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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

医師の地域偏在に向け、JCHOの尾身理事長が「保険医資格」の見直しに言及―医師需給分科会

2016.10.11.(火)

 医師の診療科偏在是正に向けて「全国および各地域の診療科ごとのニーズをベースにして、都道府県あるいは2次医療圏ごとの、一定の幅を持たせた「各診療科別の専攻医(専門医を目指す医師)の研修枠」を設定してはどうか。また、地域偏在の是正に向けて、保険医登録、あるいは保険医療機関の責任者の条件として、「一定期間、医師不足地域で勤務する」ことを求めてはどうか―。

 6日に開催された、医療従事者の需給に関する検討会「医師需給分科会」で、参考人として出席したJCHO(地域医療機能推進機構)の尾身茂理事長は、このように提案しました。

 後者の「保険指定の見直し」について、分科会では賛同する委員がいる一方で、「強制的な地域への派遣は、医師のモチベーションを下げてしまうのではないか」という指摘もあります。

 分科会および検討会では、年内に偏在対策に関する方策をまとめる予定です。

10月6日に開催された、「第8回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

10月6日に開催された、「第8回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

診療科偏在対策として「研修枠を、地域偏在対策として「保険医資格」見直しを

 医師の診療科・地域偏在はかねてから大きな問題になっており、分科会でも「偏在を是正するためにどのような方策をとるべきか」というテーマが重要な検討課題の1つに据えられています。

 そうした中で、地域の医療関係者を中心に「新専門医制度が、地域の医師偏在を助長させる可能性が高い」という指摘があり、新専門医制度を運営する日本専門医機構の執行部が刷新され、また新専門医制度について「一度立ち止まって、見直す」ことになった点はこれまでにもメディ・ウォッチでお伝えしています(関連記事はこちらこちらこちら)。

 6日の分科会には日本専門医機構の吉村博邦理事長(地域医療振興協会顧問、北里大学名誉教授)が参考人として出席し、新専門医制度をめぐる現状について詳細に説明しました。機構では、新たなプログラムに基づく新専門医制度の一斉スタートを言わば「1年間延長」するとともに、地域偏在対策などについて改めて検討を行っています。

 また同じく参考人として出席したJCHOの尾身理事長から、次のような提案も行われました。

(1)医師の診療科偏在是正に向けて「全国および各地域の診療科ごとのニーズをベースにして、都道府県あるいは2次医療圏ごとの、一定の幅を持たせた「各診療科別の専攻医(専門医を目指す医師)の研修枠」を設定する(合意形成し、混乱を避けるために数年程度の時間をかけることが必要)

(2)地域偏在の是正に向けて、「保険医登録、あるいは保険医療機関の責任者の条件として、「一定期間、医師不足地域で勤務する」ことを求める

(2)の考え方は、これまでに分科会でも指摘されているもので、複数の構成員から「このくらいやらなければ、偏在を是正できない」と賛同する意見が出されました。前の中央社会保険医療協議会長であった森田朗委員(国立人口問題・社会保障研究所長)は、「我が国では、医療提供体制も含めて診療報酬でコントロールをしてきているが、患者数が減っていく中ではコントロールが難しくなることも考えられる。大規模改革をしなければ医療保険制度が持続可能性を失うということも非現実的ではなく、今後、保険医の定数制など、保険の視点からの医師偏在対策を検討することも重要である」との考えを述べています。

 しかし分科会では「強制的な地方への派遣では、医師のモチベーションが下がってしまうのではないか」「徴兵制のような手法で、今の時代にそぐわないのではないか」といった慎重意見も出ています。

 親組織である「医療従事者の需給に関する検討会」の中間とりまとめでも、▽将来的に医師偏在などが続く場合には、十分ある診療科の診療所の開設については、保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めて検討する▽特定地域・診療科で一定期間診療に従事することを、臨床研修病院、地域医療支援病院、診療所などを管理者の要件とすることを検討する―といった、かなり「強制的」な偏在対策を今後検討していく考えが示されています(関連記事はこちらこちら)。

 もちろん、こうした手法をとれば一定程度、偏在是正の効果が生じることに疑いはありません。ただし、厚生労働省幹部の中には「強制的な手法で地方(例えば過疎地)に派遣された医師が、高いモチベーションをもって地域医療に従事できるだろうか」「そして何より、そういった医師にもとに受診することを地域住民が喜ぶだろうか」という点を危惧しています。従前より、例えばへき地医療などに従事する医師は「地域医療に貢献したい」という誇りと志を持って、自ら地域に向かっています。地域住民もそれを汲み、感謝と尊敬の念を持って医師を迎え入れています。強制的な手法が、こうした構図を崩してしまわないか、今後も十分な議論が求められます。

  

