物価高騰・円安で「医療機器の逆ザヤ」(償還価格<購入価格)問題が拡大、2026年度材料価格制度改革での対応は?―中医協・材料部会
2025.8.12.(火)
優れた医療機器、医療上必要な医療機器(小児用機器、希少疾病用機器など)の開発促進に向けて、十分に経済的な評価を行う必要がある。しかし、高額な医療技術は「国民負担の増加」ももたらすため、両者のバランスをどうとるかが重要な検討テーマとなる—。
物価高騰・円安で「医療機器の逆ザヤ」(償還価格<購入価格)問題が拡大している。2026年度材料価格制度改革でどのように対応すべきか、検討する必要がある—。
8月6に開催された中央社会保険医療協議会の保険医療材料専門部会(以下、材料専門部会)で、こうした議論が行われました(同日の中医協総会における2026年度診療報酬改定論議の記事はこちら、認知症治療薬レケンビの費用対効果評価に関する記事はこちら、薬価専門部会の記事はこちら)。なお、同日には費用対効果評価制度改革論議も行われており、別稿で報じます。
プログラム医療機器の評価、事例を踏まえてさらに「適切な評価の在り方」など検討
2026年度には、保険医療材料価格制度改革(材料価格改定)も行われます。8月6日の材料部会には保険医療材料専門組織から意見が示され、これに基づいた議論が行われました。
保険医療材料専門組織は、中医協の下部組織で、現行の材料価格制度に則って「個別品目の値決め」(機能区分の決定、償還価格の設定)を行います。実際の値決め論議の中で「現行制度にはこうした問題がある。こうした問題に突き当たったが、現行制度にはルールがない」などの知見が蓄積され、制度改正(診療報酬改定)の折に中医協に意見具申がなされます(薬価制度、費用対効果評価制度でも同様の意見具申が各専門組織から行われる)。
2026年度の材料価格制度改革に向けて、(1)イノベーション評価(2)プログラム医療機器の評価(3)内外価格差の是正(4)その他—に関する意見が示されています。
(1)のイノベーション評価については、例えば次のような点が指摘されました。
【臨床上有用な医療機器等に対する評価】
▽小児用医療機器について、▼成長に伴い使用する医療機器のサイズが変化するなどの「小児医療の特殊性」▼対象患者数が少なく採算性が確保しづらいため、研究開発や安定供給が滞る—等の点を踏まえ、「医療上の必要性が高い」ものの評価の在り方を検討してはどうか
▽補正加算について、「定量的な評価方法」の運用状況を踏まえつつ、評価項目の考え方の明確化を検討してはどうか
▽再生医療等製品の適応判定の補助等に必要な検査について、想定される検査回数が少ない場合は「希少疾病等の検査に用いる体外診断用医薬品等に対する評価」の対象としてはどうか

新機能区分における補正加算等(中医協・材料専門部会1 250806)

希少疾患等の検査等に対する評価(中医協・材料専門部会2 250806)
【チャレンジ申請(使用実績を踏まえた再評価に係る申請)】
▽2018年度の導入以降、順次、対象範囲が拡大され、今後、申請件数増が想定されることから、適切・迅速な審議のために「チャレンジ権付与の審議について、専門組織への報告をもって決定案とすることができる」などの手続き明確化、「申請に当たっての具体的なデータ収集方法・評価方法」のさらなる明確化を検討してはどうか

チャレンジ申請の概要(中医協・材料専門部会3 250806)

特定保険医療材料のチャレンジ申請の流れ(中医協・材料専門部会4 250806)

