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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

オンライン診療を適正に幅広く推進するための環境を整備!手引き作成、エビデンス構築、国民への情報提供等進める!—社保審・医療部会

2023.5.15.(月)

遠隔医療を「医師・患者間のオンライン診療など」と「医療従事者間の遠隔医療(遠隔画像診断、遠隔病理診断など)」に整理し、それぞれの課題を解消しながら「適切な手法で幅広く普及」を図る—。

オンライン診療などについては、▼医療機関が導入時に参考とできるような事例集、手引き書、チェックリストなどを作成する▼オンライン診療などの課題を整理し、エビデンスの収集・構築を進める▼地域の「オンライン診療を実施している医療機関」を住民が把握しやすいように工夫する—ことを目指す—。

5月12日に開催された社会保障審議会・医療部会でこういった「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」が概ね固められました。今後、文言の最終調整などを行い、近く事務連絡として公表される見込みです。

5月12日に開催された「第98回 社会保障審議会 医療部会」

オンライン診療の「指針」で適正性を担保しながら、「基本方針」に沿って幅広く推進

情報通信機器を用いた「遠隔医療」には、さまざまなものがあります。例えば、医師が情報通信機器を用いて患者の診療を行う「オンライン診療」があります(いわゆる「D to P」(Doctor to Patient))。

また、訪問看護の場とオンライン診療をつなぎ「医師が映像を確認しながら看護師に指示を出し、より適切なオンライン診療を行う形態」(いわゆる「D to P with N」(Doctor to Patient with Nurse))、通常脳診療の場と遠隔地の専門医などをオンラインでつなぎ「専門医の知見を交えながら、主治医が対面診療を行うことで、より専門性の高いオンライン診療を行う形態」(いわゆる「D to P with D」(Doctor to Patient with Doctor))など、さまざまな派生形態があります。

さらに情報通信技術の進展に伴った「遠隔手術」(遠隔地の熟練医がロボットを操作して手術を行うなど)や「遠隔ICU」(遠隔地の集中治療専門医がICU診療をサポートする)なども登場しています。

医師が不足する地域で、「かかりつけであるが当該傷病の専門外である医師が対面診療を行い」ながら、オンラインで「都市部の専門知識を持つ医師」の診断・指導を受けられる環境などが整えば、「医師の地域・診療科偏在」が大きく改善することも期待されます。単純な「D to P」ではなく、「D to P with D」や「D to P with N」などにより安全かつ的確なオンライン診療の推進には大きな期待が集まります。

一方、従前から行われている医療従事者間の「遠隔画像診断」や「遠隔病理診断」もあります。患者のCT・MRI画像や病理標本について、情報回線を通じて遠方の専門医に送付に「診断を仰ぐ」ものです。これらは「D to D」(Doctor to Doctor)などと整理されます。

D to Dの例(医療部会 220328)



昨年(2022年)3月から医療部会において、こうした遠隔医療について「どのように安全性を担保し、質を確保したうえで推進していくべきか」という議論が行われています(関連記事はこちら)。2021年6月の規制改革実施計画において「オンライン診療の更なる活用に向けた基本方針を策定する」方針が定められたことなどを踏まえたもので、「適正に」かつ「幅広く」オンライン診療などを推進していく「基本方針」を策定することになりました。

まず気になるのが、新たな「基本方針」は、すでにある「指針」(オンライン診療の適切な実施に関する指針)とどう異なるのか?という点です。

オンライン診療は、当初「医師法第20条で禁止される『無診察治療』に当たるのではないか」との指摘がありました。そこで、「無診察治療に該当しない形でオンライン診療を実施するためのルール」として指針が作成されました。このため指針は、適正実施を担保するための「規制」(●●の要件を満たさなければならないとの規制)を目的としています。

一方、新たに作成される「基本方針」は、安全性・質の確保をしながら「オンライン診療の各分野について●●という課題もあるので、この点に留意しながら進めていこう」という「適正な推進」を目的とするものです。

【オンライン診療指針】
〇対象:オンライン診療
〇目的:規制、レギュレーション

(新)【遠隔医療の基本方針】
〇対象:遠隔医療全体
〇目的:推進(振興策、推進策を含める)

新たな「基本方針」と、既にある「指針」とをセットで運用することで「適正な形でのオンライン診療、遠隔医療を進める」ことを目指すものです。

なお、「適正な推進」には、「安全性、必要性、有効性、プライバシーの保護等の個別の医療の質を確保する」ことに加え、「対面診療と一体的に地域の医療提供体制を確保する」観点も含まれることが基本方針の中で明示されています。

