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オンライン診療や遠隔画像診断などの「遠隔医療」、安全と質を確保しながらの推進方針策定へ―社保審・医療部会

2022.3.29.(火)

オンライン診療(D to P)や遠隔画像診断、遠隔病理診断(D to D)などを含めた「遠隔医療」について、安全性と質を確保しながら推進していくための「基本方針」を策定する―。

3月28日に開催された社会保障審議会・医療部会でこういった議論が始まりました。来年度内(2023年3月まで)に意見取りまとめを行う予定です。

3月28日に開催された「第87回 社会保障審議会 医療部会」

遠隔医療、「安全の担保」「医療の質確保」が大前提

情報通信機器を用いた「遠隔医療」には、さまざまなものがあります。まずパッと思いつくのが、医師が情報通信機器を用いて患者の診療を行う「オンライン診療」でしょう。これは「いわゆるD to P」(Doctor to Patient)などと呼ばれます。

また、従前から行われている「遠隔画像診断」や「遠隔病理診断」があります。患者のCT・MRI画像や病理標本について、情報回線を通じて遠方の専門医に送付に「診断を仰ぐ」ものです。これらは「D to D」(Doctor to Doctor)などと整理されます。

D to Dの例(医療部会 220328)



さらに、訪問看護師が訪問先で「患者と医師とのオンライン診療」をサポートする「D to P with N(Nurse)」や、かかりつけの医師と患者が対面診療をしながら「遠方の専門医のオンライン診療」を受ける「D to P with D」といった「D to P」の発展形態。さらに情報通信技術の進展に伴った「遠隔手術」(遠隔地の熟練医がロボットを操作して手術を行うなど)や「遠隔ICU」(遠隔地の集中治療専門医がICU診療をサポートする)なども登場しています。

こうした遠隔医療について「どのように安全性を担保し、質を確保したうえで推進していくべきか」という議論がスタートしました。あわせて「好事例の収集・横展開」も行われます。

背景には、昨年(2021年)6月の規制改革実施計画において「オンライン診療の更なる活用に向けた基本方針を策定する」方針が定められたこと、後述する「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)において「オンライン診療の推進を考えていくべき」と一部委員からの強い意見が出されたことなどがあげられますが、厚生労働省は「オンライン診療」(D to P)にとどまらず、より広く「D to Dも含めた遠隔医療全体を安全・適切に推進するための基本方針」を策定する考えです。厚労省医政局総務課の熊木正人課長は「振興策も含めた基本方針を策定する」とコメントしています。

こうした「安全・適切に遠隔医療を進める」方向に異論は出ていませんが、多くの医療部会委員は「安全性の担保、質の確保が大前提になる」との考えを強調。例えば、▼ビジネス展開(例えばオンライン診療システムのベンダーによる市場開拓のためのオンライン診療推進など)を優先するべきではない(山崎學委員:日本精神科病院協会会長)▼保険診療におけるオンライン診療に関しては慎重に進められているが、自由診療においては「最新の痩身薬」などと称し、糖尿病治療薬をオンライン初診で処方するケースがあるように目を覆いたくなるような状況であり、そうした点を考慮していくべき(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長、今村聡委員:日本医師会副会長)▼対面診療とオンライン診療とでは、医師が得られる情報に大きな差があること(=誤診、見落としが増えること)を患者・国民もしっかり理解したうえで進めることが重要であり(釜萢敏委員:日本医師会常任理事)▼「根拠のない医療」が入り込むリスクがあり、質の担保、安全の確保が何よりも重要である(永井良三部会長:自治医科大学学長)―などの声が出ています。

医師の地域偏在・診療科偏在改善のため「D to D」の遠隔医療が積極推進を

ただし、上述のように「遠隔医療」にはさまざまな種類があり、一括りにして「推進する、振興する」としていくことは危険です。パターン分けして「この分野は積極的に進めていくべき」「この分野は安全性がとりわけ重要であり、慎重に進めるべき」などの切り分けが必要でしょう。

一部委員もこの点を十分に認識しておられ、今村委員や山崎委員らは▼「D to D」は、医師の地域偏在・診療科偏在を補完する仕組みとして必要不可欠であり、積極的に推進していかなければならない▼「D to P」については効果検証しながら段階的に進めていく必要がある―旨を指摘。また、楠岡英雄委員(国立病院機構理事長)は「技術進展とともに開発される新規の先駆的な技術が阻害されないようにする必要がある」とコメントし、例えば上述した「遠隔手術」や「遠隔ICT」などを例示しています。

我が国の医療提供体制には様々な課題がありますが、その1つに「医師の地域偏在・診療科偏在」があげられます。これに対し「地方での勤務」を促す仕組み(地域枠の設定や専門医制度におけるシーリング、地方勤務を厚生労働大臣が認定する制度など)が設けられていますが「目覚ましい効果」が上がっているとは言いにくい状況です(もちろん地域によっては一定の効果が出ている)。

