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GemMed塾 看護モニタリング

医師偏在是正に有効な地域枠、「恒久定員への設置」や「特定診療科を指定した従事義務」をどう推進すべきか—医師偏在対策等検討会(1)

2024.4.26.(金)

効果的な医師偏在対策として「地域枠」が知られる。医学部臨時定員を漸減していく中では「恒久定員の中での地域枠設置」を推進していく必要がある—。

また、医師の「地域」偏在のみならず、「診療科」偏在の是正効果もある「診療科選定地域枠」(診療科を指定して一定期間の従事義務を課す地域枠)も設置を推進していくことが重要である—。

さらに、医師偏在の是正に向けては、若手医師だけでなく「ベテラン医師」(中堅医師)に医師少数県等で勤務してもらうことが極めて重要となる—。

4月26日に開催された「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました。なお、同日の会合では「2025年度の医学部入学定員の配分方針」が固められており、これは別稿で報じます。

4月26日に開催された「第4回 医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」

医学部臨時定員を将来的に縮小していく中、「恒久定員への地域枠設定」推進策が必要

従前より「医師の地域偏在、診療科偏在」が大きな課題となっています。どれだけ病院を建設し、高度な治療・検査機器を整備したとしても、医師がいなければ医療提供はかないません。

この医師偏在の解消に向けて、大きく3つの対策がとられてきています。
▽医学部に「地域枠・地元枠」を設けるほか、臨床研修医・専攻医の大都市集中を防ぐためにシーリングを設ける(国による取り組み)
▽各都道府県で「医師確保計画」(医療計画の一部分)を作成し、医師少数県・区域を中心に「医師確保」を図る(自治体による取り組み)
▽医師働き方改革により上記を支える

医師偏在対策の全体像(医師偏在対策検討会1 240129)



しかし、こうした対策の効果は、必ずしも十分には出ていないようで、第8次医療計画作成論議の中では「2016年から20年にかけて医師偏在が進んでしまった」ことも明らかになっています(関連記事はこちら)。

2016年から20年にかけて医師の地域偏在が助長されてしまっている(地域医療構想・医師確保WG(1)4 221027)



また、2022年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」を見ると、▼人口10万人当たり医師数が最多の京都府と、最小の埼玉県の間には1.90倍の格差があるなど「地域間格差が大きい」▼診療科別にみると「外科医の減少」が続いている—などの課題が依然としてあることが分かっています(関連記事はこちら)。

そこで厚生労働省は、検討会を立ち上げ医師養成の過程(医学部入学定員における「地域枠」などの設定、臨床研修・専門研修におけるシーリング設定など)を通じた偏在対策を中心に、既存施策の洗い直し(評価・検証)を行うとともに、より効果的な対策を検討していくこととしています。

4月26日の会合では、▼地域枠による偏在対策▼中堅医師の移動等による偏在対策—をどう進めていくかを議論しました。

「地域枠」は、医師偏在の是正に向けて「最も効果のある対策」として知られており、厚労省は(1)恒久定員の中への地域枠設置(2)従事する診療科を指定した地域枠の設置―を進めてはどうか、との論点を提示しました。

まず(1)の「恒久定員の中への地域枠設置」について見てみましょう。

医学部の入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—で構成されます。医師の地域偏在是正するために、2008年から臨時定員が設けられています。

医学部入学定員の構造(医師偏在対策検討会2 240226)



しかし、「近い将来、医師過剰になる」ことを踏まえ「臨時定員枠を漸減していく」方針が確認されています(関連記事はこちら)。一方、医師偏在は解消していないことから、「医師偏在是正に効果的な地域枠を、恒久定員の中に設置していく」方向も確認されていますす(関連記事はこちら)。

ただし「恒久定員内の地域枠」設置の取り組みは、医師少数県においてもバラつきがあります(設置していない医師少数県もある)。この点、別稿で報じる「2025年度の医学部入学定員の配分方針」の中には「「恒久定員内の地域枠」設置に向けたインセンティブ(恒久定員内に一定以上の地域枠を設置することで、医学部入学定員を一定程度確保できる)が設けられ、これが推進策の1つになると言えます。

医師少数県でも「恒久定員の中に地域枠設定」を行っていないケースがある(医師偏在対策検討会(1)1 240426)



検討会では「都道府県の負担を財政面も含めて支援してほしい」との声も出ており、今後、より具体的に「恒久定員内の地域枠」設置推進策を検討していくことになります。

医師の地域偏在だけでなく、診療科偏在も是正する「診療科選定地域枠」推進を

(2)の「従事する診療科を指定した地域枠(診療科選定地域枠)の設置」は、約4割の地域枠で導入されています。例えば「小児科医や産科医が不足する地域」において、医師免許取得後に一定期間、地域医療機関の小児科や産科で勤務することを義務付ける、といったイメージで、地域で不足する診療科の医師の効果的な養成に大きな役割を果たしています。

診療科を指定してう従事義務を課す地域枠(診療科選定地域枠)は約4割の地域枠で採用されている(医師偏在対策検討会(1)2 240426)



また、大分大学医学部では「地域枠入学者について、医師免許取得から3年目、つまり臨床研修を終えて診療を行えるようになった段階で、地域医療医機関で総合診療に携わることを義務付ける」仕組みを2022年度から導入しています。これも診療科選定地域枠の1類型と言えそうです。