オンライン診療の「適正な推進」のための環境を整えていく

基本方針は、遠隔医療を(1)患者に対するオンライン診療等(2)医療従事者間の遠隔医療―に分け、「現状の課題」と「推進にあたっての方向」を整理しています。

まず(1)のオンライン診療等については、▼D to P▼D to P with D▼D to P with N▼D to P with その他医療従事者▼D to P with オンライン診療支援者(医療従事者以外)―など様々な形態があります。純粋な「D to P」以外は、「対面診療など+オンライン診療」という形であり、安全性・適正性などが相当程度担保されると期待されます。D to P with Nでは、訪問看護に訪れた看護師が医師の指示をもとに正確に情報(血圧、脈拍、顔色、雰囲気・様子)などを把握。その情報をオンラインを通じて医師に正確に伝達することで、適正な判断を仰ぐことができ、オンライン診療(D to P)の大きな弱点である「得られる情報が少ない」部分をカバーすることが可能となります。

こうしたオンライン診療等には、「患者の通院負担を軽減して、継続治療を実現できる」「訪問診療・往診等に伴う医療従事者の負担を軽減できる」「医療資源を柔軟に活用できる」 「患者がリラックスした環境で診療を実施できる」「感染症の感染リスクを軽減できる」などのメリットがあります。このほかにも、上述したように「遠隔地の専門性の高い医療等を身近に受けられる」などの利点もあり、適正な形での推進に大きな期待が集まります(関連記事はこちらこちら)。

もっとも、現時点では▼オンライン診療等に関する医療機関職員のリテラシーを向上しなければならない(医学生や看護学生等の教育課程に「オンライン診療」科目が現時点ではない)▼オンライン診療等に用いるシステムの導入・運用を進めなければならない(より安全性が高く、使いやすいオンライン診療支援システムの開発・導入が求められる)▼オンライン診療等に関する患者の理解促進を図らなければならない(オンライン診療には「得られる情報」が限られるなどの課題があり、適切に対面診療と組み合わせることが重要である)―といった課題もあります。

そこで、基本方針では▼医療機関が導入時に参考とできるような事例集、手引き書、チェックリストなどを作成する▼オンライン診療などの課題を整理し、エビデンスの収集・構築を進める▼地域の「オンライン診療を実施している医療機関」を住民が把握しやすいように工夫する—ことを目指す考えを明示しています。

遠隔医療推進の基本方針案1(社保審・医療部会(1) 230512)

遠隔画像診断・病理診断などの遠隔医療も適正に推進を図る

一方、(2)は医療従事者間の遠隔医療であり、例えば▼D to D(遠隔画像診断、遠隔病理診断など)▼D to N、D to その他医療従事者(遠隔地の医師が、看護師などにオンラインで指示を出すなど)▼N to N、N to その他医療従事者、その他医療従事者 to その他医療従事者(支援・指導)(看護師などの医療従事者間で、オンラインによる業務支援・指導を行うなど)―といった様々な形態があります。

過疎地や離島など「医療資源の少ない地域」に、上記の形態を通じて「医療確保」を行うことができる、日本全国で「効率的・効果的な医療提供体制」を整備できる、「医療従事者の働き方改革等」へ寄与できるといったメリットが期待できます。

しかし、一方で「遠隔にいる医師(医療従事者等)の役割と責任の範囲を明確化しなければならない」「個人情報保護法制に沿った遠隔医療における『患者の医療情報』の共有について問題点などを整理しなければならない」「遠隔医療システムの安全管理、緊急時や不測の事態への対応策を検討しなければならない」といった課題もあります。

そこで、基本方針では、上記オンライン診療等と同様に「エビデンス構築」「手引きの作成」などを行うほか、「遠隔医療に関する地域における先行事例を把握し、導入を検討する医療機関に『導入済み医療機関』を紹介するなど、医療機関間の連携関係構築を支援する」方向を打ち出しています。

このほか、遠隔医療の適正な推進に向けて「医療従事者教育/患者教育の充実」「遠隔医療の質の評価/フィードバック」「エビデンスの蓄積」「新たな技術を踏まえた遠隔医療の推進」といった方向も打ち出しました。

遠隔医療推進の基本方針案2(社保審・医療部会(2) 230512)