 なお、地域偏在対策の具体例として、徳島県保健福祉部の鎌村好孝次長から、▼医学生を対象とした「夏期地域医療研修」▼県医師会と連携した勤務環境・処遇改善などの支援▼地域枠・医師修学資金貸与の実施▼徳島大学医学部への寄付講座「総合診療医学分野」の設置▼県と徳島大学が連携した総合メディカルゾーン構想(隣接する県中央病院と徳島大学病院との間に連結橋を設置し、物理的にも制度的にも連携を深める)―などを行っていることが報告されました。

地元出身者が、地元の医療機関に勤務する割合が高い―厚労省調べ

 また6日の分科会では、厚労省から、次のように「A県出身でA県の大学医学部に入学した(地元出身の)医学生は、(地元である)A県で勤務する割合が高い」というデータも提示されました。

▼地域枠の入学者よりも、地元出身者(大学と出身地が同じ都道府県の者)の方が、臨床研修修了後、大学と同じ都道府県に勤務する割合が高い

地域枠よりも、地元出身者のほうが、地域定着率が高いと言える

地域枠よりも、地元出身者のほうが、地域定着率が高いと言える

▼出身地が大都市部(6都府県、東京・神奈川・愛知・大阪・京都・福岡)であるかどうかによらず、地域枠の入学者よりも、地元出身者の方が、臨床研修修了後、大学と同じ都道府県に勤務する割合が高い

大都市でみても、それ以外の地方でみても、地域枠と地元出身者の定着率の関係に大きな違いはない(地元出身者のほうが定着率が高い)

大都市でみても、それ以外の地方でみても、地域枠と地元出身者の定着率の関係に大きな違いはない(地元出身者のほうが定着率が高い)

▼地域枠の入学者であるかどうかによらず、地元出身者の方が、臨床研修修了後、大学と同じ都道府県に勤務する割合が高い

地域枠であるかないかに関わらず、地元出身者は地元定着率が高いことがわかる

地域枠であるかないかに関わらず、地元出身者は地元定着率が高いことがわかる

 

 また、ノルウェーの研究では「地方で教育された地方出身の医学生は、卒業後、地元に定着する確率が高い」(homecoming salmon仮説:サケは生まれた川に帰ってくる)ことがわかっている点も報告されています。

ノルウェーの研究でも「地元出身者の地元定着率が高い」ことが明らかになっている

ノルウェーの研究でも「地元出身者の地元定着率が高い」ことが明らかになっている

 現在、医学部入学定員の中に地域枠(卒後、一定の期間、大学の指定する医療機関での従事が求められるなど)が設けられていますが、権丈善一構成員(慶應義塾大学商学部教授)は、「かつて1県1大学構想はhomecoming salmonの考え方に沿ったもので、上手く機能いていたが、バブル崩壊後、都市部の進学校出身者で医学部定員が占められるようになり、この構図が崩れていったのではないか。段階的に地域枠を地元枠に見直して行ってはどうか」との見解を示しています。

 

 なお、6日の分科会には、「医師需給の推計について、新設された『新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会』(ビジョン検討会)の議論を踏まえて、最終取りまとめを行う」という方針が厚労省当局から説明されました。

 医師需給については、地域医療構想の考え方をベースとして、「早晩、医師の需給が均衡し、それ以降は医師の供給数が過剰になる」という推計結果が示されました(関連記事はこちらこちら)。

▽上位推計:2033年頃に約32万人で医師需給が均衡 → 2040年には約1.8万人の医師供給過剰

▽中位推計:2024年頃に約30万人で医師需給が均衡 → 2040年には約3.4万人の医師供給過剰

▽下位推計:2018年頃に約28万人で医師需給が均衡 → 2040年には約4.1万人の医師供給過剰

将来の医師需給の試算結果、早晩、供給量が需要量を上回ることが明確に(上位推計でも2033年以降は医師供給過剰になる見込み)

将来の医師需給の試算結果、早晩、供給量が需要量を上回ることが明確に(上位推計でも2033年以降は医師供給過剰になる見込み)

 しかし、親組織などで一部構成員から「医師の労働環境改善を十分に織り込むべきではないか」との指摘があり(関連記事はこちら)、また塩崎恭久厚生労働大臣の意向も手伝って、最終取りまとめの中で「ビジョン検討会の見解」を盛り込んだ推計を改めて行うことになったものです。

 これについて検討会では「説明を受けていない」「ビジョン検討会には臨床現場の人間がいない、人選に大きな問題がある」といった非難が相次いでいます。親組織の座長でもある森田委員も、「分科会とビジョン検討会とで意見が異なればおかしな話になる」と、両者間で意見の整合性をしっかりととることが必要との考えを強調しています。

厚生労働省は、医師需給・看護師需給などについて、ビジョン検討会の検討結果を踏まえて、最終推計をする考えである

厚生労働省は、医師需給・看護師需給などについて、ビジョン検討会の検討結果を踏まえて、最終推計をする考えである

 
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