医師偏在の是正に向けて、「自由開業・自由標榜の見直し」を検討へ―医療従事者の需給検討会
2016.4.21.(木)
医師の地域・診療科偏在を是正する方策として、「新専門医を目指す専攻医の募集定員について、診療領域ごと、地域の人口・症例ごとの枠を設けること」や「十分ある診療科の診療所の開設について一定の制限を設けること」などを検討してはどうか―。
20日に開かれた「医療従事者の需給に関する検討会」とその下部組織である「医師需給分科会」との合同会合で、このような方向が示されました。
目次
地域医療構想や人口動態を勘案した「将来の医療従事者の需給」を検討
医療従事者の需給に関する検討会では、地域医療構想や人口動態の変化を勘案し、「将来の医療ニーズはどの程度になると見込まれ、そのニーズに応えるためには医療従事者がどれだけ必要になるのか」を検討しています。
医療従事者の需給は日本全体(マクロ)で検討されるのが常ですが、地域ごと・診療科ごとの偏在を放置したままでは、「日本全体では需給バランスが取れているが、地域や診療科によっては大幅な不足・過剰が出てしまう」ことになります。
そこで検討会の下に設置された医師需給分科会では、「将来の医師需給」だけでなく、「医師の偏在是正策」も重要な検討課題としています。
20日には検討会と分科会の合同会合が開かれ、中間とりまとめに向けた議論が行われました。中間とりまとめは、(1)医師偏在対策(2)当面の医師養成数―の2点について考え方が整理される見込みです。
今回は、(1)の「医師偏在対策」に焦点を合わせてみます。
医師偏在対策その1:医学部『地域枠』の在り方を検討
医師偏在対策は、▽直接的な対策▽間接的な対策―の2本立てで行う方向です。
前者の「直接的な対策」では、まず医学部入学定員のうち「地域枠」の在り方を検討する方針が掲げられました。厚労省の分析によれば、「医学部卒業後の勤務地として出身地を選択する傾向がある」ことなどが分かっています。「卒業後の地域定着がより見込まれるような地域枠の在り方」が検討されることになりそうです。なお、3月31日に開かれた前回分科会で一戸和成構成員(青森県健康福祉部長)は「卒業後に一定期間、大学が設置されている県内で勤務すること求めるなど、地域枠の運用を厳格化すべき」と強く訴えています(関連記事はこちら)。
医師偏在対策その2:新専門医を専攻する医師の定員枠を地域別・診療領域別に設定
また2017年4月から新たな専門医の養成が開始される予定ですが、日本医師会や病院団体からは「研修プログラムが大学病院・基幹病院に偏っており、医師偏在を助長する可能性が高い」との指摘があります。養成プログラムを審査する日本専門医機構や厚労省もこの点を重視し、「地域に配慮した」調整などを重層的に進めていく方針を打ち出しています(関連記事はこちらとこちら)。
新専門医制度について、検討会・分科会では▽地域における調整などに関する権限を明確化する▽専攻医の募集定員について、診療科ごとに、地域の人口・症例数などに応じた「地域ごとの枠」を設定する―ことを検討してはどうかと提案する見込みです。
後者の「地域ごとの枠」について福井次矢構成員(聖路加国際病院院長)は、「各診療領域が独自に定員枠を設定してしまっては意味がない。将来的には初期臨床研修の『マッチング』のような仕組みが必要になるのではないか」とコメントしています。
医師偏在対策その3:自由開業・自由標榜の見直しや保険医定数などを検討
わが国では自由開業・自由標榜が認められていますが、検討会では「ここに一定の規制を加えることを検討してはどうか」とも提案する見込みです。具体的には次の2点です(関連記事はこちら)。
▽地域医療計画(都道府県が作成)において、医師数が不足する特定の診療科・地域などについて、「確保すべき医師数の目標値」を設定し、専門医などの定員の調整を行えるようにする
▽将来的に医師偏在が続く場合には、十分ある診療科の診療所の開設について、「保険医の配置・定数の設定」や「自由開業・自由標榜の見直し」を含めて検討する
厚労省はこれまで医師偏在の是正に当たり「規制」的な手段は用いてきませんでした。それは、「強制的に地域に派遣された医師が、高いモチベーションをもって地域住民のための診療を行えるか」「また、そうした医師からの医療提供を地域住民が望むか」という視点を重視したためで、いわゆる「医師のプロフェッショナルオートノミー」を尊重したものと言えるでしょう。
しかし、日本医師会と全国医学部長病院長会議会長が行った『医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言』の中では、「医師の地域・診療科偏在の解決のためには、医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」ことが明記されているように、プロフェッショナルオートノミーが必ずしも十分には機能していない実態があることから、一定の規制の検討が正式に提案されることになりそうです。
この点、神野正博構成員(全日本病院協会副会長)も「地域、診療科の両方で何らかに規制が必要な時期に来ているのではないか」と賛意を示していますが、北村聖構成員(東京大学大学院医学系研究科附属医学教育国際研究センター教授)は「規制でモチベーションを維持できるだろうか。慎重に検討する必要がある」と述べています。
憲法22条第1項の「営業の自由」にも関係する可能性があるテーマであり、どのような議論が行われるのか注目が集まります。
医師偏在対策その4:フリーランス医師への対応を検討
また昨今、「フリーランス医師」の問題が大きく取り上げられています。例えば、不足が指摘された麻酔科の医師が、特定の病院には所属せずに、フリーランスとなり、各病院から多額な報酬を得ていることが知られています。
検討会では、医師の資格や専門性が有する「公益性」を踏まえて、フリーランス医師や多額の紹介料・給料を要する者への対応を検討してはどうかと提案する見込みです。
この点について荒川哲男構成員(全国医学部長病院長会議会長)や邉見公雄構成員(全国自治体病院協議会)は、「フリーランス医師を派遣する業者について、まず厚労省への届け出を義務付けることから開始すべき」と要望。
邉見構成員は、「麻酔の担当医が術前・術後の回診を行わない場合には、診療報酬を大幅に減額するなどの厳しい対応をとるべき」とも付言しています。
早ければ5月19日予定の次回会合で中間取りまとめも
このほか医師偏在対策として、▽医師の出身大学・医籍登録番号・就業形態・登録施設などを紐付けできるデータベースを構築する▽地域医療支援センターの機能を強化する▽特定地域・診療科での従事経験を、臨床研修病院・地域医療支援病院・診療所などの開設者・管理者の要件とすることを検討する▽医療機関の事業承継における優遇税制を検討する▽女性医師の就労継続・復職支援の取り組みを推進する▽ICTを活用した医師の負担軽減を行う―ことなどが提言される模様です。
検討会と分科会では、早ければ次回(5月19日開催予定)の会合で中間取りまとめを行う見込みです。
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