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医療法に「オンライン診療」を実施・受診する場などの規定を明示、適切なオンライン診療を推進する環境整える—社保審・医療部会(1)

2024.11.1.(金)

医療法では、そもそも「患者と医療者が同じ場所(医療機関、患者の居宅等)にいる」形態を想定しており、オンライン診療のような「患者と医療者が別々の場所にいる」形態を想定していない—。

オンライン診療が進み、「様々な場所にいる患者」を対象に実施されるケースが増えていく可能性も想定される中で、「患者と医療者が別々の場所にいるオンライン診療」形態を、医療法で明確に規定し、それぞれ(患者サイド、医療者サイド)に必要な基準などを設けて「適切なオンライン診療実施」を推進していくことが重要である—。

10月30日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こういった議論が始まりました。さらに議論を深め、来年(2025年)の通常国会に提出予定の「医療法改正案」(医師偏在対策、新地域医療行動、医療DX推進など)の中に、「オンライン診療の法制化」規定も盛り込むことが目指されます。

なお、当日の医療部会では、「医療DXの推進」「美容医療の適正提供」「非密封型放射性医療機器」なども議題に上がっており、別稿で報じます(産科医療補償制度の特別救済事業に関する記事はこちら)。

10月30日に開催された「第111回 社会保障審議会 医療部会」

オンライン診療を行う医療機関、都道府県知事への届け出、基準遵守などの義務負う

2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症を契機に「オンライン診療」が拡大しています。ただし、通常の「医師と患者が相対して実施される診療」(対面診療)に比べて、「医師が得られる患者の情報が少ない」(触診などが行えない、患者状態を画面越しに行わなければならない)、「医師・患者の本人確認が難しい」(なりすましが可能となる)といった課題があり、安全性・有効性を担保するために、保険診療・自由診療を問わず、オンライン診療を行う場合には「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(オンライン診療指針)を遵守することが求められます。

オンライン診療指針の概要(社補審・医療部会(1)1 241030)



ところでオンライン診療は、「居宅等の生活の場にいる患者」が「医療機関にいる医師」から受ける形態を想定していますが、規制改革推進会議等から「こうした場所でのオンライン診療も認めるべき」「こうした形態でのオンライン診療も認めるべき」などの要望が出ており(関連記事はこちら)。こうした要望について、厚労省は1つ1つ安全性や必要性などを勘案して実施の適否を判断してきています。

さらに、その実態を明らかにするために、例えば▼特例的に認められている「医師が常駐しないオンライン診療のための診療所」の実態(開設状況やオンライン診療の内容など)▼「療養生活の場において行われているオンライン診療」の実態(どういった事業所等で、どういった内容のオンライン診療が行われているのかなど)―を自治体を通じて厚労省が調査を行っています(関連記事はこちらこちら)。

オンライン診療の実態を調査中(社補審・医療部会(1)2 241030)



医療法では、そもそも「患者と医療者が同じ場所(医療機関、患者の居宅等)にいる」形態を想定しており、オンライン診療のような「患者と医療者が別々の場所にいる」形態を想定していません。これを解釈(通知)によって「患者と医療者が別々の場所にいる形態のオンライン診療を可能にしている」と言えます。

しかし厚労省は「解釈(通知)によってオンライン適切な実施を図るには課題がある。オンライン診療の『法制上の位置づけ』を明確化し、『適切なオンライン診療』をさらに推進していく必要がある」と判断。今般、医療法の中に「医療法にオンライン診療の総体的な規定を設ける」検討を開始しました。

10月30日の医療部会には、厚生労働省医政局総務課の坪口創太・医療政策企画官(大臣官房情報化担当参事官室併任)から次のような規定を医療法に位置付けてはどうか、との提案が行われています。

(1)「オンライン診療を行う医療機関」を医療法上明確化する
(2)「特定オンライン診療受診施設」を医療法上明確化する

オンライン診療を医療法に法制化する(社補審・医療部会(1)3 241030)



まず、(1)については、オンライン診療について「情報通信機器を活用して、医師・歯科医師が、遠隔の地にある患者の状態を視覚・聴覚により即時に認識した上で、当該患者に対し行う診断・診療」と定義し、このオンライン診療を行う医療機関に「都道府県への届け出」を義務付けます。

この「オンライン診療を行う医療機関」の管理者(院長等)は、新たに定められる「厚生労働大臣に定める基準」(オンライン診療を行う医療機関の管理者(院長等)が講ずべき措置に関し、適切かつ有効な実施を図るための基準)を遵守することが求められます。

「厚生労働大臣の定める基準」のベースは、上述した「オンライン診療指針」となります。もっとも指針には非常に細かい規定もあるため、指針の中から「オンライン診療の実施場所」「患者への説明事項」「病状急変時の体制確保」などをピックアップし、言わば「通知から法令(厚生労働省告示等)へ格上げ」するイメージです。

また、「オンライン診療を行う医療機関」の管理者は、「患者の容態急変」に備えて「患者の所在地近隣の医療機関と受け入れの合意」等を取得し、その過程で、地域医療に与える影響やその可能性について、地域の関係者と連携して把握することも求められます(この点は「オンライン診療指針」にも規定されている)。

これらにより、基準を遵守せずにオンライン診療を行う医療機関に対し、都道府県が指導等を行いやすくなり、「適正なオンライン診療」の確保・推進が図られると期待されます。

