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2025年度薬価中間年改定論議が実質決着、9320品目の薬価を引き下げ、新薬創出等加算の「累積控除」を初実施—中医協・薬価専門部会

2024.12.20.(金)

来年度(2025年度)の薬価中間年改定では、前回(2023年度)・前々回(2021年度)の中間年改定とは異なり、「加算対象の新薬」「加算対象外の新薬」「長期収載品」「後発品」などのカテゴリ別に、「薬価引き下げの対象とする基準」を設定する。その際、「加算対象の新薬」ではイノベーション評価の必要性、「後発品」では安定供給確保の必要性を踏まえて「薬価引き下げの対象を狭く」(値引き率の大きなもののみ薬価を引き下げる)設定し、「長期収載品」では「薬価引き下げの対象を広く」(値引き率がそれほど大きくないものも薬価を引き下げる)設定する—。

また、来年度(2025年度)には、中間年改定では初めて「新薬創出・適応外薬解消等促進の累積控除」を実施する—。

さらに、不採算となっている医薬品の薬価引き上げ(不採算品再算定)については、過去2回には「多くの品目」を対象に実施したが、その効果が必ずしも十分とは言えない点を踏まえて、「医療上の必要性が特に高い医薬品」に限定して実施する—。

12月20日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会で、このような「2025年度薬価改定の骨子」案が議論され、方向性について実質的に了承されました。近く、改定内容を整理した「骨子」取りまとめを行います。

加算対象の新薬、長期収載品、後発品などのカテゴリ別に薬価引き下げ対象基準を設定

来年度(2025年度)の中間年薬価改定に向けた議論が中医協で続けられています(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

2017年末のいわゆる4大臣合意に基づいて、薬価制度の抜本改革が2018年度から進められており(関連記事はこちら(2018年度改革)こちら(2020年度改革))、その一環として「毎年度の薬価改定実施」(2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定+診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定)があります。

来年度(2025年度)も中間年改定の実施年にあたり「薬価改定(=薬価引き下げ)による国民負担軽減」に期待が集まりますが、一方で、▼2024年度の薬価制度改革で行われたイノベーション評価・安定供給確保に逆行してしまう▼物価高騰・人件費高騰が続き、4大臣合意時点とは医薬品を取り巻く環境が変わる中で、中間年改定を行える状況にはない—との声も小さくありません(関連記事はこちら)。

こうした状況を総合的に踏まえ、福岡資麿厚生労働大臣・加藤勝信財務大臣・林芳正内閣官房長官の3大臣が断続的に協議を行い、次のような来年度(2025年度)中間年改定の方針を12月20日に決定しました(厚労省サイトはこちら)。

(1)平均乖離率の縮小など4大臣合意当時から状況が大きく変化していることや、現役世代等の保険料負担 が上昇していることを踏まえ、23年度21年度の薬価改定の慣例に固執することなく必要な対応を行う

(2)改定の対象品目については、国民負担軽減の観点はもとより、創薬イノベ ーションの推進や医薬品安定供給確保の要請にきめ細かく対応する観点から「品目ごとの性格に応じて対象範囲を設定」する
→具体的には平均乖離率5.2%を基準として、次をそれぞれ超える医薬品を改定対象とする
▼新薬創出等加算対象品目、後発医薬品:その1.0倍
▼新薬創出等加算対象品目以外の新薬:その0.75倍
▼長期収載品:その0.5倍
▼その他医薬品:その1.0倍

(3)薬価改定基準の適用についても、創薬イノベーションの推進、医薬品安定供給確保、国民負担軽減といった基本的な考え方を踏まえ、▼創薬イノベーションの推進の観点から、追加承認品目等に対する加算を臨時的に実施する▼安定供給確保が特に求められる医薬品に対して、臨時的に不採算品再算定を実施し、最低薬価を引き上げる▼今回の改定に伴い新薬創出等加算の累積額の控除を行う—こととする



この合意内容を受けて薬価改定の具体的なルールを決定していくことになります。12月20日の薬価専門部会では、厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官から次のような、2025年度薬価中間年改定の骨子に向けた「たたき台」が示されました。

(I)対象品目および改定方式
→3大臣合意を踏まえて、次のとおり「品目ごとの性格」に応じて対象範囲を設定してはどうか
(i)新薬のうち新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目:平均乖離率(5.2%)の1.0倍(=乖離率5.2%)を超える品目
(ii)新薬のうち、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象「外」品目:平均乖離率(5.2%)の0.75倍(=乖離率3.9%)を超える品目
(iii)長期収載品:平均乖離率(5.2%)の0.5 倍(=乖離率2.6%)を超える品目
(iv)後発品:平均乖離率(5.2%)の1.0倍(=乖離率5.2%)を超える品目
(v)その他(1967年以前収載品など):平均乖離率(5.2%)の1.0倍(=乖離率5.2%)を超える品目



