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医薬品のイノベーション評価・安定供給に逆行しないよう、2025年度に薬価の中間年改定(=薬価引き下げ)は中止をと医薬品業界—中医協

2024.12.11.(水)

2024年度の薬価制度改革は「医薬品のイノベーション評価」と「医薬品の安定供給確保」に大きく舵をとり、これを踏まえて製薬企業サイドも優れた医薬品の開発や安定供給確保に向けた努力を進めている—。

一方、製薬や医薬品卸などをめぐる環境は、急激かつ持続的な物価高騰、円安、原材料調達難度の上昇、賃金上昇政策など厳しさを増している。こうした中で来年度(2025年度)に薬価の中間年改定(=薬価の引き下げ)が行われれば、日本市場の魅力低下・製薬企業等の体力低下となり、2024年度改革で目指した「医薬品のイノベーション評価」と「医薬品の安定供給確保」に逆行してしまう—。

こうした点を踏まえれば、薬価の中間年改定制度を廃止すべきであり、少なくとも来年度(2025年度)の中間年改定は中止すべきである—。

12月11日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会で、医薬品業界からこう言った意見陳述が行われました。こうした意見も参考に、来年度(2025年度)の薬価中間年改定の在り方論議を更に進めていきます。

なお、同日は中医協総会も開かれており新たな医療機器・臨床検査の保険適用などが了承されています。

医薬品安定供給確保のため、「薬価中間年改定は廃止せよ」との声も

来年度(2025年度)の中間年薬価改定に向けた議論が中医協で続けられています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

2017年末のいわゆる4大臣合意に基づいて、薬価制度の抜本改革が2018年度から進められており(関連記事はこちら(2018年度改革)こちら(2020年度改革))、その一環として「毎年度の薬価改定実施」(2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定+診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定)があります。

12月11日の薬価専門部会では、医薬品業界から▼2024年度薬価制度改革を受けた製薬メーカーの行動変容▼医薬品安定供給確保に向けた状況▼来年度(2025年度)中間年改定に向けた考え方—などについて意見陳述が行われました。

まず「2024年度薬価制度改革を受けた製薬メーカーの行動変容」と「医薬品安定供給確保に向けた状況」について見てみましょう。

これまでの中間年改定論議を眺めると、以前の業界ヒアリングや専門委員から「来年度(2025年度)に中間年改定(=薬価の引き下げ)を行えば、2024年度の薬価制度改革で行われたイノベーション評価・安定供給確保に逆行する」との声が出ています(関連記事はこちらこちら)。

これに対し中医協委員からは「2024年度改定で手当てされたイノベーション評価・安定供給確保の効果、つまり業界の取り組み状況を明らかにすべきである」との指摘が出ています。

こうした指摘を踏まえて、主に新薬開発を行う製薬メーカーで構成される日本製薬工業協会と、後発医薬品の製造・販売を行う日本ジェネリック製薬協会は、次のような資料を提示しました。

▽イノベーション評価を受けて、多くの製薬メーカーが次のような行動変容を行っていることが確認された(製薬協によるアンケート調査)
▼制度改革を反映させた社内検討体制・プロセスの見直し(優先審査の対象となることが見込まれる製品を中心とした「欧米から6か月以内の国内申請・承認を目指して開発計画を検討する」ことを社内標準とする、「成人と小児の同時開発を検討する」ことを社内標準とする、全品を対象に「申請時期の前倒し」や「小児開発の可能性」を年次で再検討する社内体制の導入など)
▼個別製品の開発計画の再検討(「迅速導入加算」の導入をグローバル本社が前向きに受け止め、日本への優先的なリソース配分の検討、「小児用医薬品の評価充実」を受け、社内のグローバル開発委員会で「日本での開発に関する審議」を実施する予定など)
▼個別医薬品の国内開発決定(「開発予定がなかった製品」の開発決定、外国企業との国内導入契約締結、国内での「小児適応の開発実施」決定など)

2024年度薬価制度改革を受けた製薬メーカーの行動変容事例(製薬協ほか)



▽不採算品再算定の特例などにより、限定出荷品目が改革前(本年(2024年)3月)の178品目から改革後(同11月)には78品目に減少した

不採算品再算定の効果(ジェネリック製薬協)



▽安定供給への取り組み状況を評価する指標(後発品メーカーの企業評価指標)について、▼次期薬価改定における適用▼少量多品目構造の見直しに係る新たな評価指標の導入—に賛同する
→ただし、評価方法の確定・公表から「企業が更なる取り組みをする期間」をおいたうえで公表してほしい
→「品目整理を進める企業」「増産を請け負う企業」などが偏りなく評価されるような配慮をしてほしい
→「少量でも医療上必要性の高い医薬品を製造している企業」「シェアは低いが安定供給を確保している企業」についても適正に評価してほしい



このように、2024年度の薬価制度改革は「優れた医薬品の開発」や「医薬品の安定供給」に大きな効果を及ぼしていることが分かります。

一方、製薬メーカーを取り巻く最近の環境を見ると、▼平均乖離率は5.2%まで低下し流通改善が進んでいる▼急激かつ持続的な物価高騰、円安、原材料調達難度の上昇、賃金上昇政策など、依然として国内のサプライチェーン維持に重大な影響が及んでいる—など「厳しさを増している」状況です。

