生活習慣病の重症化予防、かかりつけ医と専門医療機関・保険者と医療機関の連携を評価―中医協総会(1)
2017.3.29.(水)
高血圧疾患など生活習慣病患者の増加が見込まれる中で、より質の高い医学管理・重症化予防を推進するため、2018年度の診療報酬改定に向けて「かかりつけ医と専門医療機関など」「医療機関と保険者・自治体など」の連携や、かかりつけ医を中心とした「多職種連携」について評価を充実してはどうか―。
29日に開催された中央社会保険医療協議会の総会で、こういった議論が行われました。
がんを含めると生活習慣病にかかる医療費は10兆円近い
2018年度には医療・介護の同時改定が行われるのみならず、新たな医療計画・介護保険事業(支援)計画のスタート、国保の財政単位の都道府県化、第2期のデータヘルス計画スタートなど、大きな医療・介護制度改革の年となります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。このため、中医協では通常よりも前倒しで改定論議を開始するとともに、議論のテーマも幅広いものとなっています。厚生労働省保険局医療課の迫井正深課長は「多くの改革が行われるこの機会に、いわば医療の総点検を行い、その中で、診療報酬で対応すべき項目に優先順位をつけていく」としています。
29日の中医協総会では、「外来医療その2」として生活習慣病対策(予防から治療まで一貫したサービス提供・システム連携の推進)が議題となりました。
生活習慣病は「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、発症・進行に関与する症候群」と定義され、▼糖尿病(インスリン非依存)▼高血圧症▼循環器病▼高脂血症▼歯周病―などのほか、大腸がんや肺がん(肺扁平上皮がん)も含まれます。
外来患者の2割強(およそ130万人)、死因の55.2%、入院医療費の37%(およそ5兆7000億円)、入院外医療費の32%(およそ4兆5000億円)が生活習慣病で占められており(ただし、大腸・肺いがいのがん患者も含む)、(1)そもそもの予防(2)重症化予防(3)治療—を総合的に推進してくことが極めて重要です。
(1)の予防施策としては、「特定健康診査」(特定健診、いわゆるメタボ健診)と「特定保健指導」が重要で、健康保険組合や協会健保などの医療保険者に両者の実施が義務付けられています(高齢者医療確保法)。
(2)の重症化予防については、例えば糖尿病が進行すると最終的に腎不全となり透析に至ることを踏まえ、昨年(2016年)4月に日本医師会・日本糖尿病対策推進会議・厚労省が協働して「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定。▼医師会▼かかりつけ医▼専門医療機関▼行政・保険者―が連携した重症化予防への取り組みが推進されています。また診療報酬では、例えば次のような点数項目を順次設定し、(3)の治療とあわせて、重症化予防に向けた医療機関の取り組みを評価しています。
▼生活習慣病管理料(治療計画を策定し、それに基づいて生活習慣に関する総合的な治療管理を行うことを評価する)
▼糖尿病合併症管理料(糖尿病足病変ハイリスク要因を有する患者に、医師の指示を受けた専任の看護師が足のケアに関する総合的な管理指導を行うことを評価する)
▼糖尿病透析予防指導管理料(透析に向かいつつある糖尿病患者に対し、医師・看護師・管理栄養士がチームで必要な指導管理を行うことを評価する)
▼腎不全期患者指導加算(重症化した糖尿病性腎症患者について、透析導入を防ぐために、質の高い運動指導を行うことを評価する)
特定保健指導や重症化予防への取り組みには、患者の状態が改善する効果があることが様々な研究から明らかになっています。例えば、特定保健指導には「腹囲・体重・血糖・血圧・脂質の検査値が改善し、その効果が継続する」ことが確認されています。
医療機関と保険者の連携・情報共有は現時点では進んでいない
このように生活習慣病対策では、医療機関・医療スタッフ間の連携が重要なことはもちろん、「医療機関・行政・保険者の連携」が極めて重要になってきていますが、現状では必ずしも十分とは言えないようです。厚労省の調べでは、▼糖尿病透析予防指導管理料▼糖尿病合併症管理料▼慢性維持透析患者外来医学管理料—を算定している患者について、「医療機関から保険者に情報提供などが行われたケースは極めて少ない」(もっとも保険者からの要請自体も少ない)、「当該患者が特定健診・特定保健指導を受けたかどうかを把握しているケースも1割程度にとどまっている」ことが分かりました。
こうした状況を踏まえ迫井医療課長は、より質の高い医学管理・重症化予防を行うために、▼かかりつけ医・医療機関と専門医療機関などとの連携▼かかりつけ医を中心とした多職種連携▼医療機関と保険者・自治体などの予防事業との情報共有―を推進する必要があるのではないかとの考えを示しています。
医療機関と保険者との情報共有としては、2016年度の前回改定において、前述の「腎不全期患者指導加算」の要件に「保険者から保健指導のために情報提供などの協力要請がある場合には、患者の同意を得て必要な協力を行う」旨が組み込まれました。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、こうした規定をさらに拡大し「医学管理(生活習慣病管理料など)の算定要件などに、『保険者との連携』を盛り込む」よう提案しています。
診療側委員も医療機関と保険者との連携を強化する方針には賛成しており、大きな方向が見えてきたようです。また診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)は、「保険者である市町村(国保)や後期高齢者広域連合は医師会との協力関係がなく、特定健診などの情報がかかりつけ医に届かない。また広域連合では保健師がおらず、市町村では保健師はいるものの他業務で多忙であることから、保健指導が十分に進んでいないようだ」と指摘。保険者と地域医師会・かかりつけ医との連携も進める必要があるとコメントしています。
40歳代に対する受診勧奨が重要課題、支払側はアウトカム評価の導入を提案
ところで厚労省の調査(国民健康・栄養調査)では、「糖尿病が強く疑われる患者」に対する治療が継時的に増加しているものの、こと40歳代では「これまでに治療を受けたことがない」「過去に治療は受けたが、現在は受けていない」という人が他の年代よりも多いことが分かっています(関連記事はこちら)。
40歳代で適切な治療をしなければ、50歳代、60歳代と時間の経過とともに悪化していくため、「40歳代に対する医療機関への受診勧奨」がピンポイントの重要課題であると言えます。この点、支払側の幸野委員は「働き盛りであり、受診勧奨してもなかなか医療機関にかからない。初診は対面診療が必要だが、継続的な指導管理においてはICTを活用することを検討してはどうか」と改めて提案(関連記事はこちら)。
また幸野委員は、40歳代が医療機関にかからない背景の1つとして「毎回、血圧測定などの行為しか行わない医療機関もあり、受診への効果に疑問を持つ人もいる」旨を指摘した上で、「生活習慣病の指導管理料の要件に『アウトカム』を導入してはどうか」とも提案しています。この提案に診療側の松本委員は一定の理解を示しましたが、「医師の指導のとおりに生活習慣を改善しているかも関係してくる」とし、慎重姿勢を見せています。
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