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医師偏在対策に向けた経済的インセンティブの財源、一部を医療保険料に求めることに賛否両論—社保審・医療保険部会(1)

2024.11.28.(木)

「医師偏在対策に向けた経済的インセンティブ」の財源について、一部を医療保険料に求めることをどう考えるか—。

「外来医師が極めて多い地域において、クリニックを新規開業する場合などには、地域で必要な医療機能の提供を要請する」仕組みについて、要請に従わない場合に「保険医療機関指定」に関するペナルティを課すことをどう考えるか—。

11月28日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした議論が行われました。いずれについても賛否両論が出ており、さらに議論が継続されます。なお、同日の医療保険部会では「高額療養費制度の見直し」論議も行われており、こちらは別稿で報じます。

11月28日に開催された「第187回 社会保障審議会 医療保険部会」

保険料を医療提供体制整備に支弁することに反対意見と肯定意見が混在

Gem Medで報じているとおり、「医師の地域偏在、診療科偏在」対策に向けて、8月30日に示された「近未来健康活躍社会戦略」で示された「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」などをベースに、精力的に議論が進められています。

医師偏在対策(近未来健康活躍社会戦略2 240830)



例えば、「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」では、「医学入学定員の在り方」(医師多数県で減員→医師少数県へ振り替え)や、「総合診療能力を持つ医師の養成」(総合診療専門医の養成、ベテラン医師へのリカレント教育など)を検討(関連記事はこちら)。

11月20日に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、5つの具体案が厚生労働省大臣官房の高宮裕介参事官(救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)から提示され、さらに議論を重ねることとなっています。
(1)新たに「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師偏在是正プランの策定を求めて強力に医師偏在対策を進める
(2)医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の対象医療機関の拡大、医師少数区域等での勤務経験期間の延長を行う(規制的手法1)
(3)外来医師多数区域における新規開業希望者へ「地域で必要な医療機能」を要請する仕組みの実効性を確保する、保険医療機関の管理者要件を設定する(規制的手法2)
(4)経済的インセンティブを付与する
(5)中堅・シニア医師等と医師少数区域医療機関との全国的なマッチング機能支援や、都道府県と大学病院等の連携パートナーシップ協定締結を促す



このうち(3)では「要請にもかかわらず、地域で必要医療機能(在宅医療や公衆衛生など)を果たさないクリニックに対し、保険医療機関の指定期間短縮などを行ってはどうか」、(4)では「医師不足の地域で開業する医療機関や医師少数区域等に医師派遣を行う医療機関等に経済的インセンティブを付与することとし、その財源を公費だけでなく、一部、医療保険料にも求めてはどうか」といった提案がなされています(関連記事はこちら)。

こうした「医療保険にも関連する事項」については、医療保険サイドで十分に検討する必要があるため、り、11月28日の医療保険部会でも議論することとなりました。

まず「経済的インセンティブの財源を医療保険にも求めること」については、▼医療提供体制整備は国の指針の下で、都道府県が責任をもって行うことが基本である▼保険料は保険給付(診療行為)の対価であり、医療提供体制整備に支弁すべきではない(これを認めれば、他の医療提供体制整備にも医療保険料が際限なく充てられてしまいかねない)▼これまでの医療提供体制整備に、医療保険者等の声をどこまで反映してきたのかとなれば大きな疑問がわく▼現役世代の負担増につながってしまう—などの慎重・反対意見が佐野雅宏委員(健康保険組合連合会会長代理)や北川博康委員(全国健康保険協会理事長)、前葉泰幸委員(全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長)ら、医療費を負担・支払いする立場の委員から多数だされました。

また佐野委員は「仮に保険料を経済的インセンティブの財源に使うとしても、必要最小限とし、補助金(税財源)とのバランスを考慮し、まず補助金(税財源)を優先充当すべき」と付言しています。

もっとも、同じ医療費負担・支払者として参画する原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は、「国民健康保険制度が発足してから、何より心配されたのが『保険料は徴収するが、サービス(医療機関)がない』という事態であった。保険あってサービスなしの事態は何としても避けなければならない。こうした点を踏まえれば、手放しで賛同することは難しいが、医療保険料を医療提供体制整備に一部支弁する(=『経済インセンティブの財源の一部を医療保険で負担する』)ことにも合理性はある」と理解を示しています。

また学識者である伊奈川秀和委員(東洋大学福祉社会デザイン学部教授)も、「医療保険制度の財源は税と保険料のミックスであり、医療保険者にも医療提供体制整備に関する一定の義務を課すことに合理性はある」と述べ、インセンティブ財源に一部に保険料を充てることを公定しています。



他方、外来医師が極めて多い地域(大都市等)で新規開業するが地域で必要な医療機能を果たさない場合の「保険医療機関の指定に関するペナルティ(指定期間短縮、指定取り消しなど)」に関しては、▼必要な医療機能提供を行わない場合には「保険指定取り消し」も視野に入れ、更新時も含めて厳しい対応をとり、「実効性の確保」を図るべき(佐野委員)▼「保険指定取り消し」は事実上の開業制限であり、日本国憲法の「営業の自由」に抵触する恐れがあり、そこまでの対応はあり得ない(城守国斗委員:日本医師会常任理事)—と相反する意見が出ています。



このほか、医療保険に関連する部分に関しては、▼「全国一律である診療報酬で医師偏在に対応することはあり得ない」(城守委員)▼保険医療機関の管理者(院長等)に「保険診療経験」を求めることは望ましい(城守委員)—などの指摘も出されています。



医療保険部会では「医師偏在対策のうち『医療保険制度に関連』する部分』(上述の保険医療機関の指定や財源への保険料充当など)に集中した議論が期待されましたが、他の事項(医師少数区域での勤務を公的医療機関の管理者(院長等)要件にも拡大するなど)に関する意見も多数出され、議論が散漫になってしまっています。「複数の検討の場で同じ議論を繰り返しては意味がない。各審議会・検討会の所掌を踏まえた、実りのある議論が期待される」と厳しく見る識者も少なくありません。


なお、診療科間の医師偏在対策(外科医の確保)に向けて「急性期機能の集約化」が議論されている点について、中村さやか委員(上智大学経済学部教授)は「急性期機能の集約化により、医療の質が向上することが知られている。この背景として『症例が多く熟練する』ことが考えられるが、もう一つ『優れた医師・医療機関を患者が選択し、結果、治療成績が向上する』ことも考えられる。こうした点の分析を可能とするデータ整備にも力をいれてほしい」と要望しています。



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