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病床機能報告 DPC特定病院群への昇格・維持のために今やるべきこと

医師偏在是正に向け、「医師多数県の医学部定員減→医師少数県へ振り替え」「総合診療能力を持つ医師養成」など進めよ—医師偏在対策等検討会

2024.9.20.(金)

医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージの策定に向けて、医師養成過程関連として「医学入学定員の在り方」(医師多数県で減員→医師少数県へ振り替え)や、「総合診療能力を持つ医師の養成」(総合診療専門医の養成、ベテラン医師へのリカレント教育など)を進めていく必要がある—。

こうした議論が、9月20日の「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(以下、偏在対策検討会)で行われました。

偏在対策検討会では、総合対策パッケージ論議よりも先んじて、これらのテーマについて議論を行ってきています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。今後も、これまでの議論を継続し、その内容が総合対策パッケージに盛り込まれることになりそうです。

9月20日に開催された「第6回 医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」

医師多数県の医学部定員を削減し、それを医師少数県に振り替えていく

従前より「医師の地域偏在、診療科偏在」が大きな課題となり、さまざまな対策(▼医学部に「地域枠・地元枠」を設けるほか、臨床研修医・専攻医の大都市集中を防ぐためにシーリングを設ける(国による取り組み)▼各都道府県で「医師確保計画」(医療計画の一部分)を作成し、医師少数県・区域を中心に「医師確保」を図る(自治体による取り組み)▼医師働き方改革により上記を支える—)が講じられてきています。

医師偏在対策の全体像(医師偏在対策検討会1 240129)



その効果は徐々に現れています(例えば若手医師配置は医師多数区域よりも医師少数区域でより大きく伸びている)が、必ずしも十分とは言えないことから、骨太方針2024では「医師偏在対策の総合的なパッケージ」を年内(2024年内)にまとめる方針が打ち出され、厚生労働省は、8月30日に「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」を提示しました。

医師偏在対策(近未来健康活躍社会戦略2 240830)



さらに武見厚生労働大臣を本部長とする「厚生労働省医師偏在対策推進本部」が9月5日に発足し、「医師偏在対策総合パッケージ」に向けた論点を整理(関連記事はこちら)。「偏在対策検討」や「新たな地域医療構想等に関する検討会」、「社会保障審議会・医療保険部会」などで論点を具体化する議論が進められ、偏在対策検討会では、(1)中堅以降医師等の総合的な診療能力等に係るリカレント教育(2)医師多数県の臨時定員(医学部入学定員)地域枠の医師少数県への振替検討—の2点を主に議論していきます。

医師偏在の総合対策パッケージに向け、偏在対策検討会では「医学部入学定員」「リカレント教育」などを検討する(赤枠)(医師偏在対策検討会7 240920)



9月20日の会合では、この2点に加え、「医師養成過程における診療科選択」を議題としました。

まず(2)の医学部入学定員について見ていきましょう。

医学部入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—で構成されます。臨時定員は、医師の地域偏在を是正するために2008年から設けられ、現在も継続されています。

医学部入学定員の構造(医師偏在対策検討会2 240226)



しかし、現在の医学部入学定員を維持すれば2029年頃から医師『過剰』になる」ことが明らかになっており、「臨時定員枠を徐々に縮小していく」方向が確認されています(関連記事はこちら)。

医師需給の最新推計によれば、早ければ2029年、遅くとも2032年に医師の需要と供給が均衡し、以後「医師過剰」となる(医師需給分科会(1)3 200831)



もっとも「急激な定員減」は、地域医療提供体制や大学医学部・病院、医学部入学を志す高等学校生等に大きな影響を及ぼしてしまうため、2025年度には、例えば次のように見直すことが決定しています(関連記事はこちら)。
(1)医師多数県での対応方針
→原則として2024年度の臨時定員地域枠に0.8を乗じたうえで、必要に応じて(3)の対応を行う(つまり2割減(1)+α(3)とする)

(2)医師少数県での対応方針
→教育・研修体制が維持される範囲内で、医師多数県から削減等した定員数分((1))を活用して、原則として2024年度よりも増員の意向がある場合には、その意向に沿った配分を行う(増員を認める)

(3)残余臨時定員の調整
→上記(1)(2)の対応を行った結果、「2025年度の臨時定員総数」<「2024年度の臨時定員総数」となる場合には、「2025年度の臨時定員総数=2024年度の臨時定員総数」となる範囲内で、「恒久定員100名あたり、恒久定員内地域枠を4名以上設置している」など、更なる県内の偏在是正が必要な都道府県について次の調整を行う
▼医師多数県では、例えば2024年度臨時定員地域枠の1割など「一部の意向」を復元する(上述(1)の+α)
▼医師少数区域のある医師中程度県では、2024年度からの増員意向がある場合、「医師少数区域等に従事する枠となっているか」など、地域枠の趣旨の範囲内で配分を行う
▼臨時定員研究医枠について、2024年度からの増員意向がある場合には、その趣旨の範囲内で配分を行う



