新たな地域医療構想・医師偏在対策・医療DX・オンライン診療法制化など「医療提供体制の総合改革」案とりまとめ—社保審・医療部会
2024.12.19.(木)
2040年頃を見据えて、「新たな地域医療構想」「医師偏在対策」「医療DX」「オンライン診療の法制化」など「医療提供体制の総合改革」を目指す—。
新たな地域医療構想では、これまでに「入院医療の機能分化・連携の強化」にとどまらず、外来医療、在宅医療、医療・介護連携なども含めた「将来の総合的な医療提供体制ビジョン」とし、急性期拠点病院の集約化・絞り込むなどを進めていく—。
医師偏在対策では、支え合いの仕組み(規制的手法)と経済的インセンティブを組み合わせ、とりわけ医師確保の必要性が高い「重点医師偏在対策支援区域」での取り組みを緊急に進めていく—。
医療DXに関しては、電子カルテ情報共有サービスに関する法的裏付けを行うとともに、電子カルテ情報共有の必要性が高い特定機能病院や地域医療支援病院、救急病院などに「標準化した情報の授受を可能とする電子カルテを整備(既存システム改修)し、電子カルテ情報共有サービスに参加する」ことを努力義務化する—。
12月18日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こうした内容が概ね了承されました。今後、医療法等の改正案を厚労省で作成し、年明け(2025年)の通常国会提出を目指します。
「医療提供体制の総合改革」内容踏まえ、2025年通常国会への医療法等改正案提出目指す
団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年度以降、高齢者人口そのものは大きく増えない(高止まりしたまま)ものの、▼85歳以上の高齢者比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、認知症高齢者の比率が高まる)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。少なくなる一方の若年世代で、多くの高齢者を支えなければならず、「効果的かつ効率的な医療提供体制」の構築がますます重要になってきます。
また、こうした人口構造の変化は、地域によって大きく異なります。ある地域では「高齢者も、若者も減少していく」ものの、別の地域では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに別の地域では「高齢者が増加する一方で、若者が減少していく」など区々です。
そこで、2025年以降、2040年頃までを見据えた「医療提供体制の新たな設計図」(新たな地域医療構想)が求められています。
他方、従前より「医師の偏在」(地域偏在、診療科偏在、病院-診療所間の偏在)が指摘され、さまざまな手立てが取られていますが、十分な解決には至っていません。
さらに、「効果的かつ効率的な医療提供」を行うためには、患者の診療情報を様々な形で活用する医療DX(患者のレセプト・電子カルテ情報を全国の医療機関で閲覧可能とする、患者の情報を集積・解析して新規の治療法開発などにつなげる)が極めて重要となってきます。
こうした状況を踏まえて、「新たな地域医療構想」「医師偏在対策」「医療DX」などの議論が各種検討会等で進められ、12月18日の医療部会で、それらの考え方を統合した「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」が大筋で取りまとめられました。次のような点について改革方向が示されています
(1)新たな地域医療構想(入院だけでなく、外来医療、在宅医療、医療介護連携なども組み込んだ総合的な「将来の地域における医療提供体制ビジョン」とし、医療計画の上位計画に位置付ける。病床機能報告については、現在の回復期を「包括期」に拡充し、新たに「医療機関機能」報告も求め、急性期拠点機能は集約化・絞り込みを図る)
(2)医師偏在対策(▼都道府県が「重点医師偏在対策支援区域を」を選定し、支援対象医療機関・必要医師数・医師偏在是正に向けた取り組みなどを盛り込んだ【医師偏在是正プラン】を新たに作成し、強力に医師偏在対策を推進する▼医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大等を図る▼外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性を確保する▼重点医師偏在対策支援区域に勤務する医師、重点医師偏在対策支援区域に医師を派遣する病院等に「経済的インセンティブ」を付与し、財源について公費と保険料との組み合わせを検討する—など)
(3)医療DXの法制化(電子カルテ情報共有サービスの法的位置づけを明確にし、特定機能病院や地域医療支援病院、救急医療機関など「電子カルテ情報共有の必要性が高い病院」では標準仕様で情報の授受が可能な電子カルテ導入等の努力義務を課す。またレセプト情報等の研究者等への提供について、これまでの「匿名化」提供に加えて、「仮名化」提供も行うとともに、電子カルテ情報を含めた他情報との連結解析を可能な環境を整える。電子カルテ共有サービスの運用費用に関する保険者負担・医療費助成へのオンライン資格確認等システム活用の記事はこちら、データの2次利用に関する記事はこちら)
(4)美容医療の適正実施(▼美容医療を行う医療機関等の報告・公表の仕組みの導入▼保健所等による立入検査や指導のプロセス・法的根拠の明確化▼関係学会によるガイドライン策定▼オンライン診療・広告の適正性確保—などを進める)
