重症感染症や耐性菌感染症の治療に⽤いる「メロペネム」と「バンコマイシン」、国内生産化を進めよ—感染症学会等
2025.7.16.(水)
重症感染症や耐性菌感染症の治療に⽤いる頻度の⾼い「メロペネム」と「バンコマイシン」についても、他の抗菌剤と同様に原薬のほとんどを外国に依存しており、両薬剤が途絶した場合には国内の医療への影響は極めて甚大である—。
すでに、特定重要物資として国内生産に舵を切ったβ-ラクタム系抗菌薬4成分(▼アンピシリンナトリウム・スルバクタム▼タゾバクタム・ピペラシリン▼セファゾリン▼セフメタゾール—)と同様に、「メロペネム」と「バンコマイシン」についても国内生産化を進める必要がある—。
日本化学療法学会・⽇本感染症学会・⽇本環境感染学会・⽇本臨床微⽣物学会の4学会が先頃、福岡資麿厚生労働大臣に宛てて「抗菌性物質製剤(メロペネム及びバンコマイシン)の原薬国産化による安定供給体制確⽴の要望書」を提出し、こうした点を強く求めました(日本感染症学会のサイトはこちら)。
「メロペネム」と「バンコマイシン」の供給不安は、医療現場に極めて甚大な影響
医薬品の供給不安が長引いていますが、その要因の1つとして「原材料・原薬を外国に依存している」点が指摘されます(外国で様々なトラブルが生じ、原薬等の流通が確保できなくなる)。
重症感染症や耐性菌感染症の治療に⽤いる頻度の⾼い「メロペネム」や「バンコマイシン」についても原薬のほとんどを外国に依存しています。

メロペネム・バンコマイシンの原薬供給状況
また、重症感染症等におけるメロペネム、バンコマイシンの使⽤状況を見ると、次のようになっています。
▽メロペネム
→治療困難な重症感染症患者の治療において⾼い割合で処⽅されている
→本剤は重症感染症に必須のカルバペネム系抗菌薬の中で最も広域の抗菌スペクトルを有し、その有効性も⾼いことから、感染症関連学会の各種診療ガイドラインで推奨されている

メロペネムの使用状況
▽バンコマイシン
→重症感染症や救命治療時に必須であり、メチシリン耐性⻩⾊ブドウ球菌(MRSA)感染症の標準的治療薬として、最も⾼い割合で処⽅されている

バンコマイシンの使用状況
▽メロペネム、バンコマイシンの使⽤割合
→両剤は、いずれも治療困難な患者に⾼い割合で選択される薬剤であり、他の系統の抗菌薬では代替困難である
→とくにメロペネムはカルバペネム系抗菌薬の中で、バンコマイシンは抗MRSA治療薬の中で、共に数量シェアで8-9割を占めている

メロペネムはカルバペネム系抗菌薬の中で9割のシェアを占めている

バンコマイシンはMRSA感染治療薬として8割のシェアを占めている
4学会では、こうしたデータをもとに、当該治療薬の中で圧倒的なシェアを持つメロペネム、バンコマイシンの供給が途絶した場合、▼同系統の抗菌薬で不⾜分を補うことができず、重症感染症あるいはMRSA感染症に罹患した患者への適切な治療が事実上不可能になる▼2019年のセファゾリン問題(多くの抗菌薬が連鎖的に不⾜し医療現場に⼤きな混乱が発生)以上に、医療現場に深刻な影響が及ぶ—と指摘します。
また、⽇本化学療法学会では、2022年の「抗菌薬の経済安全保障推進法 特定重要物資指定と安定供給に向けた提⾔」において、厚⽣労働省の「医療⽤医薬品の安定確保策に関する関係者会議」が最も優先して取り組みを⾏う安定確保医薬品カテゴリAとして選定した抗菌薬6成分(▼アンピシリンナトリウム・スルバクタム▼タゾバクタム・ピペラシリン▼セファゾリン▼セフメタゾール▼メロペネム▼バンコマイシン—)を、特定重要物資に選定するよう要望しています。
「特定重要物資」とは、国民の生存に必要不可欠、または広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資であり、「その安定供給確保に取り組む民間事業者等への支援」を通じてサプライチェーンの強靱化を図るものです(内閣府のサイトはこちら)。
この点、2023年1⽉に、安定確保医薬品カテゴリAの抗菌薬であるβ-ラクタム系抗菌薬4成分(▼アンピシリンナトリウム・スルバクタム▼タゾバクタム・ピペラシリン▼セファゾリン▼セフメタゾール—)が特定重要物資に指定され、原薬の国内製造再開に向けた取り組みが進められているものの、同じ安定確保医薬品カテゴリAに指定されている「メロペネム」とバンコマイシン」は、現時点で特定重要物資には指定されていません(上記6成分のうち4成分は特定重要物資に指定されているが、2成分が指定されていない)。

安定確保医薬品カテゴリA抗菌薬6成分の特定重要物資等指定状況
4学会は、上記の4成分を特定重要物資に位置付けて、国内製造の目途を立てたことを、「抗菌薬の安定供給を図る上で画期的で、賞賛すべき対応」と高く評価したうえで、「メロペネムとバンコマイシンについても、同様に国産化を進めるべき」と福岡厚労相談に強く要望しています。
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