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2025年度薬価中間年改定、「医薬品の安定供給、薬価下支え」と「国民皆保険維持」とのバランスをどう考えるか—中医協・薬価専門部会

2024.11.7.(木)

2024年度の薬価制度改革では「医薬品の安定供給」、あわせて「医療上必要な医薬品についての薬価の下支え」なども重視した。この点、薬価の引き下げを行えば、この方向に逆行することにもなりかねない。2025年度の薬価中間年改定では、両者のバランスをどう考えるべきか—。

11月6日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会で、こういった議論が行われました。

中医協委員は「供給不安改善の効果が高い部分」への薬価上の手当てを優先せよと強調

薬価制度の抜本改革が2018年度に行われました(関連記事はこちら(2018年度改革))。

「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指すもので、▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目の限定(真に医療上必要な医薬品について価格の下支えを行う)▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するための新ルール(G1・G2ルール)の創設)▼費用対効果評価に基づく価格調整ルールの導入など―のほか、「毎年度の薬価改定の実施」が主な内容となっています。

多くの医薬品について、医療機関や薬局は「薬価よりも低い価格」で購入(市場実勢価格、取引価格)し、保険者や患者へは公定価格である「薬価」で請求を行います(両者の差が、いわゆる「薬価差」である)。医療保険財政の健全化などを目的に「市場実勢価格を踏まえて、薬価を引き下げていく」ことが薬価改定の大きな柱の一つとなります。従前は診療報酬改定に合わせて「2年に1度」行われていましたが、薬価制度抜本改革の中で「より迅速に、薬価を市場実勢価格にマッチさせることで、国民皆保険の維持、国民負担の軽減を図る必要がある」との考えの下、診療報酬改定の中間年度においても必要な薬価の見直しを行う(結果、毎年度に薬価改定を行う)ことになったのです。

中医協では、2025年度の薬価中間年改定論議を続けており(関連記事はこちらこちらこちら)、11月6日の薬価専門部会では「医薬品の安定供給、薬価下支え」と「国民皆保険の持続可能性」との両立をどう考えるかという議論が行われました。

長引く医薬品の供給不安を踏まえ、2024年度の薬価制度改革では「医薬品の安定供給確保」も柱の1つとなりました(関連記事はこちら)。具体的には、▼安定供給が確保できる後発医薬品企業の評価(安定供給に係る企業指標を設定し、これに基づく評価等を導入する)▼薬価を維持する「基礎的医薬品」の対象拡大(薬価収載からの期間を「25年以上」から「15年以上」に緩和するなど)▼不採算品再算定の特例的な適用(特例的に「当該既収載品と組成、剤形区分・規格が同一である類似薬がある場合には、全ての類似薬が該当する場合に限る」とのルールを適用せず、ただし乖離率が一定水準(7.0%)以下の品目が対象としている)—などで、後述するように、これらの「安定供給確保策」により一定の効果が出ています。

一方、薬価改定では「乖離率の大きな医薬品について薬価を引き下げる」ことになるため、上記の「安定供給確保」策に水を差してしまわないか、という疑問も出てきます。このため両者の関係を整理し、バランスをとった対応が求められるのです。

まず「安定供給が確保できる後発医薬品企業の評価」は、「安定確保の取り組み」内容を指標化し、各後発品メーカーの取り組み状況を指標に沿って評価し▼区分A(上位20%)▼区分B(A・C以外)▼区分C(ゼロポイント未満)—に区分けするものです(関連記事はこちら)。例えば、後発品の薬価を設定する際に「A区分に該当する企業の製品は、他の製品と分けて加重平均値をとる」ことなどのによって、「安定確保の取り組み」に積極的な後発品メーカーでは「より高い薬価→より大きな収益の確保」を得やすくなるなどの効果が期待できます。

