはコロナ禍前の水準に戻ってきているが、在院日数短縮が続き、延べ患者数が減少していることなどがあります。

また、患者1人当たりの収益(=単価)は上昇しているものの、その裏には「高額薬剤の登場」(脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)など)があります。高額薬剤の使用により「単価や収益は増加」するものの、そのほとんどは医薬品卸会社への支払い(高額医薬品の購入費)に充てられ、「病院の利益」にはほとんどつながりません。

また、2024年度診療報酬改定ではプラス0.88%の本体プラス改定が行われましたが、0.61%分は「看護職員や病院薬剤師などの処遇改善」に、同じく0.06%は「入院の食費増における低所得者支援」に支弁することとなり、薬価引き下げなどを加味して機械的に計算すると「実質的には0.12%のマイナス改定」になるとも指摘されています。

さらに、「看護職員や病院薬剤師などの処遇改善」を行ために2024年度診療報酬改定で新設された【ベースアップ評価料】は、▼2024年度にプラス2.5%▼2025年度にプラス2.0%—の賃上げを行えるように設計されているものの、「24年度・25年度のベア(+2.5%、+2%)を平年化すると『3.5%のベースアップ』となる。このうち、0.6%相当を『医療機関等による通常のベースアップ』、0.6%相当を『賃上げ促進税制』で行い、残りの2.3%を今回の診療報酬対応で行う」旨を当時の厚生労働省保険局医療課の眞鍋馨課長が説明しています。

この点について全自病の小阪真二副会長(島根県立中央病院長)は「自治体病院や大学病院では賃上げ促進税制などの適用はなく、このため【ベースアップ評価料】のみでは2.5%・2.0%の賃上げをそもそも行えない」と指摘。

また、【ベースアップ評価料】は「2024年6月からの適用」され、「2024年6月から2025年3月までの10か月分の財源」が確保されているものの、賃上げ・給与増は「2024年4月に遡って行う」こととなり、「12か月分の支出(給与増)を10か月分の財源で賄わなければならない」とも小阪副会長は指摘。

こうした点を踏まえて、「早急な【ベースアップ評価料】の設計見直しが必要になる」と小阪副会長は強く訴えています。

そのうえ、人事院が国家公務員の大幅給与増を行うべきとの勧告を行っています。各都道府県の人事委員会も同様の勧告を行うと見られ、自治体病院では、全体で「4.5%」程度の賃上げ(若手職員は10%程度)を、この4月(2024年4月)に遡って行う必要が出てきます(関連記事はこちら)。
▽モデル例では、月収で約4.4%の給与改善を行う
▽初任給の大幅引き上げを行う(総合職(大卒)では14.6%増の23万円、一般職(大卒)では12.1%増の22万円)
▽若年層(概ね30代前半)に特に重点を置きつつ、すべての職員を対象に全俸給表を引き上げる

2024年人事院勧告の概要1

2024年人事院勧告の概要2

2024年人事院勧告の概要3



全自病の望月会長や小阪副会長は、▼【ベースアップ評価料】だけでは、自治体病院は2.5%・2.0%の給与増を賄うことはできない(上述のように賃上げ促進税制が適用されない)▼【ベースアップ評価料】は「2024年6月からの適用」され10か月分の財源しかないが、賃上げ・給与増は「2024年4月に遡って行う」こととなり12か月分の支出に対応しなければならず、ここからも2.5%の給与増を行うことが難しい(10/12対応しかできない)▼自治体病院では2.5%をはるかに上回る給与増を行うことが要請される(上述の人事院勧告を踏まえた、全体平均で4.5%程度の給与増)—状況にあることを解説したうえで、「診療報酬の見直しには一定の時間がかかる。補助金などの速やかな対応が必要になる」と強調しました。

さらに、こうした人件費増に加えて、医薬品や医療材料を含めた諸物価も高騰しています。一般企業であれば、こうしたコスト増を商品の価格に転嫁することができますが、保険医療制度では「公定価格」(診療報酬)が決まっており、病院サイドが価格にコスト増を上乗せすることはできません。つまり「コスト増を抱えた」まま経営しなければならず、厳しさの度合いはますます増していきます。

望月会長は「こうした窮状に、早急に手を打たなければ病院経営が立ち行かなくなる。11月に総務省・厚労省・国会議員へ強力な病院経営支援を要望する」との考えを示しています。



また、10月10日の全自病幹部会議(会長・副会長・常務理事クラス)では、「医師偏在是正に向けた総合対策パッケージ」について議論。そこでは▼「重点医師偏在対策支援区域の設定と医師偏在是正プランの策定」に関しては粛々と進めるべき▼「医師少数区域勤務要件の拡大」(現在の地域医療支援病院の管理者から公立・公的病院管理者全般への拡大など)は、即効性がなく、実効性も乏しい▼大学病院から地域病院への医師派遣は重要だが、中小病院にまでは手が回っていない。大学病院→地域の基幹病院→中小病院という医師派遣ルーツを強化し、財政支援も充実する—などの意見が出されたことが望月会長から紹介されました。

このうち「医師少数区域勤務」に関して望月会長は、▼「管理者に求められるマネジメント能力」と「医師少数区域での一定期間勤務」との間には関係がない(医師少数区域勤務でマネジメント能力が上がるというエビデンスはない)▼一方、専門医資格などに「医師少数区域での勤務」を要件化することには意味がある—との考えも示しています。

望月会長が、以前に管理者(院長)を務めた岩手県立中央病院では「2か月程度の地方医療機関勤務」を若手医師(研修医等)に求めていますが、「基幹病院である中央病院勤務では『入院対応』がほとんどであるが、地方医療機関では『外来から入院まで一連の医療提供』をすべて経験でき、若手医師には非常に好評である。このように『地方医療機関で勤務してよかった』と感じられる仕組みを構築することが重要である」とも訴えています。

医師偏在対策に関しては、厚労省が「年内(2024年内)に総合対策パッケージをまとめる」べく議論が続けられており、今後の状況から目が離せません。



なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、機能再編や経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。

GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。

ガイドラインでは「外部アドバイザーの活用も有効である」と明示していますが、コンサルティング会社も玉石混交で「紋切り型の一律の改革プランしかつくれない」ところも少なくありません。この点、GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。

●GHCのサービス詳細はこちら

従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

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