新型コロナ感染防止のため、「オンライン診療・医薬品処方が可能な範囲」を特例的・臨時的に拡大―オンライン診療指針見直し検討会
2020.3.12.(木)
新型コロナウイルスへの感染防止のため、慢性疾患患者を中心にオンラインによる診療や医薬品処方が可能な範囲を特例的・臨時的に広める―。
また、今後、新型コロナウイルス患者が大幅に増加し「軽症患者は自宅療養を行う」こととなった折には、自宅療養する軽症の新型コロナウイルス感染患者に対し、経過観察や指導をオンライン診療を活用して行うことを可能とする―。
3月11日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こうした「特例」が概ね了承されました。早期の適用を目指し、詳細を厚労省で詰めていきます。
目次
オンライン診療、対面診療と比べ得られる情報が限定されており「活用場面を厳格規定」
スマートフォンなどの情報通信機器を活用したオンライン診療については、2018年度の診療報酬改定で【オンライン診療料】【オンライン医学管理料】等が新設されたことも手伝い、今後、普及・拡大していくと予想されます。
ただし、オンライン診療については、直接の対面診療に比べて「医師が得られる患者情報」が限定されている(例えば触診ができず、匂いなども覚知できない)ことなどから、「対面診療を補完するもの」という大原則の下で、実施に当たっての厳格な要件が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、オンライン診療指針)として定められています(2018年3月に策定、2019年6月に改訂、関連記事はこちらとこちらとこちら)。
例えば、オンライン診療の実施は、▼「医師と患者の直接的な関係」が存在する場合に限る▼「オンライン診療で得られる情報は限られ、対面診療との組み合わせとなる」ことを患者に説明する▼「患者がオンライン診療を希望する」旨を明示的に確認する―ことなどが必要で、患者との合意のうえで「オンライン診療計画」を作成し、それに則って実施することが求められます。
ここから、急病急変患者については「原則として直接の対面による診療を行う」ことが求められ、ただ例外的に▼患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある▼患者のために速やかにオンライン診療による診療を行う必要性が認められる―場合にのみオンライン診療が可能となります。
また、容態の安定した慢性疾患患者に対するオンライン診療を行う場合であっても、症状の変化が生じた場合には、原則として「対面診療」を実施することが必要で、ただ▼在宅診療、離島やへき地など速やかな受診が困難な患者に対し▼発症が容易に予測される症状変化に対応した医薬品を処方する―ことを、その旨を対象疾患名とともにオンライン診療計画にあらかじめ記載している場合に限り認めています。
慢性疾患患者に対し「電話・情報通信機器活用した診療・医薬品処方」を広く認めては
ところで現在、新型コロナウイルスが本邦でも猛威を振るう中で、「オンライン診療を有効に活用することができないか」という指摘が各所でなされています。大きく次の2つの活用方法が考えられ、「オンライン診療の限界」と「オンライン診療の活用することの有用性」の2側面を踏まえて検討会で議論が行われました。
(1)新型コロナウイルス感染を防止するために、慢性疾患等の治療についてオンライン診療を活用できないか
(2)新型コロナウイルス感染症・疑い患者の診断や治療について、オンライン診療を活用できないか
まず(1)については、すでに2月28日に厚生労働省が「基礎疾患を持つ患者に対する継続的な医療・投薬等について、事前の実施計画がなくとも、電話や情報通信機器を活用した医薬品処方を認め、また医療機関から薬局へファクシミリ等で処方箋を送付する」特例を認めています(すでに処方されていた医薬品と同一の医薬品の継続処方、関連記事はこちらとこちらとこちら)。
厚労省は今般、この特例をさらに拡大し「新型コロナウイルス感染拡大時期に限り、かかりつけ医等の定期受診患者が既に診断されている疾患において、『同一の疾患による病状に変化が生じた場合』(例えば血圧が上昇した場合など)にも、電話による診療や情報通信機器を用いた診療で新たな医薬品の処方を可能としてはどうか」との考えを示しました。
上述したオンライン診療指針に記載されている「在宅診療、離島やへき地など速やかな受診が困難な患者に対し、発症が容易に予測される症状変化に対応した医薬品を、あらかじめオンライン診療指針に具体的に記載することを条件に処方することを認める」との規定を、特例的に拡大する考えで、基礎疾患を持ち定期的に医療機関を受診している患者について、「医療機関の直接受診による新型コロナウイルス感染リスクを低減する」とともに、「診療の継続による重症化予防」を目指すものです。