(5)オンライン診療の法制化(▼「オンライン診療を行う医療機関」を医療法上明確化し、届け出などを義務付ける▼特定多数人にオンライン診療を提供する施設を「特定オンライン診療受診施設」として医療法上明確化し、オンライン診療を行う医療機関による監督等を求める—ことなどにより、オンライン診療の「適正な拡大」を図る)
(6)認定医療法人制度の延長(持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行促進策の一環として、相続税・贈与税の優遇を受けられる【認定医療法人】制度を2029年12月31日まで延長(現在は2026年末まで)する—)
(7)一般社団法人立医療機関の非営利性確保(一般社団法人立の医療機関についても、開設時や毎会計年度ごとに財務諸表を都道府県に届け出ることを求める仕組みを新たに設け、医療法人と同程度の確認を可能とする)
こうした改革案は、すでに下部組織の検討会等での議論を経てまとめられたものであることから、医療部会では明確な異論・反論はなく、大筋で了承されています。もっとも、検討会等に参加していない委員を中心に、各見直し内容に対して意見・注文もついています。
たとえば(2)の医師偏在対策については、医療保険者サイド(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)である村椿晃委員(全国市長会、富山県魚津市長)や山崎親男委員(全国町村会、岡山県鏡野町長)、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、井上隆委員(日本経済団体連合会専務理事)、松本真人参考人(健康保険組合連合会理事)らから、改めて「保険料を給付費(診療行為)以外に用いることには加入者の理解がなかなか得られない。医療提供体制は、国・都道府県が責任をもって整備すべき」との意見が出されました。もっとも、こうした意見に対し松原由美委員(早稲田大学人間科学学術院教授)は「最終的には国民が費用を負担する(公費であっても、保険料であっても最終負担者は国民である)。国民に医療の現状をきちんと情報発信し、理解を得ることが重要である」と冷静にコメントしています。
さらに「今回まとめられた対策で医師偏在が解消するとは思えない。今回のとりまとめは『中間まとめ』と位置づけ、効果を定期的に検証しながら、さらに効果的な偏在対策を検討・実行していくべき」との提案が楠岡英雄部会長代理(国立病院機構名誉理事長)や神野博委員(全日本病院協会副会長)、加納繁照委員(日本医療法人協会会長)、松本参考人から出されました。松本参考人は「偏在対策の効果・進捗状況を逐次把握・検証する会議体を設置する」よう求めています。
この点、遠藤久夫部会長(学習院大学長)は、医師偏在対策のとりまとめ内容の中に「医師偏在対策の効果を施行後5年目途に検証し、十分な効果が生じていない場合には、更なる医師偏在対策が検討されるべき」ことが明示されており、「そうした声は織り込み済である」旨の考えを示しています。また、厚労省医政局総務課の梶野友樹課長(医政局医療経理室長併任)は、松本参考人の要望に対し「医療保険者が偏在対策の状況・効果を把握できる枠組みを検討していく」考えを示しました。
このほか、▼偏在対策の内容に不安を感じる若手医師も少なくないと聞く。正しい情報を発信しなければ、大学病院から若手医師が去り、地域医療提供体制が崩壊しかねない(楠岡部会長代理)▼従前「規制的手法」と言われてきた「支え合い」の仕組みには即効性はないが、経済的インセンティブは比較的早期に効果が出ると思う。今後、外科医が不足している状況の改善に向けた「診療科偏在対策」も検討していくべき(望月泉委員:全国自治体病院協議会会長)▼地域によっては、乱暴な「基準病床数を超える病床整備」が行われるなどしている。不適切に「基準病床数・必要病床を超える病床整備」が行われないような方策を検討すべき(加納委員)▼シニア医師を対象としたリカレント教育(総合診療能力等を身につける教育等)や全国的なマッチング(地域医療への従事を希望するシニア医師等と地域医療機関とのマッチング)は、比較的早期に効果が出るのではないか。状況を注視する必要がある(泉並木委員:日本病院会副会長)▼「この地域では●●科の医師が●名不足している」などの情報を明らかにしたうえで、マッチングを進めるべき(木戸道子委員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)▼大学医学部・大学病院は、ともすれば医師偏在を含めた医療提供体制改革に関心が薄かった。今後は都道府県とも連携し、しっかりと関わっていくべき。また不確定要素も多く柔軟な対応を可能とすべきである(松田晋哉委員:産業医科大学教授)—などの意見も出ています。
さらに、医師偏在対策以外にも、▼(1)の新地域医療構想について、少子高齢化が加速する点も勘案して「可能なものから前倒し実施」すべき(楠岡部会長代理)▼(3)の医療DXに関連して「中小病院向けの標準型電子カルテ」開発も進めてほしい(望月委員)▼(3)の医療DXのうち「医療費助成へのオンライン資格確認等システム活用」に関して、自治体によっては参画・導入が遅れるケースも出てくる。現場の状況を踏まえて丁寧に進めてほしい(村椿委員、山崎親男委員)—などの要望も出ています。
こうした声を踏まえて、遠藤部会長は「厚労省と相談し、適宜修文していく」ことを約束しています。
今後、医療法等の改正案を厚労省で作成し、年明け(2025年)の通常国会提出を目指します(改正法成立後に、たとえば新地域医療構想については、都道府県の拠り所となる「ガイドライン」作成論議などが行われていく)。
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