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認定医療法人制度を2029年末まで延長、一般社団法人立医療機関にも「都道府県への財務諸表届け出」など義務化—社保審・医療部会(1)

2024.11.29.(金)

持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行促進策の一環である「相続税・贈与税の優遇を受けられる【認定医療法人】」制度について、現時点では「再来年(2026年)12月31日まで」の措置とされているが、持ち分あり医療法人がいまだ多くあり、さらに「持ち分なし医療法人」への移行を促進する観点から、当該制度を「さらに3年間延長」(2029年12月31日)する—。

一般社団法人立の医療機関が増えているが、状況を確認することが困難なため、医療法人と同程度の確認を可能とすべく、開設時や毎会計年度ごとに財務諸表を都道府県に届け出ることを求める仕組みを新たに設ける—。

こうした方針が11月28日に開催された社会保障審議会・医療部会で了承されました。厚生労働省は関連法令の整備等を進めます。同日には「医療DXの推進」(医療情報の2次利用推進、オンライン診療の法制化)や「医師偏在対策」、「美容医療の適切な実施」なども議題となっており別稿で報じます。

持分あり→持分なし以降進めるため、認定医療法人制度を2029年12月末まで延長

「認定医療法人制度の延長」「一般社団法人立医療機関の状況確認」ともに、医療の「非営利性」確保を目指すものです。

医療法第54条には「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」と定められ、これが「医療の非営利性」に関する根拠の1つとされます。

株式会社では、利益を上げ、それを出資者(株主)に配当することが求められます。しかし医療法人でこれを認めれば、出資者(医療法人であれば理事)が「配当が多くなるような、つまり利益が上がる医療を行いなさい。利益の出ない小児医療などから撤退しなさい」などと求めるケースが出てくるでしょう。これは地域住民、より広く見れば我々日本国民全体にとって極めて不幸であり、こうした事態を避けるために医療法第54条(医療の非営利性)が設けられていると考えられています。

なお、この非営利性を「医療機関は儲けを追求してはいけない」と誤解する向きもありますが、「儲け」がなければ新たな人材確保も、設備投資等も行うことができません。医療機関も当然、「利益」を上げることが求められている点を十分に認識する必要があります。

ところで、現在の医療法人では、この非営利性を確保するため、さらに地域医療体制を維持・確保するために「持ち分を有さない」ことが求められています【持分なし医療法人】。例えば、医療機関の剰余金(利益)は出資者(理事)に配当が行えないため「内部に留保する」ケースが多くなることから、経営努力を続けることで「各理事の持ち分」も大きくなるケースが多くなります。その際、理事の死亡などが生じた場合には莫大な相続税や贈与税が発生し、税金支払いなどのために「医療法人を解散する」(=現金化する)などの事態が生じる恐れも否定できないのです(当然、地域医療提供体制に大きな悪影響が生じる)。このため、新設する医療法人は、すべて【持分なし医療法人】であることが求められています。

一方、従前は「持分あり医療法人」が認められていましたが、上記の非営利性確保などのために、「持分あり」から「持分なし」への移行が強く求められています。

もっとも、「即座に持分を放棄してほしい」と求めることは出資者(理事)にとって非常に酷なため、厚労省は「一定の要件を満たすことを厚生労働大臣が認定した持分あり医療法人」(以下、認定医療法人)については、持分なし医療法人に移行した場合に相続税などを猶予する(税制を優遇する)仕組みを設けています。

認定医療法人と認められれば、持分なし医療法人への移行期間中(最大3年)に、▼出資者の相続に係る相続税を猶予・免除する▼出資者間のみなし贈与税(出資者の一部が持分を放棄し、他の出資者の持分となる場合に贈与税が課される)を猶予・免除する―という税制上の特例優遇措置を受けられます(持分なしへの移行インセンティブ)。

認定医療法人となるためには、一定の要件を満たすことが求められ、現在は▼社員総会の議決がある▼移行計画が有効かつ適正である▼移行計画期間が3年以内である▼法人関係者に利益供与しない▼役員報酬が不当に高額にならないように定めている▼社会保険診療報酬収益が収益全体の8割以上(自由診療が少ない)―ことなどとなっています(従前「役員数要件などが厳しすぎる」と指摘され、2017年10月に要件が行われた、関連記事はこちらこちらこちら)。