こうした方向に異論は出ていませんが、医療部会委員からはさまざまな注文がついています。例えば、「不適切な広告へのしっかりした指導などとセットで進めるべき」(神野正博委員:全日本病院協会副会長、加納繁照委員:日本医療法人協会会長、楠岡英雄委員:国立病院機構理事長、松原由美委員:早稲田大学人間科学学術院教授)、「患者への丁寧で分かりやすい説明を十分に行ってほしい」(野村さちい委員:つながるひろがる子どもの救急代表)、「過疎地などでのオンライン診療等導入のインフラ整備について国による支援をしてほしい」(都竹淳也委員:全国市長会・岐阜県飛騨市長、ほか自治体代表委員)、「医療従事者間の遠隔医療について、特性を踏まえた再整理・細分化などが必要ではないか。画像診断など診療行為に踏み込むのか、コンサルテーションにとどまるのかなどで異なってくると思う」(相澤孝夫委員:日本病院会会長)、「オンライン診療の普及で、診療時間外・就業時間外に『少し診てほしい』などの要望が増え、かえって負担が増えるようなことは避けるべき」(木戸道子委員:日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)、「オンライン診療等には『リスク』も伴うことを患者・国民が十分に認識してほしい」(角田徹委員:日本医師会副会長)など幅広い意見が出ました。

不適切事例については、例えば「糖尿病治療薬を、ダイエット用などと称して処方する」などの問題事例も目立ちますえ。広告のネットパトロールなども行われていますが、あわせて「一般国民へ正しい情報を提供し、理解を促す」こともさらに強化していく必要があるでしょう。

また、木戸委員の指摘するように、オンライン診療で「オンとオフの境目が曖昧になる」ことも危惧されます。例えば、画像診断等について「今から、オンラインで画像を送るので、ちょっと見て意見を聞かせてほしい」などの要望が就業時間外になされることが考えられるでしょう。遠隔医療が推進される中で、こうした「ちょっと手伝ってほしい」が増加していけば、オフ時間にも相当程度の業務をしなければならず、「かえって実質的な業務負担が増えてしまう」恐れもあり、しっかりしたルールづくりなどが求められるでしょう。

遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)は、こうした意見を踏まえ「再度の議論は行わずに調整を行っていく」考えを提示。これを委員も受け入れたことから、「基本方針案は概ね了承された」と考えられます。近く、厚生労働省から「事務連絡」として基本方針が示され、具体的な施策(上述した事例集や手引きの作成、エビデンス構築など)につなげられていきます。



ところで、島崎謙治委員(国際医療福祉大学大学院教授)は「遠隔画像診断などD to Dでも、オンライン診療指針(規制)の対象に加えるべきではないか」と改めて指摘します。例えば患者のMRI画像などを撮影し、主治医(A医師)が専門医(B医師)に読影を依頼。その読影結果を踏まえて治療方針を立て、治療を行う場合、B医師の見解が治療内容のベースになり、「A医師の見解よりも、むしろB医師の見解が重要になる」と島崎委員は指摘。これを「A医師とB医師との責任分解の議論に委ねるだけではなく、オンライン診療指針で適正性を確保すべきではないか」と訴えました。

しかし、こうしたケースでも「B医師(読影医)は、A医師との関係で遠隔医療を実施しており、患者に対してオンライン診療を提供しているわけではない」ために、B医師の行為をオンライン診療指針(規制)の対象に加えることは困難と考えられます(もし対象に加えるとすれば、指針の趣旨などをゼロから考え直さなければならない)。

ただし、島崎委員の「読影医の責任」などの指摘は重要であり、基本方針の中でその点をより明確化していくことになりそうです。この点、「基本的には主治医が責任を負うと考えるべき」(角田委員)もありますが、「読影医に全て委ねるケース」から「専門性の高い医師の意見を参考として聴取するケース」まで様々であり、一律に責任分解を規定することは困難である点にも留意が必要でしょう。



なお、5月12日の医療部会では「医師の働き方改革の実施まで1年を切った。現在の状況・課題などについて確認し、議論を行う必要がある」(島崎委員)、「医師働き方改革に向け、大学医学部・病院が地域医療機関への医師派遣を縮小している。この結果、『1次救急対応を行っていた医療機関から医師が減り、1次救急を担えなくなる』→『2次救急医療機関の負担が大幅に増加するが、医師働き方改革の影響で2次救急でも対応が難しくなっている』などの、救急医療への悪影響が強く懸念されている」(松田晋哉委員:産業医科大学教授)などの意見が出ています。今後、何らかの形で「医師働き方改革に向けた準備状況の確認」論議などが行われることでしょう。



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