製薬メーカーサイドは、こうした中では「来年度(2025年度)に中間年改定を実施する状況にはない」と訴えました。あわせて米国研究製薬工業協会(PhRMA)からは「来年度(2025年度)に中間年改定を行えば、上向いてきた米国本社の投資意欲を再び大きく棄損してしまうことが危惧されるとし、やはり「来年度(2025年度)の中間年改定はすべきでない」との考えが明確にされました。



また、医薬品流通を担う「卸」の立場からは、▼医薬品供給不足には解消に至っておらず、卸業務が逼迫している▼中間年改定が1つの要因となって、安定供給の基盤を脆弱化する「負のスパイラル」が生じている—とし、「医薬品安定供給のために中間年改定は廃止すべき。少なくとも来年度(2025年度)の中間年改定は中止すべき」と訴えています。

依然、医薬品供給不安は解消されていない(卸連)

中間年改定が安定供給基盤を脆弱化している(卸連)



中医協委員も上述の「2024年度薬価制度改革を受けた製薬企業の行動変容」を相当程度評価。もっとも▼行動変容を行った企業が「一部にとどまる」のか、「相当程度広く行われている」のかなどを今後明らかにすべき。多くの企業が優れた新薬開発などに取り組んでくれることに期待している。後発品メーカーには「安易に撤退しない」ことが安定供給確保に向けて強く求められる(長島公之委員:日本医師会常任理事)▼各製薬メーカーが、開発検討・開発着手などのどの段階にあるのかを今後示してほしい。小児医薬品の開発について、少なくとも学会から要望の出ているものは積極的に進めてほしい(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼医薬品の供給不安を一刻も早く解消すべく、製薬業界等の取り組みを強化してほしい(江澤和彦委員:日本医師会常任理事)▼開発に向けた「意思決定」はもちろん、「投資活動」の具体例なども今後示してほしい(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—などの指摘が出ています。

また、来年度(2025年度)の中間年改定に関して中医協委員からは、▼7年連続の薬価改定(=薬価引き下げ)で、大きな影響が出ている。製薬メーカー・卸と同じく、薬剤師会でも「実施すべきでない」と考えている(森委員)▼「医薬品のイノベーション評価」と「新薬創出適応外薬解消等促進加算の累積控除」とはセットで行うべきと考えており、中間年改定でも適用すべき。平均乖離率は5.2%だが、以前10%を超える乖離(=値引き)が行われている品目もあり、しっかりとした対応が必要(松本委員)▼「不実施」とする明確な理由は見当たらず、実施すべき(鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事)—などの考えが出されています。

なお、松本委員の「イノベーション評価と累積控除とのセット実施」について製薬メーカーサイドは「新薬の薬価が適正に設定され、特許期間中にその価格が維持される環境が整えば、特許切れとなった段階で速やかに薬価を下げる(累積控除を行う)ことは理解できる。しかし、新薬の薬価設定・特許期間中の薬価維持が十分になされないままに、累積控除だけを切り取って実施することは好ましくない」との考えを示しました。これまでに松本委員が「イノベーション評価と累積控除とのセット実施について、製薬メーカーサイドも理解を示している」とコメントしている点への反論と言えるでしょう。



このほか、▼2024年度改定で「イノベーション評価」を十分に行っている。今後は原点に戻り、4大臣合意のうちの「国民負担の軽減」「医療保険制度の維持」に力点を置くべき(松本委員)▼バイオ医薬品についても、後続品へのシフトをこれまで以上に進めるべき(長島委員)▼企業指標の本格導入について、企業側の準備期間確保の必要性もあり、早めに進めるべき(森委員)▼歯科用の局所麻酔剤の逆ザヤ(歯科医療機関が、薬価よりも高い価格で医薬品を購入している)が長く続いている。要因分析などを企業・流通サイドも研究してほしい(林正純委員:日本歯科医師会副会長)▼医薬品安定供給確保のためには「人材確保」も重要である点に留意すべき(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)—などの意見も出されています。

こうした意見も参考に、来年度(2025年度)の薬価中間年改定の在り方論議を更に進めていきます。ただし「中間年改定を実施するか否か」などは中医協だけで決定することはできず、「最終的には、年末の予算編成過程の中で決定される」点に留意が必要です。

「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染」の診断補助を行う新検査法などを保険適用へ

12月11日には中医協総会も開かれ、次のような点が了承されています。

▽以下の医療機器・臨床検査等の保険適用を決定(厚労省サイトはこちら
▼外傷性疾患、脊柱管狭窄症、脊椎すべり症等の変性疾患、脊柱変形(側弯症、後弯症、前弯症)などの変形、腫瘍、偽関節等のために脊椎固定術が適用となる患者について、後頭骨、頚椎、胸椎、腰椎、仙椎・腸骨の固定を補助し、一時的な固定、支持、アライメント補正を行う「UNiD Tiロッド」「UNiD CoCrロッド」(いずれも償還価格は8万100円、来年(2025年)3月に保険適用)

▼尿・子宮頸管擦過物中のマイコプラズマ・ジェニタリウムDNAおよびマイコプラズマ・ジェニタリウム23S rRNA遺伝子ドメインV領域の変異を検出し「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染」の診断補助を行う新検査法「MEBRIGHT ジェニタリウム Plus DRキット」(350点、来年(2025年)1月に保険適用)

▼組織中のp16タンパクを検出し「子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)」の診断補助を行う新検査法「ベンタナ OptiView CINtec p16(E6H4)」(720点、来年(2025年)1月に保険適用)



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