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医師偏在是正に向け「外科医の給与増」・「総合診療能力を持つ医師」養成・「広域連携型の医師臨床研修」制度化等が重要—医師偏在対策等検討会

2024.11.29.(金)

臨床研修の広域連携型プログラム(大都市の病院で研修を行う医師が、24週以上、医師少数区域の病院でも研修を行う仕組み)について2026年度からのスタートを目指す。医師(臨床研修医)が一定期間、医師少数区域に赴くことで「医師偏在の是正」効果が期待される—。

ベテラン医師に対し、学会や病院団体が協力し「総合的な診療能力の獲得」に向けたリカレント教育を国も推進・支援していく。例えばメスを置いた外科医がリカレント教育を受けて総合診療能力を身に着け、医師少数区域の医療機関等で活躍することが期待される—。

診療科間の医師偏在是正に向けて、「医療の集約化」「医師の処遇改善」「専門研修の在り方見直し」「外科医等、とりわけ長時間労働に従事する医師の評価(給与など)充実」などを検討していく—。

将来的な「日本全体での医師過剰」に対応するため、医学部入学定員(うち臨時定員)を漸減していくが、その際、「医師偏在の是正」にも配慮した検討を行う—。

医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージの策定に向けて、こうした医師養成過程関連部分のメニューが11月29日に開催された「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(以下、偏在対策検討会)で概ねまとめられました。構成員の意見・注文を勘案して、遠藤久夫座長(学習院大学長)と厚生労働省で最終調整を行い、年末(2024年末)の「総合的な対策のパッケージ」に盛り込まれます—。

11月29日に開催された「第8回 医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」

「医師臨床研修」の中で、6か月以上の医師少数区域勤務を求める特別コースを制度化

Gem Medで報じているとおり、「医師の地域偏在、診療科偏在」対策に向けて、8月30日に示された「近未来健康活躍社会戦略」で示された「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」などをベースに、精力的に議論が進められています。

医師偏在対策(近未来健康活躍社会戦略2 240830)



例えば、11月20日に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」や、11月28日に開催された社会保障審議会・医療保険部会などでは、以下の5つの具体案をもとに議論を行っています(結論は出ておらず、さらに議論を継続する)。
▽新たに「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師偏在是正プランの策定を求めて強力に医師偏在対策を進める
▽医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大、医師少数区域等での勤務経験期間の延長を行う(規制的手法1)
▽外来医師多数区域における新規開業希望者へ「地域で必要な医療機能」を要請する仕組みの実効性を確保する、保険医療機関の管理者要件を設定する(規制的手法2)
▽経済的インセンティブを付与する
▽中堅・シニア医師等と医師少数区域医療機関との全国的なマッチング機能支援や、都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定締結を促す

一方、偏在対策検討会では「医学部入学定員の在り方」(医師多数県で減員→医師少数県へ振り替え)や、「総合診療能力を持つ医師の養成」(総合診療専門医の養成、ベテラン医師へのリカレント教育など)など「医師養成に関連する部分」を検討しています(関連記事はこちらこちらこちら)。



11月29日の現在対策検討会では、これまでの議論を踏まえ、厚労省が次の4項目に関する整理を行いました。
(1)臨床研修の「広域連携型プログラム」の制度化
(2)総合的な診療能力を有する医師の育成・リカレント教育
(3)医師偏在に配慮した医学部臨時定員の漸減
(4)診療科間の医師偏在対策の検討

既に報じている内容とも一部重複しますが、改めて各項目を眺めてみましょう。

まず(1)の臨床研修の「広域連携型プログラム」は、「医師多数の地域(東京都、大阪府、京都府、岡山県、福岡県)の病院で臨床研修(医師免許取得後、臨床に立つために受ける2年間の総合研修)を受ける研修医」を対象とした、医師少数県など(下図表参照)の病院で24週(6か月)以上の研修を受ける特別研修コースと言えます。

東京・大阪・京都・岡山・福岡では「当該地域の研修医定員のうち5%以上」をこの広域連携型プログラムとして研修医を募集することが求められます(「東京の病院のみで研修を受ける」プログラムと、「東京の病院+医師少数区域の病院で研修を受ける」プログラムとを設けるイメージ)。もっとも初年度(2026年度予定)には、「広域連携型プログラムとはどういったものか?安心してそれに応募してよいのか?」などが研修を受ける医師に必ずしも十分には詳らかにならないため、応募が少ないことも考えられ、配慮措置などが設けられる見込みです。

この仕組みにより、東京・大阪・京都・岡山・福岡の研修医の一部が、一定期間「医師少数区域等で勤務する」こととなり、医師偏在が一定程度是正されると期待されます。

臨床研修における広域連携型プログラムの概要1(医師偏在対策検討会1 241129)

臨床研修における広域連携型プログラムの概要2(医師偏在対策検討会2 241129)

臨床研修における広域連携型プログラムの概要3(医師偏在対策検討会3 241129)

臨床研修における広域連携型プログラムのスケジュール(医師偏在対策検討会4 241129)