倍率が高いほど「薬価引き下げの対象が狭く」なり、逆に倍率が低いほど「薬価引き下げの対象が広く」なります。▼イノベーション評価が重要な「加算品目」や、安定供給確保が求められる「後発品」では、薬価引き下げを限定的に行う(倍率を高くし、引き下げ品を少なくする)▼革新性の低い新薬(加算対象外)などは、薬価引き下げを広範に行う(倍率を低くし、多くの品目で薬価を引き下げる)—という考え方が見て取れます。



これまでの「平均乖離率の0.625倍を超えるもの」を改定対象(薬価引き下げ対象)としてきた過去の中間年改定(23年度21年度)では「医薬品全体の約69%」が対象となっていましたが、上記(I)の「カテゴリ別の基準」を設けると「医薬品全体の約53%」が来年度(2025年度)薬価中間年改定(薬価引き下げ)の対象になる見込みです。

来年度(2025年度)の薬価中間寧改定の対象品目(2024年9月時点の薬価基準収載費目で計算)(中医協・薬価専門部会1 241220)



(II)適用する算定ルール
(a)基礎的医薬品

2024年度薬価改定で基礎的医薬品とされたものと組成・剤型が同一のものに適用
→ただし上記(I)の乖離率要件を満たさないもの(乖離率の大きな、つまり大幅値引きを行って販売しているもの)には適用しない

基礎的医薬品(2024年度改定時点)(中医協・薬価専門部会2 241220)



(b)最低薬価
→最低薬価を、賃金上昇などを踏まえて引き上げたうえで適用する(1996年以来の引き上げ)

(c)不採算品再算定
23年度21年度には大規模な再算定の特例(薬価の引き上げ)を行ったが、効果のほどが十分に明らかになっていないとの指摘を踏まえ、対象を限定する
→医療上の必要性が特に高い▼基礎的医薬品と組成・剤型が同一のもの(上記(a)参照)▼安定確保医薬品のカテゴリAおよびBに該当するもの▼厚生労働大臣から増産要請がなされているもの—のうち「企業から再算定要請のあったもの」に臨時特例的に適用する
→平均乖離率5.2%を超えるもの(不採算と言いながら、大幅値引きを行っているもの)には適用しない
→ただし増産要請品目については、安定供給確保要請にきめ細かく対応する観点から乖離率要件を除外し(乖離率が5.2%を超えていても対象となりうる)、また要請先企業が限られていることから、通常の「すべての類似薬について該当する場合に限定して実施する」(1つでも対象外となれば他の類似品すべても不適用)というルールを除外する

安定確保医薬品カテゴリA品目(中医協・薬価専門部会3 241220)

安定確保医薬品カテゴリB品目(中医協・薬価専門部会4 241220)

厚生労働大臣による増産要請品目(中医協・薬価専門部会5 241220)



(d)新薬創出・適応外薬解消等促進加算
→→加算および累積額控除の双方を実施する(後述)

(e)後発品等の価格帯ルール
2024年度薬価改定における「価格帯集約」ルールを適用する

(f)既収載品の外国平均価格調整
2024年度薬価改定の考え方を維持

(g)既収載品の薬価改定時の加算
2024年度薬価改定の考え方を維持



なお、「長期収載品の薬価の改定」「市場拡大再算定」「その他の既収載品の算定ルール」については、来年度(2025年度)中間年改定では適用されません(長期収載品についてはこの10月(2024年10月)から選定療養費が導入され、その効果を見る必要があること、市場拡大再算定はイノベーション評価に逆行する可能性が高いことなどを勘案)。



こうした内容に対して中医協委員からは、▼国民負担の軽減とともに、医療の質向上を進める必要がある。不採算品再算定については、過去の大規模臨時特例の効果が曖昧で、現在も供給不安が続いている状況を踏まえれば「一定品目に限定する」ことは妥当である。2026年度の薬価制度改革に向けて定期的な検証を進めるべき(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)▼薬価引き下げで生まれた財源は、できるだけ「安心安全な医療提供」に資するように活用してほしい(診療側の林正純委員:日本歯科医師会副会長)▼中間年改定を実施する以上は、イノベーション評価・安定供給確保の効果が出るように取り組むべき。不採算品再算定の対象のうち「厚労相から増産要請をされている品目」は「安定供給を優先」しており、一定の配慮がいる(診療側の森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼カテゴリ別基準値(上記(1)および(I))のうち、長期収載品を0.5倍とした(広範な品目で薬価を引き下げる)ことなどは「新薬メーカーの行動変容」に向けて妥当だが、「新薬創出・適応外薬解消等促進の対象品目について、対象を狭めた(1.0倍とした)ことは将来の医療保険持続可能性に悪影響を及ぼす」「加算品以外の新薬について、従前(0.625倍)よりも高い低い倍率(0.75倍)として対象を狭めている」点などは問題だ。また、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の累積控除を実施する考え方は極めて妥当である。事後にイノベーション評価・安定供給確保の効果を検証する必要がある(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)▼詳細な算定ルールを今後設定することになるが、「不採算品再算定」について効果を踏まえて、メリハリをつけるべき(支払側の鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事)—などの意見が出ましたが、異論・反論は出ていません。事実上の「了承」と見ることができます。

