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持分なし医療法人への移行促進するため、認定医療法人の要件を実質緩和し期間を延長―社保審・医療部会

2017.1.18.(水)

 次期医療法改正の内容が、18日に開かれた社会保障審議会・医療部会で了承されました。これまでに了承されている「医療機関のウェブサイト(ホームページ)などにおける虚偽・誇大などの表示規制」などのほか、「持分なし医療法人への移行計画の認定制度の要件見直しと延長」「医療機関開設者に対する監督規定の整備」などが行われます(関連記事はこちらこちらこちら)。

 厚生労働省医政局総務課の中村博治課長は、「今後、与党と調整し、予算非関連法案として医療法等改正案を近く開かれる通常国会に提出し、早期の成立を目指す」とコメントしています。

1月18日に開催された、「第50回 社会保障審議会 医療部会」

1月18日に開催された、「第50回 社会保障審議会 医療部会」

持分なしへの移行に際し贈与税が課税されないよう、認定医療法人の要件見直し

 医療法などの改正案は、次のように整理されました。

(1)持分なし医療法人への移行計画の認定制度延長(医療法改正のほか、財務省が相続税法改正を行う)

(2)医療機関開設者に対する監督規定の整備(医療法を改正する)

(3)妊産婦の異常の対応などに関する説明の義務化(保健師助産師看護師法を改正する)

(4)看護師などに対する行政処分に関する調査規定の創設(保健師助産師看護師法を改正する)

(5)検体検査の品質・精度管理に関する規定の創設(医療法、臨床検査技師等に関する法律を改正する)

(6)特定機能病院のガバナンス改革に関する規定の創設(医療法を改正する)

(7)医療機関のウェブサイトなどにおける虚偽・誇大などの表示規制の創設(医療法を改正する)

 

 (1)は「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行促進を狙うもので、現在の「一定要件を満たすと厚生労働大臣が認定した持分あり医療法人(認定医療法人)が持分なし法人に移行した場合、相続税などの猶予をする」仕組みを一部見直し、期限を延長するものです(関連記事はこちら)。

 現在、認定医療法人として認定されるためには▼社員総会の議決▼移行計画が有効かつ適正である▼移行計画期間が3年以内―という要件を満たすことが必要です。認定医療法人であれば、持分なし法人への移行期間(最大3年)において、▽出資者の相続に係る相続税を猶予・免除する▽出資者間のみなし贈与税を猶予・免除する―という税制上の特例措置を受けられます。

 しかし現在は、認定医療法人となっても「相続税などが不当に減少する」場合には、医療法人に対して贈与税が課税されてしまいます。また贈与税が課税されるか否かは税務当局の定める解釈通知で定められており、そこには「理事6名以上・監事2名以上」「役員における親族の割合が3分の1以下」「医療計画に医療機関名の記載がある」など厳しい要件が規定されています。この厳格な基準がネックとなり、持分なし医療法人への移行が十分に進んでいないと指摘されます(認定件数は2016年9月末時点で61件、移行完了は13件にとどまっている)。

 厚労省はこの指摘を重視。認定医療法人の要件について、上記のほかに▼法人関係者に利益供与しない▼役員報酬が不当に高額にならないように定めている▼社会保険診療報酬収入が全体の8割以上(自由診療が少ない)―ことなど(贈与税非課税となる要件から、クリア困難な役員数などを除外している)を追加した上で、「認定医療法人となれば、出資者の相続税を猶予・免除するとともに、医療法人に贈与税を課税しない」仕組みへと見直すこととしています(財務省との協議済)。また認定期間が「2020年9月」まで延長(現在は2017年9月まで)されます。

医業承継の際に相続税などの納付を猶予する特例について、一部見直しを行った上で適用期限を3年間延長する

医業承継の際に相続税などの納付を猶予する特例について、一部見直しを行った上で適用期限を3年間延長する

 認定医療法人の要件だけを見ると厳格化されていますが、「医療法人に対する贈与税非課税」をあわせて見ると「要件緩和」となっており、厚労省では「持分なし法人への移行が進むのではないか」と見通しています。

 加納繁照委員(日本医療法人協会会長)や山崎學委員(日本精神科病院協会会長)は、「画期的な前進である」と厚労省を賞賛しています。

医療法人以外への病院に対し、法令違反などへ柔軟に対応することを可能に

 (2)は、医療法人以外の医療機関開設者に対して「法令違反などに段階的な対応をとる」ことを可能とするものです。

 医療法では、医療法人が法令違反などを行った場合、▼立入検査▼改善措置命令▼業務停止命令▼役員解任勧告―という段階を踏んだ対応をとり、それでもなお是正が見られない場合に初めて「法人設立認可の取り消し」を行うこととしています。

 しかし医療法人以外の病院などについては、法令違反などに対して「物件提出命令」を行う以外に、中間の対応規定が整備されておらず、ダイレクトに「開設許可の取り消し」「閉鎖命令」を出すことになってしまっています。これでは、違反の程度などに応じた柔軟な対応がとれません。そこで医療法を改正し、医療法人以外の病院などに対して、▼立入検査▼改善措置命令▼業務の全部または一部停止命令―という中間的な対応措置をとることを可能とするものです。

 