今後、詳細を医道審議会・医師分科会「医師臨床研修部会」で詰めていきますが、偏在対策検討会では、木戸道子構成員(日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長)から「臨床研修では『研修の充実』を最優先すべきである。医師少数区域等の医療機関での研修を選択してもらうために、広域連携型プログラムの指導体制・意義・メリットなどを具体的に明示する必要がある」などの注文がついています。

メスを置いたシニア外科医などに、総合診療能力獲得のための研修を提供

また(2)は、2018年度から本格スタートした新専門医制度において総合診療専門医の養成をさらに進めるとともに、「ベテラン医師・シニア医師を対象に総合診療能力の獲得支援」を行うものです。後者は、具体的には、学会や病院団体が協力して▼総合診療の魅力発信▼医療・介護連携を含めた地域における実践的な診療の場の提供▼知識・スキルの研修—を全国推進事業として一体的に実施するリカレント教育事業を国で支援するイメージです。

リカレント教育の推進(医師偏在対策検討会5 241129)



たとえば外科の専門医として活躍した医師がメスを置いた後に、セカンドキャリアとして「医師少数区域の医療機関などで、専門である外科はもちろん、他の診療領域についても総合的に腕を振るってもらう」ことなどが期待されます。



こうした方向に対しては、▼総合診療分野へのインセンティブ・医師の誇りを醸成していくことが重要である(神野正博構成員:四病院団体協議会、全日本病院協会副会長)▼総合診療能力を獲得した医師の資格なども検討してはどうか(國土典宏座長代理:国立国際医療研究センター理事長)▼ベテラン医師・シニア医師も多忙であり、リカレント教育の受講にはハードルもあろう。既に獲得している専門性(専門医資格)を医師少数区域等で発揮してもらえるような「全国マッチング」(医師少数区域勤務を希望する医師と、医師少数区域の医療機関とのマッチング)も重要と考えられる(木戸構成員)—などの意見が出ています。具体的な支援内容や支援額などを今後の予算編成過程で詰めていくことになります。

医学部入学定員の「臨時定員」、医師偏在の存在に配慮しながら漸減していく

(3)の医学部入学定員については「漸減する」方針が固まっていますが、その中で▼個々の地域の実情や都道府県等の関係者の意見も踏まえ「医師の偏在対策に資する配分」を行う▼2026年度の臨時定員の配分方針等については、「総合的な対策のパッケージの検討状況」(本年末(2024年末)に決定)や「2025年度の臨時定員の状況」、「都道府県等の関係者の意見」を踏まえ、引き続き具体的な議論を行っていく—方向が示されました。

医学部入学定員は、▼恒久定員(下図の青色の部分)▼臨時定員(医師確保が必要な地域・診療科のための「暫定増」(下図の黄色の部分)・地域枠などを設定するための「追加増」(下図の赤色の部分))—で構成されます。臨時定員は、医師の地域偏在を是正するために2008年から設けられ、現在も継続されています。

医学部入学定員の構造(医師偏在対策検討会2 240226)



しかし、現在の医学部入学定員を維持すれば2029年頃から医師『過剰』になる」ことが明らかになっており、「臨時定員枠を徐々に縮小していく」方向が確認されています(関連記事はこちら)。

医師需給の最新推計によれば、早ければ2029年、遅くとも2032年に医師の需要と供給が均衡し、以後「医師過剰」となる(医師需給分科会(1)3 200831)



もっとも「依然として医師偏在が続いている」状況を踏まえれば、「単純な定員減」によって、医師少数地域等で「さらに医師不足度合いが厳しくなってしまう」可能性があります。そこで偏在対策検討会では、来年度(2025年度)の臨時定員を次のように見直すことを決定しています(関連記事はこちら)。
(a)医師多数県での対応方針
→原則として2024年度の臨時定員地域枠に0.8を乗じたうえで、必要に応じて(c)の対応を行う(つまり2割減(a)+α(c)とする)

(b)医師少数県での対応方針
→教育・研修体制が維持される範囲内で、医師多数県から削減等した定員数分((a))を活用して、原則として2024年度よりも増員の意向がある場合には、その意向に沿った配分を行う(増員を認める)

(c)残余臨時定員の調整
→上記(a)(b)の対応を行った結果、「2025年度の臨時定員総数」<「2024年度の臨時定員総数」となる場合には、「2025年度の臨時定員総数=2024年度の臨時定員総数」となる範囲内で、「恒久定員100名あたり、恒久定員内地域枠を4名以上設置している」など、更なる県内の偏在是正が必要な都道府県について次の調整を行う
▼医師多数県では、例えば2024年度臨時定員地域枠の1割など「一部の意向」を復元する(上述(a)の+α)
▼医師少数区域のある医師中程度県では、2024年度からの増員意向がある場合、「医師少数区域等に従事する枠となっているか」など、地域枠の趣旨の範囲内で配分を行う
▼臨時定員研究医枠について、2024年度からの増員意向がある場合には、その趣旨の範囲内で配分を行う



