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アフターピル処方、オンライン診療のみで可能とすべきか―オンライン診療指針見直し検討会

2019.2.12.(火)

 アフターピル(緊急避妊薬)をオンライン診療のみで処方することを可能とすべきか。レイプ被害者等の救済に有用であるが、薬剤の転売や薬害などのリスクもあり、産婦人科医師などの意見も踏まえて、さらに検討する―。

 2月8日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました(関連記事はこちら)。

2月8日に開催された、「平成30年度 第2回 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」

2月8日に開催された、「平成30年度 第2回 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」

 

アフターピルのオンライン診療のみでの処方、産婦人科医も交えてさらに議論

 スマートフォンなどの情報通信機器を活用したオンライン診療は、かねてより実施されてきましたが、「患者情報の漏えい等防止策は十分か」「本来、対面でなすべき診療をオンラインで行っていないか」といった疑問点も指摘されています。また2018年度の診療報酬改定では、【オンライン診療料】【オンライン医学管理料】等が新設され、オンライン診療が拡大する下地が一定程度整備されました(関連記事はこちら)。

 そこで厚生労働省は、安全かつ有効にオンライン診療を実施するための指針を昨年(2018年)3月末に取りまとめました。▼指針は、保険診療はもとより、自由診療分野でも遵守しなければならない▼診療の原則は「患者と医師が対面して行う」ものであり、原則としてオンライン診療を初診で行うことは認められない(緊急の場合等の例外あり)▼オンライン診療は対面診療と組み合わせ、計画的に実施されなければならない▼患者にオンライン診療の限界を十分に説明し、同意を得なければならない―ことなどが規定されています(関連記事はこちらこちら)。

 ただし、医療を取り巻く環境等は日々変化し、また情報通信技術は目まぐるしく進化するため、指針については「少なくとも1年に1回以上更新する」こととなっています。ただし、オンライン診療料等の実施状況が明らかになるまでには一定の時間が必要なため、まず、「現在生じている課題(医師でない者がオンライン診療を実施している)」などに対応するため、次の4項目の見直しを、2019年に実施します(2019年5月改訂予定)。
オンライン診療指針見直し検討会5 190123
 
【2019年改訂での見直し項目】
(1)指針の対象(オンライン受診勧奨・遠隔健康医療相談等の整理)
(2)オンライン診療における診療行為(「対面診療との組み合わせ」「初診対面診療原則」の見直し、予測された症状への対応、「同一医師による診療原則」の見直し)
(3)オンライン診療の提供体制(セキュリティの観点に基づく適切な通信環境の明確化、「D to P with N」(看護師による「医師が提供するオンライン診療」の補助)の明示)
(4)その他(オンライン診療を提供する場合の「研修」必修化など)
オンライン診療指針見直し検討会4 190123
 
 2月8日の検討会では、(2)の診療行為と(4)の研修などについて議論を行いました。

 まず(2)の診療行為に関しては、「初診は対面で行わなければならない」という原則があります。スマートフォン等の画像では、▼触診ができない▼匂いなどを覚知できない―といった限界があるためです。なお、「初診」の定義について、ここでは「新たな傷病等の治療を初めて受ける」こととされ、例えば「慢性疾患等で継続してAかかりつけ医を受診している患者が、急な腹痛などでAかかりつけ医を受診する」ケースや「X疾患についてAかかりつけ医を受診した患者が、別のB医師を受診する」ケースも、ここでは「初診」と扱われます。もっとも、保険診療上の「初診」と混同してしまいがちであり、厚労省医政局医事課の佐々木健課長は、「定義の明確化」を行う考えを示しています。

離島やへき地等において近隣に受診・対応可能な医療機関がない場合などには、例外的に「初診でのオンライン診療が可能」とされていますが、この場合でも、オンライン診療には限界があることから、事後に対面診療を受けなければなりません。

ただし、禁煙外来については「オンライン診療による情報のみであっても、診断や治療方針の決定が可能で、かつリスクが極めて低い」ため、「対面診療を組み合わせない」、つまり「オンライン診療のみで完結する」ことが可能とされています【対面診療原則の例外】。

