Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

医師偏在是正に向けた「規制的手法」に賛否両論、外来医師多数区域での新規開業をより強く制限すべきか—新地域医療構想検討会(1)

2024.10.1.(火)

医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージの策定に向けて、例えば「医師不足解消が優先的に求められる区域」を国と都道府県の協議により設定し、例えば経済的インセンティブ等による医師確保支援を行ってはどうか—。

外来医師多数区域での新規開業制限を強化する、多くの病院の院長には一定期間の医師少数区域勤務を求める、などの「規制的手法」をどう考えるか—。

こうした議論が、9月30日の「新たな地域医療構想等に関する検討会」(以下、新検討会)で本格スタートしました。「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」や社会保障審議会・医療保険部会、中央社会保険医療協議会などでも併行して議論を進め、本年内(2024年内)に医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージの策定が行われます。

なお、同日の新検討会では、新たな地域医療構想の策定に向けて「病床機能報告における『回復期機能』の名称・定義見直し」、「回復期・慢性期機能や在宅医療の在り方」、「地域医療構想区域の在り方」なども議論しており、別稿で報じます。

9月30日に開催された「第6回 新たな地域医療構想等に関する検討会」

医師確保を優先的に進める区域を設定し、医師確保を経済的インセンティブなどで支援

Gem Medで報じているとおり、「医師の地域偏在、診療科偏在」に向け、▼医学部に「地域枠・地元枠」を設けるほか、臨床研修医・専攻医の大都市集中を防ぐためにシーリングを設ける(国による取り組み▼各都道府県で「医師確保計画」(医療計画の一部分)を作成し、医師少数県・区域を中心に「医師確保」を図る(自治体による取り組み)▼医師働き方改革により上記を支える—といった様々な対策が講じられてきています。

医師偏在対策の全体像(医師偏在対策検討会1 240129)



その効果は徐々に現れています(例えば若手医師配置は医師多数区域よりも医師少数区域でより大きく伸びている)が、必ずしも十分とは言えないことから、骨太方針2024では「医師偏在対策の総合的なパッケージ」を年内(2024年内)にまとめる方針が打ち出され、厚生労働省は、▼8月30日に「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」を提示▼9月5日に「厚生労働省医師偏在対策推進本部」に発足させ、総合パッケージに向けた論点を整理(関連記事はこちら)—しています。

医師偏在対策(近未来健康活躍社会戦略2 240830)



これらの具体化論議が各検討会で行われており(関連記事はこちら(医療部会)こちら(医療保険部会)こちら(偏在対策検討会))、9月30日の新検討会では、厚生労働省大臣官房の高宮裕介参事官(救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)が医師偏在の現状等を詳しく説明するとともに、次のような対策案が提示されました。

(1)重点医師偏在対策支援区域の設定と医師偏在是正プランの策定
(2)医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大、医師少数区域等での勤務経験期間の延長
(3)外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保
(4)保険医療機関の管理者要件設定
(5)経済的インセンティブの付与
(6)中堅・シニア医師等と医師少数区域医療機関との全国的なマッチング機能支援等
(7)都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定



まず(1)は、▼人口規模、地理的条件、今後の人口動態等から医療機関の維持が困難な地域であり、優先的かつ重点的に医師確保を進める必要がある地域・区域を「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」として設定(国と都道府県で協議のうえで選定)し、例えば後述する経済的インセンティブなどによる支援によって、医師確保を強力に促す▼都道府県の医師確保計画に上乗せする形で、新たに「医師偏在是正プラン(仮称)」の策定を求め、例えば「重点医師偏在対策支援区域における支援対象医療機関の明示、必要医師数等の設定を行う」—こととしてはどうかとの提案です。

この提案に対して異論・反論は出ておらず、今後、「重点医師偏在対策支援区域」の選定基準をどう考えるか(医師偏在指標、可住地面積あたりの医師数、住民の医療機関へのアクセス状況、医師の高齢化の状況等も考慮する)、「医師偏在是正プラン」にどういった項目を盛り込むかなども具体的に詰めていくことになります。

医師偏在の是正に向けた「規制的手法」に賛否両論、実効性に疑問の声も

また(2)(3)(4)は、いわゆる規制的手法(半ば強制的に、医師に医師少数区域等での一定期間勤務を求める手法)で、高宮参事官は次のような提案を行っています。

【医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大】【医師少数区域等での勤務経験期間の延長】
地域医療支援病院の管理者(院長等)の要件として「医師少数区域等での6か月以上の勤務経験」を課している→が、▼対象病院の拡大(例えば医師確保に関する厚生労働大臣要請に協力義務のある自治体病院や国立病院・大学病院などへの拡大)▼勤務経験機関の延長(6か月以上→1年以上など)—を行ってはどうか