技術料に包括評価される機器のチャレンジ申請の流れ(中医協・材料専門部会5 250806)
【医療技術評価分科会での検討を要する技術】
▽予見可能性を高める観点から、「専門組織から医療技術評価分科会での審議を求める対象」のさらなる明確化を行ってはどうか
▽「医療技術評価分科会での検討を要することとなった技術」について、患者アクセスの観点も踏まえ「保険適用希望書の受理から2年まで評価療養とできる」(保険診療と保険外診療(当該技術)との併用を認める)の対象期間を見直してはどうか
また(2)のプログラム医療機器に関しては、次のような意見が示されました。
▽2024年度の材料価格制度改革で「評価基準の明確化」が行われ、今後もプログラム医療機器がさらに上市されると考えられることから、評価基準のさらなる明確化を検討してはどうか
▽原価計算方式で評価する場合の「計算に含めるべき費用の対象範囲」について、過去の事例等を分析しながら検討してはどうか
▽「主に患者が操作等するプログラム医療機器で、保険適用期間の終了後にも患者の希望に基づき使用することが適当と認められるもの」について、選定療養(保険診療と保険外診療(当該機器)を活用しやすい運用方法を検討してはどうか

プログラム医療機器の評価基準(中医協・材料専門部会6 250806)

プログラム医療機器の原価計算(中医協・材料専門部会7 250806)
他方、(3)の内外価格差等の是正に関しては、次のような提案がなされています。
【価格調整の比較水準】
▽新規収載品に係る外国価格調整の比較水準は、現在「外国価格の相加平均の1.25倍を上回る場合に1.25倍の価格とする」などとしているが、イノベーションの適切な評価・安定供給の維持に配慮しつつ、医療保険財政・患者負担の軽減の観点から、「比較水準や外国平均価格算出方法の見直し」などを検討してはどうか
【外国価格再算定】
▽2024年度材料価格制度改革で「外国価格再算定の算定式見直し」を行ったが、医療保険財政・患者負担に配慮しつつ、安定供給の観点を踏まえ、「比較水準や外国平均価格の算出方法等のさらなる見直し」を検討してはどうか
このほか、次のような意見も示されました。
【既存の機能区分等に係る事項】
▽既に保険適用されている特定保険医療材料で、薬事上の軽微変更が適切に行われたもののうち、「製造販売業者が構成品追加等を希望する場合の取り扱い」を検討してはどうか
【不採算品再算定】
▽「償還価格<実勢価格」となっている事例等を踏まえつつ、安定供給の観点にも配慮しながら、「不採算品再算定の対象拡充」を含めた検討を行ってはどうか
【保険適用時期の特例】
▽「医薬品等(再生医療等製品を含む)の適応判定の補助を目的として使用される医療機器、体外診断用医薬品」の保険適用時期について、「治療に用いる医薬品等(再生医療等製品を含む)の保険適用時期」とあわせて迅速に保険適用することを検討してはどうか
【保険適用希望の手続き】
▽区分A3(既存技術・変更あり)として保険適用希望書が提出されたもののうち、「特定診療報酬算定医療機器の定義における一般的名称の追加のみ」など希望内容が軽微変更にとどまる場合は「専門組織への報告によって保険適用する」ことを検討してはどうか
▽手続をより円滑に進めるため、専門組織審議後の手続き(再審議を経た後の手続きなど)について、さらなる明確化を検討してはどうか
こうした点を今後検討していくことに異論・反論は出ていませんが、委員からは▼医療材料について、物価高騰・円安などで「逆ザヤ」となるケースがものすごく増えている。病院経営が非常に厳しい中で、こうした点への対策をしっかり検討すべき(茂松茂人委員:日本医師会副会長、森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼プログラム医療機器や治療アプリについては、同じタイプのものがシリーズ化されたりしており、これらではプラットフォームが共通であるケースもあろう。コスト構造などをしっかり整理したうえで価格設定等の在り方を考えていくべき(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—などの意見が出ています。
優れた医療機器には「十分に経済的な評価を行う」必要があります(さもなければメーカーサイドの開発意欲が失われてしまう)が、一方で高額な技術は「国民の負担増にもつながってしまう」という面もあります。医薬品でも同様のジレンマがあり、「イノベーションの評価」と「国民負担の軽減」とのバランスをどうとっていくかが議論のベースとなります。
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