将来の医師需要、地域医療構想の4機能に沿って機械的に推計、3月末に試算結果公表―医師需給分科会
2016.3.3.(木)
「将来、どの程度の医師数が必要になるのか」を推計する手法について、3日に開かれた医療従事者の需給に関する検討会「医師需給分科会」が大枠を固めました。
入院医療については、地域医療構想で打ち出された▽高度急性期▽急性期▽回復期▽慢性期―のそれぞれについて、一定の幅を持たせて推計します。
外来医療については、無床のクリニックでの外来医療部分、在宅診療部分について、それぞれ一定の幅を持たせて推計します。
また介護・福祉に関しては介護老人保健施設における医師需要を、さらに臨床に携わらない大学医学部などの研究者数などを推計することになります。
厚生労働省は3月31日に開催される予定の次回会合に、一定の推計値を報告する構えです。
安倍内閣が昨年(2015年)6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2015」は、「人口構造の変化や地域の実情に応じた医療提供体制の構築に資するよう、地域医療構想との整合性の確保や地域間偏在等の是正などの観点を踏まえた医師・看護職員等の需給について、検討する」よう厚労省に指示しています。
医師需給分科会では、この指示を踏まえて将来の医師需要(必要医師数)を推計することとし、これまでに「入院医療、外来医療、介護福祉に分けて推計する」基本的な方針が固められました。
3日の医師需給分科会では、さらに詳細な推計方法について議論し、次のような大枠を固めています。
【入院医療】
(1)一般病床・療養病床の医師需要について、医師・歯科医師・薬剤師調査で得られた「医療施設(病院・診療所)の従事者数」から推計する
(2)(1)の結果を、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4機能に按分する。按分方法としては、「4機能における平均的な医療資源投入量に基づく方法」や「現状の病床機能報告制度などを活用する方法」など、いくつかの仮定を置いて、『複数の推計値』を示す(関連記事はこちらとこちらとこちら)
(3)精神病床について、「性・年齢階級別の推計人口」と「性・年齢階級別の入院受療率」に基づいて医師需要を機械的に推計する
【外来医療】
▽無床診療所で外来医療を提供している部分の医師需要を推計する(病院・有床診療所については、入院医療の医師需要に包含して推計している)
▽「性・年齢階級別の推計人口」と「性・年齢階級別の外来受療率」に基づき、さらに受療の動向(患者調査や社会医療診療行為別調査を活用)を踏まえて、医師需要を推計する
▽在宅医療については、外来需要とは分離して、「将来、慢性期から在宅に移行する」部分を含めて医師需要を推計する
【介護・福祉分野】
▽介護老人保健施設における医師需要を持って「介護・福祉分野の需要」とする
▽医師・歯科医師・薬剤師調査で得られた「介護老人保健施設の医師数」と、将来の介護老人保健施の入所者に基づいて医師需要を推計する
【臨床以外に従事する医師】
▽医師・歯科医師・薬剤師調査の結果を基にして、「医育機関などの従事者」「産業医」「行政機関の従事者」「保健衛生業務の従事者」数を推計する
これらの中で、外来医療について「無床診療所で外来医療を提供している部分の医師需要を推計する(病院・有床診療所については、入院医療の医師需要に包含して推計している)」という点が気になります。しかし、これは「病院・有床診療所の必要医師数を低く見積もる」という趣旨ではありません。厚労省医政局地域医療計画課の迫井正深課長は、「現在でも病院などでは、入院医療と外来医療の両方を提供しており、将来も同様と考える。病院における外来医療の医師需要は、入院医療の医師需要の中に包含されていると考えて推計する」旨の説明を行っています。
ところで、こうした推計は「現在の医療体制で、必要な医療需要に概ね対応できている」という前提に立って行われます。仮に「今後、認知症施策が変わっていくので、それを見込む必要がある」などと考えると、試算を行うことが極めて困難になってしまうからです。
しかし、「認知症施策の変化」や「医師の労働環境の変化」などを全く考慮しないわけにはいきません。そのため厚労省は一定の補正を行って、幅を持たせた推計を行う方針を示しています。
推計結果は、今後の医学部入学定員にも影響を及ぼす可能性があります。医学部の入学定員については、骨太方針や新成長戦略に基づいて2017年度まで暫定的に増員することになっています。今回の推計で「将来の医師需要に対し養成数が足らない」という判断がなされた場合には、将来の医学部入学定員を増員する措置が採られる可能性も出てくるからです。
こうした時間的制約があるため、医師需給分科会は4月中に中間報告をまとめるというスケジュールが組まれています。一方、現在「精神保健医療福祉」の見直しに向けた検討が進められていますが、これを待って試算することは時間的制約から認められません。この点について厚労省医政局地域医療計画課の迫井正深課長は、「精神医療に関する将来の医師需要推計結果が、本体の『精神保健医療福祉の見直し』論議に影響を及ぼすことはない(推計結果に基づいて、精神医療提供体制の議論を行うことはない)」点を確認しています。
厚労省このような推計手法に基づいた試算結果を、3月31日に開催される予定の次回会合に提示する考えです。なお、厚労省医政局医事課の渡辺真俊課長は、「中間報告は、『医師需要の推計』と『医師偏在の是正』の2本立てとする」と述べ、次回以降、両テーマについて議論してほしいと構成員に要請しています。
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