デイサービス利用者へのオンライン診療、診療所開設せず「適切に実施する」こと可能に

また、(2)の「特定オンライン診療受診施設」とは、「施設にいる患者に対してオンライン診療が行われ、当該施設の設置者が、医師・歯科医師に対し『業としてオンライン診療を行う場』として提供しているもの」と定義されます。

具体的に、どういった形態・施設がここに該当するのかは今後明らかにされていきますが、例えば、現在は「デイサービスで、特定多数人の通所利用者等に対し、サービスの機会を活用してオンライン診療を受診する機会を提供する」場合には、医療法上は「特定多数人に対して医業等を提供する場合には、診療所の開設が必要」とされています。これが、上記の法制化が行われた場合には、「デイサービスセンターが診療所の開設をすることなく、(2)の特定オンライン診療受診施設の届け出を行うことで、特定多数人の利用者にオンライン診療受診の機会を提供する」ことが可能となり、より広範な場でオンライン診療を受ける環境が整います。

また、「自宅や職場でオンライン診療を受ける」ようなケースは、この(2)には該当しません(現行どおり基準等を満たせばオンライン診療が可能)。

もっとも、単純にオンライン診療の場を広げたのでは、適正性・安全性を確保できません。そこで、この「特定オンライン診療受診施設」には次のような義務が課されます。

▽所在地の都道府県知事に対し、「特定オンライン診療受診施設」の設置を届け出る
▽特定オンライン診療受診施設の設置者は、「運営者」を置く

▽特定オンライン診療受診施設でのオンライン診療の実施の責任は、「オンライン診療を行う病院/診療所の医師」が負う(上述(1)、当該医療機関を所管する都道府県がオンライン診療の内容等について指導監督を行う)

▽オンライン診療を行う医療機関の医師が、上述の「オンライン診療基準」を満たす義務を負う

▽「オンライン診療を行う医療機関」の管理者(院長等)は、「特定オンライン診療受診施設」の運営者に対し、「オンライン診療基準への適合性の確認」を行う
▽「特定オンライン診療受診施設」の運営者は、この確認に対し応答する義務を負う



言わば(1)の「オンライン診療を行う医療機関」が、「特定オンライン診療受診施設」について「適切にオンライン診療を行える環境(プライバシー確保など)を確保できているか」を監督・確認したうえで、適切にオンライン診療を行うイメージです。



上述のように、「●●の場所でもオンライン診療を求めるべき」との声がありますが、それに個別個別に対応していたのでは、整合性の確保が難しくなり、安全性確保に問題が出る可能性もあります。

そこで、▼「オンライン診療を行える場」の基準等を法律に規定し、「オンライン診療を行える場」の確保・拡大を図る【いわば規制の大幅「緩和」対応】▼併せて、(1)の医療機関サイド・(2)の施設サイドの双方に対し「適切なオンライン診療の実施」を求め、安全性・有効性を担保する【適正性の担保対応】—ものと考えられるでしょう。「裾野の拡大」と「頂(オンライン診療の質)の上昇」との両立を狙うものと言うこともできそうです。



「適切にオンライン診療を拡大する、適切なオンライン診療実施をしやすくする」画期的な内容と言え、こうした方針に異論・反論は出ていません。

もっとも医療部会では、▼自由診療のオンライン診療で「全国の患者を対象にしている」ケースがあるが、患者状態の急変時に受け入れ可能な近隣医療機関との連携体制が構築されているのか疑問である。保険診療のみならず、自由診療も、この仕組みの対象とすべきであろう(神野正博委員:全日本病院協会副会長)(坪口医療政策企画官は「自由診療も含めたルールを構築する」旨を明確化)▼オンライン診療は、移動困難な患者の医療アクセスを改善したり、移動・診療時間短縮による医師・患者双方の負担軽減につながるなど、大きなメリットがあり推進すべきである。ただし「過剰なオンライン診療の誘発」がなされないように配慮する必要がある(井上隆委員:日本経済団体連合会専務理事)▼自由診療でのオンライン診療には不適切なケースもある。患者安全を第一に考え、「適切なオンライン診療の実施」につなげてほしい(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)▼(1)の「オンライン診療を行う医療機関」には、地域の関係者と連携して、地域医療への影響などを把握することが求められているが、そこでは「地域医師会」との連携を重視してほしい(角田徹委員:日本医師会副会長)▼外国と日本との間でオンライン診療を行う場合の対応も考えるべき。また遠隔画像診断などのD to Dの適正性確保策も検討していくべき(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼介護保険の地域密着型サービスである「看護小規模多機能型居宅介護」で通所者・泊り利用者にオンライン診療を行う場合に、どのような取り扱いになるのかを明確化しておいてほしい(勝又浜子委員:日本看護協会副会長)(なおこの点について坪口医療政策企画官は「現行の医師と患者の1対1対応のオンライン診療の取り扱いを変えるものではない」点を明確化)▼都道府県がオンライン診療について指導・監督を行うことになるが、指導・監督の基準やマニュアル、チェックリストなどを国が設け、都道府県を支援してほしい。また法改正による混乱を避けるために十分な周知広報を行ってほしい(玉川啓参考人:福島県保健福祉部次長(保健衛生担当)、内堀雅雄委員(国知事会・福島県知事)の代理出席)—などの意見・注文が出ています。



今後も医療部会で「オンライン診療の法制化」について議論を深め、来年(2025年)の通常国会に提出予定の「医療法改正案」(医師偏在対策、新地域医療行動、医療DX推進など)の中に、「オンライン診療の法制化」規定も盛り込むことが目指されます。



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