今後、2026年度の医学部入学定員(臨時定員枠)を議論していきますが、厚生労働省は上記の考え方を継続し、次のように検討してはどうかとの考えを提示しました。
(a)医師多数県については臨時定員地域枠を一定数削減していく一方で、▼若手医師が少ない場合▼医師の年齢構成が高齢医師に偏っている場合—などは配慮(定員減の一部復元を認める、定員減を行わないなど)する
(b)2026年度までに恒久定員内地域枠を一定程度設置するなど、更なる県内の偏在対策に取り組む都道府県について配慮(同)する
(c)医学部臨時定員の配分方針について、引き続き地域枠医師の医師少数区域・医師少数スポット等への配置状況等を踏まえて検討する—考えを提示しました。

このうち(a)に関連して、厚労省は次のようなデータを示しています。
▼医師多数県であっても、熊本県や徳島県など、35歳未満の若手医師が少ない地域もある

若手医師(35歳未満)割合と医師偏在指標との関係(医師偏在対策検討会1 240920)



▼医師多数県であっても、徳島県や長崎県など、65歳以上の高齢医師が多い地域もある

高齢医師(35歳未満)割合と医師偏在指標との関係(医師偏在対策検討会2 240920)



これらの地域では、時間の経過とともに「医師の高齢化→引退→しかし若手医師による補充がない→医師不足に陥る」可能性もあり、安易に「医師多数県ゆえに医学部入学定員を減じる」ことには危険を伴う可能性があります。そこで「定員減の一部復元を認める」「定員減を行わない」などの「配慮」を検討する必要があるとの考えを厚労省は示しています。

こうした「医師多数県の医学部入学定員(臨時定員)を徐々に減らし、その範囲内で医師少数県の医学部入学定員に振り替えていく」方針そのものに、明確な反対意見は出ていません。

ただし、「高齢医師引退の可能性などの不確実な要素を考慮して医学部入学定員を考えるべきではない。「高齢医師引退→医師減」の影響はダイレクトに医師偏在指標に反映されるため、配慮措置は不要ではないか」(印南一路構成員:慶應義塾大学総合政策学部教授)との声も出ています。

確かに、「医師の引退が増加」→「地域の医師数が減少」すれば、人口10万対医師数をベースとする「医師偏在指標」に反映され、そうした地域は「医師多数県ではなくなる」ことが考えられます。しかし、医師養成には時間がかかることから、▼「医師多数県でなくなった時点で、臨時定員減をストップする」ことで適切な対応が可能なのか▼「医師減少が明確になった」時点で一定の対策を検討する必要があるのではないか—とも考えられ、配慮すべきか否かという点は、さらに検討する必要がありそうです。



このほか臨時定員の在り方に関しては、▼臨時定員増の効果(地域で医師偏在が是正方向に動いているのか)検証を行ったうえで、ゼロベースで考えていく必要がある。人口減が進めば「恒久定員枠の在り方」そのものの議論も必要になってくるかもしれない(木戸道子構成員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)▼地域枠による医師偏在是正効果は欧米も注目していると聞く。地域枠はさらに拡充していくべき(今村英仁構成員:日本医師会常任理事)▼医師少数県の医学部で臨時定員のさらなる増加(医師多数県での削減分を医師少数県に振り替え)で教育の質が低下しないかが懸念され、慎重に見極めていく必要がある(國土典宏座長代理:国立国際医療研究センター理事長)—などの意見が出されています。また地域での医師確保の責任主体である都道府県サイドからは、「若手医師が少なく、高齢医師が多く、しかも医師少数県である地域(すでに医師が少なく、さらに確実に減っていくと見られる地域、例えば新潟県や福島県など)への対応を最優先で行うべきではないか」との声も出ています。

こうした意見を参考にしながら、2026年度の医学部入学定員(臨時定員)の在り方を更に詰めていきます。

なお、総合対策パッケージは「年内」(2024年内)に取りまとめられますが、2026年度の医学部入学定員(臨時定員)の在り方は「来春」(2025年春)とりまとめになる見込みであることから、▼総合対策パッケージでは「医学部入学定員(臨時定員)の見直し方針」を明確に定める▼2026年度の医学部入学定員(臨時定員)については、このパッケージの方針と齟齬のない形で設定する—こととなる見込みです。例えば「医師多数県の医学部入学定員(臨時定員)を徐々に減らし、その範囲内で医師少数県の医学部入学定員に振り替えていく」という方針を総合対策パッケージで明確にし、2026年度の医学部入学定員は、これを踏まえて「医師多数県の定員は●%削減する」などと具体的に設定することなどが考えられます。