医師少数区域等での一定期間勤務を認定する制度の概要



【外来医師師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保】
「少なくとも外来医師多数区域で新規にクリニックを開業する場合には、初期救急(夜間・休日の診療)、在宅医療、公衆衛生(学校医、産業医、予防接種等)等の地域に必要とされる医療機能を担うよう求める」仕組みがあるが、▼「クリニック開設の届け出時に、地域で必要な機能実装の要請が行われるケース」が多く、それでは要請が遅すぎる(「開業準備を整え、届け出を行った」時点で「在宅医療をやってほしい」などと要請されても、クリニック側も対応が困難)▼要請・合意が十分に得られていない—などの課題がある(関連記事はこちら

外来医療計画の概要(第8次医療計画検討会(1)1 220615)



→このため、実効性のある取り組みとするために▼仕組みを医療法に位置付ける(現在は「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」における運用上の仕組みにとどまっている)▼クリニック開設予定者に「事前」に医療機能装備予定の届け出を求め、地域で不足する機能の実装を要請する—こととしてはどうか

→さらに、より厳格な対応(▼要請に従わない場合の勧告・公表▼保険医制度上の対応(要請に従わない場合に保険指定を行わない、取り消すなど)▼クリニック開業の許可制・地域でのクリニック数上限設定—)をどう考えるか

【保険医療機関の管理者要件設定】
→「保険医療機関の管理者を法律に規定し、管理者要件として一定期間の保険医勤務経験を設定する」(例えばクリニック開業する場合には、過去に一定期間、保険診療に従事した経験が求められることとする)などの方策をどう考えるか



こうした規制的手法については賛否両論があります。まず、賛成意見の1つとして、河本滋史構成員(健保険組合連合会専務理事)は「医師多数区域に医師が集まる背景を分析して過剰集中を規制的に解決しなければ偏在は解消しない。外来医師多数区域では、地域で不足する機能を実装する場合のみ保険指定を行う、保険医療機関の管理者には長期間の保険診療経験を要件化する、医師少数区域での勤務経験を幅広い医療機関の管理者要件に設定することが必要である」と強調。

また土居丈朗構成員(慶応義塾大学経済学部教授)は「医師偏在を強力に是正するためには規制を強める必要がある。優先すべき外来医師多数区域での新規開業対策である。憲法問題を指摘する声もあるが、他産業(タクシー業界など)でも新規参入規制はあり、医師要請には多額の公費が投入され、医療費の9割は公費・保険料であることなどを考慮すれば、規制的手法の必要性は理解される。例えば、要請に従わない場合には保険指定を行わないなどの規制強化をしなければ、医師の地域偏在は是正されないであろう。医師少数区域での勤務経験については、保険医登録の要件化も考えられる。その場合、自由診療への医師流出を懸念する声もあるが、自由診療分野は市場原理が働き、医師が増えれば収益が下がっていく可能性もある。また、『外来医師多数区域での新規開業』と『医師少数区域での勤務経験』などを組み合わせるなどの手法も考えられる。医師偏在是正効果を高めたいと考えるのであれば、規制の強化が必要になってこよう」との考えを述べています。

こうした積極意見に対し、江澤和彦構成員(日本医師会常任理事)は「日本国憲法第22条第1項から導かれる『営業の自由』」に抵触する可能性も高く、規制的手法は全く馴染まない」と強く反発。伊藤伸一構成員(日本医療法人協会会長代行)は「規制的手法を実行したとしても、医師は医師少数区域にはいかず、医師多数区域の近隣に動くだけである。規制的手法では偏在は解消できず、『医師派遣』の強化が重要である」と実効性に強い疑問を投げかけました。

また、個別の規制的手法について見てみると、「医師少数区域等での勤務経験を、自治体病院管理者の要件にも拡大する」案に対しては、「昨今、若手医師は病院管理者への就任に消極的であり、逆効果ではないか」との声が望月泉構成員(全国自治体病院協議会会長)や今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)ら多くの構成員から出されたほか、「医師少数区域での勤務期間は、逆に短くする(6か月以上→3か月以上など)ほうが実効性が上がるのではないか(短期間なら医師少数区域勤務を希望する医師が増えると考えられる)」(岡俊明構成員:日本病院会副会長)との声も出ています。

他方、「外来医師多数区域での新規開業対策」に関しては、公平性の観点から「新規開業だけではなく、既に開業しているクリニックにも地域で不足する機能実装を求めるべきではないか」(大屋祐輔構成員:全国医学部長病院長会議地域の医療及び医師養成の在り方に関する委員会委員長)との考えも示されました。

さらに、「医師少数区域等での勤務経験を、自治体病院管理者の要件にも拡大する」案に対しては「美容クリニックなど、自由診療に流れる医師を増加してしまう悪手である」(今村構成員)などの慎重意見も出ています。

こうした「規制的手法」は、江澤構成員が指摘するように、日本国憲法第22条第1項から導かれる「営業の自由」に抵触する可能性も高く、様々な角度からの十分な議論が必要となります。また、規制的手法により「望まない地域で勤務する医師」のモチベーションをどう確保するか、という問題も生じかねません(「医師は来てくれたが、やる気がない」のでは、地域住民にも医師にも不幸である)。

