少子高齢化が進む中、医療保険制度の持続性確保のために「保険給付範囲の在り方」や「資産も勘案した保険料負担」などの議論を—社保審
2025.2.4.(火)
少子高齢化が進む中で、医療提供体制の大改革を行い、今後も医療保険制度改革を進める必要あるが、「給付と負担の見直し」をしっかり行う時期に来ている。給付については、例えば「重粒子線治療などを保険適用することが妥当なのか」「高額ながん治療の保険適用などが進む中で、価値の低い医療技術の保険からの削除などを進めるべきではないのか」などの議論を進めなければならない—。
また負担については、「応能負担」の考え方を更にすすめ、「所得は少ないが、超高額な試算を持っている高齢者」などに応分の負担を求める仕組みをきちんと構築しなければならない—。
2月3日に開催された社会保障審議会で、こうした議論が行われました。今後の制度改革論議や運用などに活かされます。
介護従事者が「直接介護サービス」に専念で器用な仕組みを地域で構築せよ
社会保障審議会は、我が国の「社会保障制度を総合的な視点で議論する」場です。医療保険や介護保険、公的年金制度、福祉施策、少子化対策などの個別の社会保障制度に関する議論は下部組織である部会や分科会などで詳細に検討され、親組織である社会保障審議会では、これら制度全体のあるべき姿などを高所大所から検討します。
2月3日の会合では、厚生労働省から「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の進捗と「2025年度厚生労働省予算案」について報告が行われ、これ関する自由討議が行われました。
「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の進捗に関しては、▼新たな地域医療構想、医師偏在是正に向けた総合対策、医療DX推進などを盛り込んだ医療提供体制の大改革▼高額療養費の見直し(関連記事はこちらとこちら—などが報告されています。
前者の医療提供体制大改革に関しては、例えば▼医師偏在対策における経済的インセンティブ(医師への手当て増など)には保険料からの財源拠出が予定されているが、被保険者に過度な負担を強いることの内容にすべき。医療DX推進などについて自治体の財政負担増も予想され、国による支援をお願いする(内堀雅雄委員:全国知事会社会保障常任委員会委員長、福島県知事)▼病院経営難を背景に、地域医療構想などの想定を上回るスピードで「地域の医療提供体制の縮小」が進んでいる。「少ない人手で、効率よくMサービス提供する」仕組みを考えなければならず、医療DX等が不可欠だ。十分な予算の確保が求められる(山本修一委員:地域医療機能推進機構理事長、関連記事はこちら)▼プライマリケア体制の確保に関する対策もしっかり行うべき(翁百合委員:日本総合研究所理事長)▼医師不足が顕著な地域への支援だけではなく、各県の中核病院への支援を行い「都会の大病院→県の中核病院→医師不足が顕著な地域の医療機関」へと医師が流動するような仕組みを考えるべき。医療DXは重要かつ喫緊のテーマが病院には導入への余力がなく、財政的・技術的支援を行ってほしい(岡明委員:埼玉県立小児医療センター病院長)—といった意見が出されました。
また後者の高額療養費見直しに関しては、▼これ以上の負担増は好ましくない。患者サイドには唐突感がある(野口晴子委員:早稲田大学政治経済学術院教授)▼円滑な実施に向けた国による支援とともに、制度見直し後の患者・国民の受療行動を検証すべき(内堀委員)—との要望が出ています。
さらに、今後の医療保険制度改革論議に向けては、▼現役世代の負担軽減に向けて医療保険制度改革を強力に進めるべき。給付と負担の両面からの見直しが不可欠である(小堀秀毅委員:日本経済団体連合会副会長・社会保障委員長)▼給付については「最新の医療技術に対応できる」仕組みや、負担については「欧州を参考にした所得以外の資産等にも着目した」仕組みなどを検討しなければならない(松田晋哉委員:産業医科大学医学部公衆衛生学教授)▼「重粒子線治療を保険適用する必要があるのか」などの点を検討していく必要がある。また財源については「我が国では消費税率は相対的に低い水準である」ことなどもPRしたうえで議論していく必要がある(松原由美委員:早稲田大学人間科学学術院教授)▼超高額ながん治療などが保険適用される中、価値の低い医療技術の保険からの削除を同時に進めていくべき(野口委員)▼医療給付の在り方論議をしっかりと行うべき時期に来ている。あわせて「資産」を十分に勘案した応能負担の仕組みを構築すべき(翁委員)▼被用者保険の適用拡大が進み、国民健康保険の中で一定所得以上の者が被用者保険に移行していくと予想される。その際、国民皆保険の砦となる「国民健康保険」制度の安定運営への配慮が必要である(内堀委員)—などの多様な考えが示されました。
他方、介護関連については、内堀委員が「介護人材確保難の中で、適切な介護報酬による支援等を行うべき」と、松田委員が「地域ごとに事務手続きを担当するバックオフィスを設け、介護従事者が直接サービスに専念できる環境などを構築すべき」と提案しています。
今後の社会保障制度改革論議に活かされます。
なお、2月3日の社会保障審議会では「NDB(National Data Base:医療レセプト・特定健診データを格納)から研究者等へのデータ提供迅速化」に向けた対応(社会保障審議会長の「同意」を都度都度得ずに、特段の事情がない限り簡略化する)を行うことも決定しています(厚労省サイトはこちらとこちら)。
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