病院の経営窮状等踏まえ入院時食事療養費を20円アップ、薬価中間年改定で2466億円の国民負担軽減―福岡厚労相
2024.12.25.(水)
病院の経営窮状等踏まえ、来年度(2025年度)から入院時食事療養費を20円アップする。あわせて歯科や調剤でも一定の診療報酬対応(引き上げ)を行う—。
薬価については、すでに決定された内容の中間年改定(2025年度改定)を行うことで、薬剤費ベースで2466億円、国費ベースで648億円を削減する—。
また、現役世代の保険料負担軽減・セーフティネットの確保のバランスを考慮し、医療費の自己負担を一定額に抑える「高額療養費」制度について、上限額の引き上げと所得区分の細分化を段階的に実施する—。
来年度(2025年度)の予算案編成に向けて、12月25日に福岡資麿厚生労働大臣と加藤勝信財務大臣が折衝を行い、こうした内容を決定しました。
来年度(2025年度)の社会保障関係費は、夏の概算要求時点では「4100億円増」が見込まれていましたが、薬価中間年改定を含むさまざまな「圧縮」が図られる一方、他の充実等により「56000億円増」の38兆2800億円となります。
目次
入院における食費基準額を「20円」引き上げ、入院医療の担い手である病院経営を支援
物価や人件費等の高騰により、病院をはじめとする医療機関等の経営状況が極めて厳しい状況に陥っているとの悲鳴が医療現場が出ています(診療報酬は公定価格であるため、物価高騰等のコストを各医療機関等が自前で価格に転嫁することはできない、関連記事はこちら)。
こうした状況の中、後述する薬価引き下げにより生まれた財源(上記薬剤費・医療費ベースで2466億円、国費ベースで648億円)について「その一部を物価・人件費高騰に苦しむ医療機関等の経営支援に充ててほしい」との声も小さくありません(関連記事はこちら)。
そこで両大臣の折衝により、▼入院時の食事基準額の引き上げ▼口腔機能指導・歯科技工士との連携に係る加算への上乗せ▼服薬指導に係る加算への上乗せ―に一部財源を充当することも決まりました。ここでは医科外来への手当てが盛り込まれておらず、両大臣が「入院医療の担い手である病院の経営支援をまず行わなければならない」と強く意識したものと伺えます。なお、調剤の加算上乗せは「保険薬局(調剤薬局)において、長期収載品にかかる選定療養の導入により、患者への説明負担が大きくなっており、この点に配慮してほしい」との声もあったことを踏まえたものとされています。
詳細は別稿で報じますが、入院時の食事基準額については「1食当たり20円」の引き上げが行われ、例えば【入院時食事療養(I)】(1食につき)では、(1)の「(2、流動食のみ)以外の食事療養を行う場合」が現行「670円」のところ「690円」に、(2)の「流動食のみを提供する場合」が現行「605円」のところ「625円」となります。
なお、この場合の患者負担について「低所得者への配慮」を行うため、社会保障審議会・医療保険部会で「所得区分等に応じた配慮」が検討されます。
厚労省は「来年(2024年)4月からの引き上げ」を念頭に置いています。
高額療養費の上限引き上げ・区分細分化を段階実施、70歳以上外来特例も一部見直し
また、医療保険部会では「高額療養費の見直し」論議も行われており、12月25日の両大臣折衝で次のように見直すことが決まりました(関連記事はこちら)。患者負担が急激に上がることを避けるため、また医療保険者(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)のシステム改修時間を確保するため、「段階的な見直し」が行われます。
【第1段階】(来年(2025年)8月-再来年(2026年)7月)
▽上限額の引き上げのみを行う
→例えば「70歳未満・年収約370-770万円」の人では、現行「8万100円+医療費の1%」(多数回該当の場合には4万4400円)が歴月の自己負担上限であるところ、来年(2025年)8月-再来年(2026年)7月には「8万8200円+医療費の1%」(多数回該当では4万8900円)に引き上げる(10%の引き上げ)
【第2段階】(最来年(2026年)8月-2027年7月)
▽所得区分の細分化を行い、一部区分について上限額を新たに設定する
→例えば「70歳未満・年収約370-770万円」については、次の3区分とする
▼(据え置き)年収約370-510万円:上限額は8万8200円+医療費の1%(多数回該当では4万8900円)
▼(新)年収約510-650万円:上限額は10万800円+医療費の1%(多数回該当では5万5800円)
▼(新)年収約650-770万円:上限額は11万3400円+医療費の1%(多数回該当では6万3000円)
【第3段階】(2027年8月以降)
▽一部の所得区分について上限額を引き上げる
(例)
▼年収約370-510万円:上限額「8万8200円+医療費の1%(多数回該当では4万8900円)」を据え置く
▼年収約510-650万円:上限額「10万800円+医療費の1%(多数回該当では5万5800円)」を「11万3400円+医療費の1%(多数回該当では6万3000円)」に引き上げ
▼(新)年収約650-770万円:上限額「11万3400円+医療費の1%(多数回該当では6万3000円)」を「13万8600円+医療費の1%(多数回該当では7万6800円)」に引き上げ
