新たな認知症治療薬「ケサンラ点滴静注液」の保険適用を了承、350mg20mL1瓶「6万6948円」、1日当たり「8560円」—中医協(1)
2024.11.13.(水)
11月13日に開催された中央社会保険医療協議会総会で、新たな認知症治療薬「レケンビ点滴静注」の薬価を350mg20mL1瓶「6万6948円」(1日薬価:8560円)とすることが了承されました。
また、すでに保険適用されている認知症治療薬「レケンビ」と同様に、「市販後の使用実態を迅速に把握し、市場が急激に大きくなったような場合には、医療保険財政への影響に鑑みて薬価の引き下げ(市場拡大再算定)を行う」ことや、「費用対効果評価を進めていく」ことなどの特別ルールも決まっています。このルールは、今後、登場すると予想される「レケンビやケサンラと類似した効能・効果、薬理作用等を有する高額医薬品(認知症薬)」にも適用されます。
なお同日には、本年(2024年)12月2日以降の「医療機関等窓口における資格確認」(マイナ保険証、資格確認書など)に関する法令見直しに関する諮問・答申も行われており、別稿で報じます(関連記事はこちら)。
目次
レケンビよりも短期間で投薬終了となる可能性踏まえ、ケサンラは薬価に5%の加算
Gem Medで報じているとおり、新たな認知症治療薬の「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え))が9月24日に薬事承認されました。認知症治療薬「レケンビ」と同様に、市場規模が極めて巨大になる可能性があることなどを踏まえた「特別ルール」を議論(関連記事はこちらとこちら)。
今般、「特別ルール」と、それに沿った薬価が中医協総会で決定されました。
まず、薬価については効能効果等が類似する認知症治療薬「レケンビ」を比較薬として類似薬効比較方式1(基本的に1日薬価が比較薬と同じくなるように新薬の薬価を設定するルール)で算定。
認知症治療薬「レケンビ」では「薬剤投与を18か月間継続する」必要がありますが、ケサンラでは「原則18か月間投与するが、投与開始後12か月を目安に評価し、アミロイドβプラーク除去が確認された場合は投与を完了する」とされている、つまり「投与期間をより短くできる」可能性がある点を踏まえて、有用性加算(II)(5%の薬価上乗せ)が認められました。
その結果、薬価は350mg20mL1瓶「6万6948円」(1日薬価:8560円)とされ、11月20日に薬価基準に収載されます。年間の薬剤費は「約308万円」となり、患者によって「18か月投与」が必要なケースと、「12か月投与」で終了するケースがある点に留意が必要です。
なお、本剤を用いた認知症治療はDPC制度において「出来高算定」となります(一定の基準を満たす高額新薬はDPC制度の中で評価されていないため、データが集積されて新たな診断群部類設定などが行われるまでの間、当該薬剤を含めた診療行為をすべて出来高算定とするルールが設けられている、関連記事はこちら)。
試験データなど踏まえて「ケサンラを投与できる医療機関、投与対象となる患者」を限定
本剤はアルツハイマー病の進行を遅らせる効果がありますが、アミロイド関連画像異常(ARIA)発現などの重大な副作用も知られており、「適切な患者選択」「投与判断」「重篤な副作用現の際の迅速な安全対策など確保」のために最適使用推進ガイドラインが定められます。
あわせて、保険診療の中で本剤を使用する場合には▼最適使用推進ガイドラインを遵守する▼レセプトの適用欄に「投与開始時に『患者要件』のどの項目に該当するか、患者の認知機能はどうか、医師要件を満たしているか、施設要件を満たしているか」、「投与開始6か月以上の状況はどうか」、「投与開始から12か月が経過した時点でのPET検査を実施したか」、「18か月を超える投与が必要となる場合にはその医学的理由」などを記載する—ことを求めた留意事項通知が発出されます(11月19日発出、20日適用)。
最適使用推進ガイドライン・留意事項通知の遵守を求めることで「適正使用」が担保されると期待されます。
レケンビ・ケサンラに類似する認知症治療薬について、「薬価の特別統一ルール」を設定
次に薬価設定時・薬価設定後の対応などに関する「特別ルール」について見てみましょう。
基本的には、既に保険適用されている認知症治療薬「レケンビ」と同様の特別ルーツが設けられています。あわせて、この特別ルールは、今後、登場すると予想される「レケンビやケサンラと類似した効能・効果、薬理作用等を有する高額医薬品(認知症薬)」にも適用されます。
【薬価収載時の対応】
(1)算定方法・薬価算定にあたり用いるデータ
▽通常どおりの算定方法により算定し、補正加算は既存のルールにしたがって評価する
→薬価算定組織において判断し、中医協総会における薬価収載の議論の際には「選択した選定方法等の算定にあたっての考え方」を説明する
▽メーカーから「介護費用に基づく内容の評価」希望があった場合は、後述するルールで対応する
(2)保険適用上の留意事項
▽認知症薬の投与に際しては、▼適切な患者選択や投与判断▼重篤な副作用発現(これまでに判明しているアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現だけでなく、今後開発される医薬品特有の副作用も含む)の際の迅速な安全対策—等の確保のため、「最適使用推進ガイドライン」(上記参照)が定められることから、ガイドラインに基づき必要な内容を留意事項通知において明示する(上記の「留意事項通知」参照)
【薬価収載後の対応】
(1)市場拡大再算定