この点、「緊急避妊(薬)」についても例外ケースに加えてはどうか、という声が出ています。山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、「レイプの被害者などは、心の傷が大きく、産婦人科受診すらハードルが高い。オンライン診療でまず医師が相談に応じ、緊急避妊薬(アフターピル)を処方すると同時に、一定の心のケアを行い、産婦人科受診を促すという、通常のオンライン診療とは逆の形態を認めるべき」と訴えています。高倉弘喜構成員(国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授)も「レイプ被害者等が速やかに支援・救済を受けられるようにすべき」と述べ、対面原則からの除外に理解を示しています。

一方で、「緊急避妊薬の転売などにオンライン診療が悪用される」ことや、その場合に「薬害が発生する」リスクなども考えられます。実際にオンライン診療を提供している黒木春郎構成員(医療法人社団嗣業の会理事長、日本オンライン診療研究会会長)や高林克日己構成員(医療法人社団鼎会理事/三和病院顧問、千葉大学名誉教授/日本内科学会)らは、こうしたリスクに鑑み、「対面の原則から外すことの検討は時期尚早ではないか」との見解を示しています。

今村聡構成員(日本医師会副会長)は、両者の意見に十分な理解を示した上で、「検討会に、産婦人科医師を招き、その意見も聴取して、メリット・デメリットを十分に検討してはどうか」と提案し、この方向で検討が進むこととなりました。次回以降、産婦人科医師らが参考人招致されます。なお、構成員間では「緊急避妊薬処方専門のオンライン診療医療機関などは認められない」という点で一致しています。

なお、▼男性型脱毛症(AGA)▼勃起不全症(ED)▼季節性アレルギー性鼻炎▼性感染症▼仕事が忙しく、すぐに医療機関を受診できないケース―も対面原則の例外としてはどうかとの声もあるようですが、構成員は「いずれも医学的判断が必要」とし、従前どおり「初診を対面で実施する(対面診療と組み合わせる)」ことが必須となります。

また、山本隆一座長(医療情報システム開発センター理事長)は、「入試当日に具合が悪くなり、医療機関受診を必須とすれば1年を棒に振ってしまう可能性のあるケース」「泊まり込みでの業務を余儀なくされ、医療機関を容易に受診できないケース」などについて、「初診」対面原則の例外(離島などと同じ扱い)とすべきかどうかをさらに検討してはどうか、と要請しています。

セカンドオピニオン、「治療方針等への助言」にとどまれば初診対面原則は適用されず

 がん治療などにおいて「セカンドオピニオン」が一般的になってきています。各種検査データなどをもとに、「主治医の判断」の妥当性などについて、別の医師の判断・助言を仰ぐものです。この点、例えば、地方などで近隣にがん専門医がいない場合などには、オンライン機器を用いたセカンドオピニオンが非常に有用でしょう。

この点について、検討会では、セカンドオピニオンと一口に言ってもさまざまな形態があり、▼「医学的判断に基づく治療方針等に関する助言」にとどまる場合には、「オンライン受診勧奨」に該当する(初診対面原則は適用されない)▼他医療機関への紹介状(診療情報提供書)作成や個別患者の治療内容確定などに及ぶ場合には、「オンライン受診勧奨」の範疇を超え、もはや「オンライン診療」となる(当然、初診対面原則が適用される)―という整理を指針の中で行ってはどうか、との方向が議論されました。

もっとも、前者の「オンライン受診勧奨」にとどまるセカンドオピニオンの結果、その助言を行った医療機関で治療する場合には、オンラインで十分な情報を得ることはできないため、「改めて対面診療に基づき具体的な治療内容を決定する」ことが必要となります。

慢性疾患に付随する症状への医薬品処方、初診対面原則からどこまで除外すべきか

 ところで、上述したように「慢性疾患等で継続してAかかりつけ医を受診している患者が、急な腹痛などでAかかりつけ医を受診する」ケースは、初診となり、原則としてオンライン診療で済ませることはできません。