医学部「恒久定員」の中に地域枠を設置し、拡充していくことが非常に重要

また、地域枠については「恒久定員の中に設定する」ことも重視されています。臨時定員は漸減方針が示されているため、「地域枠は臨時定員のみ」とすれば、医師偏在是正効果の高い地域枠も漸減していってしまうためで、厚労省は▼都道府県に「地域枠を恒久定員の中に設置する」ことを促す(上述の「医師多数県では医学部入学定員を減じるが、恒久定員内地域枠設置により一定の復元を認める」仕組みも、この促進策の1つ)▼好事例を横展開する—方針を既に示しています(関連記事はこちら)。

9月20日の会合では、好事例の1つとして「宮崎県・宮崎大学医学部」の事例が紹介されました。医師少数県である宮崎県では、県内出身者の「宮崎県内で臨床研修を受ける者」の割合が66%であるのに対し、県外出身者では15%にとどまっていました。宮崎県・宮崎大学医学部では、▼地域枠を臨時定員での20名から、恒久定員内の40名に移行・拡大する▼医学部入学定員が減少する(臨時定員増の廃止)が、その分、質の高い教育・指導が実現でき、「県内での臨床研修者」増加が見込まれる—と判断し、2022年から実施しています。

恒久定員内地域枠の好事例(宮崎大学・宮崎県)1(医師偏在対策検討会3 240920)

恒久定員内地域枠の好事例(宮崎大学・宮崎県)2(医師偏在対策検討会4 240920)



この「新たな地域枠」(恒久定員内地域枠)の入学者は、現在、医学部3回生であり、効果検証できる段階にはありませんが、偏在対策検討会構成員からは「優れた好事例である」と高く評価する声が出ています。

なお、宮崎大学サイドからは▼「地域枠とは何か、従事要件がどのようなものか」を高等学校にもしっかり説明することで、「地域枠で入学したが、このような仕組みとは知らなかった」と悩む医学生の発生を防止している▼多くの大学医学部では地域枠をきちんと理解できない嫌いもある(地域枠=総合診療専門医養成枠との誤解もある)▼地域枠・一般枠を含めて、医学生に「地域医療に従事する」ことの意義・尊さを説くことが重要である―との見解が示されました。

こうした事例も参考に、各地域で「恒久定員内地域枠」が設置・拡大されることに期待が集まります。

ベテラン医師に、医師少数区域等で手腕を発揮してもらう方策も非常に重要

また(1)のリカレント教育については、既に▼総合診療専門医の養成を引き続き推進していく(関連記事はこちら)▼各大学における総合診療医センターを中心とした養成に加え、学会や病院団体が協力し「研修・地域における実践的な機会の提供・総合診療の魅力発信を一体的に実施する」ような方策を検討する—方針が打ち出されています(関連記事はこちら)。

後者は、いわば「ベテラン医師に、医師少数区域等の医療機関で腕を振るってもらう」ことを期待するものと言えます。この点、都道府県サイドからは、▼週に数日、医師少数区域の医療機関で、例えば「かかりつけ医機能」「総合診療能力」などに関するリカレント教育を受ける▼残りの週に数日は、医師少数区域において、自身の専門性を生かして「指導医」として活躍してもらう—といった仕組みも検討してはどうかと提案しています。非常に魅力的な提案と言えます。

ただし、ベテラン医師はすでに生活基盤を整えており、例えば「子供の教育環境を考慮すると、安易に医師少数区域への移住は難しい」などの課題もあります。今後、こうした点への配慮策なども検討していくことが重要でしょう。



なお、総合対策パッケージとは別に、厚労省は「外科などの一部診療科医師の増加が乏しいことに対して、医師の働き方改革の推進など既存の施策に加えて、どのような対策が考えられるか」という論点も提示しています。

外科医は、他科医師に比べて増加が芳しくありません。その背景を現場医師アンケート等からさぐると、▼やりがいを感じる▼手技が多い▼生命に直結する—という魅力がある一方で、▼ワークライフバランスの確保が難しい▼将来的に専門性を維持しづらい▼医師が不足しており過酷なイメージがある▼出産、育児、子供の教育に協力的でない—などの理由で「外科を専攻しない」という面があるようです。

基本領域を選択した理由(日本専門医機構調査)(医師偏在対策検討会5 240920)

希望していた基本領域を選択しなかった理由(日本専門医機構調査)(医師偏在対策検討会6 240920)



医師偏在は「地域」だけでなく、「診療科」でも非常に大きな問題となっており、今後、こういった「診療科偏在の是正策」も多面的に検討していくことになります。



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