また、70歳以上高齢者の「外来特例」(外来受診が多い特性を踏まえ、より低い自己負担上限を設定する仕組み)についても、「年収約370-770万円」の区分について再来年(2026年)8月から月額上限を1万引き上げる(現行の1万8000円上限→2万8000円上限へひきあげ)などの見直しが行われます。
2025年度薬価中間年改定により薬剤費ベースで2466億円、国費ベースで648億円を削減
Gem Medで報じているとおり、来年度(2025年度)には薬価の中間年改定(引き下げ)が行われます。既に決定しているとおり、▼イノベーション評価が重要な「加算品目」や、安定供給確保が求められる「後発品」では、薬価引き下げを限定的に行う(倍率を高くし、引き下げ品を少なくする)が、革新性の低い新薬(加算対象外)などは、薬価引き下げを広範に行う(倍率を低くし、多くの品目で薬価を引き下げる)▼これまでの実勢価格連動ルールに加えて、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の累積控除を行う—ことなどにより薬価を引き下げ(薬価を市場実勢価格(医療機関等が実際に購入している価格)を踏まえて引き下げ)、結果として「国民の医療費負担軽減」「医療保険制度の持続性確保(支出を減らす)」を狙うものです。
もっとも単純な「薬価引き下げ」ではなく、創薬イノベーションの推進・医薬品の安定供給確保の要請にきめ細かく対応できるよう、「医療上の必要性が特に高い医薬品の薬価引き上げ(不採算品再算定)」や「最低薬価の引き上げ」なども行われます(関連記事はこちら)。
これら(薬価の引き下げ+引き上げ)を総合すると、薬剤費・医療費が2466億円、うち国費が648億円削減される見込みです。
なお、こうした中間年改定に対しては▼中間年改定実施を決めた2017年末のいわゆる4大臣合意当時とは物価高騰・人件費高騰など、状況は大きく異なっている▼2年に一度の薬価制度改革(通常改定)と中間年改定で薬価が急速に引き下げられ、製薬メーカーや保険薬局(調剤薬局)の体力も急速に弱くなっている—ことなどを背景に「廃止・中止」を求める声も小さくありません(関連記事はこちら)。
両大臣はこうした声にも耳を傾け、「今後の「診療報酬改定のない年の薬価改定」(中間年改定)について、創薬イノベーションの推進、医薬品安定供給の確保、国民負担軽減といった要請にバランスよく対応する中で、その在り方について検討する」考えを示しました。
併せて、その際には▼長期収載品に係る内容については、後発医薬品への置換えの状況等について検証しつつ、さらなる長期収載品の薬価上の措置を検討する(より強力に長期収載品→後発品シフトを後押しする)▼診療報酬改定のある年にのみ適用されてきた【市場拡大再算定】(予想よりも大幅に売り上げが伸びた医薬品の薬価引き下げ)についても、国民負担の軽減と創薬イノベーションの推進とのバランスを踏まえ検討する▼これらの検討状況について、来年(2025年)末に中間的なフォローアップを実施し、その結果を公表する—ことを明確にしています。
このほか医薬品に関連して、両大臣は次のような点も合意しています。
▽「費用対効果評価」について、▼対象範囲の拡大▼実施体制の強化▼適切な評価手法の検討▼薬価制度上の活用方法▼診療現場での活用方策—など、今後の在り方について具体的な検討を進める
▽「選定療養の仕組みを用いた、長期収載品における保険給付の在り方」について、▼患者の動向▼後発品への置換え状況▼医療現場への影響—も含め、実態を把握した上で、更なる活用に向けて引き続き検討する
▽「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」に示された▼薬剤定額一部負担▼薬剤の種類に応じた自己負担の設定▼市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し—について、引き続き検討を行う。
▽後発品安定供給の実現に向け、「少量多品目生産の非効率な生産体制の解消に向けて計画的に生産性向上に取り組む後発品企業」を支援するため、法改正など所要の措置を講じた上で、医薬基盤・健康・栄養研究所に【後発医薬品供給支援基金】(5年)を造成する
→「企業間の連携・協力・再編」を強力に後押しするために、国が「企業の取り組みを認定する」枠組みを法的に整備し、薬事・薬価面での対応も含めて「後発品業界の再編促進」に向けた方策を検討する
→官民連携の下、企業、大学等が安定的・継続的に創薬に取り組み、実用化につなげることができるよう、国内外の多様なプレイヤーの参画を促す観点から、「安定的・継続的な支援の在り方」を上記法改正までを目途に検討し、結論を得る
新たな地域医療構想、医師偏在対策の詳細などは2026年度予算案の編成過程で詰める
このほか、医療分野、介護分野に関して次のような点が両大臣間で合意されました。今後の予算案編成・制度改正などに反映されます。なお、2024年度の診療報酬改定・介護報酬改定で措置された「看護職員・介護職員の賃上げ」施策(加算等)が、来年度(2025年度)には「満年度実施」となるため、その点も踏まえた「公費2兆7986億円」が確保されます(2024年度は改定適用時期が遅れたため満年度実施とはなっていなかった、関連記事はこちらとこちら)