「安定確保の取り組み」の指標としては、(1)後発品の安定供給に関連する情報の公表等(2)後発品の安定供給のための予備対応力の確保(3)製造販売する後発品の供給実績(4)薬価の乖離状況—の大きく4カテゴリーが設定されました。しかし、例えば(1)の「後発品の安定供給に関連する情報の公表等」については新たな内容ゆえに、企業側の準備が必要となります。そこで、(1)から(4)のうち「一部の指標」(下図の青色部分)を2024年度薬価制度改革で「試行導入」し、「他の指標」(下図の赤色部分)は企業の取り組み状況などを見ながら「本格導入の時期を探っていく」こととなっていました。

安定供給に取り組む後発品企業の評価1(中医協・薬価専門部会4 241106)

安定供給に取り組む後発品企業の評価2(中医協・薬価専門部会5 241106)

企業区分の状況(中医協・薬価専門部会6 241106)

企業指標等(中医協・薬価専門部会7 241106)



こうした状況を踏まえて、厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は次のような点を議論・検討してほしいと中医協委員に要請しました。

▽2024年度薬価制度改革で試行的導入された「後発品を製造販売する企業の評価指標・評価方法」のうち、「公表が待たれていた評価指標」の活用をどう考えるか。また、その活用の適用時期をどう考えるか

▽「後発品を製造販売する企業の評価指標・評価方法」は安定供給が確保できる企業を可視化することを目的としているものであるが、評価結果の「公表」をどう考えるか

▽後発医薬品の安定供給等を実現する産業構造改革の動きを踏まえ、少量多品目構造の見直しについて、例えば「薬価の観点から対応すべき点」を上記の評価指標に新たに加えることをどう考えるか



この点については中医協委員からは、▼「安定供給の取り組み」状況の可視化により、医療機関としては「安定供給の取り組みに積極的なメーカーの製品」を選択しやすくなり、薬価上で評価することに違和感はない。取り組み状況をポイント化して薬価に反映すること、各メーカーがA-C区分のどこに該当するのかを公表することを検討すべき。適用時期は後発品企業構造改革のために「なるべく早く」するべきである。また「少量多品目構造の見直し」に関しては、「収益が見込めないので当該領域から撤退する」などの動きの有無などとセットで考えていくべき(長島公之委員:日本医師会常任理事)▼後発品供給不安解消のために指標適用は速やかに行うべきである。各企業がA-C区分のどこに該当するのかを公表することを検討すべきだが、公表により特定企業製品に発注が集中するなどの混乱を避ける必要もある。「少量多品目構造の見直し」については、行政の考えとメーカーの考えがマッチするように検討していく必要があろう(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼「安定供給の取り組み」指標は(1)から(4)すべてがそろってバランスがとれる。情報公表が進んでいるのであれば2025年度から適用すべき。各企業がA-C区分のどこに該当するのかの公表については、様々な手法(企業名公表、ポイント結果の公表など)があり、業界ヒアリングも踏まえ丁寧に検討すべきであろう。「少量多品目構造の見直し」については「5年間かけて進めていく」こととされており、まずは「指標の検討」から始めるべき(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)―などの考えが示されています。

委員の多くが「安定供給の取り組み」指標の早期適用・指標の拡大などを求めており、早ければ2025年度から適用拡大がなされそうです。



また、医薬品安定確保のために2024年度薬価制度改革では「不採算品再算定の特例的な適用」なども行われました。

不採算品再算定は、医療上の必要性が高いが、薬価が低く採算割れになってしまうといった製品について、一定の要件下で、企業から希望を踏まえて特例的に「薬価の引き上げ」を行うものです。これによって得られた原資をもとに、「原材料費の高騰」などのコスト増に対応してもらいます。

2024年度薬価制度改革では、医薬品の供給不安が著しい点などに鑑み▼「当該既収載品と組成、剤形区分、規格が同一である類似薬がある場合には、全ての類似薬について該当する場合に限る」との限定要件を適用しない▼企業からの希望のあった要件合致製品すべてに再算定を行う—などの特例措置を設けました。もっとも、「薬価が低く不採算である」としながら、「販売価格を下げる」ようなことがあっては本末転倒であるため、「2022年度の薬価調査における全品目の平均乖離率『7.0%』を超えた乖離率であった品目」(つまり値引き率が大きな製品)は対象外とする」とのルールも設けられました(関連記事はこちら)。

