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「医療保険制度での医師偏在対策」論議スタート、「保険料を保険給付『以外』に支弁する」ことに異論も—社保審・医療保険部会

2024.9.20.(金)

医師偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージの策定に向けて、医療保険制度の中で何ができるか—。

こうした議論が、9月19日の社会保障審議会・医療保険部会でスタートしました。「医師偏在解消に向けた総合対策」は本年内(2024年内)に固めることとなり、医療保険部会等でも積極的な議論が繰り広げられます。

9月19日に開催された「第182回 社会保障審議会 医療保険部会」

医師偏在の解消に向けた総合パッケージを、2024年内にまとめる

従前より「医師の地域偏在、診療科偏在」が大きな課題となり、さまざまな対策(▼医学部に「地域枠・地元枠」を設けるほか、臨床研修医・専攻医の大都市集中を防ぐためにシーリングを設ける(国による取り組み)▼各都道府県で「医師確保計画」(医療計画の一部分)を作成し、医師少数県・区域を中心に「医師確保」を図る(自治体による取り組み)▼医師働き方改革により上記を支える—)が講じられてきています。

医師偏在対策の全体像(医師偏在対策検討会1 240129)



その効果は徐々に現れています(例えば若手医師配置は医師多数区域よりも医師少数区域でより大きく伸びている)が、必ずしも十分とは言えません(2016年から20年にかけて医師偏在が進んでしまった)。

2016年から20年にかけて医師の地域偏在が助長されてしまっている(地域医療構想・医師確保WG(1)4 221027)



こうした状況を踏まえ、骨太方針2024では「医師偏在対策の総合的なパッケージ」を年内(2024年内)にまとめる方針を打ち出し、厚生労働省は、8月30日に「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医師偏在対策総合パッケージの骨子案」を提示。

医師偏在対策(近未来健康活躍社会戦略2 240830)



さらに武見厚生労働大臣を本部長とする「厚生労働省医師偏在対策推進本部」が9月5日に発足し、「医師偏在対策総合パッケージ」に向けた論点が整理されました(関連記事はこちら)。そこでは、▼保険医制度の中で、保険診療の質を高めつつ医師の偏在是正に向けて、どのような方策が考えられるか検討すべきではないか▼経済的インセンティブによる偏在是正を進めるにあたっては、国や地方のほか保険者等からの協力を得るなど、あらゆる方策を検討すべきではないか▼各取り組みを国、地方、医療関係者、保険者等がどのように協力して実施していくべきか—など、「医療保険制度での医師偏在解消対策」も検討テーマの1つに上がっています。



9月19日の医保険療部会では、こうした状況を踏まえて「医療保険制度での医師偏在解消対策」に関するキックオフ論議を実施。そこでは、次のようにさまざまな角度からの意見が出されました。既に開催された社会保障審議会・医療部会でも同様の意見が出されており、今後、厚労省による「論点整理→具体案の提示」をすることで、委員間の議論も具体性を帯びていくと予想されます。

医療保険制度での対応としては、効果の有無などはさておき、さまざまな手法が考えられます(医師多数の地域では「保険医」登録を制限する、医師多数の地域・少数の地域などで診療報酬にメリハリをつける、医師少数の区域等に医師派遣を行う病院を診療報酬で評価するなど)が、こうした具体的な議論に入る前に、費用負担者サイドからは▼外来医師多数区域での新規参入抑制と、医師少数区域での医師確保をセットで行うべき。その際、「規制的手法とインセンティブ付与との組み合わせ」が重要になることは理解できるが、「医療保険加入者の保険料を、保険給付以外に支弁する」となると、加入者に説明し、理解を得ることが現時点では難しいと言わざるを得ない(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼医療保険財源を活用した経済的インセンティブ付与は、保険料を負担する医療保険加入者の理解・納得は得られない。規制的手法で偏在対策を進めるべき(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)▼医療保険者にとって最重要課題は「医療費適正化」である。医師偏在対策と医療費適正化とがどう調和するのかという視点で議論を進めるべき(北川博康委員:全国健康保険協会理事長)▼医療保険料を納める企業からすれば、医療保険による医師偏在対策、とりわけ職域保険(健康保険組合や協会けんぽなど)にまで話が波及してくることに強い違和感を覚える。まずは既存の仕組み(地域医療介護総合確保基金など)を活用すべきであろう。偏在対策は、一義的には国・自治体の責務として行うべきである。ライフライン整備などを過疎地でどう考えていくのかなどの議論も参考にすべき(井上隆参考人:日本経済団体連合会専務理事、横本美津子委員:同連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長の代理出席)—などの慎重意見が出ています。「医師偏在対策として医療費増→保険料増となっては困る」と先読みした考えに基づく意見と言えます。