この考え方には異論が出されませんでしたが、多くの構成員から「さらなる拡大を図ってはどうか」との積極的な意見が相次ぎました。例えば、▼新型コロナウイルス感染を恐れて、医療機関の受診控えが生じている可能性がある。電話再診をより広範に認めるべき(今村聡構成員:日本医師会副会長)▼老人福祉施設などに訪問診療を行う際、入所者だけでなく、介護者、家族など多くの人がおり、診療に当たる医師の感染防止も考慮する必要がある(島田潔構成員:板橋区役所前診療所院長)▼免疫抑制剤を使用している患者において、医療機関の直接受診リスクは大きい(高林克日己構成員:医療法人社団鼎会理事/三和病院顧問、千葉大学名誉教授/一般社団法人日本内科学会)―などが目立ちます。
ただし、「電話再診の拡大」は厚労省保険局医療課の所管事項となるなど、より広範な議論が必要であることから、厚労省は「構成員の意見を踏まえて、省内の関係部局を含めて特例の制度設計を早急に詰める」考えを示しています。
なお、この点に関連して今村構成員らは「オンライン診療の課題(問診や視診に限定される)などを患者に適切に説明する必要がある。オンライン診療計画を示し、患者の合意を得ておくことは要件をすべきである」と強調。ただし緊急事態であることを踏まえ、例えば▼厚労省等でオンライン診療計画の雛型を事前に提示し、各医療機関で迅速かつ簡便に計画を作成できるようにしておく▼オンライン診療計画の提示は、オンライン診療を実施する中で行ってもよいこととする(原則は「事前」の作成が必須)―などの「柔軟な取り扱い」が可能とされる見込みです。
オンライン診療による「新型コロナ感染の鑑別診断」は不可
また(2)については、(A)オンライン診療の中で「新型コロナウイルス感染」の診断等を認めるべきか(B)軽症の新型コロナウイルス感染患者(確定診断を受けた患者)に対し、自宅療養をする際にオンライン診療で経過観察や指導を行うことを認めるべきか―という問題があります。
まず前者(A)の「オンライン診療による新型コロナウイルス感染症の診断」については、感染症治療・研究の専門家である大曲貴夫参考人(国立国際医療センター国際感染症センター長)・加藤康幸参考人(国際医療福祉大学大学院教授)の「極めて難しい。PCR検査結果も100%ではない。自覚症状とSPO2結果とが乖離しているケースもある。『息苦しさがある』『生汗をかいている』などの臨床判断が重要である」との意見を重視し、「不可」であることを確認しています。
患者が大幅増加した折、軽症の新型コロナ患者は自宅療養しオンライン診療で経過観察
一方、(B)は、今後、新型コロナウイルス感染患者が大幅に拡大し、「▼高齢者▼基礎疾患を有する方▼免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方▼妊産婦―で症状がない、または医学的に症状が軽い患者は、PCR等検査で陽性であっても、入院医療ではなく、自宅での安静・療養を原則とする」というフェーズに入った場合に、適切に経過観察・指導管理を行うためにオンライン診療を活用してはどうか、という提案です。
現在は、「新型コロナウイルス感染が確認された患者については入院医療を行う」こととされていますが、今後、確定診断患者が大幅に増加した場合には、「軽症患者は自宅療養とする」ことになります(入院医療は重症患者対応として行う)。その際、自宅療養患者を放置することはできず、かといって医療機関への外来受診を求めれば他者への感染を拡大してしまうことから、「適切な療養を行えているか」「重症化の恐れはないか」などをオンライン診療を活用して確認し、指導・管理を行うことが期待されるのです。このため「現時点で必要となる対策」ではなく、「今後、患者が大幅に増加し、医療体制の段階的な移行を行う際に備えた対策」と言えます。
この提案には異論が出ていませんが、大曲参考人は「現時点では60歳以上の高齢患者において重症化のリスクが高い」(もちろん基礎疾患など他の要素もある)ことを紹介しており、オンライン診療での経過観察対象患者について一定の限定が検討されることになるでしょう(軽症者全般を自宅療養させるわけではない)。
なお、今回のオンライン診療拡大は、あくまで新型コロナウイルスの感染拡大防止等に向けた「特例」であり、オンライン診療指針を改訂するものではありません。近く、厚労省から通知等が示され、その中で▼特例の内容▼特例の期限―などが明らかにされます。
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