不採算品再算定の概要(中医協・薬価専門部会1 241106)

不採算品再算定の実績(中医協・薬価専門部会2 241106)



この「不採算品再算定の特例的な適用」の効果について、日本製薬団体連合会では「再算定の対象とならなかった品目では供給状況改善が28.3%にとどまっているが、対象品目では41.8%で供給状況が改善している」とのデータを示しており、「不採算品再算定の特例的な適用」には安定供給に一定の効果があったことが伺えそうです。

不採算品再算定の効果(中医協・薬価専門部会3 241106)



しかし、この点については▼不採算品再算定の対象となっても「供給状況が悪化している」品目もあり、効果を適切にみていくべき。効果がない取り組みに保険財源を投入すべきではない。2025年度にも業界サイドは「不採算品再算定の特例」等を要望されると思うが、「なぜ不採算となっているのか」「不採算品再算定と供給改善との因果関係はどうなのか」などを十分に説明してもらう必要がある(長島委員)▼2024年度の不採算品再算定特例が1943品目に適用されたが、中には供給状況が悪化しているものもある。効果が出るまでにもう少し時間がかかることも考えられるが、引き続き「再算定による供給改善」効果を見ていく必要がある(森委員)▼不採算品再算定の効果が出るまでには時間が足りていない点もあるのかもしれないが、供給状況の悪化・横ばいが6割を示しており、「再算定の供給改善効果は限定的」である。特例を繰り返せば「本則」がなし崩しになる可能性もあり、原則となるルールに沿って粛々と対応すべき(松本委員)―などの声が出ています。

前述のとおり「医薬品の供給状況を改善するために薬価の引き上げなどを行う」ためには、相応の財源が必要となり、その財源は「医療保険財政」の中から捻出することになります。一方、少子高齢化・医療技術の高度化によって医療保険財政は厳しさを増しており、「薬価引き上げの財源を確保するためには、供給改善効果のエビデンスを示す必要がある」「薬価引き上げ等の対応は、供給改善効果の高いものに限定する必要がある」と中医協委員が考えていることが伺えます。

こうした点について厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長(医薬産業振興・医療情報企画課セルフケア・セルフメディケーション推進室長併任)は、▼従前、供給調整品目が医薬品全体の4分の1程度を占めていたが、直近では5分の1を切る程度にまで改善しており、今後も状況を注視し、改善に向けた努力を続けていく▼供給不安の本質的な改善には「安定供給確保マネジメントシステムの構築」「後発品産業の構造改革」必要だが、現状を放置することもできない▼限定出荷等をメーカーが解除できない背景には「解除した場合に、当該メーカーに発注が集中し、すべての要望に応えられない」という点もあるようだ、公正取引委員会とも相談し「複数企業で同時に限定出荷等を解除できる」仕組みも考えている—などの考えを述べています。

また、メーカーサイド代表として中医協に参加する石牟禮武志専門委員(塩野義製薬株式会社渉外部専任部長)は、▼2年連続(2023・24)の不採算品再算定特例によって企業側は原材料確保や人材確保の下支えができており感謝している▼医薬品供給不安には様々な要素(他社製品の動向、原材料費の高騰、製造トラブル、品質トラブルなど)が関係しており、「採算面だけで供給不安が生じているわけではない」点を理解してほしい▼メーカーサイドの状況は厳しさを増しており、必要なところへの支援等を行ってほしい—との考えを示しました。



今後、さらに中医協において両者のバランスに関する視点も持った「2025年度の薬価中間年改定」論議がさらに進められ、政治の場(年末の予算編成過程)での検討も踏まえて、年末に「実施の可否」も含めた詳細が固められます。



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