【新たな地域医療構想】(関連記事はこちら)
→2040年度頃を視野に入れ、入院だけでなく外来・在宅、介護連携や人材確保等も含める形で、あるべき医療提供体制を実現することが可能となるよう「新たな地域医療構想」を策定する
→2027年度から同構想に基づく医療提供体制改革が全国各地域で着実に進められるよう国として必要な対応を図る
【医師偏在対策】(関連記事はこちらとこちら)
→重点医師偏在対策支援区域における財政支援について真に必要となる対応を検討する
→医師の適正配置につなげるための支援の具体的な内容については、支援の継続性の観点から安定的な財源の確保を図りつつ「2026年度予算案」の編成過程で検討する
→2026年度の次期診療報酬改定において、「外来医師過多区域における要請等を受けた診療所に必要な対応」を促すための【負の動機付けとなる診療報酬上の対応】とともに、その他の医師偏在対策の是正に資する実効性のある具体的な対応について更なる検討を深める
→重点医師偏在対策支援区域における医師への手当増額の財源について、給付費や保険料の増とならないようにする形で、診療報酬改定において一体的に確保する(関連記事はこちら)
※総合的な対策パッケージが同日に取りまとめられており、別稿で報じます
【医療機関、介護施設等の経営情報の更なる見える化】(関連記事はこちら)
→医療法人の経営情報に関するデータベースにおいて、「職種別の給与、その人数」について報告状況や報告内容を精査し、義務化を含めた提出方法の在り方や内容について検討し、必要な対応を実施する
→医療法人以外の設置主体による経営情報との連携、データの分析・公表の在り方等について、必要な対応を検討する(医療法人以外の公立病院等の経営データも含めたデータベース構築を検討する)
【介護保険制度改革】(関連記事はこちら)
→▼利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直し▼ケアマネジメントに関する給付の在り方▼軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方—などについて、第10期介護保険事業計画期間の開始までの間に(2026年度予算案の編成過程等において)検討を行い、結論を得る
→介護老人保健施設・介護医療院の多床室の室料負担の見直しについては、引き続き、在宅との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等を踏まえ、更なる見直しを含め必要な検討を行う
→地域支援事業・保険者機能強化推進交付金(インセンティブ交付金)について、要介護認定率の改善傾向を確たるものとしていくため、第10期介護保険事業計画期間を見据え、保険者の管理の下、多様な主体が参画し、高齢者が多様なサービスから選択することができるよう、「成果指向型の保険者機能強化」に向けた支援や「介護予防・日常生活支援総合事業の充実」を図るための取り組みについて検討する。
→地域医療介護総合確保基金(介護分)について、適正な執行を確保しつつ、地域における介護人材・サービスが適切に確保されるよう「既存メニューの整理」も含めた見直しを行いつつ、必要に応じて所要の対応の検討を行う
【介護報酬】
→処遇改善加算等が、2024年度に2.5%・25年度に2.0%のベースアップへと確実につながるようにするとともに、2024年度補正予算で措置した施策による生産性向上・職場環境改善等を通じて、更なる賃上げの推進に取り組む(関連記事はこちら)
→職員の負担軽減・業務効率化、テクノロジー・ICT機器の活用、経営の協働化といった取り組みを支援する
→2024年度介護報酬改定・2024年度補正予算で措置した施策が介護職員等の処遇改善に与える効果について、実態を把握。それを通じた処遇改善の実施状況等や財源とあわせて2026年度予算案の編成過程で検討する
→介護事業所・施設などの経営実態等をより適切に把握できるよう、「介護事業経営概況調査」や「介護事業経営実態調査」において、特別費用や特別収益として計上されている経費の具体的な内容が明確になるよう、調査方法を見直し、次回以降の調査に反映させる
→特別養護老人ホーム等について、今後の実証事業によって、2024年度改定で措置された介護付き有料老人ホームと同様に、介護ロボット・ICT機器の活用等による人員配置基準の特例的な柔軟化が可能である旨のエビデンスが確認された場合は、「期中でも人員配置基準の特例的な柔軟化を行う」方向で、見直しの検討を行う
【関連記事】
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2024年度の薬価乖離率は5.2%、過去改定に倣えば「乖離率が3.25%以上の医薬品」は2025年度薬価引き下げの対象に—中医協・薬価専門部会
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「2025年度の中間年薬価改定」、行うべきか否かも含めた議論開始、連続改定による負の影響を懸念する声も—中医協・総会(2)
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