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乳がん治療薬「トルカプ錠」、高血糖・DKAに注意し、乳がん治療医と糖尿病専門医との連携治療を―糖尿病学会・乳癌学会

2025.4.22.(火)

乳がん治療薬の「カピバセルチブ」(販売名:トルカプ錠)では、特異的な副作用として「高血糖」が知られており、DKA(糖尿病ケトアシドーシス)を発症し、死亡した事例も報告されている。

インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)投与の際には、▼投与初日からのより綿密な血糖値等のモニタリング▼食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察▼「原疾患(乳がん)治療にあたる医師」と「糖尿病を専門とする医師」(不在の場合は担当内科医)の適切な連携—が重要である—。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は4月18日に、関係学会(日本糖尿病学会・⽇本乳癌学会)からの適正使用等に関する情報提供として「AKT阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起」を公表しました。医療機関・薬局において、改めて最大限の留意が必要です(PMDAのサイトはこちら(糖尿病学会コメント)こちら(乳癌学会コメント))。

乳がん治療薬の「カピバセルチブ」(販売名:トルカプ錠)、高血糖・DKA発生に留意を

「カピバセルチブ」(販売名:トルカプ錠160mg、同錠200mg)は、「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発の乳がん」に対する効能効果が認められている医薬品です。昨年(2024年)3月26日に薬事承認を受け、同年5月22日に保険適用(薬事承認)された、「世界初の経口AKT阻害薬」です。

本剤は、「AKT1、AKT2、AKT3すべてのアイソフォーム(機能は同等だが、アミノ酸配列が異なるタンパク質)を阻害する」ことにより抗腫瘍効果を発揮しますが、特徴的な副作用として「高血糖」が認められています。

一部の症例では「糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の発症および重症化」が見られ、本邦での市販直後調査においても「DKAを発症し、死亡に至った」症例が報告されています。またDKA症例の中には「大量の経静脈的インスリン投与によっても血糖マネジメントが困難」な症例も報告されています。

このため糖尿病学会では「糖尿病医には、高血糖・DKA患者の紹介を受けることが予想される。診療にあたって必要であると思われる情報を迅速に共有することが重要」と考え、ステートメントを発出しています。

【本剤の有効性】
乳癌診療ガイドライン2022年版(2024年3月WEB改訂版)では、閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次内分泌療法として「アロマターゼ阻害薬+サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)」を強く推奨していますが、その後の2次療法は確立されておらず、1次ホルモン療法の耐性機序として「PI3K-AKT-PTEN経路の活性化」が想定されていました。

この点、「アロマターゼ阻害薬を含む内分泌療法後に増悪した、エストロゲン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん患者を対象とした、日本人を含む第III相試験」(CAPItello-291試験)において、「カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)」+「選択的エストロゲン受容体抑制薬のフルベストラント(販売名:フェソロデックス筋注250mg)」の併用療法が、「フルベストラント単剤療法」に比べて、病勢進行または死亡のリスクを50%低下させることが示されました。この成績をもとに、カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)は「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を適応症として薬事承認・保険適用されています。

【本剤の副作用】
一方、インスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターであるAKTを阻害するカピバセルチブカピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)により、インスリン抵抗性が誘導され「高血糖」発現のリスクが想定されます。実際に上述のCAPItello-291試験では、有害事象として16.9%に高血糖が認められ、本邦の市販直後調査(昨年(2024年)5月22日-同年11月21日)でも「高血糖関連事象」が33例報告され、うち1例がDKAにより死亡しています(推定使用患者数約350例)。

【本剤使用に当たっての留意点】
こうした臨床成績を踏まえ、本剤の適正使用ガイドでは、「投与開始後1か月間は2週間ごと、その後も1か月ごとに空腹時血糖値を測定し、3か月ごとにHbA1cを測定する」ことが推奨されています。

ただし、特に注意すべき点として▼「投与開始1日目」から「高血糖」発現の可能性がある(高血糖発現の中央値:15日、範囲:1-367日)▼一部症例でDKAを発症する▼国内市販後では「もともと非糖尿病者であったにも関わらず、カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)の投与開始後にDKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で、死亡に至った」症例が報告されている—点があげられます。

上述のCAPItello-291試験では、「1型糖尿病またはインスリン投与を必要とする2型糖尿病患者、およびHbA1c8.0%以上の患者は除外されていた」ことから、インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)投与の際には、▼投与初日からのより綿密な血糖値等のモニタリング▼食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察▼「原疾患(乳がん)治療にあたる医師」と「糖尿病を専門とする医師」(不在の場合は担当内科医)の適切な連携—が重要と考えられます。

さらに、「急激な血糖値上昇のリスク」や「大量のインスリン投与を要する可能性」も想定して診療にあたってほしいと糖尿病学会は要請しています。

なお、カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)は本年(2025年)3月時点では、上述のとおり「乳がん」が適応症ですが、作用機序を踏まえて「転移性去勢抵抗性前立腺がんなど、他の悪性腫瘍」を対象とした臨床試験も進行しており、▼適応症の拡大▼使用例の増加—の可能性があります。このため、糖尿病学会は他学会等と連携し「カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)投与に関連した高血糖・DKA症例の情報収集、基礎的・臨床的研究」などを推進していく予定です。あわせて「詳細については薬剤の添付文書や文献等を参照してほしい」とも要望しています。



また、乳癌学会では、カピバセルチブ(販売名:トルカプ錠)に係る上述の臨床試験(CAPItello-291試験)の適応基準(主に「2次治療から3次治療での使⽤」)に沿った治療を⾏うよう要望(基準から外れた使用(10次治療・8次治療)による死亡事例が発生している)。

ただし、上記の適応基準を守った場合でも⾼⾎糖やDKAが発⽣する可能性があるため、次のような点に留意するよう乳がん治療にあたる医師に要請しました。

▽注意深い経過観察が必要であるが、その場合の検査スケジュールは推奨されているもの(上述)でよいと思われる

▽やむを得ず「CAPItello-291試験の適応基準外」の投与(2次・3次治療以外)となった場合には、「検査や診察を含めた厳重な経過観察」が必要となる

▽⾼⾎糖に関してGrade2以上の有害事象が発⽣した場合は、「関係各科と緊密に連絡をとりながらの厳重な経過観察」が必要となる



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