大分大医学部では、地域枠医師は臨床研修終了後(卒後3年目)に、地域医療機関において総合診療に従事することを義務づけている(医師偏在対策検討会(1)3 240426)



このように「地域偏在だけでなく、診療科偏在も是正する」効果のある診療科選定地域枠ですが、「専門医取得が遅れてしまうこともある」(従事義務医療機関と専門研修プログラムとが完全に合致するとは限らない)、「18歳の医学入学時点で、強い縛りを設けることはあまり好ましくない」(木戸道子構成員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)という課題もあります。

ただし、大分大医学部の事例を見ると、総合診療への従事を義務付けられた医師は、当初は満足度が低いものの、総合診療に従事する中で徐々に満足度が高まっていくというアンケート結果もあります。一概に「診療科選定が医学生・医師を過度に縛っている」とは言えないようです。

大分大医学部の取り組みについて、当初は満足度が低かった医師も、総合診療従事経験を通して満足度が向上している(医師偏在対策検討会(1)4 240426)



医学生等の意向も踏まえながら「地域で求められる診療科に一定期間従事することを義務付ける」仕組みには、相当の効果があると期待できます。この仕組みについても、より具体的な推進策を今後、検討していくことになります。

「ベテラン医師の医師少数県での勤務」などをどのように促していくべきか

また、本検討会はもちろん、前進の医師需給分科会をはじめとする各種検討の場において「若手医師を対象にした医師偏在対策には限界がある。ベテラン医師に医師少数の地域等で勤務してもらう方策を考えるべき」との声が出ています(関連記事はこちら)。

例えば、▼専門医資格更新時に「地域医療機関での診療に一定期間従事する」ことを要件化する▼クリニック開設において「「地域医療機関での診療に一定期間従事する」ことを要件化する▼学会を通じて「地域医療機関への医師派遣」を支援する▼(ベテラン医師にかぎらないが)必要な(例えば不足する)診療科の医師について処遇の向上を図る—などのアイデアが浮かびますが、「実現可能性」も含めて、今後、さらに検討を深める必要があります(例えば、専門医資格更新時の地域医療機関従事要件などには医学会の協力が必要であり、クリニック開設時の地域医療機関従事要件では医療法改正が必要となり、さらには憲法問題もクリアする必要性があるかもしれない)。

この論点について小笠原邦昭構成員(日本私立医科大学協会、岩手医科大学附属病院病院長)や坂本純子構成員(法人ささえあい医療人権センターCOML委員バンク登録会員)らは、「ベテラン医師が地方勤務を希望した際の『公的な窓口、仕組み』が十分に整備されていないのではないか。現在は『医師個人の意欲』に頼っている部分が大きい」とコメントしました。各地域の「ドクターバンク」事業などが「公的な窓口」の1つになると言えますが、「専門家にすら十分に浸透していない」状況が浮き彫りになったとも言え、今後、厚労省や都道府県、地域医師会などが「ドクターバンク事業のPR」に力を入れていくことも必要と考えられます。

なお、地方の医療現場からは「スポット(例えば短期間)的に、一時的に医師を派遣してもらうだけでは意味がない。異なる医師でもよいので『継続して、切れ目なく地方に来てもらえる』ような仕掛けが必要である」との切実な声が出ている点も、今後考慮すべき重要要素の1つとなります(関連記事はこちら)。

医師偏在の是正には、専門医制度改革、医療機関の再編・統合なども関連

このほか、医師偏在の是正に向けて、▼現状では地域枠以外に有効な手立てはない。財務省は診療報酬での対応なども提案しており、最初から「話にならない」と切り捨てず、一度、議論の俎上にあげてはどうか(神野正博構成員:四病院団体協議会(全日本病院協会副会長))▼新専門医制度では「総合診療専門医」が設けられたが、その先のキャリア(サブスペシャリティ領域)がない。若手医師のキャリアを考慮し、総合診療のサブスペ領域設定や、内科と総合診療との連携などを考えなければならない(小笠原構成員)▼すぐに動ける(地域勤務が可能である)定年後医師の活用なども検討してはどうか(國土典宏構成員:国立国際医療研究センター理事長)▼人口減の中で「コンパクトシティ」構想などもあり、医師偏在対策でもその点を考慮した「医療資源の集約化、集中化」を勘案すべき(木戸構成員)▼将来の必要医師数を診療科・地域別に精緻に試算し、そこからバックキャストで「まず取り組むべき事項」「次に取り組むべき事項」と整理していく必要がある。そこでは医療機関(とりわけ高度医療機関)の再編・集約化なども重要な検討事項となる(横手幸太郎構成員:国立大学病院長会議特任委員)—など、非常に幅広い意見・提案が構成員から出されました。

「新専門医制度」や「医療機関の再編・統合などの地域医療構想」といった他施策に関連する提案も多く(従前より地域医療構想・医師偏在対策・医師働き方改革は「三位一体」と指摘されている、関連記事はこちら)、来夏(205年夏)の方向性とりまとめに向けて、どのように議論を深めていくのか、今後の調整に注目が集まります。

検討会論議スケジュール(医師偏在対策検討会6 240129)



なお、冒頭に述べたように、同日の会合では「2025年度の医学部入学定員の配分方針」が固められており、これは別稿で報じます。



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