近く、改定内容を整理した「骨子」取りまとめ論議に入っていきます。

新薬創出・適応外薬解消等促進の「累積控除」を、中間年改定で初めて実施

ところで、新薬創出・適応外薬解消等促進の「累積控除」は、中間年改定では「初めて実施」されます。

新薬創出・適応外薬解消等促進は、対象品目について「平均乖離率内であれば、実勢価格による引き下げ分を加算し、実質的に改定前の薬価を維持する」ものです。しかし、後発品が登場した直後の薬価改定時に、「それまで改定前薬価を維持するために加算されていた部分」を一気に引き下げることになります【累積控除】。

新薬創出・適応外薬解消等促進の概要



これまで【累積控除】は2年に一度の薬価改定時に行われてきましたが、今般、「特許期間中は薬価を高く評価するが、後発品が登場した段階で、速やかに後発品に市場を譲る」というメリハリをつける意味で、「初めて中間年改定で実施される」ことになりました。支払側委員は2021年度・23年度改定論議においても「累積控除を中間年改定でも実施すべき」と強く求めており、その要望が実現した格好です。

ところで、この【累積控除】は「加算部分」、つまり「実勢価格改定によって薬価を引き下げた部分」(これを加算で補填する)が対象となります。この点、上述(I)および(1)のとおり「新薬創出・適応外薬解消等促進の対象品目は、平均乖離率(5.2%)を超える品目」のみが来年度(2025年度)中間年改定の対象となります。

したがって、「平均乖離率の範囲で販売をしていれば、薬価引き下げの対象にならない」→「来年度(2025年度)には加算が付かない」→「将来、当該部分は累積控除の対象にならない」ことになります(将来の累積控除が少し小さくなる)。

このため支払側の松本委員は「新薬創出・適応外薬解消等促進の対象品目について、対象を狭めた(1.0倍とした)ことは将来の医療保険持続可能性に悪影響を及ぼす」旨をコメントしていると考えられます(将来の累積控除が少しだけ小さくなり、その分、医療保険財政の負担が少しだけ大きくなる)。

この点について清原薬剤管理官は、将来、後発品が登場した際の累積控除額が少し小さくなる(結果、医療保険財政の負担が少し大きくなる)ことを確認したうえで、「イノベーション評価の一環として、製薬メーカーには優れた新薬の開発に力を入れてほしい」(累積控除が小さくなる分、優れた新薬開発に力を入れてほしい)という3大臣からのメッセージではないかとの考えを示しました。

また、松本委員は「加算品以外の新薬について、従前(0.625倍)よりも高い低い倍率(0.75倍)として対象を狭めている」と指摘していますが、清原薬剤管理官は、下記載のように「平均乖離率が小さくなっており、実質的に薬価引き下げの対象を広げている」と理解を求めています。
▽2023年度改定
→「平均乖離率(7.0%)×0.625を超える」、つまり「4.375%超の乖離率がある製品」が薬価引き下げの対象

▽来年度(2025年度)改定
→「平均乖離率(5.2%)×0.75を超える」製品、つまり「3.9%超の乖離率がある製品」が薬価引き下げの対象(より広い品目が薬価引き下げの対象となる)



なお、こうした方向について製薬メーカー代表として中医協に参加する石牟禮武志専門委員(塩野義製薬株式会社渉外部専任部長)は、▼新薬創出・適応外薬解消等促進の累積控除実施は「累積控除の1年前倒し」にあたり(これまでの考え方では2026年度に累積控除が行われ、25年度は薬価が維持された)、該当メーカーの予見可能性を損なっている。累積控除の中間年改定実施は、「新薬の薬価設定時の適切な評価」(より高い薬価の設定)とセットで行うべきである▼そもそも「薬価差」に着目した薬価改定は、「薬価と実勢価格との乖離が小さな医療機関等(値引きされない)の薬価差をはがし、それが大きな医療機関等(値引きが大きい)では薬価差を一定程度温存するもの」でと言える。薬価差が縮小してきている中で、今の考え方で良いのか、一度本質的な議論をすべきではないか—などの考えを述べています。



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