自治体病院の経営状況は2023年度の「10.3%の赤字」から2024年度には「14.5%の赤字」に悪化し、危機的状況—全自病・望月会長
2024.12.13.(金)
自治体病院(県立病院や市立病院などの公立病院)について、昨年度(2023年度)上半期(4-9月)と今年度(2024年度)上半期とを比較すると、医業収益は「1.8%増加」したが、医業費用はそれを上回る「3.5%増」となっており、増収減益となっている—。
さらに通年度(4-3月)に換算すると、医業収益は2023年度→24年度で「0.3%増」とわずかに増加するものの、医業費用は同じく「5.2%増」となり、自治体病院の経営は危機的な状況にある—。
こうした状況の中では「在院日数のコントロール」(延伸)をしたくなるところだが、それでは医療の質が低下してしまい、好ましくない。「救急患者、紹介患者を断らない」「各種加算の算定漏れなどをなくす」などの取り組みを徹底して、収益増・利益増を目指すべきである—。
全国自治体病院協議会の定例記者会見が12月12日に開催され、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)ら幹部から、こうした考えが示されました。
自治体病院経営は危機的状況、「期中の診療報酬プラス改定」を要望したいほど苦しい
各病院団体が相次いで発表しているように、病院経営が厳しさを増しています(関連記事はこちら)。その背景には、例えば新規入院患者数そのものはコロナ禍前の水準に戻ってきているが、在院日数短縮が続き、延べ患者数が減少していることなどがあります。
また、患者1人当たりの収益(=単価)は上昇しているものの、その裏には「高額薬剤の登場」(脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)など)があります。高額薬剤の使用により「単価や収益は増加」するものの、そのほとんどは医薬品卸会社への支払い(高額医薬品の購入費)に充てられ、「病院の利益」にはほとんどつながりません。
そうした中、2024年度診療報酬改定ではプラス0.88%の本体プラス改定が行われましたが、0.61%分は「看護職員や病院薬剤師などの処遇改善」に、同じく0.06%は「入院の食費増における低所得者支援」に支弁することとなり、薬価引き下げなどを加味して機械的に計算すると「実質的には0.12%のマイナス改定」になるとも指摘されています。
こうした状況を踏まえて全自病では、自治体病院の経営状況を緊急に調査(297病院が回答)。そこから次のような厳しい状況が明らかになりました。
▽昨年度(2023年度)上半期(4-9月)と今年度(2024年度)上半期とを比較すると、医業収益は「1.8%増加」したが、医業費用はそれを上回る「3.5%増」となった(増収減益)
→医業利益率は「96.0%」(つまり4%の赤字)から「94.5%」(5.5%の赤字)へと悪化している
▽通年度(4-3月)に換算すると、医業収益は2023年度→24年度で「0.3%増」とわずかに増加するものの、医業費用は同じく「5.2%増」となる
→医業利益率は「89.7%」(つまり10.3%の赤字)から「85.5%」(14.5%の赤字)へと悪化している
望月会長は「病院、とりわけ急性期の大病院の経営状況は危機的で、本年度には10億円を超える赤字が出る病院も出てくる。診療報酬改定は2年に一度だが、このまま来年度(2025年度)を迎えることは非常に危険である。1970年代初頭のオイルショック時には物価が急騰し、期中の診療報酬プラス改定を行った。現在も同様の物価急騰が生じており、期中の診療報酬改定をお願いしたいほどで苦しい状況である」、「こうした状況の中では『在院日数のコントロール』(延伸)をしたくなるところだが、それでは医療の質が低下してしまい、好ましくない。『救急患者、紹介患者を断らない』『各種加算の算定漏れなどをなくす』」などの取り組みを徹底して、収益増・利益増を目指すべき」とコメント。
また小阪真二副会長(島根県立中央病院長)は「在院日数の延伸をしても、DPCの機能評価係数IIを低くしてしまい、効果は大きくない。当面の医療機関経営を維持するために機器の更新(CT、MRIなど)を後ろ倒しにする病院が出てくると思うが、更新を遅らせるだけで、中長期的には診療の質低下も招きかねない。病床機能報告結果を見ると『地域医療構想の必要病床数にほぼ近づいている』が、このままでは医療崩壊が生じ『必要病床数を確保できない』事態が生じるのではないかと危惧している」と、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)は「来年度(2025年度)には現在よりも医業赤字がさらに10ポイント程度悪化する可能性もある」と、野村幸博副会長(国保旭中央病院長)は「医療DXの推進が求められているが、ICT機器購入に充てる原資確保も困難である」と窮状を強調しています。
補正予算案の賃上げ支援は「急性期病院の半日分の利益」保証にとどまっている
ところで、「看護職員や病院薬剤師などの処遇改善」を行ために2024年度診療報酬改定で新設された【ベースアップ評価料】は、▼2024年度にプラス2.5%▼2025年度にプラス2.0%—の賃上げを行えるように設計されているものの、自治体病院では人事院勧告を踏まえて「全体で4.5%-5%程度の賃上げ」(若手職員は10%程度)をすべきことが求められています(関連記事はこちら)。
今般の全自病調査では、人事院勧告(それを踏まえた都道府県人事委員会の勧告)に沿った賃上げを予定している病院が77%あるものの、未定の病院(16%)、一部実施にとどまる病院(3%)、実施しない病院(4%)もあることが分かっています(実施しない病院は、独立行政法人化している病院である)。
この点に関連して厚生労働省の補正予算案では「病床1床当たり4万円」の賃上げ補助を行う事業が盛り込まれていますが、小阪副会長は「急性期病院の1ベッド当たり(つまり1患者あたり)単価は8-9万円である。1床当たり4万円の補助とは『半日分の利益を保証するので、1年分の賃上げを行ってほしい』と頼まれるようなものだ」と述べ、より手厚い補助が必要との考えを示しています。
さらに補正予算案の病院経営支援事業は「病床削減」が要件となっており、「すぐさま活用できるものではない」と望月会長はコメントしています。
こうした厳しい状況を踏まえて、全自病では自治体病院議員連盟の国会議員と連携し、厚労省や総務省に「自治体病院経営支援」を要望しています。今後の動きに注目が集まります。
なお望月会長は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」でまとめられた医師偏在対策について、「医師偏在をゼロにすることは極めて困難であるが、経済的インセンティブなどにより、医師偏在の度合いが今よりも良くなることが期待される。その意味で偏在対策は80-90点の評価ができる」とコメントしています。
なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、機能再編や経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。
GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。
ガイドラインでは「外部アドバイザーの活用も有効である」と明示していますが、コンサルティング会社も玉石混交で「紋切り型の一律の改革プランしかつくれない」ところも少なくありません。この点、GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。
●GHCのサービス詳細はこちら
従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。
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