医療機関での看取り前の、関係者間の情報共有などを報酬で評価できないか―中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
2017.3.22.(水)
在宅での看取りにおける円滑な医療・介護連携の確保、介護保険施設での看取りにおける外部医療機関からの医療提供の範囲、在宅患者が医療機関での看取りを希望した場合の情報共有の評価、などといった課題をどのように考えるべきか―。
22日に開催された、「医療と介護の連携に関する意見交換」でこのようなテーマが議題となりました。
在宅での死亡患者でなければ、在宅ターミナルケア加算は算定できない
2018年度には診療報酬と介護報酬の同時改定が行われます。いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護ニーズが急速に高まるため▼病院・病床の機能分化・連携の推進▼地域包括ケアシステムの構築―が急がれますが、そこに向けて大きく舵を切る最後のチャンスが次期改定になります。そこで厚生労働省は医療・介護の双方にまたがる(1)看取り(2)訪問看護(3)リハビリテーション(4)関係者・関係機関の調整・連携―の4点について、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会との意見交換を行うこととしたものです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
22日の会合では、(1)の看取りと(2)の訪問看護を議題としました。ここでは(1)の看取りについて見てみましょう。
看取りは、現在、医療機関で行われるケースが8割を占めていますが、自宅療養などを希望する国民の意識に応えるため、▼在宅で行われる場合▼介護保険施設で行われる場合―には、適切なケアや計画作成などを評価する診療報酬(例えば在宅患者訪問診療料の在宅ターミナルケア加算や看取り加算など)と介護報酬(介護福祉施設サービス費の看取り介護加算や、介護保健施設サービス費のターミナルケア加算など)が順次整備されてきています。
しかし、さまざまな課題も指摘されています。在宅での看取りでは、「がん以外の患者では予後予測が困難で、個別ケースに応じた対応が必要となることから、看取りへの対応が必ずしも十分でない」可能性が、また「さらなる医療・介護連携が必要」との課題が指摘されます。
また介護保険施設での看取りでは、▼看取りを行わない方針の特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)が1割強ある▼有料老人ホームでは、死亡による契約修了者が多いが、負担感から看取りを行わない施設もある―といった課題があります。前者では、常勤の配置医が少ないため、医師法第20条【医師は(中略)自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない】を誤解し、看取りに二の足を踏んでいる特養ホームが一定程度ある可能性も指摘されています。
さらに医療機関での看取りについては、▼情報不足などから患者・家族の希望と異なる救命措置などが施される例もある▼患者が医療機関での看取りを希望している場合には、事前の関係者・関係機関間での情報共有などが報酬上評価されない▼がん診療連携拠点病院以外での緩和ケアの状況が十分に把握されていない―といった課題が指摘されています。
厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、こうした課題に対処するため、次期同時改定では次のような点を検討してはどうかと提案しています。
【在宅での看取り】▽がん以外の患者の看取り期における医療の関与▽末期がん患者へのサービス提供にあたっての、医療職とケアマネジャーとのさらなる円滑な連携
【介護保険施設での看取り】▽特養ホームや居住系サービスが提供すべき医療の範囲▽外部医療機関が特養ホームなどの入所者に提供すべき医療の範囲
【医療機関での看取り】▽医療機関での看取りを希望している患者に対する、医療機関も含めた在宅医療の関係者・関係機関間における情報共有、医療機関が提供するべき医療の範囲▽緩和ケアの在り方
上記の課題で述べたように、在宅で療養中の患者について▽死亡日▽死亡前14日以内―に2回以上の往診や訪問診療を行い、その患者が在宅で死亡した場合には、在宅患者訪問診療料に「在宅ターミナルケア加算」が上乗せされます(機能強化型の在宅療養支援病院で6000点など)。しかし、在宅療養中の患者が例えば「医療機関での看取り」を希望していた場合には、訪問診療や往診などを行うかかりつけ医師と入院先医療機関の医師との間で、緊密な情報連携を行っていても、報酬上の評価はなされません。今般の資料からは、次期改定において「結果(在宅での死亡)だけに着目せず、ターミナルケアや看取りの実質的なプロセスも評価していく」方針が伺えます。
在宅での看取り、かかりつけ医・24時間訪問看護・後方病床の3点セットが不可欠
こうした論点について、委員間では活発な意見交換が行われました。
いずれの場所で行われる看取りであっても、患者・家族の意向を医師らが十分に把握することが重要です。この点について松本純一委員(日本医師会常任理事、中医協)は「私が患者の看取りを行う前には、患者・家族と相当の時間を費やして話し合いを行う。しかし介護保険施設の入所者については、家族や施設職員と話せる機会が少ないように感じる」と指摘。このように連携のベースとなる話し合いが十分に行われれば、「患者・家族の医師に反する治療」などは激減することでしょう。
中医協委員と介護給付費分科会委員の双方を経験している鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事、介護給付費分科会)も、「高齢者において医療と介護は一体化して提供しなければならない。例えば在宅での看取りであれば、▽かかりつけ医師▽24時間対応の訪問看護▽後方病床―の3つをセットで整える必要がある。また医療機関での看取りであっても、ケアマネジャーを含むチームで患者・家族の意向などをしっかり把握する必要がある」と指摘。次期改定において「在宅で看取りを行った場合に、診療報酬と介護報酬のいずれで評価するのかの明確化(例えば訪問看護では、医療保険でも介護保険でもターミナルケアを評価している)」や「医療機関での看取りに対する多職種連携などの評価」が必要と訴えました。
また鈴木委員は、「特養ホームの配置医師に求められるのは、健康管理などでは済まなくなってきている。現在、業務内容や報酬はグレーになっているが、全体的に見直し、時代にあった特養ホームでの医療提供体制にしていく必要がある」とも指摘しています。
一方、齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事、介護給付費分科会)は高齢化の進展を見据え、老衰などにより亡くなる患者が増加すると指摘。しかし、「夜間オンコール体制などの施設では、看取りの体制がないために、急性増悪でないにもかかわらず、患者・家族の意向に反して病院に搬送されてしまうのは問題ではないか。多くの介護保険施設で看取れる体制を整備しなければ、『多死』時代に対応できない」と述べ、介護保険施設における看護師などの医療職常駐の必要性を訴えています。
関連して鈴木委員と武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長、介護給付費分科会)は、「国家資格である介護福祉士であっても、診療報酬上は『看護補助者』と扱われるが、何らかの評価を検討すべきではないか」と提案しています。
なお各種のターミナルケア加算などについて田中滋委員(慶應義塾大学名誉教授、介護給付費分科会長)は、「訪問を評価する加算、計画作成を評価する加算などさまざまである。哲学を揃えるべきではないか」と指摘。これについて厚労省老健局老人保健課の担当者は、「看取りやターミナルケアにおいて、どの職種が、どのような場合に、何をすべきか、それを報酬でどう評価すべきかを、各種加算の整合性も考慮しながら、議論してもらうことになる」とコメントしています。
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