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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

無理筋な「オンライン診療の拡大」要請に社保審・医療部会委員が冷静に反論、医療提供の根幹は「安全」である

2023.12.6.(水)

規制改革推進会議サイドが、いくつかの事例をあげて「オンライン診療の拡大」を要請しているが、そうした事例は現実には想定できない。オンライン診療を安易に拡大し、不適切な事例が生じれば、不安・不振につながり、かえってオンライン診療を阻害してしまうのではないか—。

11月29日の社会保障審議会・医療部会で、こういった議論が行われました。こうした意見も踏まえて厚生労働省と規制改革推進会議で検討を進め年内に結論が出される予定です。

デイサービス利用者へのオンライン診療、都市部での医師不在クリニックなどは必要か

厚労省は、医療部会での議論(関連記事はこちらこちら)も踏まえて、5月18日に通知「へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」を発出しています。

医療資源が乏しい山間地や離島などでは「オンライン診療」の活用が、医療提供体制確保のために重要となります。しかし、山間地や離島では、高齢の住民・患者が多く、ICT機器を操作してオンライン診療を受けることが困難です。

そこで、例えば公民館などに「医師が常駐しない、オンライン診療を受けるためのクリニックを開設する」ことを特例的に認め、公民館職員などの手助けを得てオンライン診療を受けやすくする環境を整えることとしました。

安全かつ適切にオンライン診療が行えるよう、毎年「オンライン診療指針の遵守状況」や「遠隔地の管理者(院長)と常時連絡が取れる体制の確保」、「急変時に対応する医療機関との連携についての『事前』の明確化」などについて確認を行うことが求められます。



ところで、規制改革推進会議サイドはさらに(1)、個別の患者が居宅以外にオンライン診療を受けることができる場所について明らかにする(2)へき地等に限らず、都市部を含め、医師が常駐しないオンライン診療のための診療所を開設可能とする—ことを求めています(本年(2023年)中に措置を指示、内閣府のサイトはこちら(規制改革推進に関する答申))。

まず(1)について、オンライン診療を受診可能な場所(患者の居場所)は、患者のプライバシ―が確保され、確実な本人確認が行える場所として、▼医療提供施設▼居宅等—のいずれかとされています。居宅等としては「居宅と同様に長時間にわたり滞在する場所で、療養生活を営むことができる場所」とされ、厚労省はより具体的に次のような考えを示しています(「等」の中には「患者の職場」(例えば人のいない会議室を利用するなど)も含まれる)。

▽「職場」は、個別ケースで異なるが、居宅と同様に長時間にわたり滞在する場所であることを踏まえ、例外的に療養生活を営むことができる場所と認められる場合がある

▽学校やデイサービス(通所介護)事業所なども、個別ケースで異なるが、居宅と同様に長時間にわたり滞在する場所であることを踏まえ、例外的に療養生活を営むことができる場所と認められる場合がある

▽ただし、医療法上「特定多数人に対して医業等を提供する」場合は「診療所の開設」が必要であり、そうでない限り、特定多数人の利用者等に対してデイサービス等に通所する機会を活用してオンライン診療を受診する機会を提供することはできない。



この点、規制改革会議サイドは、まさに「例えばデイサービス(通所介護)事業所の利用者など『特定多数人』に対し、クリニックを開設することなしに、医師がオンライン診療を行える」ようにすることを目指しているようで、上記の厚労省見解に「再考する」ことを求めています。より具体的には、健康・医療・介護ワーキング・グループの佐藤主光座長(一橋大学経済学研究科教授)や大石佳能子専門委員(株式会社メディヴァ代表取締役社長)、佐々木淳専門委員(医療法人社団悠翔会理事長)から医療部会に宛てて、「突発的な体調不良や慢性疾患の通院代替としてのオンライン受診が想定される。デイサービス利用者へのオンライン診療について、診療所開設を求めず、(上述の)『居宅等』の中で実施可能とせよ」との旨を書面で要請しています。