▽通常通り、薬価調査やレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に基づき市場拡大再算定、四半期再算定の適否を判断する
▽(新)高額医薬品(認知症薬)の使用実態の変化等により、収載時の市場規模予測よりも大幅に患者数が増加する可能性、患者あたりの投薬期間による市場規模への影響も想定されることから、全症例を対象とした調査(使用成績調査)の結果等を注視するとともに、四半期での速やかな再算定の適否を判断するため、薬価算定方法(原価計算方式や類似薬効比較方式か)、2年度目の販売予想額にかかわらずNDBにより把握する(関連記事はこちら)
▽以下のような使用実態の変化等が生じた場合等には、速やかに中医協総会に報告し、高額医薬品(認知症薬)の薬価・価格調整に関する対応の必要性等を改めて検討する。その際には、薬価収載時における市場規模予測(収載から10年度分)を基に議論する
(想定される使用実態の変化等)
・高額医薬品(認知症薬)を提供可能な医療機関の体制や使用実態の変化
・実施可能な検査方法等の拡充
・患者あたりの投薬期間の増加
など
(中医協総会に報告する時期)
・上記の変化等により高額医薬品(認知症薬)の薬価・価格調整に関する検討が必要と認められるとき
・レケンビの収載から18か月、36か月が経過したとき
・以下の「4」に基づき必要性が示されたとき
(2)費用対効果評価
▽費用対効果評価の対象品目の指定基準に基づき、薬価の算定様式に応じて当する区分に指定する。費用対効果分析を実施する場合は、「レケンビに対する費用対効果評価について」に準じて進める
▽「レケンビに対する費用対効果評価について」で了解された費用対効果評価の方法
▼価格調整範囲に係る対応
→費用対効果をより活用していく観点から、以下の方法で価格調整を行う
(価格調整の方法)
・「ICERが500万円/QALYとなる価格」と「見直し前の価格」との差額を算出し、【差額の25%】を調整額とする。
・「ICERが500万円/QALYとなる価格」>「見直し前の価格」となる場合は、「見直し前の価格」に調整額を加えたものを調整後の価格とする
・「ICERが500万円/QALYとなる価格」<「見直し前の価格」となる場合は、「見直し前の価格」から調整額を減じたものを調整後の価格とする。
(調整後の価格の上限、下限)
・価格引き上げとなる場合には、調整後の価格の上限は「価格全体の110%(調整額が価格全体の10%以下)」とする
・価格引き下げとなる場合には、調整後の価格の下限は「価格全体の85%(調整額が価格全体の15%以下)」とする
▼介護費用の取扱い
→メーカーが「介護費用を分析に含める」ことを希望した場合には、「中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン」に則って分析する
→「介護費用を分析に含めた場合」と「含めない場合」について、メーカーが提出する分析をもとに公的分析が検証、再分析し、専門組織で検討のうえ「介護費用を含めた場合」と「含めない場合」の総合評価案を策定。その後、中央社会保険医療協議会総会で議論し、費用対効果評価の結果を決定する
【高額医薬品(認知症薬)の薬価の議論】
▽高額医薬品(認知症薬)の薬価収載にあたり、具体的な薬価算定案を中医協総会で審議する際には、通常の算定案や最適使用推進ガイドライン案のほか、留意事項通知案も併せて議論する
▽その際、▼高額医薬品(認知症薬)の算定価格案▼投与対象患者数予測▼ピーク時の市場規模予測—をもとに、上記【薬価収載後の対応】に関して改めて判断する
【その他】
▽今後、新規モダリティの医薬品等が開発され、薬価収載を検討する場合には必要に応じて中医協総会で取扱いを改めて検討する
これまで議論されてきた内容であり、上記の薬価、特別ルールなどに異論・反論は出ていませんが、中医協委員からは▼レケンビとケサンラとの「使い分け」や、想定しにくいが「レケンビからケサンラへの切り替え」などについて、関係学会と協力したガイドライン作成を進めてほしい(長島公之委員:日本医師会常任理事)▼「介護費の取り扱い」」は、引き続き研究・検討を進める必要がある。安全性確保に関しては、「既知のリスクの最小化に向けた対応」も重要である(森昌平委員:日本薬剤師会副会長)▼今後、認知症患者が増加し、また認知症の治療環境の整備が進み、認知症関連の医療費が増大していくと予想される。個別薬剤だけでなく認知症関連の市場全体の動向も注視する必要がある(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—などの意見が出されています。
認知症患者数は、高齢化の進行に伴い増加していきます。2018年には500万人を超え、65歳以上高齢者の「7人に1人が認知症」となり、2025年には675万人、2040年には802万人になると推計されています。このため、2019年には認知症施策推進大綱が、2023年には認知症基本法が制定され、認知症患者の意向を十分に踏まえた総合的な対策(認知症との共生、認知症予防など)を進めることとされています(本年(2024年)1月施行)。
今後も、レケンビやケサンラに続く「画期的な認知症治療薬」の開発が期待され、それは我々国民にとって大きな福音となります。一方、これらは「医療費の増大→医療保険財政の逼迫」という事態にもつながり、「優れた医薬品の適切な評価」と「医療保険制度の維持」とのバランスなども考慮した総合的な検討が必要となります。
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