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GemMed塾0422ミニセミナー

医薬品の安定供給確保に向け、「国産の減薬を使用した抗菌剤」の薬価でのサポート(高薬価の設定など)などを今後検討—中医協総会(2)

2025.3.19.(水)

医薬品の安定供給確保に向け、2030年頃から「国産の減薬を使用した抗菌剤」が登場してくる。こうした製剤について、例えば「薬価でのサポート」(高薬価の設定など)をどう考えていくべきか—。

3月12日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も行われました(同日の訪問看護ステーションの指導などに関する記事はこちら)。

医薬品供給不安が長引く中、薬機法等を改正し「医薬品安定供給確保」を目指す

Gem Medで繰り返して報じているとおり、医療保険財政が厳しさを増しており、今後もさらに厳しくなっていくと予想されています。

まず「医療技術の高度化」により、医療費が高騰していきます。例えば、脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。さらに、新たな認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、患者数が膨大なことから、医療保険財政に及ぼす影響が非常に大きくなる可能性があります。さらに新たな認知症治療薬「ケサンラ」の保険適用も行われました。

同時に「高齢化の進展」による医療費高騰も続きます。ついに2022年度から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、来年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長いため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招きます。

このように医療費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は2025年度から2040年度にかけて急速に減少していきます。

「減少する一方の支え手」で「増加する一方の高齢者・医療費」を支えなければならないために医療保険の制度基盤が極めて脆弱になり、さらに今後も厳しさを増してくと考えられるのです。



一方、医薬品、とりわけ後発品については「供給不安」が長引いています。

この点について政府は薬機法等改正案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)を今国会に提出し、次のような「医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」を行ってはどうかと提案しています。

(1)医療用医薬品の供給体制管理責任者の設置、出荷停止時の届出義務付け、供給不足時の増産等の必要な協力の要請等を法定化する(現在はガイドラインで規定している事項の法制化などを行い、より強力な対応を可能とする)

(2)電子処方箋管理サービスのデータを活用し「医薬品需給状況のモニタリング」を行う

(3)品質の確保された後発医薬品の安定供給の確保のための基金を設置する

薬機法改正案の概要(中医協総会(2)1 250312)



まず(1)(2)では、次のような取り組みによって、供給不安が発生する前、つまり「平時」の備えと、供給不安が発生した際、つまり「有事」での対応を確保するものです。

【平時(供給不安発生前)の備え】
▽製薬メーカーにおける備え
→次のような「安定供給体制」を整備する
・各メーカーで安定供給確保のための「手順書」を作成する(手順書には▼社内各部門の連絡調整体制の整備▼原薬の確保、在庫管理、生産管理等に関する手順—を記載することを想定)
・供給体制管理責任者を設置し、「手順書」を踏まえた企業内の体制整備、安定供給に向けた取り組みの推進、安定供給に関する法令遵守などを行う

▽厚生労働省(厚労相)による対応
→メーカーが「限定出荷・供給停止」を行う場合に、厚労相へ届け出ることを義務づける
→安定確保医薬品の指定(疾患の重篤性や代替薬の有無等から「特に安定確保が求められる医薬品」を専門家の意見を聴いた上で指定する
→平時モニタリングの実施(報告徴収)
→電子処方箋管理サービスの調剤データ等を活用し、医薬品の需給状況をリアルタイムでモニタリングする

【有事(供給不安発生時)の対応】
▽厚生労働省(厚労相)による対応
→供給不足のおそれがある場合、製造販売業者等による「代替薬」の供給状況を把握する
→製造販売業者に対する「増産」、卸売販売業者に対する「適正な流通」、医療機関に対する「長期処方抑制」などの要請を行う
→供給が不足する蓋然性が高く、国民の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがある場合に、「増産」「原薬の調達先の確保」などの安定供給確保措置の指示を行う(指示に従わない場合は、その旨を公表することができる)

医薬品安定供給確保策1(中医協総会(2)2 250312)



また(3)では、新たに5年間限定の「後発医薬品製造基盤整備基金」を設置し、後発品企業の品目統合・事業再編等の計画を認定し、生産性向上に向けた設備投資や事業再編等の経費を支援します。

医薬品安定供給確保策2(中医協総会(2)3 250312)



さらにに、医療法にも「医薬品の安定供給確保」規定を設けます。

現在、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」に基づいて、次の4成分の抗菌剤に関し、海外の事情で供給不安が生じることを避けるために「2030年を目途に、原薬の国内製造体制を整備する」こととされています(特定重要物資、厚労省サイトはこちら)。
▽アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム
▽ピペラシリンナトリウム・タゾバクタムナトリウム
▽セファゾリンナトリウム
▽セフメタゾールナトリウム

これに伴い、上記4成分については、「2030年目途の国産原薬を使用した製剤」が市場に出てから、供給リスクを回避するために、改正後の医療法第38条の規定により「製造販売業者に、供給不足の発生を未然に防止するための措置(国産原薬を一定割合以上使用するなど)の指示を国が行う」ことが想定されます。

医薬品安定供給確保策関連(中医協総会(2)4 250312)



もっとも、「国産の原薬」は一般に「海外産の原薬」よりも高価格になることが想定されます(実際に価格がどうなるのかは、現時点では不明である)。その際、「国産の原薬を一定割合以上使用する薬剤」(高コスト)も「海外産の原薬のみを使用した薬剤」(低コスト)も同じ扱いとしたのでは、高コストな「国産の原薬を一定割合以上使用する薬剤」を製造販売する製薬メーカーの負担が重くなってしまいます。

そこでメーカーの負担に配慮した「経済的な措置」(例えば補助金や高薬価の設定など)を考える必要があります。

2030年頃から、上記の仕組みに基づく「国産の原薬を一定割合以上使用する薬剤」が登場してくることに備えて「今後、具体的な対応(補助金、高薬価設定など)を議論してほしい」と厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長(医薬産業振興・医療情報企画課セルフケア・セルフメディケーション推進室長併任)は中医協委員に要請しています。

例えば「薬価での対応を行うのか、行うとしてどういった基準で高い薬価を設定するのか」などの詳細な議論は今後(早くても2028年度の薬価制度改革論議)に委ねられますが、3月12日の中医協では、▼まずは国が環境整備を行い、そのうえで必要となれば補助金対応、次いで薬価での対応などを検討していくことになろう(診療側の長島公之委員:日本医師会常任理事)▼安全保障確保に向けた国策として国産原薬使用を指示するのであれば、まずは「国による補助」などで対応すべき(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—との意見が出ています。今後、どういった議論が行われるのか注目する必要があります。



このほか、▼医薬品供給不安の解消に向け、一刻も早い実効性ある対応をとってほしい(診療側の林正純委員:日本歯科医師会副会長)▼医薬品の供給不安が指摘されて4年ほどたつが改善されていない。製薬メーカーの「安定供給体制」確保措置などは可能な限り早期に実施してほしい(診療側の森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼医薬品の安定供給が早期に確保するように対応してほしい(支払側の鳥潟美夏子委員:全国健康保険協会理事)▼後発品の価格が低くなりすぎれば採算が合わずメーカーも撤退してしまう。後発品価格の在り方を今一度考えることも必要かもしれない(飯塚敏晃委員:東京大学大学院経済学研究科教授)—などの要望も出ています。

今後の医薬品供給状況にも注目する必要があります。



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