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2027年4月の新地域医療構想スタートまでに「病院病床11万床」(一般・療養5万6000床、精神5万3000床)を削減—自民・公明・維新

2025.6.9.(月)

6月6日に開かれた自由民主党・公明党・日本維新の会の社会保障制度改革協議で、「2027年4月の新地域医療構想スタートまでに病院病床11万床を削減」する方針が固められました。医療DX推進と併せて、現在、国会で審議中の医療法改正案にこの方針を盛り込むことで、年内(2025年内)に改正法が成立することは確実と見られます。

必要病床数を超える一般・療養5万6000床、精神5万3000床を削減する方針

自由民主党・公明党・日本維新の会では「現役世代の保険料負担軽減を実現するために、国民医療費を年間、最低4兆円削減する」方針を示しています(日本維新の会のサイトはこちら)。

今般、まず、この「4兆円削減」のうちの「1兆円分」を「病床を11万床削減」で実現する方針が3党の社会保障改革会議で固められました。具体的には次のような内容です。

▽人口減等により「不要」と推定される約11万床の一般病床・療養病床・精神病床について、地域の実情を踏まえた調査を行ったうえで、不可逆的な措置を講じつつ、2年後の新たな地域医療構想時(2027年4月のスタート)までに削減する

▽感染症等に対応する病床は確実に確保しつつ、削減される病床の区分や稼働状況、代替する在宅・外来医療等の増加等を考慮したうえで精査する



11万床の内訳については、▼一般病床・療養病床で5万6000床(必要病床数を超過する分)▼精神病床で5万3000床(同)—とされています。

現行の地域医療構想における必要病床数(病床の必要量)を全国で積み上げると「119万1000床」となります(関連記事はこちら)。一方、2023年の「医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」によれば、2023年10月1日時点で一般病床(88万2862床)・療養病床(27万3745床)・有床診病床(7万5780床)で合計123万2000床強となります。両者の差、つまり3党合意で言うところの「必要病床数超過分」は4万1000床にとどまっており、今後、詳細が明らかにされることが期待されます。

11万床の削減で医療費が1兆円削減されるとの試算

また、11万床削減が実現した場合には、次のように「1兆円の医療費削減が見込まれる」と維新の会が試算しています。ただし、上述のとおり「必要でない病床」であれば、下記試算にあるような医療費(一般病院2300万円、ケアミクス病院1400万円などの病院収益)が生じているとは考えにくく(維新の党の指摘する「贅肉」病床であれば、より稼働が悪く、患者数が少ないため1床当たりの病院収益はもっともっと小さいと考えられる)、「捕らぬ狸の皮算用に過ぎない」と冷ややかに見る識者も少なくありません。

▽11万床削減を2年間(新地域医療構想スタート時まで)で行う場合には、年間5万5000床の削減が必要(X)

▽「政府による病床削減」推進事業を拡大すると仮定
(A)一般病院等に対し「1床当たり410万円」(410万4000円)の給付(関連記事はこちら

(B)以下の機能転換を行う病院に対し「1病棟当たり2000万円」の給付を行うと仮定する(250病棟程度と推計)
・7対1病棟→地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟
・10対1病棟→地域包括ケア病棟

▽「在宅療養支援病院または在宅療養後方支援病院」を取得する病院(250施設程度と推計)に対し「1病院当たり2000万円」の給付を行うと仮定する

この病床削減を実現するために必要となる財源(1年間)は次のように試算される
(A)5万5000床(X)×410万円=2255億円
(B)250病棟×2000万円=50億円
(C)250病院×2000万円=50億円

これを2年間実施するため、必要な財源は約4800億円(1年分で約2400億円)(Y)

▽病床削減を行った場合には、次のような医療費削減効果が期待できる
【一般病床、療養病床を5万6000床削減した場合の効果】(1年分)
・一般病院1床当たりの医業収益(年間):約2300万円
・ケアミクス病院1床当たりの医業収益(年間):約1400万円