この点、例えば「地方部で、かかりつけであるが当該傷病の専門外である医師の対面診療を受け」がら、オンラインで「都市部の専門知識を持つ医師」の診断・指導を受けられる環境が整えば、「医師の地域・診療科偏在」が大きく改善することでしょう。単純な「D to P」ではなく、かかりつけ医等がそばにいる「D to P with D」であれば安全性や適切性が確実に担保されます。さらに技術が進展し、上述した「遠隔手術」や「遠隔ICU」が一般的になる可能性もあります。こうした分野については「遠隔医療」を積極的に推進する必要があるでしょう。

オンライン診療指針は「規制」を目的に、遠隔医療基本方針は「推進」を目的に

ところで、オンライン診療については、上述した検討会において「指針」(オンライン診療の適切な実施に関する指針)が定められ、適宜改訂が行われてきています(直近では、今年(2022年)1月に「初診からのオンライン診療」に関するルールを盛り込んだ改訂が行われた、関連記事はこちら)。

この指針と、これから議論していく基本方針との役割分担が気になりますが、熊木医政局総務課長は「オンライン診療に関しては、そもそも『無診察治療に当たらないか』という論点があり、指針は『これに沿って実施されれば無診察治療には当たらず、医師法第20条に違反しない』というルールを定めたものと言える。一方、これから議論していただく基本方針は、オンライン診療にとどまらず『遠隔医療全体をどう進めていくべきか、進めていくに当たっての留意点は何か』という考え方を示すもの」と説明しています。大きく次のように整理できそうです。なお繰り返しになりますが、「遠隔医療をただ推進していけばよい」というものではなく、安全性・質の確保をしながら「この分野は積極的に進める」「この分野はこうした点に留意して進める」「この分野は慎重に進める」などの切り分けをしていくことが重要です。

【オンライン診療指針】
〇対象:オンライン診療
〇目的:規制、レギュレーション

【遠隔医療の基本方針】
〇対象:遠隔医療全体
〇目的:推進(振興策、推進策を含める)

今後、例えば▼地域の医療提供体制の確保において、遠隔医療が果たす役割▼国、都道府県、医療関係者などのそれぞれが取り組むべき内容▼患者・住民の理解を進めるための取り組み▼個人情報の取り扱いや情報セキュリティの在り方―などについて検討を行い、「2022年度末」(2023年3月まで)に意見を取りまとめることになります。

「患者・住民の理解」に関しては、釜萢委員の指摘する「オンライン診療の限界」が非常に重要であるほか、「目的と実際とのミスマッチ」も重要論点になるでしょう。オンライン診療には「状態の安定した慢性疾患患者の健康管理」が最もマッチすると思われ、その多くが「高齢患者」です。しかし、高齢者の多くは「ICT技術に疎い」ため、「最もマッチする患者が利用しにくい」というミスマッチが生じてしまうのです。患者代表として参画する野村さちい委員(つながるひろがる子どもの救急代表)はこの点を指摘しており、「高齢者が使いやすい仕組み」の検討なども重要な推進策の1つに位置づけられるかもしれません。



このほか、▼「遠隔医療」「遠隔診療」「遠隔診断」などさまざまな用語があるが、議論が混乱・錯綜しないよう整理をきちんと行う必要がある(神野正博委員:全日本病院協会副会長)▼遠隔看護(例えば上述した「D to P with N」など)も重要かつ効果的であり基本方針に盛り込んでほしい(井伊久美子委員:日本看護協会副会長・香川県立保健医療大学学長)▼医学部教育の中にもオンライン診療などを盛り込んでいくべき(今村委員)▼オンライン診療などの実施状況を定期的に検証していくべき(松原由美委員:早稲田大学人間科学学術院准教授)―などの意見が出ています。



また、医療部会では基本方針策定論議と並行して、「好事例の集積、横展開」を行っていきます。例えば「遠隔手術などのD to P with D」や「D to P with N」の実事例や、今般のコロナ感染症対応の実事例などの中に好事例が存在することでしょう。関連して今村委員は「好事例のみならず、問題事例についても明らかにすべき」と指摘しています。オンライン診療を行う中で「なりすまし医師」や「遠方の患者に薬剤処方のみを行うケース」などの問題事例も生じており、両者を合わせて「このような素晴らしい事例があり参考にすべき」「こうした問題事例があり留意すべき」と学んでいくことが重要です。



なお、山崎委員は「昨今、経済界主導で医療政策が決定し、厚労省審議会等はこれを追認するだけという場面が目立つ。こうした姿は良いことなのか。経済界代表者は、どこまで医療について考えているのか?ビジネス展開を優先されては困る」と苦言を呈しており、多くの委員がこの考えに賛同しています。



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