医学部定員「臨時増員」の一部を当面継続、医師偏在対策を見て20年度以降の定員を検討―医療従事者の需給検討会
2016.5.19.(木)
現在、医学部の入学定員については、(1)「医師不足が特に深刻」な青森など10県における増員(2)医師確保が必要な地域や診療科に医師を確保・配置するための都道府県ごとの増員(3)地域医療に従事する明確な意思をもった学生などに配慮した増員―という臨時増員措置が行われています。
19日に開かれた「医療従事者の需給に関する検討会」と、検討会の下部組織である「医師需給分科会」は、この臨時増員措置のうち(1)と(2)は「当面延長」し(現在は2017年までとなっている)、(3)は「慎重に精査」することを内容とする「中間とりまとめ」を概ね了承しました。
また、(3)の増員措置が切れる2020年度以降について、今後詰められる医師偏在対策の効果などを見ながら、医学部の入学定員そのものを検討していく方針も固めています。
目次
医師不足地域などを考慮し、2008年度から医学部入学定員を臨時増員している
医学部の入学定員は、現在、「恒久定員8269名」に、「臨時定員993名」を加えた形で設定されています(合計9262名)。臨時定員は「地域の医師不足を補充する」ことなどを目的に設けられているもので、具体的には次の3つとなっています。
(1)新医師確保総合対策(2006年)に基づいて、「医師不足が特に深刻」な10県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)と自治医大について、それぞれ「最大10名」まで増員する(2008-2017年度)【図の黄色の部分の下段】
(2)緊急医師確保対策(2007年)に基づいて、医師確保が必要な地域や診療科に医師を確保・配置するために、厳しい条件の下、都道府県ごとに「最大5名(北海道は15名)」まで増員する(2009-2017年度)【図の黄色の部分の上段と中段】
(3)経済財政改革の基本方針2009と新成長戦略(2010年)によって、都道府県の地域医療再生計画等に基づき、地域医療に従事する明確な意思をもった学生に奨学金を貸与し、大学が地域定着を図ろうとする場合の医学部定員について、都道府県ごとに「毎年原則10名までの増員など(140名まで増員可能)」を行う(2010-2019年度)【図の赤色の部分】
(1)と(2)の臨時増員は来年度(2017年度)で期限が切れてしまいます。そこで、来年度の医学部入学希望者募集までに、これを終了すべきか、継続すべきかを決めなければならないのです。
医師の需要・供給の推計によれば、2018-33年度以降は医師過剰時代に
ところで検討会と分科会では、地域医療構想などを踏まえて将来における医師の需要量と供給数を推計しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。その結果、次のように推計の前提によって差はあるものの、現在のペースで医師養成を行っていけば、近い将来、医師が過剰になることが分かりました。
▽上位推計(医師需要が最も大きくなると仮定):2033年頃に約32万人で需給が均衡し、2040年には医師が1.8万人過剰となる
▽中位推計(一定程度、医師需要が大きくなると仮定):2024年頃に約30万人で需給が均衡し、2040年には医師が3.4万人過剰となる
▽下位推計(医師需要が最も小さくなると仮定):2018年頃に約28万人で需給が均衡し、2040年には医師が4.1万人過剰となる
医師不足が深刻な地域のための臨時増員は当面「延長」することに
将来、医師が過剰となるので「医学部入学定員を増加させる必要はない」(つまり臨時増員は終了すべき)とも思えますが、これはあくまでマクロ(日本全国)の推計で、地域によっては医師不足・偏在が厳然として存在するのです。
そこで、検討会・分科会では、医学部入学定員について次のような考え方をまとめました。
▼(1)と(2)の臨時増員については、「医師不足が深刻な地域を対象としたものである」「効果が現れていない(制度開始に入学した学生が、臨床研修をこの3月に終えたばかり)」といった点を考慮して、当面「延長」する
▼(3)の臨時増員については、上記の推計を踏まえて、「本当に必要な増員であるかどうか」を慎重に精査する
▼2020年度以降(臨時増員がすべて終了)については、臨時増員の効果や、今後の医師偏在対策の効果などを検証したうえで、検討会・分科会で検討していく
図で見ると、黄色部分が延長されるので、2017年度の医学部入学定員は少なくとも9262人が維持される見込みです。また点線で囲んだ赤色部分については「慎重に精査」されるので、増加が認められない可能性もあります。「精査」の基準については、厚生労働省・文部科学省が示す通知などの中で、一定の考え方が示される見込みです。
なお、(1)(2)の臨時増員延長に関連して、北村聖構成員(東京大学大学院医学系研究科附属医学教育国際研究センター教授)は「奨学金や教育環境充実などに関する財政支援を考えてほしい」と要望しています。前者については厚生労働省、後者については文部科学省が、来年度(2017年度)予算編成に向けて検討していく見込みです。
ところで、医師偏在を放置すれば、地域住民が医療に適切にアクセスする機会を奪うことにもなるため、偏在を是正する具体的な方策が必要です。厚労省は、医療従事者の自主性を重視した偏在対策を採っており、小児科や産科などの医師数が増加するなど一定の効果が上がっていますが、全体としてみれば十分とは言えないのが実際です。そこで検討会・分科会では、別途お伝えするように、偏在是正策についてもメニュー(是正策案)を固めており、これから年末にかけて具体的な仕組み・制度に仕上げていくことになります。
【関連記事】
将来の医師需給踏まえた上で、医学部入学定員「臨時増員措置」の一部は延長する方針―医療従事者の需給検討会
2024年にも需給が均衡し、その後は「医師過剰」になる―医師需給分科会で厚労省が推計
将来の医師需要、地域医療構想の4機能に沿って機械的に推計、3月末に試算結果公表―医師需給分科会
地域医療構想策定ガイドライン固まる、回復期は175点以上に設定
「混乱招く」と医療需要の計算方法は全国一律に、地域医療構想ガイドラインの検討大詰め
高度急性期は3000点、急性期は600点、回復期は225点以上と厚労省が提案-地域医療構想GL検討会(速報)
医療機関の自主的取り組みと協議を通じて地域医療構想を実現-厚労省検討会