すべての医療機関の管理者に、自医療機関の管理運営権限あることを明確化すべきか―社保審・医療部会
2016.12.9.(金)
医療法を改正して、すべての医療機関の管理者(院長など)に「当該医療機関の管理運営権限がある」ことを明確化すべきか―。
8日に開催された社会保障審議会の医療部会では、この点を巡って激論が交わされました。
厚生労働省は、この点に加えて、▼高度かつ先進的な医療を提供する特定機能病院において、高度な医療安全管理体制の確保が必要である▼特定機能病院の開設者は、管理者が医療安全管理などを適切に行うことを担保するための体制確保責任を持つ―ことを、医療法を改正して明確にしたい考えです。
目次
特定機能病院のガバナンス強化に向け、管理者(病院長)の選考プロセスを規定
東京女子医科大学病院と群馬大学医学部附属病院で重篤な医療事故が発生したことを受け、塩崎恭久厚生労働大臣は「特定機能病院における安全確保体制の改善やガバナンスの確保が必要である」とし、省内にタスクフォースを設置。その結論を踏まえて、今年(2016年)6月には特定機能病院の承認要件を見直す(医療安全管理責任者の配置や外部監査の義務化など)とともに(関連記事はこちらとこちらとこちら)、ガバナンスの確保に向けた検討(大学附属病院等のガバナンスに関する検討会)を続けていました。
検討会では、9月に次のような意見を取りまとめています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
(1)病院として適切な意思決定を行うための体制を構築するため、▼病院管理者に「病院の管理運営のために必要な一定の人事・予算執行権限」があることを明確化する▼法人(大学法人)の理事会・執行役員会などに管理者(病院長)を参画させ、病院側の意向が勘案させるようにする―ほか、病院長をサポートする体制の充実や、病院幹部が病院の管理運営に係る重要事項を審議する「病院運営に関する会議」を設置する、などの対応を図る
(2)病院の管理運営に対するチェック・牽制などのため、▼外部有識者を含む理事会・監事などによるチェック▼コンプライアンス体制(内部規定や通報窓口など)の整備▼情報開示の推進―などを進める
(3)管理者(病院長)の選定においては、▼各病院では、管理者に求められる「医療安全確保のための能力」「管理運営上必要な能力」に関する基準を予め公表する▼広く候補者を募り、必要な基準に照らして適任か否かを外部有識者を含めた「選考委員会」などで厳正に審査する(選考委員の名簿や選定理由を公表)▼審査結果を踏まえて、任命権者が自らの責任で先行し、その結果・選定理由などを遅滞なく公表する―といったプロセスを経る
こうした検討会意見を踏まえて、厚労省は医療法を改正し、▼高度かつ先進的な医療を提供する特定機能病院において、高度な医療安全管理体制の確保が必要である▼特定機能病院の開設者は、管理者が医療安全管理などを適切に行うことを担保するための体制確保責任を持つ―ことを、8日の医療部会で提案し、了承されました。
なお改正医療法の成立を待って、特定機能病院の管理者選考プロセスに関する規定が医療法施行規則などに盛り込まれることになります。
一般病院の管理者(院長)の権限明確化、主に「手続き」に関して委員から批判
ところで(1)にあるように、特定機能病院の院長には「その病院の管理運営権限がある」ことを明確にすべきとされています。
しかし、「病院の管理運営権限」は、何も特定機能病院の院長に限ったものではなく、すべての医療機関の管理者(院長など)が当然、保持しているものと言えます。そうでなければ、管理者に課せられた重い責務・任務を果たすことはできません。そこで厚労省医政局総務課の中村博治課長は、「医療法には、医療機関の管理者にはさまざまな責務が課されている(例えば、医療機関の管理や、さまざまな報告義務など)が、それを果たすための『権限』に関する規定がない。このため、特定機能病院だけに管理運営権限があると規定することは法制上バランスを欠く可能性があり、『すべての医療機関の管理者に管理運営権限がある』ことを医療法上、明確にしてはどうか」と提案しました。
この提案については、楠岡英雄委員(国立病院機構理事長)や菊池令子委員(日本看護協会副会長)は「管理者の当然の権限であり、明確にする必要がある」と一定の理解を示しましたが、多く委員から「手続きが乱暴である」といった批判が出されました。
中川俊男委員(日本医師会副会長)や相澤孝夫委員(日本病院会副会長)、西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)らは「特定機能病院の議論をしながら、『ついでに』といった具合に、全医療機関に広げていくのは乱暴である。検討会なりで議論し、積み上げた結果を医療部会に提案すべきではないか」とし、慎重な検討が必要との強く求めました。
こうした批判を受け、中村総務課長は「省内で検討し、改めて提案する」とし、今回の提案は一度収めることになりました。なお、尾形裕也委員(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)は、「仮に特定機能病院の管理者にだけ管理運営権限があることを医療法に明記した場合、どういったアンバランスが生じるのかなどを示してほしい」と要望しています。
ビジョン検討会の設置・運営について、委員の不満・不安は募る一方
8日の部会では、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の状況などについて報告を受けました。
将来の医療従事者の需給については、「医療従事者の需給に関する検討会」とその下部組織である分科会(医師、看護師など)で議論を行います。特に医師については、今後の医学部入学定員にも影響するため、今年(2016年)5月に非常に精緻な試算を行い、中間とりまとめが行われています。
しかし、厚労省は「働き方の変化」などを勘案してより詳細に推計することとし、上記のビジョン検討会を設置。ここで「将来の働き方」などに関する議論を先に行うことになりました。
このプロセスについて10月20日の前回会合では委員から不満・批判が噴出。8日の会合でも、多くの委員から「異例かつ非礼である」(尾形委員)、「異常事態である」(中川委員)といった強い批判の言葉が相次ぎました。また、木戸道子委員(日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長)は、「ビジョン検討会では医師の働き方・勤務状況に関する全国調査を行うとしているが、そのアンケート項目では、例えば、夜勤の状況について『当直』の選択肢がないなど、あまりにずさんである」とし、ビジョン検討会での議論に強い不安を覚えていることを強調しています。
ただし中川委員は批判するだけではなく、厚労省医政局の幹部に対し「私は厚労省の事務方を信頼している。できるだけ早期に『正常』な状態に戻るよう体を張ってほしい」とのエールも送りました。板挟みになっている事務方の心情を慮ってのものです。
ビジョン検討会では、前述の全国調査(年明け2月上旬に結果報告の見込み)を経た上で、将来の働き方について検討。年度内に意見をまとめる予定です。医師需給などについては、この意見を踏まえて、改めての推計がなされる見込みですが、当初予定から大幅に遅れることになります。また、喫緊の課題とも言える「医師偏在対策」の議論については、どのタイミングで再開されるのかも明らかになっておらず、医療現場の不満・不安は募るばかりです。
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