ところで、医師多数県における「定員減」は、大学(医学部)の経営に悪影響を及ぼす可能性もあります(学生・受験生が減ればその分、入学金等の収益が減る)。一方、医学生を増やすためには「教官の増員」もセットで行わなければならないため、医師少数県における大幅な定員増はなかなか実現しにくいのが実際です。

このため、厚労省は「2025年度の臨時定員」の状況(医師多数県における定員減の影響、医師少数県における定員増の効果など)などを見ながら、「2026年度以降の医学部入学定員(臨時定員枠)の在り方」を検討していく方針を示しています(具体的な内容を年明けから検討開始)。

その際、「医師多数区域であるが、高齢医師が多い(若手医師が少ない)」地域(徳島県や長崎県など)では、一定の配慮が必要との指摘もあります。

高齢医師(35歳未満)割合と医師偏在指標との関係(医師偏在対策検討会2 240920)



こうした地域では、時間の経過とともに「医師の高齢化→引退→しかし若手医師による補充がない→医師不足に陥る」可能性もあり、安易に「医師多数県ゆえに医学部入学定員を減じる」ことには危険を伴う可能性があります。このため、「定員減の一部復元を認める」「定員減を行わない」などの「配慮」の検討を求める声もあるのです(関連記事はこちら)。



こうした内容に異論は出ていませんが、「私立大学では恒久定員の中への地域枠設定が困難なことも考えられ、配慮などを検討してほしい」(小笠原邦昭構成員:日本私立医科大学協会)との指摘も出ており、今後の検討要素の1つになってくるかもしれません。

保険料を医療提供体制整備に支弁することに反対意見と肯定意見が混在

他方、(4)は診療科偏在の是正、とりわけ「医師不足が顕著な外科医の育成推進」を検討していくものです。

偏在対策検討会では、「急性期病院、手術の集約化」によって「医療の質向上」「医師の過重労働の軽減」が期待され、診療科偏在も是正されるのではないかとの議論を実施。「新たな地域医療構想等に関する検討会」において、診療科偏在の視点も持って「急性期病院の集約化」論議を進めてもらう方針を了承しています(関連記事はこちら)。

こうした点も踏まえて、厚労省は11月29日の偏在対策検討会に次のような方向案を提示しています。
(a)新たな地域医療構想に関する検討状況も踏まえて「医療の集約化」を図りつつ、必要とされる分野が若手医師から選ばれるための環境作りなど「処遇改善に向けた必要な支援」を実施する
(b)外科をはじめとする各診療科に関し、地域医療構想に関する議論を注視しつつ「専門研修制度における研修体制の在り方」などを日本専門医機構や関係学会等の関係者と検討する
(c)「外科医師が比較的長時間の労働に従事している」などの業務負担への配慮・支援等の観点での「手厚い評価」について、別途、必要な議論を行う



このうち(c)は、たとえば「外科医の給与増」に向けた補助金や診療報酬による手当てなどを別に検討することが考えられそうです。診療報酬は「医療機関に支払われる」ものであること、「各種要素を包括評価している」(例えば入院料では、医師・看護師等の業務コスト、ベッド使用のコストなどを一括して点数設定している)ことから、「外科医の給与増に直結させる」ことは難しそうです。しかし、たとえば2024年度診療報酬改定では手術・処置の【休日加算1・時間外加算1・深夜加算1】について「時間外等の手当等支給」を必須要件に格上げしており、これは「外科医の処遇改善を目指す診療報酬上の対応」の1つと言えそうです。このため「工夫をしながら、診療報酬で外科医の給与増を支援していく」ことも一定程度可能と考えられます。



こうした方針に対しては、▼外科に限らず「医師が少ない診療科の対応」とともに、「医師が過剰な診療科の漸減策」もセットで検討していくべき(神野構成員)▼「外科医」と他の診療科医師とで給与を変えられるような工夫をどこかで検討すべきではないか(國土構成員)—などの注文がついています。今後、どういった検討の場で、どういった議論が行われていくのか注目する必要があるでしょう。



以上見てきたように、(1)から(4)の医師偏在是正対策は概ね了承されています。ただし、神野構成員や印南一路構成員(慶應義塾大学総合政策学部名誉教授)、野口晴子構成員(早稲田大学政治経済学術院教授)は「今から、偏在対策の効果を検証する仕組み」を検討・実装すべきと強く要請。印南構成員は「最終アウトカムは医師偏在指標の改善などになろうが、それを把握・検証するには長い時間がかかる。ただし、広域連携型プログラムへの応募者数などの中間アウトカムは経時的に把握・検証可能であろう」と具体的に提案しています。あわせて野口構成員は「医療分野において労働市場がどうなっているのかが見えず、結果、医師偏在の原因等がどこにあるのかが明確でない。効果的な施策を立案するためにも医療分野の労働市場の可視化、つまりデータ化が重要である」と進言しています。

遠藤座長は、こうした注文・意見について厚労省と調整のうえで、「医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージ」の「医師養成過程関連部分のメニュー」に必要に応じて盛り込む考えです。



今後、他の医師偏在対策(規制的手法や経済的インセンティブなど)の検討が進み、それらとあわせて、本年内(2024年内)に「医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージ」が取りまとめられます。



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