一方、地域では「医師が期間限定、スポットで来てくれるだけでは困る。短期間でもよいが、継続して派遣される仕組みが重要である」との声も出ており、これを実現するためには一定程度の規制的手法の検討も必要になってきそうです。

なお、仮に「規制的手法を実施する。その1つとして外来医師多数区域での新規開業にあたり、地域で不足する機能を持たない医療機関は保険指定を行わない仕組みとする」とした場合、その仕組みは社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的に検討する必要があります。このため、規制的手法については、新検討会だけではなく、他の検討会(医療保険部会や中医協など)と歩調を合わせて検討していくことになります。

医師少数区域で「医療機関経営が維持できる」ような工夫が必要

一方、(5)の経済的インセンティブは、主に、上述の「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」における医師確保推進を支援するための支援策(補助金、診療報酬など)です。高宮参事官は、▼「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」で必要な医療機能を維持し、国民皆保険制度を安定的に運営する観点から、こうした取組に対する、国や地方、保険者等からの協力の在り方について医療保険部会等でも検討してはどうか▼地域間・診療科間の医師偏在是正の観点から診療報酬において、どのような対応が考えられるか—との問いかけを行いました。

この点については、▼民間病院にも医師派遣を求めるのであれば、経済的インセンティブとセットで検討する必要がある(岡構成員)▼逆に医師多数区域での「ディスインセンティブ」(補助金減、報酬減など)も検討すべき。また、保険料を「給付以外」に用いることは加入者への説明が困難である(河本構成員、土居構成員)▼地域医療介護総合確保基金を活用したインセンティブヲ積極的に考えていくべき(江澤構成員)▼インセンティブは補助金が好ましく、公私の別なく支援を行うべき(猪口雄二構成員:全日本病院協会会長)—など、さまざまな見解が示されました。

補助金によるインセンティブ、診療報酬によるインセンティブなど、具体的な手法を今後検討していくことになりますが、伊藤構成員は「地方で人口が減少しても、医療機関経営が成り立つような工夫をしなければ、医師少数区域に医師は行かない」とコメントしています。

保険医療機関の収益の大部分は「診療報酬」収益であり、これは「患者数」に大きく依存します。このため、「人口の多い=患者数の多い」地域では収益が上がるために、多くの医師を配置することができますが、「人口の少ない=患者数の少ない」地域では、収益が確保できず、医師を配置することが困難なのです。つまり、人口が少ない=患者がいない=収益が上がらない地域では医療機関開設がそもそも困難であり、必然的に「医師が集まらない、集められない」事態に陥ってしまうのです。これは、医師偏在が生じる本質的な部分でもあり、「医療機関の経営維持」という面も、今後、十分に考えていく必要があります。



このほか、(6)の「中堅・シニア医師等と医師少数区域医療機関との全国的なマッチング機能支援等」(「医師少数区域でセカンドキャリアを積もうと考えているベテラン医師等」と、「地域医療に従事してほしいと希望する医師少数区域等所在の医療機関」とのマッチングを行う仕組みの創設)、(7)の「都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定」については、「積極的に進めよ」との声が多くの構成員から出されています。



さらに、医師偏在対策の是正に向けて、「医師偏在をどの程度まで是正するのか、客観的指標をもとに目標設定を行っておくべき」(江澤構成員)、「若手医師をターゲットに据えた方策(専門研修のシーリングなど)には限界があり、ベテラン・シニア医師をターゲットに据えた方策を積極的に検討・実行すべき」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長、猪口構成員)、「地域の基幹病院からの医師派遣機能充実も検討すべき」(望月構成員)、「医師派遣の中心は大学病院になるが、大学病院に医師が潤沢にいなければ派遣を行えない。大学病院、特に地方大学病院の医師確保を十分に進めるべき」(大屋構成員)、「地方ではマイナー診療科の専門資格取得が難しい。症例確保のために基幹病院の集約化を進め、そこから医師少数区域へ医師派遣を行うなどの仕組みを整える必要がある。医師が不足する地域では総合的な診療能力を持つ医師が重要で、そのために『臨床研修』(初期研修)が設けられたが、その理念が忘れられている。臨床研修・専門研修の見直しも必須である」(松田晋哉構成員:産業医科大学教授)

新検討会では、さらに議論を続け「本年内(2024年内)の総合対策パッケージ策定」を目指します。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

【関連記事】

医師偏在是正に向け、「医師多数県の医学部定員減→医師少数県へ振り替え」「総合診療能力を持つ医師養成」など進めよ—医師偏在対策等検討会
「医療保険制度での医師偏在対策」論議スタート、「保険料を保険給付『以外』に支弁する」ことに異論も—社保審・医療保険部会
医師偏在対策の総合パッケージ策定に向け、「インセンティブ」と「規制的手法」との組み合わせを検討—社保審・医療部会(1)

厚労省が「近未来健康活躍社会戦略」を公表、医師偏在対策、医療・介護DX、後発品企業再編などを強力に推進