・「(2300万円+1400万円)÷2」(一般・ケアミクスの平均1床当たり収益)×「5万6000床÷2」(1年当たりの削減ベッド数)=5180億円の医療費削減

【精神病床を5万3000床削減した場合の効果】(1年分)
・精神病院1床当たりの医業収益(年間):約700万円

・「700万円」(精神の平均1床当たり収益)×「5万3000床÷2」(1年当たりの削減ベッド数)=1855億円の医療費削減

【全体の削減効果】
・11万床削減を完遂すると、一般・療養「5180億円」+精神「1855億円」=7035億円→2年間で約1兆4000億円の医療費削減(Z)

【結論】
▽11万床の病床削減のために2年間で約4800億円が必要となる(Y)
▽11万床の病床削減で、2年間で約1兆4000億円の医療費が削減される(Z)

▽医療費削減(1兆4000億円、Z)—必要額(4800億円、Y)により、約1兆円の「医療費削減効果」が得られる

5年内の「電子カルテ普及率100%」実現を目指す方針も固め、年内に改正医療法成立へ

また3党では、次のような医療DX推進方針も合意しました。

▽現在の電子カルテ普及率は約50%(関連記事はこちら

▽普及率100%を達成すべく、5年以内に実質的な実現を見据え、電子カルテを含む医療機関の電子化を実現する

▽医療情報の共有を通じた効率的な医療提供体制構築を促進するため、電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供を実現する



3党では、上記の「病床削減」と「医療DX推進」の2点について、現在国会で審議中の医療法改正案に盛り込み(改正法案の修正)、年内(2025年内)の成立を図るとしています(関連記事はこちら)。

十分な精査をせず「11万床削減」の数値目標を示す手法を強く批判する識者も少なくない

与党+維新で合意しており、改正医療法の成立は確実と見られますが、例えば上述した「病床削減」について▼地域の実情を踏まえて精査すると言いながら、11万床という極めて乱暴な数値目標を掲げており、医療提供体制の混乱、有事(例えば新型コロナ感染症のような新興感染症発生時や大災害発生時など)には医療提供体制が逼迫する可能性が高い▼健康保険料(医療保険料)の削減のために11万床削減などを打ち出しているが、『保険料削減のために医療が受けられなくなる』ことを国民が望んでいるのだろうか▼維新では11万床を『贅肉』と表現しているが、本当にそうなのを十分に精査しなければならない▼国民の健康・生命に直結する医療政策について、十分な議論を行わずに、一部の政治的な思惑で見直し・改悪が進んでしまうことは非常に危険である―と厳しく指摘する識者も少なくありません。

5月22日に行われた全国自治体病院協議会の定例記者会見では、小阪真二副会長(島根県立中央病院長)が、「島根県では本年(2025年)1・2月にインフルエンザ流行で病床逼迫(病床不足)が生じた。そのため医療機関ではなく、県から『病床削減事業(上記(A)でベッド削減をしてよいのか』との声も出ている」ことを紹介しています(関連記事はこちら)。

まず「機能別の必要なベッド数」を地域ごとに適切に精査し、「必要な医療提供体制が確保されているか、過剰になっているのか」を判断することが重要であり、「数値目標を先に掲げる」やり方には多くの専門家が強い疑問を呈しています。



また、3党では次のような点の協議も進め、近く合意される見込みです。

▽介護従事者等の処遇改善が喫緊の課題であり、政府が過去に実施した取り組みを念頭に▼報酬改定(例:2017年度臨時改定による処遇改善加算の+1万円相当など、関連記事はこちら)▼予算措置(例:2011年度の介護職員処遇改善交付金創設、のちに処遇改善加算へ発展など)―を組み合わせて「機動的」に必要な対応を行う

▽引き続き3党で、2026年度予算編成過程(診療報酬改定を含む)において検討を継続し、現役世代の保険料負担軽減を目指す(早期実現が可能なものは2026年度から実施、2026年度以降の対応が必要なものは骨太方針2025に明記する
(検討項目例)
・OTC類似薬の保険給付にかかる見直し(保険適用からの除外も含めて検討、1兆円程度の医療費削減効果が見込まれる)
地域フォーミュラリの全国展開(3000億円程度の医療費削減効果が見込まれる)
・応能負担の徹底(金融資産も勘案した保険料設定など)
・生活習慣病の重症化防止とデータヘルスの推進



さらに維新では「低価値医療(風邪への抗菌剤処方など)の保険診療からの除外」「医療保険の給付範囲などのゼロベースでの見直し」などの検討も求めて行く構えです。



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