 また(3)は分娩時の急変に対して助産所から医療機関への連絡がなく母子が死亡とする痛ましい事故が発生した点を踏まえて、「助産所の管理者に対し、妊産婦の以上に対応する医療機関名などについて、担当助産師が妊産婦へ書面で説明することを義務づける」ものです。

 

 さらに(4)は看護師などへの行政処分を行う際に、医師・歯科医師に対して認められている「厚生労働大臣の調査権限」を同様に認めるものです。刑事罰を受けるなど、著しい非行が認められた医療従事者に対しては業務停止や資格剥奪といった行政処分が行われますが、看護師については「刑事罰が科せられない場合には事実関係を行政庁が任意に調査する」ことになっており、協力が得られないケースもあるといいます。こうした仕組みを改善し、適切な行政処分を行うことを可能とするものです。

院内での検体検査の品質確保に関する基準、検討会を設けて議論

 (5)は、すでに医療部会で概ね了承されているもので、▼医療機関自ら行う検体検査について、品質・精度管理に係る基準を定めるための根拠規定を新設する▼ブランチラボなどに業務委託される検体検査について、精度管理に係る行政指導の実効性を担保するために品質・精度管理に係る基準を省令で定める旨を明確にする▼新たな検査技術の精度管理・安全性に柔軟かつ迅速に対応するために、検体検査の分類を省令に委任する―という見直しを医療法・臨検法について行うものです。

 この点、昨年(2016年)10月20日の医療部会では「院内の検体検査について厳しい基準を設けることは好ましくない」との意見が数多く出されたことから、中村総務課長は「具体的な基準について研究班で検討を行い、さらに別途検討会を設置し(改正法成立後の予定)、関係者間で議論してもらう」との方針を明確にしました。加納委員は「院内と業務委託では性質が異なる、検討会でしっかり議論したい」とコメントしています。

特定機能病院の開設者に「管理者へ管理権限」を明確化する義務

 (6)は、特定機能病院において重大な医療事故が発生したことを踏まえ、適切なガバナンスを確保するために、▼一層高度な医療安全管理体制が必要である点を医療法で明確にする▼開設者に対して、適切な管理者の選任、監査委員会の設置などを義務付け、管理者が医療安全を確保できるようにする―との医療法改正が行われます。後者では、省令の中で「管理者選任に当たっては、公正な選考委員会を設置する」ことなどが規定される予定です。

 なお、昨年(2016年)12月8日に開催された前回の医療部会では、このほかに「『すべての医療機関の管理者に管理運営権限がある』ことを医療法上、明確にしてはどうか」との提案が厚労省から行われていました。しかし委員からは「これまでに議論していない事項である」といった指摘が相次ぎました。

 そこで中村総務課長は、先の提案を翻し「特定機能病院の開設者に対して、管理者が管理運営業務を遂行するために必要な権限を明確化することを義務づける」規定を設けてはどうかと提案しなおしています。ここでは「特定機能病院の管理者に管理運営権限がある」ことを明確化するにとどめているのではなく、「開設者(理事長など)が、管理者にどのような権限を付与しているかを明確にする」よう義務付けている点に留意が必要です。

 

 また(7)は、医療機関ホームページが「広告ではない」点を維持したまま、虚偽・誇大などの表示をした場合に広告と同様の是正命令や罰則付与を行うことを可能とするものです(関連記事はこちら)。

公立病院による在宅医療進出や地域包括ケア病棟設置をどう考えるか

 18日の医療部会では、厚労省医政局地域医療計画課の佐々木健課長から、2018年度からの新たな医療計画策定に向けた「医療計画の見直し等に関する検討会」の意見が報告されました。この点に関連して中川俊男委員(日本医師会副会長)からは「公立病院が在宅医療に参入したり、地域包括ケア病棟を設置したりする事例があるが、民間医療機関が在宅医療を担うことができない地域を除き、公的病院によるそうした動きを積極的に行うことは避けるべき旨を明確にしてはどうか」との要望が出されました。地域の医療機関について、機能分化を進めるとともに、地域での役割を明確化すべきとの考えに基づく要望と言えそうです。

 しかし新井正吾委員(全国知事会、奈良県知事)や邉見公雄委員(全国自治体病院協議会会長)は「地域の実情に合わせて在宅医療体制の整備や機能分化を進めるべき」とし、中川委員の提案に強く反対しています。

 

 なお、厚労省からは昨年(2016年)12月22日に「「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が行った中間的な議論整理が報告されましたが、邉見委員や山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)からは「これまで医療従事者の需給に関する検討会(需給検討会)などで議論された内容の域を出ていない。ビジョン検討会の議論と並行して需給検討会や分科会を動かすべきではないか」との要望が出されています(関連記事はこちら)。

 ビジョン検討会では今年度内に意見をまとめ、それを基に需給に関する議論を行い、さらにそれを待って医療計画における「医療従事者の確保に関する記載事項」についての考え方が厚労省から都道府県に示される予定です。したがって医療計画策定に向けた考え方(解釈通知など)は、「現在固まっている部分」と「医療従事者の確保に関する部分」との2段階で示される可能性が高く(佐々木地域医療計画課長)、こうした点からもビジョン検討会に対する強い批判が多くの委員から相次いでいます。

  
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