 しかし、「慢性疾患に付随し、予測される症状の変化に医薬品を処方する」ことなどは、事前にオンライン診療計画に記載していれば、改めて対面診療を実施せず、オンライン診療の中で認めてもよいのではないかという意見があります。例えば、「胃瘻患者における、傷口のびらんに対する軟膏処方」などが想定されています。

 この点について、「症状の背景にどのような疾患が隠れているかはオンラインでの覚知は難しいのではないか。予想可能な疾患に限定して考えるべき」(今村構成員)、「予測疾患の追加を繰り返し、後半な医薬品の処方が認められてはいけない」(高林構成員)といった慎重意見が相次ぎました。より詳細な検討を行い、Q&Aなどで処方可能ケースを例示等していくことになるでしょう。

また山本座長はじめ、多くの構成員が「こうした予測症状にオンライン処方が認められるのは、在宅療養患者など、医療機関へのアクセスが極めて困難な患者に限定すべき」との指摘も行っています。アクセスが容易であれば、医療機関を受診するべきと考えられるためです。

外来でのチーム医療、「一部医師のみの対面診療」によるオンライン診療は不可

 また、在宅医療を複数医療機関で実施するケースも増えています。指針では、こうした場合について、「特定の複数医師が関与する」ことをオンライン診療計画に明示していることを条件に、必ずしも、すべての医師が対面診療を実施せずともよく、一部の医師が対面診療を行えば、交代でオンライン診療を実施できることとしています(A・B・C3名の医師が交代で訪問診療を行う計画を立てている場合など、A・B医師が対面診療を行い、C医師はオンラインのみで診療することも可能)。

 この点、指針の記載ぶりから、一部医療現場では「一般外来で複数の診療科がチームで診療を行う場合」も、一部医師のみが対面診療を行えばよい、と解釈しているケースがあると指摘されます。しかし検討会では、「想定されるのは、▼1医療機関に複数の医師がおり、1人の患者に交代で訪問診療等を行うケース▼2012年度診療報酬改定で創設された「連携型」の機能強化型在宅療養支援診療所のケース(複数医療機関で施設基準を満たす)▼2018年度診療報酬改定で創設された「在宅患者訪問診療料Ⅰの2(他の医療機関の依頼を受けて訪問診療を行った場合)」のケース―の3パターンである」(島田潔構成員:板橋区役所前診療所院長)ことが確認されました。指針にある「複数の診療科の医師がチームで診療を行う場合」とは、「在宅医療」における複数診療科チームを意味するものです。

オンライン診療を実施にあたり、セキュリティ等に関する研修を義務化

 このほか、2月8日の検討会では、次のような方向も確認されました。研修については、技術進展等に合わせた「定期的な更新」が必要という指摘も出ています。

▽オンライン診療計画は、「オンライン診療が完結した日から起算して2年間、保存する」ことを義務として、5年保存が望まれる

▽なりすまし医師を排除するため、患者だけでなく、医師側も、身分確認書類(例えばHPKI(厚労省の実施する医療従事者資格等の電子証明書)を用いて本人確認を行い、確認できる環境を整えておく(現在、患者の求めがない場合には、医師側の身分証明を不要としているが、この記述が悪用されることもあるため、削除する)

▽いわゆるチャット(文字によるリアルタイムの会話・雑談機能)は、オンライン診療を補完するものとして、利用可能な事項・範囲を明確化する(例えば、月1回の対面診療(第1週)・月1回のオンライン診療(第3週)を補完するため、間の週(第2週・第4週)にチャットで状況確認を行うなど)(チャットのみでオンライン診療を完結できないとの原則を変えず、利用可能な範囲などを明示する)

▽オンライン診療を行う医師は、厚労省の定める研修を受け、セキュリティなど必須の知識を習得しなければならないこととする
・2019年10以降(予定)、オンライン診療を実施する場合には、当該研修の修了証を医療機関のwebサイト(ホームページなど)へ掲載することを義務づける
・ただし、現在、すでにオンライン診療を実施している医師は、2020年3月(予定)までに研修を受講することとする

 
 
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