この要請内容について医療部会委員からは、極めて冷静に「突発的な体調不良がデイサービス利用者に生じた場合、通常であれば連携医療機関に連れていったり、救急搬送を要請したりする。慢性疾患を抱える利用者であれば、かかりつけの医療機関があろうから、そこの受診を促すべきで、なぜ別医療機関でオンライン診療を受ける必要があるのか理解に苦しむ。通院が困難であれば『送迎の実施を可能とせよ』と要請すべきである。規制改革推進会議サイドの想定する事態は理解しがたい」(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)、「突発的な体調不良であれば、原因究明・確定診断のために検査が必要となり、誤診や隠れた病変の見逃しを避けるために、オンライン診療ではなく対面診療を受診すべき」(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「デイサービス利用者へのオンライン診療を検討するより前に、デイサービスから医療機関への送迎を検討すべきであろう」(神野正博委員:全日本病院協会副会長)との考えを提示。



また(2)は、上述した「医師が常駐しないオンライン診療のためのクリニック」を、へき地以外でも開設を認めよとの要請です。規制改革会議サイドは「都市部でも高齢者や、仕事・子育て・介護をする者などは通院の継続が難しい」「通院に当たり高額なタクシー代がかかるケースもあり、通院の負担を軽減すべき」と要請の背景を説明しています。

厚労省は、この要請に一定の理解を示し「専門的な医療ニーズに対応する役割を担う診療所において、オンライン診療によらなければ住民の医療の確保が困難であると都道府県において認められるもの」にも、「医師が常駐しないオンライン診療のためのクリニック」を拡大する考えを示しています。専門的な医療ニーズとしては、例えば「指定難病」や「希少疾病」などが想定されます(大学病院でもそうした疾患の専門医がいないことが多い)。

医療部会委員は、やはり極めて冷静に「(上述)のへき地の特例(医師が常駐しないオンライン診療のためのクリニック)は、現在までゼロ件であり、都市部でそういったニーズがあるのだろうか。美容医療による不適切な初診オンライン診療がまん延しているように、都市部で無防備に認めれば不適切な医療を助長する可能性が高まる」(山口委員)、「都道府県などの拡大解釈が続けば、通常診療に支障が出ることもありうる。医師が常駐しないオンライン診療のためのクリニック開設は、明確な設置基準を定めるべき」(泉並木委員:日本病院会副会長)、「都道府県の判断に格差が出ることも考えられる。へき地以外でも開設は極めて慎重に検討すべき」(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「公民館などに設置されるオンライン診療のためのクリニックにかかれるのであれば、普通にクリニックを受診した方が、より良い診療を受けられる」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)とコメントしています。



さらに、医療部会委員からはオンライン診療について「オンライン診療は、対面診療との連続性の中で考えるべきである。例えば遠方の患者へのオンライン診療実施などは非常に危険である」(松田晋哉委員:産業医科大学教授)、「中央社会保険医療協議会では、オンライン診療指針で禁止される『初診での向精神薬処方』などが一定程度行われていることが明らかになっている。安易にオンライン診療を拡大し、不適切な事例が生じれば、不振・不安を招き、かえってオンライン診療の普及を妨げる点に留意すべき」(角田徹委員:日本医師会副会長)、「医療提供の根幹は『患者の安全』であり、そこを担保できない形でのオンライン診療推進は好ましくない。オンライン診療は、医師・患者間で信頼関係が構築された慢性疾患に馴染むもので、救急患者や初診患者にはそもそも馴染まない」(小熊豊委員:全国自治体病院協議会会長)、「オンライン診療の後に急変した場合の対応(対面診療等)が十分に整えられていなければいけない。利便性のみを追求したオンライン診療推進は好ましくない」(山崎學委員:日本精神科病院協会会長)といった考えも披露されています。

なお、想定できないケースをあげてまでなされる「オンライン診療の拡大要請」(無理のある要請にも見える)に対し、山口委員は「オンライン診療を開拓していきたいと考える医師や企業のために認めるべきと主張されているように感じる」と冷静コメント。さらに「デイサービスには数十人の利用者が常にいる→そこにオンライン診療を一度に行えば、多額の診療報酬を、極めて効率的に請求できる。そこまでモラルのない考えをしているとは思いたくないが、そうした考えも見え隠れする提案・要請だ」と冷ややかに見る識者もおられます。



上述のとおり(1)(2)いずれの論点とも「本年内(2023年内)に結論を出す」こととなっており、厚労省は上記医療部会委員の意見も踏まえて、さらに規制改革推進会議サイドと調整を進めていく考えです。



なお、診療報酬改定基本方針に関して、これまでの議論を踏まえた骨子案が示されています。さらに意見調整を行ったうえで12月上旬に決定されます(社会保障審議会・医療保険部会でも並行して検討中、骨子案はこちらこちら)。



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