改定認定医療法人制度の概要



●認定医療法人制度の詳細はこちら(厚労省サイト)



この認定医療法人制度によって、徐々に「持ち分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行が進んでいます。

しかし、昨年度末(2024年3月末)時点の状況を見ると、全体で約5万9000の医療法人のうち、「持分なし」は38%(約2万3000法人)にとどまり、62%(約3万6000法人)は「持分あり」のままです。さらに「移行を促進する」必要があるでしょう。

この点、認定医療法人制度は「再来年(2026年)12月31日まで」の措置とされていますが、過去の状況に照らしても、あと2年強で「3万6000ほどある『持分あり医療法人』のほとんどが、『持分なし医療法人』に移行できる」とは考えにくい状況です。そこで厚労省は、さらに「持ち分なし医療法人」への移行を促進する観点から、認定医療法人制度を「さらに3年間延長する」(2029年12月31日)方針を提案しました(税制の優遇措置の延長については、2026年度の税制改正要望事項とする予定)。

認定医療法人制度の延長(社保審・医療部会(1)1 241128)



医療部会では、「持分あり法人はまだ全体の6割超を占めており、認定医療法人制度は延長してほしい」(加納繁照委員:日本医療法人協会会長)、「認定医療法人制度が廃止されれば、持分ありのままの医療法人は『廃業する』と判断する可能性も高く、地域医療提供体制に大きな悪影響が出てしまう。3年延長後も継続を考えてほしい(黒瀬巌委員:日本医師会常任理事)との意見が出され、厚労省提案は了承されました。関係法令等の整備が進められます。

一般社団法人立医療機関、医療法人と同様に「都道府県への財務諸表届け出」など義務化へ

次に後者の一般社団法人立医療機関について見てみましょう。

近年、比較的簡易な手続きで設置できる「一般社団法人」による医療機関の開設事例が増加しています。厚労省が都道府県を通じて調べたところ、昨年(2023年)時点で、82病院(2019年に比べて6施設増)、780クリニック(同396施設増)、151歯科クリニック(同42施設増)が設置され、「美容医療分野での開設」が増加傾向にあるようです。

一般社団法人も、医療法人と同様に「非営利組織」(出資者に配当を行ってはならない)ですが、都道府県では▼開設後に定款、役員、資産等について監督ができない▼業務に制限がない(医療法人では医療提供が主体とする旨の規定あり)ため、医療機関経営に支障が生じ、医療提供の質が低下しかねない—という課題を感じています。

このため、厚労省医政局総務課の坪口創太医療政策企画官(大臣官房情報化担当参事官室併任)は、まず▼一般社団法人立医療機関についても、「医療法人と同程度の確認」が可能となるよう、開設時や毎会計年度後に財務諸表等を都道府県に届け出るよう求める▼都道府県が一般社団法人立医療機関に関する「非営利性」を確認するためのポイントを厚労省から示す—ことを提案し了承されました。今後、関係法令(医療法施行令(政令)や医療法施行規則(厚労省令)など)の見直しが行われます(法令改正や適用時期などは今後、調整)。

一般社団法人立医療機関の非営利性徹底(社保審・医療部会(1)2 241128)



なお、▼現行でも、9都県で「開設時の非営利性確認のための基準等設定」が、3都県では「監督・指導のための基準等」が定められており、好事例として他の道府県に周知すべき(加納委員)▼「県を跨いで医療機関を設立する」一般社団法人もあると思われ、統一的な監督・指導が行える仕組みを整えるべき(黒瀬委員)▼一般社団法人立医療機関の実態をより正確に把握し、実効性のある監督・指導を行ってほしい(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)—との注文が付いたほか、都道府県サイドからは「事前の都道府県への情報提供や、都道府県との意見調整などを十分に行ってほしい」との要望が出ています。

こうした声も踏まえて、運用の詳細が定められていきます。



同日の医療部会では、「医療DXの推進」(医療情報の2次利用推進、オンライン診療の法制化)や「医師偏在対策」、「美容医療の適切な実施」なども議題となっており別稿で報じます。



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