2026年度の診療報酬改定、「過去のコスト上昇補填不足分」など含め、病院について10%以上の引き上げが必要—医法協・加納会長と太田副会長
2025.5.29.(木)
中央社会保険医療協議会に示された公的データに基づけば、2018年度から2024年度にかけて、病院のコスト上昇に対し、診療報酬では「5.23%」あるいは「6.31%」の補填不足(引き上げ不足)となっている—。
ここに、「今なお、物価・人件費などの急騰が続いている」ことを勘案すれば、病院における良質な医療提供のために2026年度には「10%以上の診療報酬引き上げ」が必要である—。
5月28日に日本医療法人協会(医法協)の加納繁照会長と太田圭洋副会長が、データを踏まえたこうした分析を行い、2026年度の次期診療報酬改定に向けた提言を行いました(医法協のサイトはこちら)。

5月28日に記者会見を行った日本医療法人協会の加納繁照会長
物価・人件費上昇分が2020・22・24年度改定で十分に補填されず、5-6%の引き上げ不足
2026年度には診療報酬改定が予定され、中医協で総論的議論が始まっています。4月23日の中医協総会では「医療機関を取り巻く状況」(物価の急騰、人件費の急騰、医療機関経営の逼迫等)についてデータをもとに確認を行いました。
医法協では、この中医協で示されたデータ(医師・歯科医師を除く医療従事者の人件費が2018年度から24年度にかけて6.88%増加、物価が2020年から25年にかけて11.1%増加しているなど)をもとに「病院のコストがどの程度上昇している」のかを試算。そこから「2020年から24年にかけて、コスト増を賄うために診療報酬では7.10%の引き上げが必要であった」との数字を導き出しています。
(内訳)
▽人件費:コストが6.88%増加しており、病院支出に占める割合は57.2%
→診療報酬では3.94%増が必要
▽医薬品費:コスト増分は薬価改定で補填対応済であり、病院支出に占める割合は9.5%
→同0.00%
▽その他の医療材料費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は8.2%(うち58%は特定保険医療材料価格改定で補填対応済)
→同0.38%増が必要
▽給食材料費・委託費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は2.3%
→同0.26%増が必要
▽その他の委託費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は4.2%
→同0.47%増が必要
▽水道光熱費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は1.9%
→同0.21%増が必要
▽減価償却費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は5.0%
→同0.56%増が必要
▽その他の費用:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は11.7%
→同1.30%増が必要

病院の収益構造の変化(中医協総会(1)7 250423)

病院の人件費(単価)1(中医協総会(1)9 250423)

物価の状況(中医協総会(1)13 250423)
これに対し、診療報酬「本体」の改定率は、2020年度:プラス0.55%、2022年度:プラス0.43%、2024年度:プラス0.88%で、2020年度から24年度の実質引き上げ幅は「プラス1.87%」となります。
上記の「2020年度から24年度にかけて、コスト増を賄うために診療報酬では7.10%の引き上げが必要であった」点と比較すると、「診療報酬での対応が5.23%不足している」と太田副会長は指摘。
さらに、「医療従事者も全産業平均並みの賃上げ(2018年度から24年度にかけて8.77%の賃上げ)を行うべきである」との考えに立てば、「2020年度から24年度にかけて、コスト増を賄うために診療報酬では8.18%の引き上げが必要であった」との計算になります(上記の人件費6.88%増を8.77%増に置き換える)。すると、診療報酬での対応不足は「6.31%と考えることもできると太田副会長はコメント。
また、人件費・物価の急騰は今なお継続しており、「2026年度・27年度分の病院経営を賄う」ことになる2026年度診療報酬改定では、この点も加味する必要があると太田副会長は指摘。
これら「2020年度から24年度にかけて5.23%(あるいは6.31%)の診療報酬引き上げ不足」と「改定後の人件費・物価上昇への対応」を考えれば、「2026年度の診療報酬改定では10%超の本体プラス改定が求められる」と加納会長・太田副会長は強調しています。
加納会長は「民間病院(主に医療法人立の病院)も経営が非常に厳しい。こうしたデータをベースに他病院団体(日本病院会、全日本病院会、日本精神科病院協会など)とも連携し、2026年度の次期診療報酬改定に向けて声を上げていく」ともコメントしています。
【関連記事】
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続、診療所の良好経営踏まえた診療報酬改定を—財政審建議
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審
【リハビリ・栄養・口腔連携体制加算】や【救急患者連携搬送料】など、取得・算定率改善に向けた要件見直し論議を―入院・外来医療分科会(4)
ICUを持つが「救急搬送受け入れも、全身麻酔手術実施も極めて少ない」病院が一部にあることなどをどう考えるか―入院・外来医療分科会(3)
「小規模なケアミクス病院のDPC参加」「特定病院群では急性期充実体制加算などの取得病院が多い」点をどう考える―入院・外来医療分科会(2)
新たな地域医療構想で検討されている「急性期拠点病院」、診療報酬との紐づけなどをどう考えていくべきか―入院・外来医療分科会(1)
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、入院基本料の引き上げ・消費税補填点数の引き上げ・ベースアップ評価料の見直しなど必要—日病
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、窮状を打破するため「診療報酬も含めた経営支援策」を急ぎ実施せよ—九都県市首脳会議
少子化の進展で医療人材確保は困難、「人員配置によらないプロセス・アウトカム評価の導入」を今から研究・検討せよ—日病協
物価・人件費等の急騰で病院経営は危機、入院基本料の大幅引き上げ・人員配置によらないアウトカム評価の導入などが必要—日病協
社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、外来管理加算や機能強化加算の整理など進めよ―財政審
ICTで在宅患者情報連携進める在宅医療情報連携加算の取得は低調、訪看療養費1の障壁は同一建物患者割合70%未満要件—中医協(2)
2026年度診療報酬改定、診療側は「診療報酬の大幅引き上げによる病院等経営維持」を強く求めるが、支払側は慎重姿勢—中医協総会(1)
2026年度の次期診療報酬改定に向け「外科医療の状況」「退院支援の状況」「医療・介護連携の状況」などを詳しく調査—入院・外来医療分科会
リフィル処方箋の利活用は極めて低調、バイオシミラーの患者認知度も低い、医師・薬剤師からの丁寧な説明が重要—中医協(2)
2026年度診療報酬改定、物価急騰等により医療機関経営が窮迫するなど従前の改定時とは状況が大きく異なる—中医協総会(1)
2026年度の次期診療報酬改定に向け「新たな地域医療構想、医師偏在対策、医療DX推進」なども踏まえた調査実施—入院・外来医療分科会
医療機関経営の窮状踏まえ、補助金対応・2026年度改定「前」の期中改定・2026年度改定での対応を検討せよ—6病院団体・日医
2024年度診療報酬改定後に医業赤字病院は69%、経常赤字病院は61.2%に増加、「物価・賃金の上昇」に対応できる病院診療報酬を—6病院団体