ただし、学識者からは「同じ保険料を納めながら、ある地域では医療サービスが充実し、別の地域では医療サービスが受けられないという不均衡は好ましくなく、均てん化が重要である」(伊奈川秀和委員:東洋大学福祉社会デザイン学部教授)との指摘も出ています。「同じ負担(=保険料等)をしているのであれば、受けられるサービス(=医療提供体制)も同等であるべき」との考えからすれば、「医療保険による偏在対策実施は合理的である」と考えられそうです。さらに議論を深めていくことが必要でしょう。

また、同じ医療保険者でも、医療提供体制の責任を一部担う国民健康保険サイドからは「中山間地や離島をはじめ、医療提供体制確保が困難な地域では、国保直営診療所(国保直診)を開設しているが、医師確保が極めて困難な状況に陥っている。地域では高齢化に伴い開業医が閉院するケースも増え、国保直診の負担が増していくため、従来にはない思い切った偏在対策を検討していく必要がある」との考えも出ています。関連して自治体サイド(都道府県、市町村)からも、▼医師偏在は極めて深刻な課題であり、地域の意見を踏まえながら総合的な偏在対策を検討すべきである▼偏在対策の議論経過・内容は、医療保険者でもある都道府県(国民健康保険の財政責任は都道府県が負っている)にも十分に情報提供し、都道府県の意向も踏まえて決定すべき▼偏在対策・医師確保にかかる自治体の費用負担は大変重い。偏在対策は国費、あるいは地方自治体への十分な財政措置をもって行うべき—との注文がついています。医師偏在対策の重要な柱である「医師確保計画」の責任者は都道府県であり、その意見を重視すべきことは述べるまでもありません。

また、キックオフ論議ということもあり、医師偏在の是正に向けて▼「管理者要件の拡大」よりも、むしろ臨床研修や専門研修、今後拡大するかかりつけ医研修などを活用して、すべての医師が「医師少数区域等で一定期間勤務する」ような仕組みを検討すべきであろう(島弘志委員:日本病院会副会長)▼偏在対策では「様々な手法の組み合わせ」が必要となる。偏在解消は重要課題だが、それが地域医療に悪影響を及ぼしてはいけない(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼偏在対策は、患者の医療へのアクセスも一定程度重視し、「細かな地域単位」で考える必要があろう。リカレント教育や医師以外の医療従事者の偏在対策なども検討していく必要がある(伊奈川委員)▼患者は「よい医師がいる」と聞けば県をまたいでも受診する。そうした点も考慮して偏在の実態・是正策を検討すべきであろう。また、大学医学部において「地域医療従事の重要性、尊さ」などをしっかり教育することが何よりも重要ではないか(横尾俊彦委員:全国後期高齢者医療広域連合協議会会長/佐賀県多久市長)▼インセンティブ付与・お金だけでは人は動かないのではないか。地方勤務を厭う理由などを十分に勘案する必要がある(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)—など、幅広い意見も出されました。

今後、具体的な「医療保険による医師偏在対策」案が厚労省から示され、それをもとに具体的な議論が進んでいきます。

NDBからのデータ提供手数料を見直し、公益性の高い研究では「減額」の仕組みも

9月19日の医療保険部会では、次のようにNDB(National Data Base、医療保険のレセプト・特定健診のデータを格納)から第三者(研究者等)へデータ提供を行う際の手数料改正について報告が行われました。大きくは、▼クラウド環境でのデータ提供を円滑に進めるために、根拠に基づく積算を行い、手数料(現在は1時間あたり9000円)を引き上げる▼ただし、公益性の高い研究などを推進するために「手数料減額」の仕組みを設ける(高齢者の医療の確保に関する法律施行令では、これまで「免除」の仕組みしか設けられていないが、「減額」の仕組みも設ける改正を行う)—ものです。

NDB手数料見直し1(手数料を根拠に基づいて引き上げる)(社保審・医療保険部会1 240919)

NDB手数料見直し2(公益性の高い研究などでは減額を行う)(社保審・医療保険部会2 240919)

NDB手数料見直し3(手数料減免の概要)(社保審・医療保険部会3 240919)

NDB手数料見直し4(手数料50%減額の対象者)(社保審・医療保険部会4 240919)



なお、一部委員からは「手数料のさらなる減額」を求める声も出ていますが、厚労省保険局医療介護連携政策課の山田章平課長は「欧米先進国では公的医療データベースからのデータ提供は数百万円超と聞いており、我が国では引き上げを行っても非常に低い手数料水準となっている」と説明しています。



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