将来の医師需給踏まえた上で、医学部入学定員「臨時増員措置」の一部は延長する方針―医療従事者の需給検討会
2016.4.21.(木)
医師不足が深刻な都道府県などに対する医学部入学定員の緊急増員措置の効果はまだ明らかでないことから、当面、継続してはどうか―。
20日に開かれた「医療従事者の需給に関する検討会」とその下部組織である「医師需給分科会」との合同会合で、厚生労働省はこうした方針案を提示しました。
目次
医師不足が深刻な都道府県などを対象に、医学部の入学定員を臨時増員
医学部の入学定員は、現在、8269名の「恒久定員」【図の青色の部分】と993名の「臨時定員」の合計9262名と設定されています。
このうち後者の「臨時定員」は次のように区分して考えることができます。一部は2017年度まで、一部は2019年度までとなっています。
(1)新医師確保総合対策(2006年)に基づいて、「医師不足が特に深刻」な10県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)と自治医大について、それぞれ「最大10名」まで増員する(2008-2017年度)【図の黄色の部分の下段】
(2)緊急医師確保対策(2007年)に基づいて、医師確保が必要な地域や診療科に医師を確保・配置するために、厳しい条件の下、都道府県ごとに「最大5名(北海道は15名)」まで増員する(2009-2017年度)【図の黄色の部分の上段と中段】
(3)経済財政改革の基本方針2009と新成長戦略(2010年)に基づき、都道府県の地域医療再生計画等に基づき、地域医療に従事する明確な意思をもった学生に奨学金を貸与し、大学が地域定着を図ろうとする場合の医学部定員について、都道府県ごとに「毎年原則10名までの増員など(140名まで増員可能)」を行う(2010-2019年度)【図の赤色の部分】
2018-33年に医師の需給は均衡、その後は医師過剰になると厚労省は試算
このような増員が認められているものの、3月31日の前回分科会では、次のように「早晩、医師の需給が均衡し、それ以降は医師の供給数が過剰になる」という推計結果が示されました(関連記事はこちら)。
▽上位推計:2033年頃に約32万人で医師需給が均衡 → 2040年には約1.8万人の医師供給過剰
▽中位推計:2024年頃に約30万人で医師需給が均衡 → 2040年には約3.4万人の医師供給過剰
▽下位推計:2018年頃に約28万人で医師需給が均衡 → 2040年には約4.1万人の医師供給過剰
さらに、医師の資格を得るためには医学部で6年間の教育を受けて国家試験に合格する必要があり、臨床に従事するためには2年間の初期臨床研修を受ける必要があります。さらに、3-5年の専門研修を加味すれば、「医師養成には10数年程度が必要」と考えられます。すると、中位推計でも、「すでに将来的な供給過剰が見込まれる」状況であることが分かります。
こうした点を踏まえて、近く期限が切れる前術の「臨時増員措置」をどう考えるべきかが、検討テーマとなっているのです。
臨時増員のうち「医師不足への対応」に関する部分は当面、延長してはどうか
厚労省は、需給推計を踏まえ、臨時増員措置を次のように考えてはどうかとの方針案を提示しました。
●(1)の(2)の臨時増員措置【図の黄色の部分】:当面、延長する
●(3)の臨時増員措置【図の赤色の部分】:本当に必要な増員かどうか慎重に精査する
前者の「(1)と(2)の臨時増員を延長する」根拠について、厚労省は▽そもそも医師不足が深刻な都道府県などを対象としている▽効果検証がまだできていない(2008年に医学部に入学した人は、早くても昨年度に初期臨床研修を終えたばかり)―という理由を挙げました。
一方、後者の「(3)の増員の必要性を慎重に精査する」考え方について、厚労省は前述の需給推計結果(早晩、医師過剰になる)をベースに説明しています。
この厚労省提案に対しては、医学部入学定員増に異論を唱えている日本医師会を代表する今村聡構成員(日本医師会副会長)からも明確な反対はありませんでした。
ただし構成員からは、次のような指摘がなされています。
「需給推計にあたっては医師の労働環境改善を十分に織り込むべきではないか」(勝又浜子構成員:日本看護協会常任理事、加納繁照構成員:日本医療法人協会会長ほか)
「まず医師の負担を減らすために、補助対策の拡充が重要である」(荒川哲男構成員:全国医学部長病院長会議会長、松原謙二構成員:日本医師会副会長)(関連記事はこちらとこちら)
また多くの構成員からは、別途お伝えした「地域偏在の是正」の重要性が改めて強調されました。例えば西澤寛俊構成員(全日本病院協会会長)は、「北海道では札幌こそ医師が多くいる(十分かどうかは議論あり)が、その他の地域では圧倒的に医師が不足している」ことを指摘。さらにエリア特性として「広い地域に住民が散在している」ことから移動に時間もかかる点も西澤構成員は指摘し、「地域ごとにきめ細かく分析する必要がある」と強調しています。
次回会合(5月19日開催予定)に向け、厚労省は、構成員の意見を踏まえた更なる調整を行う模様です。
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