7対1・10対1入院基本料、看護配置だけでなくパフォーマンスも評価する報酬体系に―中医協総会(1)
2017.3.15.(水)
7対1入院基本料を届け出た病棟と10対1入院基本料を届け出た病棟を比較すると、重症患者割合(重症度、医療・介護必要度の基準を満たす患者の割合)や平均在院日数などの分布に重複が見られるものの、1日当たり請求点数(つまり単価)には大きな乖離がある―。
15日に開催された中央社会保険医療協議会の総会で、厚生労働省はこういったデータを提示しました。ここからは「看護配置を中心にした報酬体系」から「病棟のパフォーマンスも重視する報酬体系」へと移行していく可能性も見出され、2018年度の次期診療報酬改定に向けた議論がますます注目を集めそうです。
目次
7対1のニーズは、少子化によって減少傾向に
15日の中医協総会では、2018年度改定に向けて「入院医療(その2)」を議題としました。具体的には▼一般病棟入院基本料をどう考えるか▼地域における医療提供体制の再構築をどう進めるか―の2点です。
前者については、厚労省から非常に興味深いデータが提示されています。
(1)7対1病棟の入院患者の6割弱は74歳未満で、がん患者が多い(24.6%)が、我が国では若人の人口は減少傾向にあり、高齢者に対してがんの標準治療を行う割合は低い
(2)7対1入院基本料を届け出た病棟と10対1入院基本料を届け出た病棟を比較すると、重症患者割合(重症度、医療・介護必要度の基準を満たす患者の割合)や平均在院日数などの分布に重複が見られるものの、1日当たり請求点数(つまり単価)には大きな乖離がある
このうち(1)からは、現在の「7対1の患者増」該当者、つまり7対1病床のニーズが減少していくことが読み取れます。この点について支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「7対1のベッド数を維持するとすれば、より軽症の患者を7対1で受け入れ、稼働を保つことになる。7対1病床数がどれだけ必要なのか、改めて議論する必要があると強く指摘しました。
支払側委員、医療・看護必要度のさらなる見直しが必要と強調
(2)については、データを少し詳しく見てみましょう。まず入院患者について、厚労省は「2016年度改定前の旧『重症度、医療・看護必要度』基準を満たす患者割合」と、「平均在院日数」あるいは「看護職員1人当たり病床数」との関係を見ています。その結果、7対1・10対1ともにバラつきが大きく、両者の分布に明確な違いはないことが伺えます。つまり、入院患者の医療・看護必要度に一定程度の重複があると考えられます。
一方、入院1日当たりの請求点数(つまり単価)を見ると、7対1と10対1には大きな乖離があります。同じような状態の患者を診ているのに、報酬水準が異なるのは好ましいとは言えないと考えられます。
厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、こうした点に鑑みて「患者の状態や診療の効率性などの要素も考慮する必要があるのではないか」との論点を提示しました。現在の入院基本料は、主に看護配置によって報酬を設定する体系になっていますが、さらに▼患者の状態▼診療の効率性―などを加味した報酬体系へと移行する検討が始まる模様です。なお、後者の「診療の効率性」という文言は「低コストの医療」をダイレクトに意味するものではなく、「少子化でマンパワーが不足する中で、ニーズと機能とのミスマッチが生じないような診療提供」といった幅広い概念を意味するようです。
このデータを見た支払側の幸野委員は、「本来、10対1に入院すべき患者が7対1に入院し、高い報酬が支払われているのではないか。また重症患者割合に大きなバラつきがあることから、重症度、医療・看護必要度の評価指標が適切かという疑問も感じる。2018年度の次期改定に向けてABC各項目の妥当性、25%以上という基準値の妥当性を検討してく必要がある」と強調。しかし、診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は、「重症度、医療・看護必要度が2回連続で見直され(2014年度改定・2016年度改定)、医療現場は大混乱した。最近、ようやくその混乱が落ち着いてきたところであり、2018年度の3回連続見直しは極めて慎重にすべき」とけん制しています。
2016年度の前回改定で重症度、医療・看護必要度が大幅に見直されたため、上記のデータのアップデート(2018年度改定版)を行う必要があり、また、さらなる分析(7対1と10対1の患者像や医療提供内容など)も待たれますが、厚労省は「7対1から10対1への移行を促すために、10対1で『より重症患者を受け入れている』病棟の評価を引き上げる」ことなどを念頭に置いているのではないかと推測されます。前述のとおり、1日当たり単価に大きな乖離があるため、「7対1の維持が難しくなってきたが、10対1に移行すれば収益が大幅に落ち込んでしまう」と考え、移行を躊躇する病院も少なくないからです。なお、この点に関連して診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会副会長)は「(10対1への移行のワンクッションとして2016年度改定で創設された)病棟群単位の入院基本料届け出の継続を検討すべき」と提案しています。
なお13対1・15対1入院基本料については、複数の委員から「現行体系の維持」を求める声が出されました。
看護配置の枠組みを廃止し、重症度・医療内容に応じた報酬体系への移行は
ところで、入院患者像や医療内容が同じなのであれば、「報酬も同一で良いのではないか」とも考えられます。現に米国では、患者の重症度や医療提供内容によって報酬が決まっており、「看護配置に基づく報酬設定」という概念をグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの米国アドバイザーに説明する際には難渋します。
このため将来的には、7対1・10対1という看護配置の枠組みが廃止され、「入院患者の重症度や医療提供内容に応じた支払い方式」が検討される可能性も否定できません。もっとも、現行の報酬体系からは大きく変わり、病院経営への影響も甚大なため、2018年度や20年度の診療報酬改定でこうした体系に移行することはないでしょう。
地域連携に費やす労力、診療報酬で評価を
後者の「医療提供体制の再構築」については、機能分化が注目されますが、その前提となる「連携」が最重要キーワードとなります。
これまでに▼退院支援加算の地域連携診療計画加算▼在宅復帰率(7対1などの施設基準の1項目)▼感染防止対策地域連携加算―など、地域での医療・介護連携を評価する診療報酬が創設・改善されてきていますが、課題もあります。
たとえば退院支援加算では、連携先の医療・介護資源が地域に存在しない(あるいは少ない)などの場合には、自院の努力だけでは届け出・算定ができません。さらに「基幹病院が退院支援加算の要件を満たせず、届け出がなされていなければ、地域連携を進めても、連携先医療機関が地域連携診療計画加算を算定できない」(猪口委員)といった課題もあります。
また在宅復帰率などに関連して松本純一委員(日本医師会常任理事)は、「急性期後の患者を受け入れる病院側も評価してほしい」と要望しています。
急性期病棟の基準を厳しくすれば必然的に連携が進みますが、厚労省保険局医療課の担当者は「継続的な連携のためにはマンパワーを確保し、時間も割いている。そこは報酬上、評価していく必要がある」とメディ・ウォッチにコメント。2018年度改定でも「医療・介護連携の評価」が重要論点の1つとなります。
なお、2018年度には診療報酬・介護報酬の同時改定となるため、中医協と社会保障審議会・介護給付費分科会との意見交換が予定されていました。迫井医療課長は、▼看取り▼訪問看護▼リハビリテーション▼関係者・関係機関の調整・連携―の4項目をテーマに2回の意見交換会(3月22日、4月19日)を開催する方針を示しています(関連記事はこちらとこちら)。
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